かつて世界を救った英雄は、いつの間にか女神にされてやさぐれてました ~世間知らずの修道女が、物理で殴る最強魔術師と共に偽りの神話を暴く~

青山茜

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第2章 闇との対面

第二十五話 静寂

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――あれから私たち三人は、私が冒険者登録を出来たら共に街を出るということを確認した。
 向かう先は、私の希望でオースミックの街。
 そして今回の依頼の完了報告でシュライン卿へ会う時の対応は、一時保留とした。


   ◇    ◇


 私たちは、魔物退治の依頼をこなす為に街の西門から外へと出た。

 西へ広がる景色はあたり一面に平原で、遠くへ山がチラホラ見えるのみ。
 そして街を貫いている街道は、地平線の彼方まで続いている。
 
 パッと見では魔物の姿は見えない。
 そういえばシュラインの街へ来る道中では、あの深い森を抜けてから魔物に殆ど遭遇しなかった。
 遭遇したのは、街道を歩いていた時に、人食い怪鳥ウィンドアクローの群れだけだった。
 あの時は、上空のリーダー格らしき個体へアルシアが石を投げつけて撃墜し、それで群れが一目散に逃げ出していった。
 
 いま私たちは街道を西へ進んでいるが、やはり魔物の姿は見えない。
 正直拍子抜けだ。
 定期的に領主が討伐依頼を出す必要があるようには思えない。

「……アルシアさん」
「なに?」
「魔物……居ませんね」
「……そうね」

 アルシアはこれが普通とばかりに平然としている。
 横にいるテオを見ると、かったるそうに歩いていた。

 それから三十分ほど歩いても魔物に遭遇しないので、今度は道を外れて南の方へと歩を進める。
 依頼はシュラインの街周辺の魔物退治なので、このまま反時計回りで街一周してみようという事だ。
 
 そしてしばらく歩いても、魔物の姿はない。
 何だか私の思っていた冒険とは違う。
 とても暇だ。
 もっとこう……魔物と派手にやりあうような依頼だと思っていた。

 暇と思っているのはテオも同じようで、手持ち無沙汰なのか両手をブンブン振り回していた。
 そして彼の口から言葉が漏れてくる。
 
「あぁぁぁぁぁぁ~~~……ドラゴンでも出てこねぇかな」
 それを見たアルシアは溜息を付いた。
「……バカなの?」
 
 するとテオがアルシアへキッと向いた。
「いや、だってよ! 暇すぎんだろ!」
「良いことじゃない」
「良くねーよ! こちとら、ちゃっちゃと依頼終わらすつもりだったんだぞ!」
「それは、こんな依頼を受けたアンタが悪い」
「いやわかってるけどよぉ。定期依頼はこんなやつだってよぉ。けど、こんなに暇だとは思わねーだろ」
「街へ来る道中、魔物と全然出会わなかったんだから、想像できるでしょ」
「俺がバカって言いてぇのか!?」
「さっきからそう言ってるじゃない」
「んだと!」

 またいつもの光景だ。
 これで私は退屈しないなと、少し悪いと感じながらも思った。

 けれど、ここまで何も無いのも味気ない。
 どうしようかな。

 ……そうだ!

 そこで私は思いついた。
 この時間を使ってアルシアに稽古をつけてもらえば良い。
 魔物との実戦に備えることも出来るし、一石二鳥だ。

 私は、まだギャイギャイ言い合っている二人に向かって呼びかける。

「あの~、良いですか?」
「「なに!?」」
 二人が同時に振り向いてきた。
 言いにくいなぁ……。
 
「この暇な時間を使って、私に稽古をつけてもらえますか?」
 
 すると、テオがフッと笑った。
「……仕方ねぇなぁ。それじゃ俺が――」
「じゃあそうしましょ」
「おい!」
 割って入るアルシアに、テオは不満そうにアルシアへ叫ぶ。
 だがアルシアは、そんなテオをジッと睨みつけた。
 睨みつけられたテオもアルシアへと睨み返す。

