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第1章 偽りの女神
第二十四話 そして彼女は瞳を閉じた
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私はアルシアの返事を聞いて、笑みがこぼれると同時に胸を撫で下ろした。
分かってくれたんだ。
テオも……アルシアも。
一時はどうなる事かと思ったけれど、無事に分かってくれて本当に良かった。
これで依頼の件も何とかなるかもしれない。
三人で協力すれば、きっと何とかなる。
そう思いながら私は、胸に顔をうずめているアルシアを眺める。
そしてテオも、彼女を優しく撫でている。
……。
…………。
………………。
……いつまでこうしてるの?
アルシアが私から離れる様子は一向にない。
テオが撫でる手も疲れてきている。
私としてもいい加減離して欲しいのだが、無理やり引き剥がすのも可哀想だ。
どうしようかと思ってテオの顔を見ると、彼と視線が合った。
そしてじっと私の瞳を見つめている。
……ああ、なるほど。
その意味を私は瞬時に理解した。
なので彼へ、パチリとウィンク。
それを見たテオはフッと笑うと、アルシアを撫でる手を止めた。
――そして、これ以上無いほどのニヤケ顔を晒した。
「それにしても……そうかそうか!」
テオはそう言うと、アルシアの頭に置いていた手を動かしてそのまま腕を肩へ乗せ、顔を彼女の横顔へと近づけた。
「そんなに俺と離れるのが嫌だったのかぁ」
ニヤケ顔で弄るように言葉を放つ。
けれどアルシアは、私の胸に顔をうずめたまま、言った。
「……うるさい」
その声は照れくさそうに聞こえた。
私の胸から伝わってくる表情からは、顔を上げようにも上げられない気恥ずかしさも感じられる。
すると次にテオは、肩に乗せた腕をアルシアの腰へ回し、そのまま引き剥がすように自分の方へ引き寄せて肩を並べた。
「ッ!?」
突然のことに驚くアルシアを横目に、テオは自分の顔を彼女の横顔へとくっつける。
「そんなに俺との関係が崩れるのが嫌だったのか? オメェも可愛いところがあるじゃねぇか」
「うるさい」
「どうした。恋でもしてんのか? 相手は誰だぁ?」
「キッモ! 離れなさい!」
アルシアは顔を逸らしてテオの顔を手で必死に抑える。
彼女の顔は真っ赤になっている。
「なに照れてんだ? 俺達の仲だろう?」
「そういった仲になった覚えは無いわ!」
「そういった仲って、どういった仲だぁ?」
「それは! その……!」
彼女の言葉が詰まった。
普段は見られないアルシアの意外な反応に、私は思わずニヤニヤしてしまう。
いつもは何事にも動じないような大人の余裕を漂わせているけど、こういう所はウブなんだな。
そう思っていると、アルシアがボソッと言う。
「……知らない」
それを聞き逃すテオではなかった。
テオはアルシアの腰へ回している腕を深く滑らせると、彼女の身体をくるりと引き寄せて自身の正面へと向き合わせた。
「ッ……!」
アルシアは赤面しながら一瞬テオと顔を見合わせるも、すぐさまサッと顔を背ける。
だがテオはそっぽを向く彼女の頬へ空いている手を添えると、そのまま自分の顔へと彼女の顔を向き直させた。
「じゃあ、教えてやろうか?」
優しくささやくテオ。
それに対しアルシアは、彼を直視できないのか目線を外している。
するとテオは、アルシアの頬へ添えている手をそっと離し、彼女の瞳の上へとかざした。
視界を遮られた彼女は――静かに瞳を閉じる。
するとテオは、それを確認するように――かざしていた手をゆっくりと離した。
まさか……そんな、えっ!?
