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中学編
不健康女子の中三・小寒の初候①
しおりを挟む今日のお勉強会は知世ちゃんと。
九州旅行の話が聞きたいから男子には遠慮してもらいました、ということになっている。
「うう、知世ちゃぁん」
「はいはい」
私はお勉強する知世ちゃんの腰に抱きついて嘆く。
お茶会の日以降の岩並君は表面上こそ以前の通りで、だから前と変わらず接しているのだが、一緒にいるとふとした瞬間そわそわする。大変落ちつかない。
以前は「罪作りなイケメンだなー」とやり過ごせていたあれやこれやが、どうにも気になるのだ。なんだろうこれ。
「でも何かされた訳じゃないんでしょう」
「うん……」
お茶会の日は摘まんで渡した羊羹をぱくり、とされて、金箔が付いてると指で口を撫でられただけだ。こう言うとたいしたことないみたいだな。たいしたことないのか。
大体、摘まんで「あーん」みたいな渡し方しちゃったの私だしな。
大騒ぎしてる私がおかしいのかそうなのか。
でも。
「イコ」と私の名前を幸せ噛みしめるみたいに言うし、私が動くとなにをしてても中断して「どうした」って来るし、ごはん食べてると私の口元をとろけそうな顔して見てるしもう何なの!?
お前は妊娠した新妻をサポートする夫か何かか!
でなきゃ娘を溺愛しているパパか!
そうだったうちのパパそう言えばこんな感じだ。でもパパはこんなに色気を振りまかない。
くそうあの、罪作りなイケメンめ!
無駄に色気を放出してからに。
私みたいなガリチビにその色気を使ってどうするんだよ! いたたまれないよ! 私のヤワなハートは被害甚大ですぞ。
いくら仲好しになったからってあれはないと思うの。もう疲労半端ないです。
「それで? イコはあのゴリラが嫌なの」
「ゴリラじゃないよー。眼福イケメンではありませんか!」
「つまり岩並君は、イコにとって観賞用イケメンなわけだ?」
「そう!」
私は大いに頷いた。
厚い胸板とかかっちりした体つきとかいいよね! それでイケメンなんだから堪らないよね!
「じゃあ気にせず見てるだけにしておけばいいんじゃないの」
「でも仲好しだし。お気遣い紳士だし」
「お気遣い紳士」
例によって知世ちゃんは鼻で笑った。うん、私も自分で言っててどうかと思った。最近の岩並君はお気遣い紳士というより、色気過剰の過保護君です!
相変わらず気遣いはものすごいけど、淡々とした紳士部分がどこかに行ってしまって帰ってこないのだ。カムバック紳士。
「なんか最近調子おかしいみたいだなーと思ってたんだよ。だから元気になって欲しくて気遣ってたら、悪化した感じ」
「原因把握せずにつつくから」
「うっ」
見切り発車した自覚はある。
だってさ、頭よくてむきむきで、性格よくてイケメンな岩並君の悩みなんて、どんな悩みだろうと私が解決できるわけないでしょう!
だからせめて元気になって欲しかったんだよう。
「そんなこと悩んでる場合じゃないと思うけどね」
「そうでした」
そう、後1週間ちょっとで入試なのだ。うう恐ろしい。当日あるのは筆記試験+面接。面接はいっぱい練習したけれど、うっかりポロッと余計なことを言ってしまいそうで怖いのです……。
「今年の冬、奇跡的に寝込んでないじゃない。がんばってるねイコ」
「みんなのおかげだよ」
風邪やインフル、胃腸炎などで毎年苦しむ寒い冬だが、今年は無事にいられる記録が伸びている。
朝起きた直後に「がんばれイコちゃん!」とママから激励を受けているからか、今まで以上に気を付けて予防を徹底しているからか、この冬岩並君が過保護なまでに私の体へ気を配ってくれたからなのか、それとも全部が理由なのか。
頭痛や微熱が出たとしても、その日1日大人しくしていればなんとか回復している。寝込むまでいかないのがありがたい。
私は知世ちゃんのお腹から顔を上げる。
「結局、九州旅行は合格祈願だったんだね」
「そう。温泉も行ったけど。空港とかひとの多い所は神経使ったよ、マスクだの手洗いだの。あんたに感染させたらまずいし」
知世ちゃんは、人ごみに接触した日からインフルエンザの潜伏期間が過ぎて、発症せずかかってない、と言う確証が得られてから会いに来てくれた。この辺、最愛の友は抜かりないのだ。
「おうちのひと、受験応援してくれそう?」
「うん。なんかずいぶん伊井先生に脅されたらしいから」
「えっ」
伊井先生いわく。
最終的に受験するのは本人だ、納得せずに行きたくもない学校の入試を受け衝動的に答案を白紙で出すようにでもなったら、最悪中学浪人になる。
目的があっても1年間、同い年と違う時間を過ごすのは辛いものだ。望まぬ目的に学びがはかどるはずもない。浪人しても次の年に合格できるかは誰にもわからない。
大検はさらに茨の道。どんなに志があっても、範囲の広さに根をあげる人が後を絶たない。高校でなら、ぼんやり授業を聞いてテストを受けてそれなりの成績を取ればよかった5教科以外も、本気で学ばなければ道が開けないのだ。
『この時期になっても本人が納得していないなら、希望通り受験させてはどうでしょうか。就職のための資格が欲しい。立派な望みだと思いますが。高校3年間で視野を広げ、他の資格を得るために進学したいと望むことだってあるでしょう』
お子さんはとてもしっかりした子ですよ。伊井先生はそう言って、知世ちゃんのパパとママに、よく考えるよう告げたらしい。
「わあ。すごいね伊井先生。まず予想がつく悪いシナリオでビンタしてきてるよ……」
グレるだの非行に走るだの、最悪自殺するなんて話ではなく、現実の枠の中で予測できる所を挙げてくるから、なおさら追い詰められる。知世ちゃんのパパとママも、ここまで具体的に考えてはなかっただろう。突きつけられて、冷や汗をかいたのではないだろうか。
「そんなわけで、どうにか落ち着いて受験できそう」
「よかったね知世ちゃん」
「心配なのは私よりあんただよ、そんな風にモヤモヤしてて大丈夫なわけ? あと入試まで1週間でしょうが」
「うっ」
うめいて目をそらした私を見下ろして、知世ちゃんがため息をつく。
「嫌なら嫌、止めて欲しいならそう言わないと。親友が増えて嬉しいんでしょ? だからって、私と同じ付き合い方は岩並君とできないんだからね」
◇
私は、教室に入る直前に深呼吸する。
意を決して扉を開ければ、先に来ていた岩並君が席で顔を上げた。私を見て笑顔になる。しょうがはちみつ入り紅茶の笑顔。ぽかぽか甘くてとろける微笑み。
うう、くらくらする。
「今日はゆっくりなんだな、イコ」
「うん」
頷いて荷物を降ろし、防寒具を外す。
帽子を取ってからパッチン留めをするのは、帽子に引っかかって外れ、なくしてしまうのを防ぐためだ。支度を終えて座ろうとすれば、岩並君がこちらをじっと見つめていた。困ったような、切なげな眼差し。かすかに開かれた唇が悩ましい。
だからそれやめろ。
「岩並君」
「どうした?」
声をかけると、なんだどうしたんだい、おじいちゃんが何でも買ってあげるよ、とか言いそうな甘い顔になって、岩並君が訊く。
「えい」
「!?」
彼の高い鼻をつまむ。
「私が一緒にいるときは、ちょっと色気抑えてね、落ち着かないから!」
どこかで誰かの吹き出す音がした。
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