すっぽんじゃなくて太陽の女神です

土広真丘

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番外編-焔の神器とフルード編-

13.誓約の裏側で 後編

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 フルードはそう呟いた。舌の上で転がした言葉が、驚くほど腑に落ちた。フルードのためだけのフレイム。いつだってフルードを最も優先してくれる。


 ――


 その認識はストンと胸の中に落ち、一番深いところにピタリとはまって、永劫抜けることはなかった。

の最優先でなくなってしまっても、がいて下さるなら寂しくないです」

 自分ではなく愛し子だけを見つめるフレイムを見て、胸の奥にわだかまっていた寂寥と僅かな嫉妬が淡雪のように溶け消えていく。

「そういえば……あなたは、天のお兄様がお出でになっていることをご存知でしたか?」
『ああ、気付いてた。伝えてなくてごめんな』
「いいえ、良いのです。ただ、どうだったのだろうと思って聞いただけですから」
『あっちの俺がちゃんと愛し子を得られるよう、俺もこっそり神威を使って後押ししてたんだ。無事に誓約が完了して良かったぜ』
「そうだったのですか。やっぱり自分には幸せになって欲しいですよね」

 あちらもフレイムなのだから当然だと、フルードは頷いた。目の前にいるフレイムもにこにこと首肯する。

『そうだな』

 大好きな者が笑ってくれれば心が弾む。フルードも顔を綻ばせた。

 ◆◆◆

(自分に幸せになって欲しいから、あっちの俺が愛し子を得るのを助けた、か)

 腕の中で破顔するフルードを見下ろし、フレイムはそっと苦笑した。どこまでも優しいこの子らしい発想だと思った。

(それも間違いじゃない。理由の一つではある。けどな、もっと大きな本当の理由は別にあるんだよ。……あっちの俺が愛し子を得ないと、俺は完成しない。完成しない内は、ずっとあっちの俺に遠慮したままでいることになる。だから――)
『――あっちがさっさと愛し子を持ってくれなきゃ、俺はいつまで経ってもセインのお兄様になり切れねえだろ』

 だから天界にいた方の自分が愛し子を得るのに手を貸したのだ。

「何か仰いましたか?」

 フルードが顔を上げた。透き通った眼差しを見つめ、慈愛に満ちた表情で答える。

『何でもねえよ。俺からの話は、俺が完成したってことだけだ。後で言うこともできたが……嬉しすぎて、どうしても今伝えたかったんだ。だから呼んだ。忙しいのにごめんな』
「いいえ、僕もすごく嬉しいです。――では、もう戻ります」

 名残惜しそうにフレイムから離れた最愛は、クルンと踵を返した。

「外では時間は経過していないのですよね?」
『ああ。あっちに炎が二股に分かれて燃えてる所があるだろ。あそこを抜ければ戻れる』
「分かりました。また後でゆっくり話しましょう。僕のお兄様」

 どこまでも純真無垢な顔を見ながら思う。天にいた自分――真焔神は、最高神の密命を受けて降りたと言っていた。フルードたち聖威師が無理をしていないか確認し、限界に来ている者がいれば強制的に命を絶って連れ帰るようにと。

 秀峰直々に泣き落としと捨て身の交渉を叩き込まれたフルードならば大丈夫だと思うが、万一があれば、自分は当然、己自身より最愛の味方をする。

(ああそうだ、俺はやっと完成した。ようやく完全になったんだ)

 脳裏をよぎるのは、愛し子を得て幸せの絶頂にいるもう一柱の自分。幸福の頂点にいるのは自分も同じだ。

(完成したからには、俺はもう遠慮しない)

 バイバイ、と軽く手を振ってから駆けていくフルードの背を見送り、正面切っては向けなかった喜悦の表情を浮かべる。

(ようやく完全に、お前のお兄様になれた。離さない。もう絶対に離さない)
「……やっと俺のものにできた」

 ポツンと紡がれた独白を聴いているのは、フルードを見初めた神だけ。彼の神が遠視でこの場所を視聴していることを分かっていて、あえて好きにさせていたのだ。向こうもそのことを分かっているだろう。フルードが何より大切という一点において、彼と自分は同志なのだから。

(そう――お前はもう俺のものだ。未来永劫ずっとな)

 ◆◆◆

 と、おそらく史上最強にトンデモない存在にがっちりホールドされ、トンデモない宣言をされているとはつゆ知らず。

 フルードは目を開いた。聞いていた通り、現実世界での時間は一瞬も経っていない。ほんの刹那、意識を飛ばしていただけらしい。その僅かな間で体勢を崩してしまったので、無理に踏ん張らず片膝を付く。
 目の前では、天にいたフレイムが神格を解放し、相変わらず陶酔した目で愛し子を見つめていた。自分の方をチラとも見てくれないことに、もう寂しさは覚えない。

はここにいて下さる)

 心の中で唱え、横から視線が注がれているのを感じつつ、そっと胸を押さえた。

「だ、大神官……」

 途方に暮れた声で呼びかけて来たのは、たった今フレイムの愛し子になったばかりの少女アマーリエ。この状況に理解が追い付いていないようだ。

(彼女を安心させてあげなくては)

 そう思い、フルードはすぐに立ち上がると、少女に向かって微笑みかけた。

 自分だけのフレイムを得た今、自分は目の前にいるフレイムとアマーリエに心から祝福を述べられると確信しながら。
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