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材木問屋・世渡家三男坊の祝言
※材木問屋・世渡家三男坊の祝言 結び
しおりを挟む「今夜は初夜だよ、くるみ」
ゆっくりと褥へくるみを横たえて、足はいたずらっぽく笑う。
「お前さんのはじめては、とうにお山で貰ったね。そのうえ、お前さんを褥の中で離さずに、一日のほとんどを過ごした日さえ、あったねえ」
くるみは褥の上で身を縮め、潤んだ目で足を見上げる。お山で過ごした日々を思い出し、はふ、と熱い息を吐く。
可愛い、いとしいとささやかれ、甘く優しく触れられて、何度となく求められて―――名もなき座敷童から、自分をくるみという、恋する娘に変えてしまったあの日々。
お山を下りてきてからも、毎日のように体を重ねていながら、ふと、あの短い日々を思い出すことがあった。
そう遠くない最近のことなのに、懐かしい。それほどまでにひとの暮らしは目まぐるしく、早く過ぎる。
「夫婦になって、はじめての夜だ。嬉しくて、きっと俺は抑えがきかないよ。お前さんだって疲れているだろうにさ」
くるみの横へ添い寝して、その頬に触れながら、足は熱っぽく新妻を見つめた。
「初夜を迎えた新郎新婦はね、翌日の昼まで、そっとしておく習わしなんだ。……だから、嫌なら嫌だと教えてくれないと、ずうっとお前さんから離れないよ。いつかのお山の時のように、いつまででも抱いてしまうだろう」
くるみの小さな頬を手のひらで包んだまま、足は何度も、何度も唇を親指でなでる。じわじわとくるみの体は煽られて、中から熱く燃え立っていく。
「もう嫌だ、うんざりだと思ったら、構わないから、俺を噛んで、ひっかいて、あそこを蹴っちまっておくれ。ひっぱたいたっていいんだ。ああ、冗談じゃあないんだよ、そんなに笑わないでおくれよ。本当に、お前さんの嫌がることは、これっぽっちだってしたかないんだ。無理強いしたくないんだよ」
真面目な顔で無茶苦茶を言われ、くるみは笑いが止まらない。足は笑うくるみの頬へくちづける。
「可愛い、可愛い、大事なくるみ。愛しているよ」
くるみは足の首にしがみついた。ふたり、夢中で互いの唇をむさぼる。足の手がくるみの細い帯を解き、寝巻をはだけさせる。
「んっ、うう、う、んんっ」
素肌を優しく撫でる、大きな手が気持ちいい。甘やかな弱い快楽にうっとりしながら、くるみは足に身をゆだね、くちづけた。
足は性急にくるみを抱いたりしない。言葉で、手で、くちづけで、ゆっくりとくるみの体を高めていく。
白い肌を赤く染め、くるみは足が与える緩やかな快楽に甘く啼く。
「なんて、可愛いんだろうねえ」
「あ、ああっ」
「指先ひとつ、くちづけひとつでも、ちゃんと応えて感じてくれるなんて……」
「んう、う、ううっ、あ、ああんっ」
「本当に、素直な体だねえ、くるみ。どうしたって、抱かずにはいられないよ」
「あああっ、ひ、あ、ああっ」
「この体、他の男にゃ、未来永劫許しちゃあいけないよ? 可愛いくるみ、お前さんは身も心も俺のものだ。代わりに、俺をまるごと貰っておくれ。俺はとうに、身も心も、お前さんのものなんだから。ね?」
「あ、ああん、ああ……っ」
「仲良くしてたらそのうちに、お山が子どもを授けてくれるかもしれないね? でも、しばらくは、お前さんのここをひとりじめしたいものだねえ」
「あああっ!」
胸の先をちゅう、と吸われ、くるみは気持ちよさに体をよじった。舌先でくすぐられ時に甘噛みされ、もう片方の胸の先をこねられて、高められた体はとろとろと蜜をこぼす。お腹の奥が熱くせつない。
足の手はくるみの体を這い、左の膝裏を掴むと、大きく脚を開かせる。
「あかんぼみたいにつるつるのここから、女の匂いをたっぷりさせて……。ああ、くるみ。たまらないよ」
指が入ってきた。
足はゆっくり中をかき回し、浅いところをくすぐりながら少しずつ指を増やし、胸の先をせめることも止めず、くるみを快楽で追い詰めていく。
「くるみ、くるみ、可愛い……ッ」
薄暗い部屋に、濡れた音とくるみの嬌声、男の荒い息、衣擦れの音が淫靡に満ちる。
男の指は長く、深いところまでかき回すけれど、気持ちいいのに満たされない。
満たされないのに高まっていく。
ああ、足、足、足がほしい―――。
「ひ、あ、あああっ、あ、ひッ……!」
くるみは足の指を締めつけて果てた。
はっ、はっ、はっ、はっ。
犬みたいに荒い息をして、達した余韻に、ひくりひくりと体を震わすくるみを見おろし、足は乱暴に自分の寝巻を脱ぎ捨てた。固く熱くなったものを、くるみの濡れそぼった柔らかな場所にあてがう。
「くるみ、いとしいくるみ。後生だよ。お前さんの極楽に入らせておくれ」
くるみはとろけた顔で、熱いまなざしを見返した。いとしい夫に両手を伸ばす。
「くるみッ」
「あ、あ……ッ!」
深く穿たれ、くるみは一瞬息を忘れた。
入ってきた足は、いつもより熱く大きな気がする。くるみが伸ばした手に指を絡めて、今宵夫となったいとしい男は、くるみを求め腰を動かす。
「くるみ、くるみ。大事な、可愛い、健気なくるみ。ああ、好きだ、好きだよ、お前さんがっ」
「あっ、あっ、ああっ、あっ」
