97 / 101
番外編-焔の神器とフルード編-
12.誓約の裏側で 中編
しおりを挟む
◆◆◆
「……お兄様、天界のお兄様が降臨されました」
巡り巡る大騒動の記憶を強引に断ち切り、燃える空間にいるフルードは眼前のフレイムを見つめた。山吹色の眼差しが頷きを返す。
現在は史上初となる神使選定が行われているだけでなく、30年に一度の大祭、星降の儀の後祭をしていた。そこで発生した騒動の最中、フレイムが出現した。フルードの中にいる正焔神の方ではなく、天にいるはずの真焔神のお兄様だ。
――今の俺は内密に神使として降りてるお忍び状態だから、正体を言うな。俺のことは知らないフリをしろ
いきなりお兄様が現れただけでも口から心臓が飛び出しそうだったのに、重ねてそんなことを言われ、表向きは涼しい顔をしながら内心汗だくだくで合わせたのが先ほど。
「お忍びで来られているそうで、神威どころか神格そのものを厳重に抑え込んでおられます。聖威師と同じような状態になられておいでだと感じました」
『だな。驚いたろ?』
「はい。……いくらお兄様でも、これでは騒動に対応できません。先ほどまでは、いよいよとなれば焔の神器を一時お兄様にお返ししようと思っていました。そうすれば神器の力で対処できますから」
『それは良いが、俺はお前から離れる気はねえぞ?』
「分かっています。ですから、一時的に神器と分離していただこうと考えていました。私を神籬とし、直にお宿り下されば良いのではと」
その間は、自らを神器だと言い張ったり、神器の力を使うことはできなくなる。だが、こちらのフレイムは天から来たフレイムとは違い、神格自体を抑制しているわけではない。必要であれば、自身の力を使ってそれなりには動けるはずだ。
何より、あの靄の件は既に解決しており、今の後祭騒動の場にそろっている顔ぶれを見ても、フルードに危害が及ぶ確率は無いに等しい。
『そんなら良いぜ』
あっさり承諾したフレイムは、しかし、すぐに続けた。
『けど、もうそれをする必要はなくなったはずだ』
フルードも首肯した。天から来たお兄様は、熱を帯びた眼差しで一人の少女のことを見ていた。驚くほどに澄み切った魂を持つ神官の少女。いつだって絶えずフルードを見てくれていたはずの瞳には、しかし、今この瞬間は愛し子しか映っていない。
「はい。あちらのお兄様は愛し子を得られましたから。見初めた者に寵を与えるという名目で、神格を出し神威を使うことが可能でしょう。焔の神器は不要になりました」
『そうだ、あっちの俺は愛し子を持った。だから俺はお前をここに呼んだんだ』
その言葉に、基本的な疑問を思い出す。そもそもこちらのフレイムは、何故今この時に自分を呼んだのだろうかと。
「僕に何かお話があるのですか?」
『ああ。すごく大事な話だ』
「何でしょうか?」
真剣な顔で身構えるフルードの耳に、次の言葉が滑り込む。
『今この瞬間、俺は本当の意味で完成した。完全になった、って言った方が良いかもな。そのことを伝えたかったんだ』
「完全……それはどういう――?」
『俺が完成するのは、あっちの俺が愛し子を得て、〝特別〟の中で優先順位ができた時なんだよ』
ぼかした言い方をしてくれたが、要するに愛し子が一番になり、フルードの優先順位が下がった時と言うことだ。
『今までは、あっちの俺の〝守るべき特別〟はお前だけだった。母神や姉兄神たち家族神も〝特別〟ではあるが、俺と同格か格上の存在だから庇護対象じゃない。守る対象としての〝特別〟はお前一人だけ。だから自ずと最優先になる。極論を言えば、仮に俺がいなくても、お前に守護が必要になればあっちが必ずお前を守りに来られたんだ』
ゆえに目の前のフレイムは、これまではずっと天にいる自分に遠慮して来たのだという。
『けど、あっちの俺が愛し子を得たら〝庇護対象である特別〟が二人になるから、その間で優先順位ができる。弟と愛し子が同時に危機に陥れば、あっちは愛し子の方に行くようになる。そうなった時点で、俺は真の意味で完全になる。俺はお前を最優先するお前のお兄様だからだ。あっちの俺は愛し子、俺はお前。そういう住み分けになってる。なぁ、俺はようやく完成したんだよセイン』
碧眼を見開き、フルードは呆然とそれを聞いていた。信じ難いという意味で。
(……ちょっと待って下さい。何ですかそれ、じゃあ今までのあなた、まだ完成していなかったのですか!? 今まで散々めっっっちゃくちゃなことをやりまくって来たのに!? あれでもまだ不完全だったのですか!?)