『パチィ!』
「ったぁ!」
テオがアルシアの額へデコピンをお見舞いした。
彼女は頬を赤らめたまま、額を手で抑える。
「――は……え?」
一体何をされたのかを飲み込めず、目をぱちくりさせている。
それを見たテオは、フッと笑った。
「カッカッカ! こういう仲さ!」
「~~~~~ッ!」
アルシアは声にならない声を上げると、テオからサッと身を引いた。
そして頬を赤くさせたまま肩を震わせる。
「最ッッッッ低!!!」
「カッカッカ! 最高だろ?」
「どこがよ!」
「それじゃあ何を期待してたんだ?」
「――ッ!」
アルシアは、テオの言葉で先程の出来事を思い出したのか、口をパクパクさせる。
するとそれを更にイジる好機と見たのか、テオは再びアルシアへと素早く近づくと、腰へと腕を回し、抱き寄せた。
「おいおい、どうした?」
「~~~うるさい!」
アルシアは抱かれたまま、そっぽを向いてしまった。
それを「カッカッカ!」と笑い、彼女から身体を離すテオ。
いつもとは逆の光景に、私はほっこりとした気持ちになっていた。
こういうのも悪くないな。
私はそう感じながら、笑うテオを見ていた。
その時――彼がそっと言葉を漏らしたのが聞こえた。
「――抵抗しないんだな……」
その言葉には、彼の不器用な優しさが全て詰まっていた。
――全ては、アルシアの為に。
……そんな気がした。
◇ ◇
あの後、私はテオに神話とアルシアの事を全て話した。
女神の事、神々の聖戦の事、女神の祝福者であり世界の監視者である事。
テオは関心が無さそうに聞いていたが、一応は理解出来たようだ。
……多分。
そしてテオに話し終えると、私は気付いた。
――アルシアの姿が見当たらない。
もしかして逃げた?
私は、まさかと思って周りを見渡す。
すると……居た。
アルシアは、少し離れたところの路地の壁へしゃがんでもたれかかり、フードを深くかぶって煙をモクモクと吹かしていた。
「あの……アルシアさん?」
私はどうしたのかなと思ってアルシアへ近づくと、悶えるような声が聞こえてきた。
「あああああああああ――どうして私はあんな奴をををををを――」
彼女は口元を震わせながら煙草をスパスパと吸っていた。
煙で顔が見えなくなるほどだ。
これは……大丈夫なの?
私はアルシアへと近づいて声を掛ける。
「……大丈夫ですか?」
すると、アルシアは煙草を口へ咥え、かぶっているフードを両手で抱え込んだ。
「――一生の不覚! あんな……あんな奴に私は――ッ!」
そう言ってチラリとテオを見る。
それに気付いたテオはニヤリと笑うと、アルシアへ向かってデコピンの構えをした。
「おっ、またやって欲しいのか?」
「死ね!!!」
アルシアの怒号を受けたテオは「カッカッカ!」と笑い出した。
イジるのが楽しくて仕方がないみたい。
そんなテオに対して、アルシアは頬を赤らめてそっぽを向いてしまう。
本当に仕方のない人たちだ。
何はともあれ、これで不安材料が一つ解決された。
アルシアはもう私たちから離れるという選択をしないと信じたい。
私はそっぽを向くアルシアの前へとしゃがむと、彼女へ話しかける。
「アルシアさん」
「……なに?」
「もう私たちから離れるなんて、言わないで下さいね」
私がそう言うと、アルシアは口へ咥えている煙草を唇で挟み込んだ。
そして息を吸い込むと上を向き、口を僅かに開ける。
僅かに開いた口から、煙がホワッと立ち昇る。
彼女の視線は空を向き、どこか遠くを眺めているようだ。
そして煙草を手に取るとフゥと煙を吐き、顔を下へ落とした。
「……この街は出るわよ」
「え……」
これでも駄目なの?
もう私たちから離れないと思ったのに。
そう私は不安になるが、アルシアは私が不安に思っているのに気がついたのか、私へと笑いかけてきた。
「心配しなくても、アンタが冒険者になるまでは居るから」
「アルシアさん、そうじゃなくて……」
そこへテオがアルシアの言葉を聞き付け、彼女へと歩み寄ってきた。
「おいおい、ふざけんなテメェ。街を出るだって?」
するとアルシアは、テオへジトリと視線を送った。
「何言ってるの。ただでさえシュライン卿にも会う事になって目立つのに」
「そんなの関係ねぇ! 俺たちの前から消えるなんて許さねぇからな!」
そうテオが言い寄ると、アルシアは呆れたように「ハァ」と溜息をつく。
そして言った。
「だったら付いてくればいいじゃない」
その言葉に、私とテオは顔を見合わせる。
いつもならこういうとき憎まれ口を叩く彼女が、素直に「付いてくればいい」と言ったのだ。
という事は、アルシアは気を許してくれたという事なのだと思う。
テオも思いがけない反応に驚き、堪らず聞き返す。
「……良いのか?」
「嫌なら来なくていいけど」
「行くに決まってんだろ!」
テオは拳を握り締めて即答した。
有無を言わせないよう、必死に詰め寄っている。
アルシアはそんな彼を無視するように煙を浮かべている。
けど嫌がっている様子はない。
恐らく照れているのだろう。
もちろん私も付いていく気満々だ。
私も期待を込めてアルシアに尋ねる。
「もちろん、私も一緒ですよね?」
するとアルシアは、フッと優しい笑みを浮かべ、こちらへ視線を送ってきた。
「……そうね」
分かってくれたんだ。
テオも……アルシアも。
一時はどうなる事かと思ったけれど、無事に分かってくれて本当に良かった。
これで依頼の件も何とかなるかもしれない。
三人で協力すれば、きっと何とかなる。
そう思いながら私は、胸に顔をうずめているアルシアを眺める。
そしてテオも、彼女を優しく撫でている。
……。
…………。
………………。
……いつまでこうしてるの?
