すっぽんじゃなくて太陽の女神です

土広真丘

文字の大きさ
65 / 101
番外編 -焔神フレイムとフルード編-

優しいだけでは㉖

しおりを挟む
「おやおや、何を見ておる。当真はほんにかわゆいのう」
「どうかしたのか、私の愛し子よ」

 当真とアシュトンが慕わしさを乗せた目で自身の主神を見る。

「孔雀神様、今日は突然お呼び立てしてしまい、申し訳ございません」
「帝国人の容姿に変化へんげまでしていただいてありがとうございます、嵐神様」
「当真の頼みならばこのような趣向も良い」
「他ならぬお前の願いならば聞こうとも」

 とろけるような優しさを乗せて語りかける孔雀神と嵐神に、当真とアシュトンは言った。

「たってのお願いがあります。フルード・レシス神官を僕たちの前に連れて来て下さい。やたらと強い清掃員がいて、僕たちの邪魔をするんです」
「どうかお願いいたします。私たちは父上からの指示違反にならぬよう、ここで待機しています。神だということはバレぬようご配慮いただけると幸いです」

 孔雀神と嵐神は顔を見合わせた。

「安心おし。わらわたちの正体は露見せぬよう、神威による強力な目眩しをかけておる。周囲の者たちは、こちらを外部からの賓客としか認識できぬ。わらわたち自身も、そなたら以外の前では客人の振りをしようとも」
「密かに降臨して欲しいということだったため、神威も大部分を抑えているしな。……しかし、フルードといえば我らの同胞。狼神様の愛し子ではないか」

 嵐神の言葉に、アシュトンが困ったように返す。

「狼神様には今まで何度か念話したのですが、繋がらないのです」
「そうか。おそらく天界で騒ぎが起きたためだろう。狼神様は御顕現より悠久の星霜を経られた古参の神。色々と立て込んでいるのかもしれない」
「天で何かあったのですか?」
「悪神の聖威師が誕生した。それもだ」

 アシュトンと当真が息を呑んだ。

 悪神。邪神や魔神、疫神など、悪しきものを司り、不幸と災厄をもたらす凶神の総称である。ただし、負の事象を司るとはいえれっきとした神であるので、他の神々のことは大切な身内と認識しており、寛容かつ慈愛を持って接する。

 そして、悪神も聖威師を選び出すことがある。だが悪神の聖威師は、通常の意味での神の愛し子とは違う。愛や慈悲など欠片も与えられず、ただ主神の永久玩具として久遠に虐げられ嬲られ続ける生き餌だ。どれだけ弄んでも壊れないようにするために神格を焼き付けられるので、神威を使うことはできず、他の神々からは同胞と見なされない。

 しかし――これには例外がある。悪神であっても、善悪や美醜を超えた域で素晴らしいと思ったものは認め賞賛し、時には鍾愛しょうあいする。狼神や孔雀神などは、四大高位神だけでなく悪神の長である禍神からも認められ、通常の神が与えるのと同じ寵愛を授かっている。ゆえに、その意味でも奇跡の神、偉大なる神と呼ばれている。

 つまり、悪神であろうと、真に感銘を受けた者には通常の神と同じように寵愛を与え、正真正銘の愛し子にすることがある。そうなれば、その聖威師は通常の神の聖威師と同様だ。本当の意味で神格を授かり神の仲間入りをし、神威も使え、全ての神々から大事な身内と認識される。

 だが悪神の性質上、そのような存在が生まれることは滅多にない。通常では起こり得ないその快挙を達成した者は奇跡の聖威師と称されるが、今までに誕生した前例は少ない。
 今回、その奇跡が起こったというのだ。

 嵐神が神妙な顔で続ける。

「悪神が一柱、鬼神きしん様の寵を受けた、正真正銘の愛し子。決して生き餌などではない、真の意味での聖威師。我らの大切な同胞だ」
「鬼神様……。孔雀神様と同じで、最高神全柱の寵を受けていらっしゃる奇跡の神ですね」

 当真の呟きに、アシュトンが追随する。

「奇跡の神が奇跡の聖威師を誕生させたわけですか。それはおめでとうございます」

 悪神も神々にとっては大切な身内だ。同胞の誕生は慶事であった。

「しかし、どこの神官府からも、聖威師が誕生したという報は受けておりません。これから上がるのでしょうか。正真正銘の聖威師ならば、都にある神官府の中央本府の長になりますが、悪神の愛し子となれば神官たちが驚くでしょう。今から手を打っておかなくては」
「それに関しても、いずれ鬼神様から聖威師に説明があるだろう。我らもまだ仔細は分かっておらぬのだ」

 当真も思案する素振りを見せたものの、切り替えるように頭を振った。

「アシュトン君、それは今考えても仕方がないことだよ。嵐神様の仰る通り、機を見て鬼神様からご説明がなされるだろうから、待ってみよう。……それより孔雀神様、嵐神様、話を戻しましょう。奇跡の聖威師の誕生は僕も嬉しいですが、今の最優先はフルード君の件です」

 当真が強い口調で言った。

「狼神様には連絡が取れ次第、話をします。とにかくフルード君をここに連れて来て欲しいのです。清掃員が邪魔をしたら殺さない程度に蹴散らして下さい」

 主神は愛し子にどこまでも甘い。二神はにこにこと微笑んで頷いた。

「そう。よしよし、ではそうしよう。少し待っておいで」
「聖威師すら阻む清掃員というのが気にかかるが、行けば分かるだろう」

 言い置き、孔雀神と嵐神はふわりとかき消えた。

 それからさほど間を置かず、神官府の時計塔に妖魔が転送されて来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...