ならば、真に完全体となったらしい今後は一体どうなるのか。自分に御せるだろうか。そんなことを考えながら改めて眼前のお兄様に視線を向け、その懸念が杞憂であることを察した。
腕を伸ばしたフレイムに、ぎゅっと抱きしめられる。どこまでも底無しに優しい山吹色の眼差しが、限りない慈しみと愛情を込めてこちらに据えられている。フルードだけを見てくれている。
ああそうだ、と、当たり前のことを思い出した。このお兄様は、こちらの声には必ず応えてくれる。やめて欲しい、それ以上はしないで欲しい、と頼めばそうしてくれる。だから、自分が嫌がることをするはずがないのだ。フルードが内密に秀峰と日香から追加指導を受けたことも、誰にも言わないで下さいと頼んだところ、二つ返事で了承してくれた。
『やっと本当の意味でお前のお兄様になれた。こんなに嬉しいことはないんだぜ』
「お兄様は今までもずっとお兄様でしたよ。これまでも今もこれからも、ずっと」
『ああそうだ、俺はお前のためにいる。もしあっちの俺が愛し子だけを見るようになったとしても、俺の目にはお前しか映らねえんだよ、セイン』
「では、本当に僕のためのお兄様……僕のお兄様なのですね」
「……お兄様、天界のお兄様が降臨されました」
巡り巡る大騒動の記憶を強引に断ち切り、燃える空間にいるフルードは眼前のフレイムを見つめた。山吹色の眼差しが頷きを返す。
現在は史上初となる神使選定が行われているだけでなく、30年に一度の大祭、星降の儀の後祭をしていた。そこで発生した騒動の最中、フレイムが出現した。フルードの中にいる正焔神の方ではなく、天にいるはずの真焔神のお兄様だ。
――今の俺は内密に神使として降りてるお忍び状態だから、正体を言うな。俺のことは知らないフリをしろ
いきなりお兄様が現れただけでも口から心臓が飛び出しそうだったのに、重ねてそんなことを言われ、表向きは涼しい顔をしながら内心汗だくだくで合わせたのが先ほど。
「お忍びで来られているそうで、神威どころか神格そのものを厳重に抑え込んでおられます。聖威師と同じような状態になられておいでだと感じました」
『だな。驚いたろ?』
「はい。……いくらお兄様でも、これでは騒動に対応できません。先ほどまでは、いよいよとなれば焔の神器を一時お兄様にお返ししようと思っていました。そうすれば神器の力で対処できますから」
『それは良いが、俺はお前から離れる気はねえぞ?』
「分かっています。ですから、一時的に神器と分離していただこうと考えていました。私を神籬とし、直にお宿り下されば良いのではと」
その間は、自らを神器だと言い張ったり、神器の力を使うことはできなくなる。だが、こちらのフレイムは天から来たフレイムとは違い、神格自体を抑制しているわけではない。必要であれば、自身の力を使ってそれなりには動けるはずだ。
何より、あの靄の件は既に解決しており、今の後祭騒動の場にそろっている顔ぶれを見ても、フルードに危害が及ぶ確率は無いに等しい。
『そんなら良いぜ』
あっさり承諾したフレイムは、しかし、すぐに続けた。
『けど、もうそれをする必要はなくなったはずだ』
フルードも首肯した。天から来たお兄様は、熱を帯びた眼差しで一人の少女のことを見ていた。驚くほどに澄み切った魂を持つ神官の少女。いつだって絶えずフルードを見てくれていたはずの瞳には、しかし、今この瞬間は愛し子しか映っていない。