アルシアが私から離れる様子は一向にない。
テオが撫でる手も疲れてきている。
私としてもいい加減離して欲しいのだが、無理やり引き剥がすのも可哀想だ。
どうしようかと思ってテオの顔を見ると、彼と視線が合った。
そしてじっと私の瞳を見つめている。
……ああ、なるほど。
その意味を私は瞬時に理解した。
なので彼へ、パチリとウィンク。
それを見たテオはフッと笑うと、アルシアを撫でる手を止めた。
――そして、これ以上無いほどのニヤケ顔を晒した。
「それにしても……そうかそうか!」
テオはそう言うと、アルシアの頭に置いていた手を動かしてそのまま腕を肩へ乗せ、顔を彼女の横顔へと近づけた。
「そんなに俺と離れるのが嫌だったのかぁ」
ニヤケ顔で弄るように言葉を放つ。
けれどアルシアは、私の胸に顔をうずめたまま、言った。
「……うるさい」
その声は照れくさそうに聞こえた。
私の胸から伝わってくる表情からは、顔を上げようにも上げられない気恥ずかしさも感じられる。
すると次にテオは、肩に乗せた腕をアルシアの腰へ回し、そのまま引き剥がすように自分の方へ引き寄せて肩を並べた。
「ッ!?」
突然のことに驚くアルシアを横目に、テオは自分の顔を彼女の横顔へとくっつける。
「そんなに俺との関係が崩れるのが嫌だったのか? オメェも可愛いところがあるじゃねぇか」
「うるさい」
「どうした。恋でもしてんのか? 相手は誰だぁ?」
「キッモ! 離れなさい!」
アルシアは顔を逸らしてテオの顔を手で必死に抑える。
彼女の顔は真っ赤になっている。
「なに照れてんだ? 俺達の仲だろう?」
「そういった仲になった覚えは無いわ!」
「そういった仲って、どういった仲だぁ?」
「それは! その……!」
彼女の言葉が詰まった。
普段は見られないアルシアの意外な反応に、私は思わずニヤニヤしてしまう。
いつもは何事にも動じないような大人の余裕を漂わせているけど、こういう所はウブなんだな。
そう思っていると、アルシアがボソッと言う。
「……知らない」
それを聞き逃すテオではなかった。
テオはアルシアの腰へ回している腕を深く滑らせると、彼女の身体をくるりと引き寄せて自身の正面へと向き合わせた。
「ッ……!」
アルシアは赤面しながら一瞬テオと顔を見合わせるも、すぐさまサッと顔を背ける。
だがテオはそっぽを向く彼女の頬へ空いている手を添えると、そのまま自分の顔へと彼女の顔を向き直させた。
「じゃあ、教えてやろうか?」
優しくささやくテオ。
それに対しアルシアは、彼を直視できないのか目線を外している。
するとテオは、アルシアの頬へ添えている手をそっと離し、彼女の瞳の上へとかざした。
視界を遮られた彼女は――静かに瞳を閉じる。
するとテオは、それを確認するように――かざしていた手をゆっくりと離した。
まさか……そんな、えっ!?
『パチィ!』
「ったぁ!」
テオがアルシアの額へデコピンをお見舞いした。
彼女は頬を赤らめたまま、額を手で抑える。
「――は……え?」
一体何をされたのかを飲み込めず、目をぱちくりさせている。
それを見たテオは、フッと笑った。
「カッカッカ! こういう仲さ!」
「~~~~~ッ!」
アルシアは声にならない声を上げると、テオからサッと身を引いた。
そして頬を赤くさせたまま肩を震わせる。
「最ッッッッ低!!!」
「カッカッカ! 最高だろ?」
「どこがよ!」
「それじゃあ何を期待してたんだ?」
「――ッ!」
アルシアは、テオの言葉で先程の出来事を思い出したのか、口をパクパクさせる。
するとそれを更にイジる好機と見たのか、テオは再びアルシアへと素早く近づくと、腰へと腕を回し、抱き寄せた。
「おいおい、どうした?」
「~~~うるさい!」
アルシアは抱かれたまま、そっぽを向いてしまった。
それを「カッカッカ!」と笑い、彼女から身体を離すテオ。
いつもとは逆の光景に、私はほっこりとした気持ちになっていた。
こういうのも悪くないな。
私はそう感じながら、笑うテオを見ていた。
その時――彼がそっと言葉を漏らしたのが聞こえた。
「――抵抗しないんだな……」
その言葉には、彼の不器用な優しさが全て詰まっていた。
――全ては、アルシアの為に。
……そんな気がした。
◇ ◇
あの後、私はテオに神話とアルシアの事を全て話した。
女神の事、神々の聖戦の事、女神の祝福者であり世界の監視者である事。
テオは関心が無さそうに聞いていたが、一応は理解出来たようだ。
……多分。
そしてテオに話し終えると、私は気付いた。
――アルシアの姿が見当たらない。
もしかして逃げた?
