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第2章 闇との対面
第二十六話 素質と制御
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アルシアのとんでもない聖槍を見て、私は綺麗だと思ってしまった。
こんな聖槍は見たことがない。
同時に、私とのレベルの違いをまざまざと思い知らされた。
聖槍は光魔法における基礎攻撃魔法で、威力は純粋に魔力操作の技量に左右される。
繊細で緻密な魔力操作ができれば魔力消費量が少なくなり、同時に発射できる本数も増えて自在に操ることもできる。
現状の私は精々一本が限界だし、自在に操ることも――
「それじゃミア、出してみて」
――え。
それは最も恐れていた言葉だった。
あんな物を見せつけられた後に私が聖槍を出すなんて、おこがましいにも程がある。
けれど、これも稽古の一環。
出さないわけにはいかない。
「わ、わかりました」
私は右手を近くにポツンと生えている木へかざし、魔力を右手へ集中させる。
「聖槍!」
名前を唱えると、右手から一筋の太い光が一直線に飛び出ていく。
そして木の幹へ着弾!
当たったところがバァンと弾け飛び、幹が抉れた。
「ふぅ……」
私は無事に魔法を出せてホッと一息をついた。
良かった良かった。
これで少しはアルシアさんも認めて――と思ったら、彼女は顔をしかめていた。
え? ダメ?
「あの……」
「…………」
アルシアは顔をしかめたまま黙り込んでいる。
なんか怖いんですけど。
すると、アルシアがポツリと言った。
「……全然ダメね」
やっぱり……、やっぱりか。
「ダメ……ですか」
「魔力制御は悪くないけど、全然集中できてない。これじゃあ最初に会った時の二の舞よ」
「うっ……」
とても痛いところを突かれた。
確かに集中できていなかった。
思っていた以上に太い聖槍が出たし、光線は魔力に押されて一直線に出てしまった。
そのせいで魔力消費も多かった。
「……どうすれば良いんですか」
「そうね、それじゃあ――」
――そしてアルシアは、私へ課題を課した。
平原の探索を続けながら、アルシアが見せた光の玉を私は出し続ける。
つまり、歩きながら魔法を維持し続けろということだ。
同時に周りへの魔物の警戒も行わなければならないので、集中力を高めるのにとっておきの訓練らしい。
今、実際にやってみているが、これがなかなか難しい。
周囲の警戒に気を取られると、右手に出した光の玉が消えてしまい、歩くことを意識しても消えてしまう。
確かにこれは良い修行になる。
気を引き締めねば。
私は、歩きながら光の玉を維持することに集中する。
最初は上手く制御できず、握りこぶしほどの大きさの光の玉しか維持できなかった。
だが二十分ほどもすると、少しずつ小さくできるようになってきた。
よしよし、良い感じ。
もっと……もっとだ!
私は更に集中する。
すると光の玉は少しずつ小さくなっていく。
おっ、いけてるぞ。
もっと小さくするんだ。
私は更に体内の魔力の流れを意識する。
身体の内から肩へ、右腕へ、そして右手へ流れるように。
川の流れのように、そして右手から細い糸のように流し、光の玉の中へ潜り込ませるように。
玉を圧縮するように、もっと小さく、密度を上げて、濃度を上げて。
米粒大まで小さくなった。
光の玉が輝いてきた。
もっと小さくだ。
見えなくなるくらい。
一気に輝きが増してきた。
もっと――
「バカ!!!」
そう叫んでアルシアが右手首を掴んできた。
一気に右手が熱くなる。
その刹那――
『バァン!』
光の玉が弾け飛び、衝撃で全身がビリビリ震えた。
「――え?」
私は一瞬何をされたのかわからなかった。
アルシアが息を切らして私をじっと見つめている。
少し冷静になると、アルシアの掴む手から膨大な魔力が私の中へと流れ込んできているのを感じた。
魔力無しの彼女から、どうしてこれほどの魔力が?
疑問に思ってアルシアをよく見てみると、彼女の胸元から魔力が流れ出しているのを感じた。
そこにあるのは、女神の魔導具《恒久の礎》。
それを見て私は理解した。
どうやらそこから放たれた魔力を身体へ流し込まれて、私は魔力制御をできなくなり光の玉が弾け飛んだようだ――
「アンタ死ぬ気!?」
「えっ、えっ?」
「あのままだと、魔力爆発を起こしてこの一帯が吹き飛んでいたわよ!」
「そ、そうなんですか?」
「そうよ! 私以上に魔力を圧縮して、抑えきれずに漏れ出してたんだから!」
そんなにやばかったのか。
それもアルシアが息を切らすほど慌てて恒久の礎の魔力を使用しなければならないほど。
アルシアは私の手をスッと離し、ふぅと息を吐いた。
「アンタ、制御できないのに私の真似するんじゃないの。……いつか大惨事になるわよ」
彼女はそう言って真剣な眼差しを向けてくる。
その眼差しを見て、私は本当に危険なことをしてしまったんだと思い知らされた。
あのまま爆発していたら、私だけでなくテオまでも……。
「ほんっとうにもう……。私が居たから良かったけど、もう二度と私が許可するまでは真似をしないこと。いい?」
「……はい。すみませんでした……」
私はアルシアに頭を下げた。
もう……二度としない。
したくない。
自分の力が恐ろしく感じたのは初めてだ。
制御できない程の力が自分の中にある。
それに気付いてしまった。
修道院の皆はこんなことなかった。
私だけ……。
そして同時に、私は悟った。
これ程の力をアルシアは平然と制御している。
いや、まだその力の片鱗すら見せていないんだろう。
とても……恐ろしい。
私の目の前には、とてつもない壁が二つもあるのだ――。
◇ ◇
その後、私は光の玉を維持する訓練をひたすら続けた。
今度は無理をしない。
ただ、同じ大きさを維持することを心掛けた。
魔物への警戒も怠らない。
私は修行をしながら歩き続ける。
そして探索しながら街を一周したが、魔物には遭遇しなかった。
なので探索範囲を広げるために更に街を離れ、今度は時計回りで探索することに。
だが、それでも魔物に遭遇しない。
街の東側へ出る頃には、日が落ち始めていた。
光の玉は、無事にここまで維持することができた。
握りこぶしより少し小さな大きさを保っていて、今も私の手の平の上でフワフワと浮いている。
正直かなり疲れたが、集中力を維持する力を少しは身につけられたかな。
「――アルシアさん、どうですか?」
私は、どうだとばかりにアルシアへ顔を向ける。
するとアルシアは表情を崩すこと無く、チラリと視線を私へ流した。
「……良いんじゃない」
アルシアはそれだけ言うと、視線を戻した。
……それだけ?
もうちょっと何か言ってくれても良いんじゃないですか?
よ~し……。
私は手の平の上の光の玉を少しずつ上へと浮かしていった。
そしてアルシアの方へとフワフワと漂わせ……彼女の顔の前へ。
どうですか!
もうここまで出来るようになりましたよ!
そう心の中で胸を張っていると、アルシアは光の玉を人差し指で突いた。
すると、パンッという破裂音と共に消えた。
「あーっ! 何するんですか!」
「……イタズラするんじゃないの」
アルシアは表情も変えずに淡々と言った。
私はそれがちょっと悔しかった。
そうこうしている間に太陽が地平線へと隠れ始め、周りが暗くなってきた。
そこでテオがアルシアへ尋ねる。
「もう日が暮れるが、どうすんだ? 街へ戻るか?」
そう聞かれたアルシアは、沈む太陽をじっと眺めた。
「……今から戻ってたら完全に夜になっちゃうでしょ。街から大分離れてるし、暗黒の世界の中を迷わずに帰れるとは思えないんだけど」
「確かにな……。それじゃ、一応携行食は持ってきてるから、ここらで野営するか」
「それが良いでしょ」
そうして私たちは、ここで野営をすることになった。
――太陽は地平線の彼方へ完全に沈み、世界が漆黒の闇に包まれる。
明かりは、目の前の焚き火のみ。
少し離れれば手元も見えない。
私たちは、焚き火を囲って座り、テオが持参してきた干し肉を串へ刺し、焚き火で炙る。
次第にジュウジュウと音を立て、脂が染み出てくる。
香ばしい匂いもしてきた。
食べ頃だ。
私は頃合いだと干し肉を焚き火から取り上げる。
そして息を吹きかけて少し冷まし、思い切りがぶりとかじりつく。
美味しい。
肉を噛むたびに、中から凝縮された旨味と脂が溢れてくる。
一日中歩き詰めだったから、身体へ染み渡るようだ。
「美味しいですねこれ」
思わず言葉がホロリと漏れ出す。
それを聞いたテオは得意気な顔をした。
「だろう? 街の肉屋で買ったもんだからな。シュラインの街は交易街だし、美味いもんが多いんだ」
「へぇ~」
テオは干し肉をモグモグしながらニコニコしている。
きっと自慢の街なんだろうな。
一方、アルシアを見ると、彼女は左手に持った干し肉を頬張りながら空を見上げていた。
私はそれを見て不思議に思い、同じように空を見上げる。
けれど、そこには何もなかった。
空は真っ黒で何も見えない。
ただ漆黒の闇が広がっているだけ。
私は何故見ているのかよくわからずアルシアをもう一度見ると、彼女はそのまま遠くを見るようにずっと眺めていた。
私はその様子が気になって、思わず彼女へ声を掛ける。
「アルシアさん、いくら見ても闇しかないですよ?」
すると、アルシアは空を見上げたまま、ポツリと言った。
「昔……、昔は夜になると、ホシとツキというものが見えたらしい」
「ホシと……ツキ? 何ですかそれ?」
「わからない。私も見たことないから」
アルシアは顔を落とし、目の前の焚き火を眺める。
私には全く理解ができなかった。
アルシアがわからないものなのだ。
そんなもの私が理解できるはずもないだろう。
そう思って私は自分を納得させる。
テオを見ると、彼も空を見上げていた。
きっと彼もアルシアの話を聞いて気になったのだろう。
じっと空を見上げている。
するとテオは空を見上げたまま、言った。
「なぁ。思ったんだけどよ」
何でしょうか?
私たちにわからないことが――
「魔物が出てこねぇのって、アルシアが魔法ぶっ放したからじゃねぇか?」
……え?
アルシアを見ると、しまったみたいな顔をしていた。
そして頭をガクッと下げた。
「あ~……そうかも」
「だよな? あいつら魔力に敏感だからビビって逃げちまったんじゃね?」
そう言ってテオがアルシアへ顔を向けると、アルシアはバツが悪そうに片膝を抱えた。
「……ごめん」
彼女が謝ったのを初めて聞いた気がする。
こんな聖槍は見たことがない。
同時に、私とのレベルの違いをまざまざと思い知らされた。
聖槍は光魔法における基礎攻撃魔法で、威力は純粋に魔力操作の技量に左右される。
繊細で緻密な魔力操作ができれば魔力消費量が少なくなり、同時に発射できる本数も増えて自在に操ることもできる。
現状の私は精々一本が限界だし、自在に操ることも――
「それじゃミア、出してみて」
――え。
それは最も恐れていた言葉だった。
あんな物を見せつけられた後に私が聖槍を出すなんて、おこがましいにも程がある。
けれど、これも稽古の一環。
出さないわけにはいかない。
「わ、わかりました」
私は右手を近くにポツンと生えている木へかざし、魔力を右手へ集中させる。
「聖槍!」
名前を唱えると、右手から一筋の太い光が一直線に飛び出ていく。
そして木の幹へ着弾!
当たったところがバァンと弾け飛び、幹が抉れた。
「ふぅ……」
私は無事に魔法を出せてホッと一息をついた。
良かった良かった。
これで少しはアルシアさんも認めて――と思ったら、彼女は顔をしかめていた。
え? ダメ?
「あの……」
「…………」
アルシアは顔をしかめたまま黙り込んでいる。
なんか怖いんですけど。
すると、アルシアがポツリと言った。
「……全然ダメね」
やっぱり……、やっぱりか。
「ダメ……ですか」
「魔力制御は悪くないけど、全然集中できてない。これじゃあ最初に会った時の二の舞よ」
「うっ……」
とても痛いところを突かれた。
確かに集中できていなかった。
思っていた以上に太い聖槍が出たし、光線は魔力に押されて一直線に出てしまった。
そのせいで魔力消費も多かった。
「……どうすれば良いんですか」
「そうね、それじゃあ――」
――そしてアルシアは、私へ課題を課した。
平原の探索を続けながら、アルシアが見せた光の玉を私は出し続ける。
つまり、歩きながら魔法を維持し続けろということだ。
同時に周りへの魔物の警戒も行わなければならないので、集中力を高めるのにとっておきの訓練らしい。
今、実際にやってみているが、これがなかなか難しい。
周囲の警戒に気を取られると、右手に出した光の玉が消えてしまい、歩くことを意識しても消えてしまう。
確かにこれは良い修行になる。
気を引き締めねば。
私は、歩きながら光の玉を維持することに集中する。
最初は上手く制御できず、握りこぶしほどの大きさの光の玉しか維持できなかった。
だが二十分ほどもすると、少しずつ小さくできるようになってきた。
よしよし、良い感じ。
もっと……もっとだ!
私は更に集中する。
すると光の玉は少しずつ小さくなっていく。
おっ、いけてるぞ。
もっと小さくするんだ。
私は更に体内の魔力の流れを意識する。
身体の内から肩へ、右腕へ、そして右手へ流れるように。
川の流れのように、そして右手から細い糸のように流し、光の玉の中へ潜り込ませるように。
玉を圧縮するように、もっと小さく、密度を上げて、濃度を上げて。
米粒大まで小さくなった。
光の玉が輝いてきた。
もっと小さくだ。
見えなくなるくらい。
一気に輝きが増してきた。
もっと――
「バカ!!!」
そう叫んでアルシアが右手首を掴んできた。
一気に右手が熱くなる。
その刹那――
『バァン!』
光の玉が弾け飛び、衝撃で全身がビリビリ震えた。
「――え?」
私は一瞬何をされたのかわからなかった。
アルシアが息を切らして私をじっと見つめている。
少し冷静になると、アルシアの掴む手から膨大な魔力が私の中へと流れ込んできているのを感じた。
魔力無しの彼女から、どうしてこれほどの魔力が?
疑問に思ってアルシアをよく見てみると、彼女の胸元から魔力が流れ出しているのを感じた。
そこにあるのは、女神の魔導具《恒久の礎》。
それを見て私は理解した。
どうやらそこから放たれた魔力を身体へ流し込まれて、私は魔力制御をできなくなり光の玉が弾け飛んだようだ――
「アンタ死ぬ気!?」
「えっ、えっ?」
「あのままだと、魔力爆発を起こしてこの一帯が吹き飛んでいたわよ!」
「そ、そうなんですか?」
「そうよ! 私以上に魔力を圧縮して、抑えきれずに漏れ出してたんだから!」
そんなにやばかったのか。
それもアルシアが息を切らすほど慌てて恒久の礎の魔力を使用しなければならないほど。
アルシアは私の手をスッと離し、ふぅと息を吐いた。
「アンタ、制御できないのに私の真似するんじゃないの。……いつか大惨事になるわよ」
彼女はそう言って真剣な眼差しを向けてくる。
その眼差しを見て、私は本当に危険なことをしてしまったんだと思い知らされた。
あのまま爆発していたら、私だけでなくテオまでも……。
「ほんっとうにもう……。私が居たから良かったけど、もう二度と私が許可するまでは真似をしないこと。いい?」
「……はい。すみませんでした……」
私はアルシアに頭を下げた。
もう……二度としない。
したくない。
自分の力が恐ろしく感じたのは初めてだ。
制御できない程の力が自分の中にある。
それに気付いてしまった。
修道院の皆はこんなことなかった。
私だけ……。
そして同時に、私は悟った。
これ程の力をアルシアは平然と制御している。
いや、まだその力の片鱗すら見せていないんだろう。
とても……恐ろしい。
私の目の前には、とてつもない壁が二つもあるのだ――。
◇ ◇
その後、私は光の玉を維持する訓練をひたすら続けた。
今度は無理をしない。
ただ、同じ大きさを維持することを心掛けた。
魔物への警戒も怠らない。
私は修行をしながら歩き続ける。
そして探索しながら街を一周したが、魔物には遭遇しなかった。
なので探索範囲を広げるために更に街を離れ、今度は時計回りで探索することに。
だが、それでも魔物に遭遇しない。
街の東側へ出る頃には、日が落ち始めていた。
光の玉は、無事にここまで維持することができた。
握りこぶしより少し小さな大きさを保っていて、今も私の手の平の上でフワフワと浮いている。
正直かなり疲れたが、集中力を維持する力を少しは身につけられたかな。
「――アルシアさん、どうですか?」
私は、どうだとばかりにアルシアへ顔を向ける。
するとアルシアは表情を崩すこと無く、チラリと視線を私へ流した。
「……良いんじゃない」
アルシアはそれだけ言うと、視線を戻した。
……それだけ?
