家出仙女は西側世界で無双する

Ryoko

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冒険者ギルドとの交渉

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「タオ様、こちらのお菓子もいかがですか? 甘くておいしいですよ」


 そう言ってカティが差し出した皿には、色とりどりの丸いお菓子が盛られていて……。


「うん、これもいいね!」


 そのうちの一つを摘んで口に入れたタオの顔が綻ぶ。

 カティによると、これはマカロンというお菓子らしい。

 この前食べたクッキーと違って柔らかくて、色々な色があるのもかわいいと思う。

 仙界にいる時にもよくみんながお菓子をくれたけど、大体が狐色で、こんなに色とりどりではなかった。

 昨日街のカフェで食べたケーキも果物が乗ってて可愛かったし、西国のお菓子は東国のものより派手なものが多い。

 いや、でも、一度招待された西王母様のお茶会で出たお菓子は、見た目も美しかったなぁ……。

 ……もしかして、師匠じいちゃんの友達が皆そういうことに無頓着なだけだったのかも。

 何を美しいと感じ、何を醜いと感じるかは人それぞれ。たとえ絶世の美女でも、近づけは魚は逃げる、とか言ってたし……。

 普遍の価値基準なんてないのだから、そんなものに一喜一憂する必要はないってことなんだろうけど、それと見た目を気にする必要はないっていうのは違うと思うんだよ。

 少なくとも、お菓子は見た目もかわいい方がいいって、ボクは思うね。


 ボクは今、領都ラモスにある領主の邸でカティと暮らしている。

 カティというのは、もちろんカテリーナのこと。

 初めのうちは緊張していたカテリーナだけど、数日のうちにはすっかり打ち解けて、自分のことはカティと愛称で呼んで欲しいと頼まれた。

 カティには邸の中だけでなく、ラモスの街の案内もしてもらって、すっかり一緒にいるのが当たり前になってしまっている。

 この前は、一緒に冒険者ギルドにも行ってきた。

 なんでも、ヒドラ討伐に対する報奨金と素材売却について話し合いたいとかで、できればギルドの方に来てもらいたいって連絡がきたんだよね。

 一人で行けるって言ったんだけど、ギルドに無理難題をふっかけられないようにって、カティが同行を譲らなかった。

 ボクはラモス領主の大切な客人であるって、はっきり示しておく必要があるんだって。

 実際は、ボクがいれば護衛は必要ないからって、ギルドに行くついでにボクと二人だけでの街歩きを楽しみたかっただけみたいだけど。

 でも、カティが来てくれて少し助かったかも……。

 >

『まず、ヒドラ討伐の報酬だが、金貨1100枚になる。これは、ギルドの魔物討伐報酬の最高限度額である金貨1000枚に、Fランクの嬢ちゃんに緊急で無理を聞いてもらった迷惑料を上乗せした額だ。
 これは、あくまでもギルドの依頼として受けてもらったことによるギルドを通しての報酬になるから、領主様からは別途報酬の上乗せがあるかもしれん。
 その辺は嬢ちゃんが直接領主様と交渉してくれ』

『はい、タオ様にはヒドラ討伐以外にも、お父様の命を救っていただいたご恩もございます。いわばタオ様はラモス家の恩人。おさおさ疎かにはいたしません』

(つまり、もしタオ様にご無理を言うのなら、ラモス領主家が全力で相手になる、ということです)

『……それで、その、ヒドラの素材の売却についてなんだが……どの程度こちらに回してもらえるかって話でな……』


 そもそもの話、ヒドラの素材なんざ、今まで冒険者ギルドに持ち込まれたことすらほとんどねぇって話だ。

 一応、嬢ちゃんのヒドラ討伐はギルドを通しての依頼だったということで、その場ではレイアが機転を利かせてヒドラの死体をギルド預かりで確保してきてくれたが……。

 あくまでも、きただけで、売り買いが成立しているわけではない。

 嬢ちゃんが売らないといえば、それで終わりだ。

 ヒドラ討伐の報がもたらされて以来、俺のところには方々ほうぼうから素材を売れ、売れの問い合わせが殺到している。

 商人や武器職人から学者や魔術師、錬金術師。はては他領の領主にギルド本部まで!?

 これで、嬢ちゃんがやっぱり素材は売らない、なんて言い出した日には……。

 考えるだけでも恐ろしいわ!

 とにかく! ここは穏便に……。


『あぁ、そんなに心配しなくてもいいよ。ボクはトカゲの死骸になんか興味ないから、そっちで好きにしてくれれば』

『お待ちください! タオ様、ここはもっと慎重に……。
 いえ、そうですよね。タオ様(女神様)にとってはヒドラの死体など大した価値もないのでしょうけど……。
 わかりました。では、この件はタオ様に代わってラモス家が交渉するということでよろしいでしょうか?』


 こうしてタオから代理交渉権を譲り受けたカテリーナは、タオに有利になるよう話を進めていった。

 素材販売窓口は冒険者ギルドに全面委託。つまり、タオへの直接交渉は一切認めず、厄介な相手とのやり取りは全て冒険者ギルドが責任を持って対応しろと。

 次に、素材買取の優先権はラモス家にすること。まぁ、これは、仕方がない。そもそも、ギルドへの討伐協力の依頼を出したのは領主様だし、討伐されたのもラモス領内だしな。

 最後に、嬢ちゃんへの素材の買取価格は……歩合だと!? いや、確かにヒドラの取引自体が初めてで、相場も決められた買取金額も存在しないが……。まぁ、これなら予想を超える高値がついても、嬢ちゃんが損をする心配もないのか……。