私は、まさかと思って周りを見渡す。
すると……居た。
アルシアは、少し離れたところの路地の壁へしゃがんでもたれかかり、フードを深くかぶって煙をモクモクと吹かしていた。
「あの……アルシアさん?」
私はどうしたのかなと思ってアルシアへ近づくと、悶えるような声が聞こえてきた。
「あああああああああ――どうして私はあんな奴をををををを――」
彼女は口元を震わせながら煙草をスパスパと吸っていた。
煙で顔が見えなくなるほどだ。
これは……大丈夫なの?
私はアルシアへと近づいて声を掛ける。
「……大丈夫ですか?」
すると、アルシアは煙草を口へ咥え、かぶっているフードを両手で抱え込んだ。
「――一生の不覚! あんな……あんな奴に私は――ッ!」
そう言ってチラリとテオを見る。
それに気付いたテオはニヤリと笑うと、アルシアへ向かってデコピンの構えをした。
「おっ、またやって欲しいのか?」
「死ね!!!」
アルシアの怒号を受けたテオは「カッカッカ!」と笑い出した。
イジるのが楽しくて仕方がないみたい。
そんなテオに対して、アルシアは頬を赤らめてそっぽを向いてしまう。
本当に仕方のない人たちだ。
何はともあれ、これで不安材料が一つ解決された。
アルシアはもう私たちから離れるという選択をしないと信じたい。
私はそっぽを向くアルシアの前へとしゃがむと、彼女へ話しかける。
「アルシアさん」
「……なに?」
「もう私たちから離れるなんて、言わないで下さいね」
私がそう言うと、アルシアは口へ咥えている煙草を唇で挟み込んだ。
そして息を吸い込むと上を向き、口を僅かに開ける。
僅かに開いた口から、煙がホワッと立ち昇る。
彼女の視線は空を向き、どこか遠くを眺めているようだ。
そして煙草を手に取るとフゥと煙を吐き、顔を下へ落とした。
「……この街は出るわよ」
「え……」
これでも駄目なの?
もう私たちから離れないと思ったのに。
そう私は不安になるが、アルシアは私が不安に思っているのに気がついたのか、私へと笑いかけてきた。
「心配しなくても、アンタが冒険者になるまでは居るから」
「アルシアさん、そうじゃなくて……」
そこへテオがアルシアの言葉を聞き付け、彼女へと歩み寄ってきた。
「おいおい、ふざけんなテメェ。街を出るだって?」
するとアルシアは、テオへジトリと視線を送った。
「何言ってるの。ただでさえシュライン卿にも会う事になって目立つのに」
「そんなの関係ねぇ! 俺たちの前から消えるなんて許さねぇからな!」
そうテオが言い寄ると、アルシアは呆れたように「ハァ」と溜息をつく。
そして言った。
「だったら付いてくればいいじゃない」
その言葉に、私とテオは顔を見合わせる。
いつもならこういうとき憎まれ口を叩く彼女が、素直に「付いてくればいい」と言ったのだ。
という事は、アルシアは気を許してくれたという事なのだと思う。
テオも思いがけない反応に驚き、堪らず聞き返す。
「……良いのか?」
「嫌なら来なくていいけど」
「行くに決まってんだろ!」
テオは拳を握り締めて即答した。
有無を言わせないよう、必死に詰め寄っている。
アルシアはそんな彼を無視するように煙を浮かべている。
けど嫌がっている様子はない。
恐らく照れているのだろう。
もちろん私も付いていく気満々だ。
私も期待を込めてアルシアに尋ねる。
「もちろん、私も一緒ですよね?」
するとアルシアは、フッと優しい笑みを浮かべ、こちらへ視線を送ってきた。
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