健康優良男子が不健康女子に片思い中です。

法花鳥屋銭丸

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中学編

中三・雨水の末候②

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『ええ、じゃあボタン全滅したのそのひと!? 明日入試なのに?』

 うはあ、とイコがスマホ越しにヘンな声をあげた。

「ああ、卒業式の後、担任と保護者と一緒に昼食会だったんだけど、ライカは母親に拳骨されてた」

 昼食会の保護者たちの中で「うちの上の子の制服あるわよ、帰りに取りにいらっしゃいよ」と言ってくれる人がいなければ、あのバカはマズいことになっただろう。こっちに来た女子をけしかけたのは俺とはいえ、調子にのって入試前日に大盤振る舞いをしたのはライカ本人だ。
 入試に服装規定はないが、学生が公式にどこかへ行く場合、制服着用がマナーである。なにせそれが正装なのだから。

『そりゃまたすごいね、その幼なじみ君。向こう見ずとかパリピとか言うより、江戸っ子っぽい気がする』
「生まれる場所と時代を間違えてるかもな」
『でも、拳骨かあ。お祝いの席で、みんなの前でだよね?』
「人前では普通ないだろうけど、あいつは派手にやらかしたから親もたまりかねたんだろう」
『みんなの前はともかく、そっちの方がいいと思ったことはあるよ』
「え?」
『2時間くらい怒られるのと、拳骨ですぐ済んじゃうなら、拳骨の方がいいな。ママ怒ると長いのです』
「意外だな、あんな小さくて可愛いお母さんなのに」
『イコちゃんちょっといらっしゃい、から始まって、2、3時間お説教で、その後もちょこちょこと思い出すと怒られて、ほんとしつこいんだよ……』
「想像がつかない、というかなにやらかしたんだイコ」
『えへ♡』

 2人とも風呂上がり。眠る前の短い時間に、気兼ねなく自分の部屋で話す時間を持てるのは、スマホのお陰だ。こんな他愛ない会話が嬉しくて仕方ない。可愛らしいイコの声に耳が喜ぶ。

「永井はどうだった、心配していただろう」
『うん、卒業式や入試のために、念を入れて休んでただけだって。体力も戻ってるみたい。元気になるために胃腸炎に苦しんでも普通に食べたって言ってたよ、普通重湯おもゆやお粥からなのに。とても真似できない……』
「イコが真似する必要ないから」

 イコならきっと胃が持たない。

「そっちの卒業式はどうだった? やっぱり寒かっただろう」
『ふっ、あったか下着に分厚いセーター、起毛タイツ二枚履きに毛糸のパンツにカイロ装着、死角なしの万全装備! というわけで平気でしたよ。ただ脇の下がきついから、動きが怪しいだけで』
「それだけ着込めばそうだろう」

 小さな体でおぼつかない動きのイコを想像して、口元が緩む。
 でも卒業式はほとんど、歩くか立つか座るぐらいの動きしかしないから、あまり目立たなかっただろうと思いきや。

『証書が受け取りにくかった!』
「それがあったか」
『それよりたぁくんの式だよ、歌ったの?』
「一応、小さい声で。大きい声を出すと、周りが笑い始めて台無しになるから……」
『たぁくんの歌、聞きたかった! 第一中いっちゅうのひとは聞いたことがあるんでしょう? 私が知らないのつまんないなあ、ねえ、彼氏さん?』
「うっ」

 ずるいぞイコ。そんな、甘えるような声でねだられたら、何だってしてやりたくなるだろう。

「……まあ、そのうちに」
『言質は取ったぞ! カラオケ行こうね今度』
「下手な歌を聞きたいなんて変わってるな」
『まあまあ、すねないでたぁくん』

 くすくすと笑い声が耳をくすぐる。好きすぎておかしくなりそうだ。
 なりそう?
 もうとうに、俺はイコにおかしくなっている。

『カラオケも行きたいけど、映画のペアシート、約束してたよね。まだ見たい映画ないけど、どうしようか』
「映画の中身はどうでもいい」
『え?』
「暗い中、イコとくっついて座れば、映画そっちのけになるに決まっているから」
『ちょ』
「イコにはもっと、俺がどれだけお前に夢中なのかわかっていてほしいな」
『静かに真面目な声でなんてセリフを』
「はあはあ言いながらじゃ嫌だろう?」
『それ変質者!』

 ふ、とこぼされる小さなため息にさえ胸をくすぐられる。

『たぁくん色々開き直ったね』
「まあ、好きな相手に下半身が春画とか言われれば、気取る気もなくなる」
『あははは! でもそれ嘘じゃないんだよ、今度江戸図鑑貸してあげる』

 俺にそれを見せてどうするつもりなんだイコ。

『下半身で思い出した! 今度は絶対お尻見せてね。たぁくんばっかり色々してずるい。次は絶対、私がたぁくんの魅惑のむきむきに、いっぱいいたずらする!』
「それはかまわないけど」

 イコの、俺の尻への執着よりも気になることがあるのだ。

「あの後、体に異常は?」
『あったらこんなにのんびり話できないけどね?』
「そうだろうけど、心配なんだ。ずいぶん疲れていたみたいだから。気をつけていたのに、結局、我を忘れて無理をさせた」
『無理でも無理じゃない』

 ぴしゃりと返されて驚く。

『たぁくんが、大好きなんだよ。たぁくんが私を大好きだって触れてくれるなら、疲れようが何しようが無理じゃないの。受け止める方が私には大事なの。わかる?』
「イコの体だって大事だ」
『優先度の違いかな』

 イコはそれ以上言いつのるつもりはないらしい。俺の主張は否定しないが、自分の意見も曲げない、というところだろう。
 こういう所も含めて。

「イコが、好きだ」
『うん』
「いつだって一緒にいたいし触れていたい」
『うん』
「声を聞いていたい」
『うん』
「元気でいてほしい」
『うん』
「今だって、直接触れて抱きしめたい」
『えへへ、照れるなこれ』

 ありがとう、と恥ずかしそうな返事に、なおさら愛おしくなる。

「イコは?」
『たぁくんが好き』
「ああ」
『こうして声を聞けて嬉しい』
「ああ」
『どんなに具合が悪くても、たぁくんの静かな声は聞いても苦しくないから大好き』
「そうか」
『たぁくんの手も好き。あったかくて優しくて、触られると嬉しくなる』
「ああ」
『ぎゅうってされると幸せ。あ、あと』
「なんだ?」
『そのうちスマホで、オリジナルたぁくんヌード写真集を作りたい!』
「それはやめておこうな」
『えー?』

 卒業式の夜は、イコとの会話で更けていく。
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