30歳の誕生日、親友にプロポーズされました。

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大切な存在

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 大学時代から住んでいる古いアパート。特別その場所が好きだったわけではないが愛着があり就職してからもずっと住み続けていた。
 早く家から出たくてたどり着いた場所。大家さんは優しくて親切な人だった。部屋は狭くてもともと趣味のない俺のものは少なくて不便はなかった。

 それにあの部屋にはガンちゃんとの思い出がある。いつまでもこのアパートに住めるとは思っていなかったがこんなに急にその時が来るなんて思わなかった。




 「ごめんね、本当に。もともとこのアパート古くてどこもかしこも傷んできていてね。挙句にはシロアリが見つかってしまって。とうとうこのアパートも取り壊しをしないといけないって娘にも言われてしまったの」



 白髪の頭を下げた大家さんは本当に申し訳なさそうに言った。




 「いえ、謝ることなんてありません。本当に今までお世話になりました」



 
 
 住む場所はどうしようか。会社からの通勤距離もある。いい物件が見つかるだろうか。
 
 「一緒に住まないか?」 

 ガンちゃんの言葉がよみがえってくる。いや、それはダメだろう。住むところがないからって俺がガンちゃんを利用しているみたいだ。ガンちゃんはそういう意味で言っていない。そもそもガンちゃんと住むなんて…



 


 「一緒に住もう」




 「……」



 それしかないだろうという顔でガンちゃんは言ってのけた。
 古いアパートの狭い部屋。今日もまた俺とガンちゃんは向かい合っている。テーブルには今日はビールつまみになるような冷奴や枝豆が並んでいる。




 「いや、ダメだろう」



 
 「何がダメなんだ。いい機会だ。一緒に住んでみないか?」




 ガンちゃんと一緒に住む。現実的に可能なのだろうか。




 「俺、料理とかできないし家事もそんなに得意じゃない」

 

 家を出てから一人暮らしをして家事や料理は全くというほどしていない。しなくても困らなかった。でも少しぐらいやっておくべきだったと今になって後悔している。


 

 「俺は料理も家事も得意だ。そういうのは出来る方がやればいい」





 「でも、俺本当にいい加減だからガンちゃん、大変だよ。きっと嫌になる」




 「嫌になんかならない。お前のことだったら大変な思いをしてみたいもんだ。言っただろ、俺に惚れさせるって」




 ガンちゃんのまっすぐな言葉になんだか胸が苦しくなった。




 「一緒に住んでみて、やっぱり俺とは無理だって思ったら俺たちは親友に戻ろう。だから一緒に住んでみないか?」
 



 分からなかった。どうしてそこまで俺のことを想ってくれるのか。ガンちゃんに何か特別なことをした覚えはない。俺の方がガンちゃんを頼ってばかりだった気がする。
 俺のどこかそんなに好きなの?


 声もなく俺はガンちゃんを見つめた。


 ガンちゃんの瞳が揺れる。不安なのだろうか。俺に拒絶されたらどうしようってガンちゃんは考えるのかな。
 その瞳はまっすぐで俺は見つめ返すことができなかった。



 何も言わずに俺はうなずいた。一緒に住むことを決めた。
 おそるおそる顔を上げると、ガンちゃんは固まっていた。




 「ガンちゃん?」




 「一緒に住んでくれるのか?」




 「う、うん。ただ、ちゃんと家は探す。だからその間だけーー」




 ガンちゃんの大きな手が俺の手を包む。言葉もなく、ただ握りしめてくる。 

 
 ガンちゃんとの関係が変わってしまうことが怖い。でも確実に少しずつこの関係は変化している。
 どうしてこんなにも胸が痛いのだろう。どうして手を握られるだけで鼓動が早くなるのだろうか。
 

 分からない。分かりたくない。でもただの親友にこんな気持ちは生まれない。そのことだけは分かっていた。


 


 
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