 そして少しのあいだ睨み合いが続くと……テオは根負けしたのか「はぁ」と溜息をついた。

「……分かったよ」
 テオはそう言って引き下がる。
 彼のお節介焼きも筋金入りだな……。

 アルシアはテオが引き下がるとプイッとこちらを向き、稽古について話し始める。

「それじゃまず稽古の内容だけど……」
「はい」
「アンタ、どこまで出来る?」
「どこまで……?」

 そうか。
 アルシアは私の実力をよく知らない。
 シルヴァエの街へ来るまでも、私は全く魔法を使っていない。
 なので稽古を付けようにも、どれくらいのレベルでやれば良いのか分からないのだ。

 それじゃ何から伝えるべきか……。
 ひとまず使える魔法を伝えようかな。

「そうですね……、一応教団員として覚えておかなければいけない魔法は使えます」
「全部教えて」
「攻撃魔法は聖槍ホーリーランスを。防御魔法は魔法障壁プロテクション。あと闇を浄化する魔法の聖なる光ホーリーライトと、怪我を回復させる魔法の治癒ヒールを覚えています」
解毒アンチドーテ光の守護プロテガット・ルーチェは?」
「それは……司祭や聖騎士にならないと教えてくれない魔法なので……」
「………………」

 アルシアは黙り込むと溜息をついた。
 何か失望しているみたいだ。

「……少ないですか?」
「いえ、教団の人間なら解毒アンチドーテ光の守護プロテガット・ルーチェは覚えて当然だと思ってたから」

 確かにイメージとしては解毒アンチドーテを覚えていないのは違和感があるだろう。
 私も独学で学ぼうとしたが、修道院を出るまでは時間が足りず覚えられなかった。
 ただ、光の守護プロテガット・ルーチェは聖騎士が覚える魔法で、しかも騎士団長クラスが覚える上級魔法。
 どういう効果が有るのか私は知らないので、覚えようとはしなかった。

解毒アンチドーテは独学で覚えようとしたのですが、まだ魔法を覚えて二年くらいなので……」
「二年……か」

 するとアルシアは腕を組んで空を眺めた。
 何か考えている様子だ。
 稽古の内容でも考えているのだろうか。

 そう思っていると、アルシアがポロッと言葉を漏らす。

「……ま、二年でそこまで覚えられたのなら、ね」

 これは褒めてくれたという事なのだろうか。

「多いですか?」
「モノに出来たのならね」

 アルシアはそう言うと、周囲へちらりと視線を流した。
 そして左手を前へと出し、手の平を上に向けた。

「覚えた種類だけで言えば、天賦の才が有ると言えるレベルよ。普通なら一年で一つ魔法を覚えられたら良い方だから」

 すると、アルシアの手の平の上に光の玉が現れた。

「けどそれは、魔法を十分に扱えるようになったらという意味。覚えるだけなら誰でも出来る」

 そこまで言うと、光の玉が小さな点に見えるほどに一気に小さくなる。
 次の瞬間――光の玉から強烈な光が放たれ、その閃光で辺り一面が真っ白になった。

 私は……言葉を失った。

 このとんでもなく明るい光の玉。
 それは、この小さな光の玉に尋常ではないほどの膨大な魔力が圧縮されている事を意味していた。

 アルシアは、その輝く光の玉を見つめながら話を続ける。
 
「魔法の強さは、魔力の扱い方一つで決まる。いかに魔力濃度を上げるか。そして濃度を上げるために、いかに繊細な魔力操作をするか」

 そしてその光の玉から――一瞬輝かしさが消える。

聖槍ホーリーランス

 そうアルシアが唱えると、おびただしい数の光線が光の玉から天空へ向かって放たれた!

 その数は十本や二十本ではない。
 数百本もの光線が、踊るように舞いながら天空へと流れていく――。

 そして聖槍ホーリーランスが全て出尽くすと、光の玉は消えた。
 アルシアはそれを見届けると、私へと視線を流す。

「ここまで出来るようになれとは言わないけど、少なくとも自在に操れるようにはするわ」
「……はい」

 私は、そう返事をすることしか出来なかった。
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