 そんな感じでタオ……というか、カテリーナとの素材に関する交渉も終わり、ギルド長もやっと一息つく。

 やれやれ、これでなんとかなったか……。

 あとは嬢ちゃんにランクアップの話をすれば終わりだな。

 こちらも前代未聞ではあるが、ランクの保留やダウンではなく、ランクの話だ。

 まぁ、素直によろこんでもらえるだろう。

 ……流石に、Aランクにしろとは言ってこないと思うが……大丈夫、だよなぁ……?

 そんなことを考えつつ、ヒドラ素材に関する話がひと段落したところで、ギルド長は次の話を切り出した。


『それでだなぁ、冒険者ギルドとしては今回の嬢ちゃんの功績を鑑み、異例ではあるが、嬢ちゃんの冒険者ランクをBランクに上げることにした』

『タオ様の実力で、Bランクですか……Aランクではなく?』


 カテリーナの物言いに、焦るギルド長。


『……いや、嬢ちゃんの実力を考えればAランクでも十分なんだが、その、高ランク冒険者はただ強ければいいってもんでもないからな。経験の部分を加味してBランクにしたわけだ。
 その、嬢ちゃんは冒険者になりたてだろ? 実力は認めるが、いきなりAランクはどうかと……その……気に入らねえか……?』


 あからさまに気に入らない、という表情のカテリーナはともかく、当事者であるはずのタオがさっきから無反応なのはどういうことか?

 流石に、いくら冒険者になりたてとはいえ、冒険者ランクの意味くらいはわかっているはずだ。

 特にBランク以上の高ランク冒険者の社会的地位、信用度は、土地持ちの領主や大店の商人に等しく、世にいう成功者、ひとかどの人物と見做される。
 
 Bランク冒険者といえば、たとえ相手が同じ冒険者でなくとも、それなりの対応をしてくれるものだ。

 そう、その道の成功者の証。それが、冒険者でいえば、Bランクということになる。

 そんな、誰もが憧れる称号を特例で与えるというのに、さっきからの嬢ちゃんのこの無反応はなんだ?

 まさか、嬢ちゃんもAランクじゃなきゃ気に入らないとか言い出すのか!?


『いや、そのランクアップはいいよ。興味ないから、僕のランクはFのままにしておいてくれる?』

『え?』『はあ?』

『だって、面倒でしょ?』


 面倒……確かに、言われてみれば、そうかもな。

 Bランク冒険者は誰もが憧れる立場だから、冒険者であれば望むのが当然と考えていたが……。

 社会的地位にはそれに見合う責任も付きまとう。

 今回のヒドラ討伐だって、もし嬢ちゃんが元々Bランクだったら、始めから否応なく強制参加だった。

 そういえば、レイアの話だと、元々嬢ちゃんは自分のアイテムを売るために冒険者登録をしにきたって言ってたような……。

 つまり、ヒドラ討伐は成り行きで、アイテムが売れて金が手に入ればそれでよかったってことだ。

 おまけに、今回のヒドラ討伐で、嬢ちゃんには一生かかっても使い切れないほどの大金が入ってくる。

 それなら、嬢ちゃんのような子どもが敢えて危険な冒険者稼業など続ける理由はないか……。

 いや、ちょっと待て! だからか!?

 やけにレイアの奴が嬢ちゃんの特例ランクアップに積極的だったわけだ。

 冒険者ギルド本部の許可も、やけにあっさり出たと思ったら……。

 つまり、ギルド本部もレイアの奴も、嬢ちゃんの囲い込みが目的か!?

 ヒドラをたった一人で倒せるような人材を逃したくはないってことだな。


『ボクは自由に生きたいからね。レイアお姉さんには悪いけど、そのランクアップの話は遠慮するよ』


 素材売却の件では嬢ちゃんには任せられないと口を挟んできたカテリーナお嬢様も、この件では嬢ちゃんの意思を尊重するようだ。

 すまん、レイア。俺にはどうにもならん。

 目下、ヒドラの事後調査で冒険者ギルド代表としてアンドレ様と現場を駆け回っている副ギルド長に、心の中で謝っておく。

 帰ってきたら、きっとレイアに責められるぞ……。

 ギルド本部からも何か言ってくるかもしれん……。

 確かに、嬢ちゃんの言うとおり、社会的地位なんて持つもんじゃねえな。

 ギルド長なんて辞めて、ただの冒険者に戻りたくなるぜ。

 >

 マカロンを口いっぱいに頬張りながら、そんな冒険者ギルドでの一幕を思い出していると、


「こちらもおいしいですよ」


 カティがまた新しいお菓子を勧めてくる。

 こちらは、お菓子で囲い込みかな。

 無粋なことを考えても仕方がない。

 今は目の前のおいしいお菓子を素直に堪能することにしよう。

 少女2人の穏やかな時間は、こうしてゆっくりと過ぎていった。
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