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材木問屋・世渡家三男坊の祝言
小話 かすていら
しおりを挟む「また、かすていらとやらをもらってきたのかい」
御隠居のお宅から帰って足が風呂敷をほどき、土産に渡されたかすていらの紙包みを出すと、甘いにおいに気付いておふくが本から顔をあげた。木の引き出しがたくさんついた長火鉢の前で、暖まりながら読書をしていたらしい。
「なんでも、前より美味しくなったそうですよ。ああ、おしずさん、これでみんなでお茶にしようよ」
「ええ、わかりました。あ、いいですよ若奥様。寒いところから帰ってらしたばかりですもの、こちらへお座りください」
手伝おうと動きかけたくるみを制し、おしずはかすていらを持って台所へと行く。
足は祖母様の近くに座った。
「御隠居が、お店の暖簾をあつらえてくださるそうです」
「ほう、そりゃあ」
祖母様は本を閉じ、眉根を寄せて足を見る。
「ありがたいが、荷がさらに重くなったんじゃないのかい。胡桃堂が何かしでかせば、利兵衛さんの名前を汚すことになる」
「それは重々」
荷の重さは、開店の支度をしながら感じているところだ。雇うひとたちの家族の生活までも、自分の肩にかかっているのだと。
でも、ひるんではいられない。
くるみと一緒に生きていくためならば、足はどんな努力もできるのだ。
「くるみ、御隠居は優しいお方だったろう」
うん、とくるみは満面の笑みで頷く。可愛い。
くるみにとっては美味しいもののおじいさん、という感覚なのかもしれないが、梅酒の梅大福も美味かったし、それも仕方ない。
くるみとふたり、手あぶりで外で冷えた体をあたためていると、程なくお茶の時間となる。
「!」
「おや」
「ほう」
「これはまた……」
焼き色のついた黄色くふわふわした菓子を口にして、四人は同時に目を見開いた。
「あんまりもさもさしなくなってるね」
「ええ。しっとりしていて美味しいですねえ」
「うん、美味しい。くるみ、今日のも好きだろう、半分お食べよ」
足は、にこにこしながらかすていらを口にするくるみの菓子皿へ、自分の分を半分のせてやった。
おしずは食べかけのかすていらがのった菓子皿を目の前まで持ち上げ、眺める。
「足坊ちゃま、この南蛮の菓子、何でできているんです?」
「ええとね、いろんな砂糖にもち飴、蜂蜜に卵に小麦粉、あとみりんだそうだよ」
『えっ』
おふくとおしずが同時に足の顔を見た。
「みりん」
「……南蛮にも、みりんはあるんだねえ……」
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