「はい。あちらのお兄様は愛し子を得られましたから。見初めた者に寵を与えるという名目で、神格を出し神威を使うことが可能でしょう。焔の神器は不要になりました」
『そうだ、あっちの俺は愛し子を持った。だから俺はお前をここに呼んだんだ』
その言葉に、基本的な疑問を思い出す。そもそもこちらのフレイムは、何故今この時に自分を呼んだのだろうかと。
「僕に何かお話があるのですか?」
『ああ。すごく大事な話だ』
「何でしょうか?」
真剣な顔で身構えるフルードの耳に、次の言葉が滑り込む。
『今この瞬間、俺は本当の意味で完成した。完全になった、って言った方が良いかもな。そのことを伝えたかったんだ』
「完全……それはどういう――?」
『俺が完成するのは、あっちの俺が愛し子を得て、〝特別〟の中で優先順位ができた時なんだよ』
ぼかした言い方をしてくれたが、要するに愛し子が一番になり、フルードの優先順位が下がった時と言うことだ。
『今までは、あっちの俺の〝守るべき特別〟はお前だけだった。母神や姉兄神たち家族神も〝特別〟ではあるが、俺と同格か格上の存在だから庇護対象じゃない。守る対象としての〝特別〟はお前一人だけ。だから自ずと最優先になる。極論を言えば、仮に俺がいなくても、お前に守護が必要になればあっちが必ずお前を守りに来られたんだ』
ゆえに目の前のフレイムは、これまではずっと天にいる自分に遠慮して来たのだという。
『けど、あっちの俺が愛し子を得たら〝庇護対象である特別〟が二人になるから、その間で優先順位ができる。弟と愛し子が同時に危機に陥れば、あっちは愛し子の方に行くようになる。そうなった時点で、俺は真の意味で完全になる。俺はお前を最優先するお前のお兄様だからだ。あっちの俺は愛し子、俺はお前。そういう住み分けになってる。なぁ、俺はようやく完成したんだよセイン』
碧眼を見開き、フルードは呆然とそれを聞いていた。信じ難いという意味で。
(……ちょっと待って下さい。何ですかそれ、じゃあ今までのあなた、まだ完成していなかったのですか!? 今まで散々めっっっちゃくちゃなことをやりまくって来たのに!? あれでもまだ不完全だったのですか!?)
ならば、真に完全体となったらしい今後は一体どうなるのか。自分に御せるだろうか。そんなことを考えながら改めて眼前のお兄様に視線を向け、その懸念が杞憂であることを察した。
腕を伸ばしたフレイムに、ぎゅっと抱きしめられる。どこまでも底無しに優しい山吹色の眼差しが、限りない慈しみと愛情を込めてこちらに据えられている。フルードだけを見てくれている。
ああそうだ、と、当たり前のことを思い出した。このお兄様は、こちらの声には必ず応えてくれる。やめて欲しい、それ以上はしないで欲しい、と頼めばそうしてくれる。だから、自分が嫌がることをするはずがないのだ。フルードが内密に秀峰と日香から追加指導を受けたことも、誰にも言わないで下さいと頼んだところ、二つ返事で了承してくれた。
『やっと本当の意味でお前のお兄様になれた。こんなに嬉しいことはないんだぜ』
「お兄様は今までもずっとお兄様でしたよ。これまでも今もこれからも、ずっと」
『ああそうだ、俺はお前のためにいる。もしあっちの俺が愛し子だけを見るようになったとしても、俺の目にはお前しか映らねえんだよ、セイン』
「では、本当に僕のためのお兄様……僕のお兄様なのですね」
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる