不定期∶王道無糖

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本編

58 個人戦:2回戦 チリンVSルル

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『今回まさか、ヒューム族が勝ち上がるとはね!』
『個人戦2回戦最終。【セレー神の下僕】チリン選手対【世紀のドジっ子】ルル選手!! 準備は良いですか?』

「あ、ちょっと待ってください」
『おお? チリン選手どうかしましたか?』
「いえ、この戦いもセレー様に無事に終わりますようにと、お祈りしても?」
『ええ、大丈夫ですよ。準備が終わったらそこの係の人に話しかけてくださいね』
「はい、有難うございます」


 実況者に人懐っこい笑みを向けて挨拶してから、僕は手に持っていたベルをフィールドの周り4箇所で鳴らす。チリン、チリンと音が鳴り、僕は白いローブ下自分自身の身体に彫られてる紋に共鳴させる。相手は最初の勝ち残りで半分以上フィールドから出した女だ。横目で見れば「あわわ、すごい人……っ!」と緊張してる様だったけど見た目に見合わないデカいハンマーを持っててただの小娘には見えない。
 セレー神に祈る、という建前で今の準備する時間を貰ってるんだ。団体戦で先輩達が活躍したのを観て僕も頑張らねば。そして──いや、それは勝ってからにしよう。
「準備終わりました。」


『チリン選手のお祈りが終わったみたいです。では、改めまして個人戦2回戦最終。【セレー神の下僕】チリン選手対【世紀のドジっ子】ルル選手!! 試合開始ッ!』

 司会者の言葉が終わるやいなやさっきまでワタワタ緊張してた彼女は武器を振り回し僕に向かってくる。咄嗟に《ホーリーシールド》で衝撃に耐える。成人男性1人分ぐらいはありそうな重いハンマーの衝撃……吹っ飛びは無かったものの結構押されたな……

 なるべく攻撃を受けないように、《ホーリーデコイ》で光る人型を生成し目眩ましに、攻撃の軌道もそれるように配置。
 隙を作りたいが、今度は工具ぐらいの小さめのハンマーを僕に向かって投げてくる、コイツやるな……っ

「彼の者を拘束せよ!!《ホーリーチェーン》」
「きゃっ?!」

 彼女の体にフィールドに描いた魔法陣から光の縄巻き付き拘束する。最初にお祈りとしてフィールド自体を僕の管理下に置いてある。何処に居ても僕の術から逃げることはできない。あとは、彼女の身体に紋を刻めば……

「やあ! は、離してッ!!」
「セレー神のお導きとして、【聖紋】を入れさせてもらう」
「や、ああッ……痛いッ!!」

 ワンピースの上の部分を開き普段から持っている針に祈りで清めた血を彼女の身体に刻むと苦痛に顔を歪む。それを見ると僕はとても良い事をしてるのだと、彼女も僕らと同じ使徒の一員になれると。拘束を解いて微笑むと──

「痛いの、嫌だって……言ったのに、この分からず屋!! ──ッ?!」
「おやおや? どうしたのかな? なんでルルが吹っ飛んでるんだい?」

 拘束を解くと彼女は大きなハンマーで僕に振りかぶった。大きな音と共にフィールドの端に吹っ飛んで目を回してるのはルル本人だった。彼女も実況それに観客も何が起こったのか分からないみたいだね。
 まあこの神秘な秘術は我らセレー神のお導きそのモノの力だからね。団体戦でもいまだどうやって勝ち残ったのか分かんないみたいだけど、単純明快!《リフレクト》を応用したスキルなんだよね。まあ、色々と実験とか追加効果をやってあの術になってる。僕がやってるのもそれの一部。
 

「さあ、ルルよ! 降参しな。僕に勝てる方法は無いよ? 攻撃した所でルルが攻撃を食らって痛い思いをするだけだよ?」
「そう、みたいだね」

 フィールドにはバリア自体がかかってるからちょっとやそっと程度では降りられない。ちゃんと自分の負けだと宣言しないとね。ルルは立ち上がってヨロヨロと僕の前に来た。顔は伏せてて表情が見えないけど体がプルプルと震えてる。
 ふと、両手を持たれて彼女にキスされた──何が起こったのか分からなくて尻もちを付く。生まれてこのかた初めての経験、こんな場所で……と思ったら彼女の顔は満面の笑みだった。

 いや、違う──狂気に満ちた笑みだった。




「本当だ。最初の“お祈り”で入念に準備してたんだね。まぁ、私には関係ないけど。でもいいや、キミのやり方で倒してあげるね? ああ、声出ないか。でも良いじゃん楽しもう」

 楽しむ? なに言って──体が動かない、声も出せない状況に首だけ横に振るけど彼女は気にしないですすめる。僕が彼女にキスされて尻もちをついた。その時僕の身体に異変があった。でも僕はキスされた事に戸惑って反応が遅れてしまった。さっきまであんなに緊張してたり痛がって泣いてたりしてた彼女はどこに? 僕が彼女にかけてた拘束が解け『あわわ! 攻撃が効かないの?! じゃあ、武器を使っても意味がないね』と仰向けで倒れてる僕の腕と脚にハンマーを落とす。彼女も相当痛いはずだけど、僕は四肢に鈍器を落とされて身動きが取れなくなってしまった。


「この小さいのも意味ないかー、ポイポイと」

 ドゴン! ドン! と何処からか出した工具サイズのハンマーを地面に落とすと凄い音がした、当たってたらと思うと……なんなんだ、この女。

「実はさー、私攻撃力1なんだよね」
(は……?)
「だからいつもこのハンマー、持ってるの。でもこれでキミを攻撃したら私が痛いもんね。」

 攻撃力が1なんてことあり得るのか? そんな話聞いたことが無い。
 チャと取り出したのはどこにでもありそうな変哲の無いナイフ。

「これは私専用のナイフ。これでここを、なぞれば~……ほら、簡単に斬れるでしょ?」

 ローブの上からなのに身体が斬られる。でもダメージは……

「あは、私にも勿論入るよね。でもお互いに痛くないしね?」

 自分から出た血と彼女から出て流れ落ちる血が僕の白いローブを、染める。痛くはない、けど──こんなの続けられたら頭がおかしくなりそうだ。




 ザク、シュー──ピュー……ボタボタ、音を付けるとしたらこんな感じなんだろうか。狂気の笑みのままズレたメガネを直さないで僕の身体を切り刻む。最初の頃は実況者達も止めようと頑張ってたみたいだけど、止められなくて、僕が声が出ない事に気付いてないのか降参判定にもならなくて。声が出てくれれば、なんで出ないんだよ!

「降参、降参したい! 助けて!!」
「最初からそういえば良いじゃん。」
「へ? 声、出てる──……?」
『おお、やっと降参宣言が!! チリン選手降参です!!』

 いつの間に、でも出なかったはず。
 僕の上から馬乗りになってたルルがどいて、僕も起こされ医務室へ連れてかれ治療を受けた。他の人相手なら勝てた試合だったけど、今回は駄目だった。


「その傷で次の試合も出るんですか?!」
「はい、私にはやらないといけないことがあるんですっ!」
「だめですよ、ちゃんと治さないと」
「私、血は出ましたけど傷はないんですよ。なので大丈夫」
「え、嘘。治ってる……?」

 
 近くのベッドに運ばれたルルと治療師の会話。血だらけな彼女の傷は全て無かったらしい。
 僕の方は精神ダメージが酷いと検査に出てしばらくは入院……なんだったんだあの女。



+メモ
1【毛むくじゃら】ゲルボボ:獣人
2【カゲタロウ】カゲ:片手剣、人間◯
3【烈火のローレン】ローレン:人間◯
4【氷結魔女】セレーヌ:エルフ
5【セレー神の下僕】チリン:人間
6【世紀のドジっ子】ルル:人間◯

《ホーリーシールド》…光の盾、聖初級魔法
《ホーリーデコイ》…光る人型を出す、中級魔法
《ホーリーチェーン》…拘束魔法、中級魔法
《リフレクト》…跳ね返す系各属性対応してたり物理攻撃にも対応してるものもある。
【聖紋】…と称してるだけでそんな力はない。本物は別にあるとか。

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