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番外編-焔の神器とフルード編-
11.誓約の裏側で 前編
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【はじめに】
お読みいただきありがとうございます。
本作の未来軸にあたる物語、神様に嫌われた神官~の第1章の60話で、ヒロインがフレイムと愛し子の誓約を結んだ瞬間、フルードに何が起こっていたかを書いた話です。
◆◆◆
『我は焔神フレイム。神官アマーリエ・ユフィー・サード。汝に我が寵を与える! この栄誉を謹んで受け取るがいい』
『返事をしかと受け取った。たった今述べられた応の返答を持って、ここに正式な誓約が完了した!』
統一歴3014年。
久方ぶりに再会したフレイムの宣誓が高らかに場を駆け抜け、愛し子の誓約が成立した。突風が吹いた直後、フルードは燃え盛る空間に佇んでいた。足元には床も地面もないが、浮遊しているような不安定さはない。
(ここは――)
どれだけ高温になろうとも、決して自分を傷付けることのない炎。
『ここは焔の神器の中だ。お前の意識をここに呼んだんだ』
静かな声が耳に沁みた。視線を向ければ、こちらにもフレイムが端然と屹立していた。ただし、こちらは焔の神器と同化してずっと一緒にいてくれた方だ。
『空間の流れをいじって、外に戻れば一瞬も経ってねえようにしてる。だから時間は気にすんな』
それを聞き、素直に頷く。フレイムが自分の足を引っ張る真似をするはずがない。フルードが長時間、今いる場を抜けることはできないことも織り込み済みで、ここに呼んだはずだった。
「お兄様はいつもここにいるのですか?」
『ああ』
「炎しかない所で……退屈ではありませんか?」
『別に。俺はお前以外のことでは何も感じねえから。お前が幸せなら嬉しい。幸せでないならその原因を排除する。こうすればもっと幸せになることがあれば実行する。それだけだ』
「ああ……お兄様はそうでしたね」
フルードは遠い目になった。
◆◆◆
そう、こちらのフレイムときたら、目玉が飛び出して戻って来なくなるようなことを平然とやらかすのだ。心臓がどれだけ高速回転したことか。
――海岸で貝殻を見ながら、『この貝が全部マドレーヌだったら良いのに』と冗談で呟いたら、世界中の貝がマドレーヌに変わった。しかも全てフルードの好きな甘さと味だった。
――『僕、薄黄木犀が一番好きなのにあまり咲いていないんです。金木犀と銀木犀は見かけるのですが』と雑談で話したら、世界中の木が一つ残らず薄黄木犀になった。
――帝国と皇国の創建三千年を祝う式典において、神官たちの霊威の光で両国の紋章を空に刻むことが決まった時、『天の川で国章のイルミネーションを作ったら壮観でしょうね』と話したら、銀河を彩る無数の星々が軒並み配置を強制変更されて帝国紋の形に整列させられていた。
――遠泊の務めで河海がある地域に行った夜、波の音で目が覚め、『起きてしまいました。水音って結構大きいんですね。眠れるかな』と言ったら、世界中から海も川も湖も池も、水たまりすら消えた。
――岩だらけの場所で『石がたくさんで足元が危ないですね』と呟いたら、地上から砂粒一つ残さず岩石と鉱物が無くなった。
その度に喫驚し、嘘です冗談です今の無し、元通りにして下さいとお願いして、戻してもらって来た。人間たちの記憶も都度消している。神は地上に干渉しないはずだが、神器として神器の神威を用いていればセーフらしい。そんなアホなと内心でツッコんだが、どうも本当なようだ。
これには天威師すらも顔色を変えた。
『俺、神じゃなくて神器なんでーすという言い分で動かれれば、神相手にしか動けぬ私たちは手が出せぬ! 出せたとしても、怒っているのではなくそなたのために善意でやっているだけゆえ、鎮めようも宥めようもない! フルード、このトンデモ神器が耳を傾けるのはそなたの声だけだ。良いか、暴走させるな。絶対に暴走させるな!』
と、暴走するフラグをガンガン立てまくりながら必死で言い募っていたのは秀峰だ。日香は現実逃避気味に遠くを眺めながら果汁をすすっており、オルディス・ラウと月香は言葉もなく頭を抱え、クレイス・ティルは何がおかしいのか身を二つ折りにして爆笑していた。
こうしてフルードも早々に悟った。どうやらこちらのお兄様の辞書には、程々という単語が載っていないらしいと。世界征服だろうが宇宙制覇だろうが、フルードがそれを望みさえすれば瞬時に成し遂げてしまうだろう。
『お兄様が僕の一言一言に反応して細やかに動いて下さると思うと、逆に何も言えなくなってしまいます。僕はお兄様と楽しく色んなお話がしたいです。何かして欲しい時はきちんと依頼形でお願いしますから、それ以外の言葉は話半分か冗談で聞くだけにして下さいませんか?』
幸いだったのは、決死の思いでしたこの直訴に、トンデモお兄様が即応してくれたことだ。それ以来、こちらの言葉全てに反応してぶっ飛び行動を起こすことはなくなり、特に呼ばない限りはフルードの中で気配を殺し、大人しくしていてくれるようになった。
