家出仙女は西側世界で無双する

Ryoko

文字の大きさ
12 / 31

事後調査

しおりを挟む
 タオが美味しいお菓子に舌鼓を打っていた頃、ヒドラに襲われた村の跡地では、アンドレとレイアによる事後調査が進められていた。

「……どう思う?」

「冒険者としての見解を言わせてもらえるなら、これはあり得ませんね」

「やはり、そうか……。予想はしていたが、これは何者かによるラモス領うちへの攻撃ってことで間違い無いかな」

「まぁ、そうでしょうね。ヒドラが通った跡は、アケロンの大河から真っ直ぐ領都ラモスへと向かっています。
 こんなの、ふつうの魔物の動きとしてはあり得ません」

「う~ん、ちなみにだけど、ふつうの魔物でないならどうだろうか? 強い魔物の中には、知性を持つものもいると聞くが……?」

「……確かに、そんな話も聞きますけど、私が見た限りでは、あのヒドラにそのような知性があったようにはとても……」

「そう、だな……。そうなると、やはり誰かによってあのヒドラは操られていたと考えるべきか……。
 だが、そうだとして、一体誰がどうやって? ヒドラを操る魔法など聞いたこともないし、そもそもの話、どうやってあのアケロンの大河を越えて魔の森の深部からヒドラを連れて来る?
 人の身で、本当にそんなことが可能なのか?」

「さあ? そんな人、私の知る冒険者の中には一人もいませんけど……あっ、一人いましたね。
 タオちゃんなら案外できちゃうかも知れません」

「あぁ、確かに! タオ殿であればあるいは……。
 だが、タオ殿に限ってそれはあり得ない話だよ」

(なにせ、彼女は父の命を救ってくださった正真正銘の女神様だからね)

「そうですね。いくら強いからって、あんなにかわいい娘がそんなことする訳ないですしね」

(かわいいは正義! その辺の下品な脳筋冒険者どもとは生き物としての格が違うんだから)

「ハハっ……そうだね」


 魔物の専門家でもある冒険者ギルドレイア嬢との合同調査。

 そこで分かったことと言えば、魔の森から出てきたヒドラがアケロンの大河を渡り、そのまま一直線に領都ラモスを目指していたということだけ。

 他には目もくれず、真っ直ぐにだ。

 こんなこと、レイア嬢に言われるまでもなく、常識的にあり得ない。

 今回襲われた村にしても、たまたまラモスへの通り道にあったというだけで、通り道から外れた他の村は一切襲われていない。

 つまり、この村が襲われたのは偶々で、元々ヒドラの狙いは始めからラモスにあったということ。

 これが人為的でなくて何だというのだ。

 群雄割拠。複数の都市国家が乱立するこの西方世界で、他領の領主に戦を仕掛けられることなど珍しくもないが……。

 単なる魔物被害でもなく、さりとて他領からの攻撃とも言い切れないこの状況をどうすべきか。

 調査が終われば、毒に穢された土地の復興支援も必要だが、その前にヒドラの素材売却の問題もある。

 カテリーナの機転で売却窓口は冒険者ギルドとなってはいるが、流石に交渉相手が他領の領主クラスになれば、ラモス家としても完全に冒険者ギルド任せともいかないだろう。

 何より、間に入って実際に実務を担うレイア嬢が可哀そう過ぎる!

 魔物相手ならともかく、交渉ごとには一切向かないあのギルマスに、政治向きの話などできるわけがない。

 全てを押し付けられて苦労するレイア嬢が目に浮かぶではないか。

 そんなことは、ラモスを治める次期領主として看過できない!

 いや、恐らく、次期領主ではなくなるか……。

 タオ殿の話が本当なら、父上の寿命は私よりずっと長い。

 おまけに、病気にも怪我にも毒にも強いとなれば、私より長生きするのは確実だろう。

 であれば、このまま父上が領を治め、それこそ私が死んだ後にでも、改めて新たな妻を迎えてゆっくりと後継を作ればいいだけの話だ。

 父上よりも早く死ぬ私に、ラモス領を引き継ぐ意味などこれっぽっちもないのだから……。


(領主を継ぐ必要がないなら……婚姻の相手を私が自由に選んでも問題ないのでは……?)


「……できるできないはともかく、一度タオちゃんの意見を聞いてみるのはいいかもしれませんね」

「えっ!?」

(確かにレイア嬢に告白するにしても、事前にタオ殿に詳細を確認するべきか)

「このような不可思議な事件の原因究明など、凡人の私たちには荷が勝ち過ぎてますよ」

「えっ? ……ああ、そうだね。我々で調べられそうなことはおおよそ調べ終えたし、一度タオ殿と話をしてみよう」

「ええ、ぜひ、そうなさってください。あっ、その時には、できれば私も同席させていただけると嬉しいです!」


 タオ殿贔屓のレイア嬢が、この機会を逃すまいと話し合いの席への同席を求めてくる。

 私ではなくタオ殿に夢中なのは気に入らないが、今回の事件でレイア嬢と話せる時間を多く持つことができた。

 ヒドラ襲来は決して喜ぶべきことではないが、最近はレイア嬢と話せる機会も増えたし、何より彼女と結ばれるという可能性も生まれてきている。

 父が何歳まで子作りできるかについてはタオ殿に今一度確認する必要があるが、もし問題が無いようなら、父に話して正式に次期領主の座を返上し、この想いをレイア嬢に告げたい。

 いや、勿論、レイア嬢に断られるという可能性もあるにはあるのだが……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切り者達に復讐を…S級ハンターによる最恐育成計画

みっちゃん
ファンタジー
100年前、異世界の扉が開き、ハンターと呼ばれる者達が魔物達と戦う近未来日本 そんな世界で暮らすS級ハンターの 真田優斗(さなだゆうと)は異世界の地にて、仲間に裏切られ、見捨てられた 少女の名はE級ハンターの"ハルナ•ネネ"を拾う。 昔の自分と重なった真田優斗はハルナ•ネネを拾って彼女に問いかける。 「俺達のギルドに入りませんか?」 この物語は最弱のE級が最強のS級になり、裏切った者達に復讐物語である。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...