もうちょっと何か言ってくれても良いんじゃないですか?
よ~し……。
私は手の平の上の光の玉を少しずつ上へと浮かしていった。
そしてアルシアの方へとフワフワと漂わせ……彼女の顔の前へ。
どうですか!
もうここまで出来るようになりましたよ!
そう心の中で胸を張っていると、アルシアは光の玉を人差し指で突いた。
すると、パンッという破裂音と共に消えた。
「あーっ! 何するんですか!」
「……イタズラするんじゃないの」
アルシアは表情も変えずに淡々と言った。
私はそれがちょっと悔しかった。
そうこうしている間に太陽が地平線へと隠れ始め、周りが暗くなってきた。
そこでテオがアルシアへ尋ねる。
「もう日が暮れるが、どうすんだ? 街へ戻るか?」
そう聞かれたアルシアは、沈む太陽をじっと眺めた。
「……今から戻ってたら完全に夜になっちゃうでしょ。街から大分離れてるし、暗黒の世界の中を迷わずに帰れるとは思えないんだけど」
「確かにな……。それじゃ、一応携行食は持ってきてるから、ここらで野営するか」
「それが良いでしょ」
そうして私たちは、ここで野営をすることになった。
――太陽は地平線の彼方へ完全に沈み、世界が漆黒の闇に包まれる。
明かりは、目の前の焚き火のみ。
少し離れれば手元も見えない。
私たちは、焚き火を囲って座り、テオが持参してきた干し肉を串へ刺し、焚き火で炙る。
次第にジュウジュウと音を立て、脂が染み出てくる。
香ばしい匂いもしてきた。
食べ頃だ。
私は頃合いだと干し肉を焚き火から取り上げる。
そして息を吹きかけて少し冷まし、思い切りがぶりとかじりつく。
美味しい。
肉を噛むたびに、中から凝縮された旨味と脂が溢れてくる。
一日中歩き詰めだったから、身体へ染み渡るようだ。
「美味しいですねこれ」
思わず言葉がホロリと漏れ出す。
それを聞いたテオは得意気な顔をした。
「だろう? 街の肉屋で買ったもんだからな。シュラインの街は交易街だし、美味いもんが多いんだ」
「へぇ~」
テオは干し肉をモグモグしながらニコニコしている。
きっと自慢の街なんだろうな。
一方、アルシアを見ると、彼女は左手に持った干し肉を頬張りながら空を見上げていた。
私はそれを見て不思議に思い、同じように空を見上げる。
けれど、そこには何もなかった。
空は真っ黒で何も見えない。
ただ漆黒の闇が広がっているだけ。
私は何故見ているのかよくわからずアルシアをもう一度見ると、彼女はそのまま遠くを見るようにずっと眺めていた。
私はその様子が気になって、思わず彼女へ声を掛ける。
「アルシアさん、いくら見ても闇しかないですよ?」
すると、アルシアは空を見上げたまま、ポツリと言った。
「昔……、昔は夜になると、ホシとツキというものが見えたらしい」
「ホシと……ツキ? 何ですかそれ?」
「わからない。私も見たことないから」
アルシアは顔を落とし、目の前の焚き火を眺める。
私には全く理解ができなかった。
アルシアがわからないものなのだ。
そんなもの私が理解できるはずもないだろう。
そう思って私は自分を納得させる。
テオを見ると、彼も空を見上げていた。
きっと彼もアルシアの話を聞いて気になったのだろう。
じっと空を見上げている。
するとテオは空を見上げたまま、言った。
「なぁ。思ったんだけどよ」
何でしょうか?
私たちにわからないことが――
「魔物が出てこねぇのって、アルシアが魔法ぶっ放したからじゃねぇか?」
……え?
アルシアを見ると、しまったみたいな顔をしていた。
そして頭をガクッと下げた。
「あ~……そうかも」
「だよな? あいつら魔力に敏感だからビビって逃げちまったんじゃね?」
そう言ってテオがアルシアへ顔を向けると、アルシアはバツが悪そうに片膝を抱えた。
「……ごめん」
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