お読みいただきありがとうございます。
本作の未来軸にあたる物語、神様に嫌われた神官~の第1章の60話で、ヒロインがフレイムと愛し子の誓約を結んだ瞬間、フルードに何が起こっていたかを書いた話です。
◆◆◆
『我は焔神フレイム。神官アマーリエ・ユフィー・サード。汝に我が寵を与える! この栄誉を謹んで受け取るがいい』
『返事をしかと受け取った。たった今述べられた応の返答を持って、ここに正式な誓約が完了した!』
統一歴3014年。
久方ぶりに再会したフレイムの宣誓が高らかに場を駆け抜け、愛し子の誓約が成立した。突風が吹いた直後、フルードは燃え盛る空間に佇んでいた。足元には床も地面もないが、浮遊しているような不安定さはない。
(ここは――)
どれだけ高温になろうとも、決して自分を傷付けることのない炎。
『ここは焔の神器の中だ。お前の意識をここに呼んだんだ』
静かな声が耳に沁みた。視線を向ければ、こちらにもフレイムが端然と屹立していた。ただし、こちらは焔の神器と同化してずっと一緒にいてくれた方だ。
『空間の流れをいじって、外に戻れば一瞬も経ってねえようにしてる。だから時間は気にすんな』
それを聞き、素直に頷く。フレイムが自分の足を引っ張る真似をするはずがない。フルードが長時間、今いる場を抜けることはできないことも織り込み済みで、ここに呼んだはずだった。
「お兄様はいつもここにいるのですか?」
『ああ』
「炎しかない所で……退屈ではありませんか?」
『別に。俺はお前以外のことでは何も感じねえから。お前が幸せなら嬉しい。幸せでないならその原因を排除する。こうすればもっと幸せになることがあれば実行する。それだけだ』
「ああ……お兄様はそうでしたね」
フルードは遠い目になった。
◆◆◆
そう、こちらのフレイムときたら、目玉が飛び出して戻って来なくなるようなことを平然とやらかすのだ。心臓がどれだけ高速回転したことか。
――海岸で貝殻を見ながら、『この貝が全部マドレーヌだったら良いのに』と冗談で呟いたら、世界中の貝がマドレーヌに変わった。しかも全てフルードの好きな甘さと味だった。
――『僕、薄黄木犀が一番好きなのにあまり咲いていないんです。金木犀と銀木犀は見かけるのですが』と雑談で話したら、世界中の木が一つ残らず薄黄木犀になった。
――帝国と皇国の創建三千年を祝う式典において、神官たちの霊威の光で両国の紋章を空に刻むことが決まった時、『天の川で国章のイルミネーションを作ったら壮観でしょうね』と話したら、銀河を彩る無数の星々が軒並み配置を強制変更されて帝国紋の形に整列させられていた。
――遠泊の務めで河海がある地域に行った夜、波の音で目が覚め、『起きてしまいました。水音って結構大きいんですね。眠れるかな』と言ったら、世界中から海も川も湖も池も、水たまりすら消えた。
――岩だらけの場所で『石がたくさんで足元が危ないですね』と呟いたら、地上から砂粒一つ残さず岩石と鉱物が無くなった。
その度に喫驚し、嘘です冗談です今の無し、元通りにして下さいとお願いして、戻してもらって来た。人間たちの記憶も都度消している。神は地上に干渉しないはずだが、神器として神器の神威を用いていればセーフらしい。そんなアホなと内心でツッコんだが、どうも本当なようだ。
これには天威師すらも顔色を変えた。
『俺、神じゃなくて神器なんでーすという言い分で動かれれば、神相手にしか動けぬ私たちは手が出せぬ! 出せたとしても、怒っているのではなくそなたのために善意でやっているだけゆえ、鎮めようも宥めようもない! フルード、このトンデモ神器が耳を傾けるのはそなたの声だけだ。良いか、暴走させるな。絶対に暴走させるな!』
と、暴走するフラグをガンガン立てまくりながら必死で言い募っていたのは秀峰だ。日香は現実逃避気味に遠くを眺めながら果汁をすすっており、オルディス・ラウと月香は言葉もなく頭を抱え、クレイス・ティルは何がおかしいのか身を二つ折りにして爆笑していた。
こうしてフルードも早々に悟った。どうやらこちらのお兄様の辞書には、程々という単語が載っていないらしいと。世界征服だろうが宇宙制覇だろうが、フルードがそれを望みさえすれば瞬時に成し遂げてしまうだろう。
『お兄様が僕の一言一言に反応して細やかに動いて下さると思うと、逆に何も言えなくなってしまいます。僕はお兄様と楽しく色んなお話がしたいです。何かして欲しい時はきちんと依頼形でお願いしますから、それ以外の言葉は話半分か冗談で聞くだけにして下さいませんか?』
幸いだったのは、決死の思いでしたこの直訴に、トンデモお兄様が即応してくれたことだ。それ以来、こちらの言葉全てに反応してぶっ飛び行動を起こすことはなくなり、特に呼ばない限りはフルードの中で気配を殺し、大人しくしていてくれるようになった。
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