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら、足が中をせめたてる。その彼を求め、おのれの体が絡みつき、はしたなく締めつけるのを、くるみは恥ずかしくも嬉しく思う。
「くるみ、なんて、いとしい、誰にもやらない、渡さないっ。大事な妻だ!」
いつもより激しい交わりとともに、足の心がくるみに流れ込んできた。
愛している。
誰より、なにより、くるみが好きだ。
何も知らないくるみをひとの暮らしに引っ張り込んで、自分は今も変わらずただの屑かもしれないが、ああ、くるみのためならば、どんなことでもしてみせよう。
今日より先は、くるみの笑顔のために生きるのだ―――。
「お前さんの夫になれて、こんな幸せなことはない。嬉しいんだ。くるみ、くるみ、愛しているよ。ずっと、一緒だ」
切れ切れに、どこか必死にくるみへ愛を訴えながら、足はくるみの中をむさぼる。その激しさと、伝わってくる彼の思いに翻弄されて、くるみはただただ、快楽に啼くより他にない。
嬉しい。
これほどまでに、熱く求められることが嬉しい。
すき。すき。
だれよりも、足がすき。
「くるみ、くるみッ……!!」
一番奥をこじりながら足のものは膨れ上がり、はじけた。注がれる熱にくるみの頭が真っ白になる。
「あああ―――ッ!!」
指を絡め、足の手を強く握り、くるみは大きく体を反らし果てる。思い切り締めつけた足の固いものは、なおびくびくとはじけて熱をあふれさせ続けた。それでもなお、注いだ精を塗り込めるように、くるみの中をゆるくかき混ぜる。
「う、あ、くるみ、好きだ、くるみ……っ」
「あ……、あ、ああ、あっ」
くるみは嬌声に唇を震わせながら、その熱と、いとしい夫の思いを体の奥で味わった。
甘い甘い祝言の夜は、まだまだ続く。
◇
「ん……う」
「起きたかい、くるみ」
朝日のまぶしさに目を開けると、足が肘枕をしながらこちらを幸せそうに見つめていた。その気だるげな様子に、つい先ほどまで睦み合っていた記憶がよみがえり、くるみは顔を赤らめる。
見れば、布団が覆っているのは腰のあたりまでだ。互いにむき出しの肌が寒くないのは、いまだに快楽の名残が体を燃え立たせているからで、それはほとんど寝ずに触れ合っていた証でもある。
「んっ……」
くるみが少しばかり体を動かした拍子に、体の奥からとろとろとこぼれてくるものがあった。くるみの蜜と、夜通し注がれた足の精がももを濡らす。それもまた、何度となく求められた証拠だった。
「夜に、ほの白く浮かび上がるくるみの体もいいけれど、こうして、明るい光の中で見るお前さんも格別だね」
足は布団をめくり、障子越しの光にくるみの体をさらす。
「真っ白い体に、赤が映えて男を誘うよ。ここも……」
「あっ」
くるみの脚の間に手が入り、割れ目を撫でる。
「ここも」
片手を割れ目に添えたまま、足はもう片方の手で胸の先をくすぐる。
「ああ……」
「そうして、ここも」
胸の先から離れた指が、唇に触れた。
「あかぁく艶っぽく色づいて、男を惹きつけ狂わせる。ああ、なんてまあ、いい女だろうねえ、くるみ。素直な体で、中は柔らかくとろける極楽で……。健気で可愛いくるみは、褥の上でも三国一だよ」
切なげに目を細めて、足はくるみを見やる。
「お願いだよ、くるみ。金輪際、狂わせる男は俺だけにしておいておくれ」
「あっ」
くちり、くちり。
濡れた音をさせながら、男の長い指が、昨晩飽かずに注いだものをくるみの中でかき混ぜる。
「俺はもう、お前さんに溺れて、溺れて、身も世もなく狂わされているよ。いとおしくて、どうにかなりそうだ。お前さんは、こんな夫じゃ嫌かい?」
「あっ、あ、ああ、あんっ」
一晩中可愛がられた体は快楽に貪欲だ。あっけなくとろけて、指の動きに合わせ腰が動いてしまう。くるみは夢中で、唇を撫でる足の親指を吸った。
足がすき。
すき、すき、ああ、だいすき。
私は足の、お嫁さんなの。
だから足、私を、いっぱい、いっぱい、可愛がって。
伝えられない言葉のかわりに、舌で足の親指をねぶる。ぐうっと足の喉仏が動いたと思うと、くるみはうつ伏せに組み敷かれた。腰を引かれ熱く固いものを押しつけられる。
「くるみ、くるみ、俺の大事な可愛い奥さん。ああ、お前さんとずぅっと、繋がっていたいよ……ッ」
「あああっ」
後ろから貫かれ、男の体にすっぽりと抱きしめられて、朝の光の中でくるみは啼いた。
気持ちよくて幸せで、くるみの方こそどうにかなりそうだった。
◇
この季節には珍しく晴れた日、昨日新たに夫婦となったふたりは、太陽が中天にさしかかるまで褥の中で睦み合っていた。ようやく身支度をして、みなの前に姿を現したのは昼もようよう過ぎてのことである。
遅くの食事をするにしても、新妻は初夜の余韻が抜けないものか、どうにもぽわぽわと上の空であった。頬を上気させ目を潤ませて、何かある度思い出したようにほう、と熱いため息をつく。
その初々しくも悩ましい様子に当てられて、使用人の女たちは顔を赤らめ、とがめるように彼女の夫を見たが、夫は女たちの責める視線も何のその、ただただ幸せそうに、新妻を眺めていたという。
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