30歳の誕生日、親友にプロポーズされました。

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大切な存在

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 同性婚が認められて10年。男同士でも女同士でも誰とでも結婚できる社会になった。愛の形は様々で世間でも偏見はほとんどなくなっている。
 
 まぁ、俺には関係ないけど。結婚はもちろん、恋とか愛なんて俺には一生縁がないだろう。愛なんて不確かなものにどうして人は執着するのか俺には分からない。


 俺は別に恋なんてしなくても幸せだ。親友と他愛もない話で笑ってご飯を食べて過ごせればそれでいい。
 
 目の前にいる親友のガンちゃんを見て俺は改めて思う。ガンちゃんといる時が俺は一番幸せだ。



 「俺、ガンちゃんのハンバーグが世界一好き」



 「大げさだ」



 小さな卓上テーブルの上には俺の好きなものばかりが並んでいる。全部ガンちゃんが作ってくれたものだ。ガンちゃんは料理上手だ。特にハンバーグは本当に美味しい。



 「でも本当に良かったのか?せっかくの誕生日に俺の料理で。これじゃ、いつもと変わらないだろ。綺麗なレストランとかでも良かったんだぞ」



 「いいの。俺はレストランの料理よりガンちゃんのご飯が食べたかったから。誕生日にガンちゃんの料理が食べられて嬉しい」


 
 「…そうか」


 
 大学時代からの親友ガンちゃんこと岩井充と俺はよくお互いの家に行き来していた。その頃から食事を疎かにしがちな俺にガンちゃんはよく料理を振る舞ってくれた。それは俺が就職しても続いている。

 
 今日は俺の部屋で小さな卓上テーブルを挟んで座っている。


 「改めて、樹。30歳の誕生日おめでとう」



 「うん。ありがとう」


 
 お互いの缶ビールを軽く合わせる。



 「俺ももう30か。ガンちゃんと出会ってもう10年以上だよ。すごいよね」



 「ああ。あっという間だったな」


 
 「あ!そういえばガンちゃんの本読んだよ。すげえ良かった。俺、語彙力ないから上手く言えないけどガンちゃんの小説好きだよ」


 ガンちゃんは小説家だ。結構売れっ子の恋愛小説家。俺は普段小説は読まないがガンちゃんの小説は好きだ。



 「…ありがと」


 
 ガンちゃんはぼそっとつぶやき、そっぽを向く。彼の照れている時の癖だ。嬉しいのにどういう顔をしていいか分からず、顔をそむけるのだ。


 
 「でもその顔で恋愛小説の名手ってなんか面白いな」




 「顔は関係ないだろ」


 ガンちゃんが眉をひそめる。

 


 他の人が見たら不機嫌そうに見えるがそうではないと俺にはわかる。
 切れ長の目、濃い眉、180センチ以上の身長のガンちゃんは初対面の人によく怖がられる。強面なのだ。でも彼が優しく誠実な人柄だということは長い付き合いで知っている。



 缶ビールを片手に次の瞬間には忘れてしまうほどの他愛ない話をしていた。この時間が俺には一番大切だ。気を使うこともない、ガンちゃんといる時間が居心地がいい。


 だからその時間が変わることなんてないと思っていたのだ。



 「樹」



 「ん?」



 「俺と結婚して」




 「うん。……ん?」



 今なんて言った?
 目の前の彼を見ると表情はさっきまでと変わらない。ただ俺を見つめている。



 「ごめん。俺変な聞き間違いした。もう一回言って」




 「聞き間違いじゃない。樹、俺と結婚してくれ」




 「……」



 脳がガンちゃんの言葉を理解するまでに時間がかかった。
 
 ガンちゃんはただ視線をまっすぐ俺に向けている。


 穏やかに流れていた海。その海にずっとたゆたっていたいと思っていた。でも波は押し寄せてくる。ずっと変わらない海なんてない。いつかは荒波が来る。
 それが俺にも来たのだと悟った。
 


 



 
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