30歳の誕生日、親友にプロポーズされました。

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近くて遠い存在

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 「ちょっと、立花さん飲み過ぎじゃないですか?」



 
 向かいに座る前田が眉をひそめながら言った。




 「大丈夫だよ、これくらい」




 自分でも酒には強い方だと自信がある。それに缶ビールじゃないお酒は久しぶりだ。ハイボールのグラスに俺は口をつける。




 「いいねー立花くんは。いい飲みっぷりだよ」



 
 そう言って隣で笑うのは同じ部署の部長だ。部長の顔はすでに赤く、今飲んでいるのは何杯目なのだろうか。俺はそちらの方が心配だ。


 今日は会社の飲み会だ。俺は別にこういう場は好きでも嫌いでもない。参加できない理由もなかったのでずっと参加してきた。だが、今回は一瞬参加にためらった。
 その理由は明白だ。家にはガンちゃんがいるからだ。




 「行ってこいよ、たまには外で食べるのもいいと思うぞ。俺の料理ばかりじゃ飽きるだろ」




 朝、相談するとガンちゃんは何でもないことのようにそう言った。




 「別に飽きないけど、じゃあ今日は夜ご飯いらないから」




 「ん、了解」





 なんてことない会話。会社の飲み会は別に楽しくないわけじゃない。なのに早く帰りたいと思う。




 「立花くんこのきんぴらごぼう、美味しいよ」




 部長が寄せてくれたお皿に乗ったきんぴらに俺は箸を伸ばす。




 「はい、美味しいですね」




 確かに美味しい。美味しいけどガンちゃんの作ったきんぴらの方が好きだ。そう直感的に思ってしまった。
 何を食べてもそう思う。ガンちゃんのご飯が食べたい。いつも食べているはずなのに俺はおかしい。
 ずっとガンちゃんのことばかりを考えている。






 「き、気持ち悪い」


 

 「だから言ったじゃないですか、飲み過ぎだって」




 店の前のベンチに座りながら俺はこみ上げてくる嘔吐感と戦っていた。
 考えながら飲んでいた酒は無意識のうちにペースを早め、気づけば俺は完全に酔っていた。
 ほてった頬にあたる夜風が冷たくて気持ちがいい。最近になってやっと夜の冷え込みはだいぶマシになった。



 「タクシーもうすぐできますから」




 「うん」




 夜風に当たったおかげか、先ほどまでの嘔吐感は良くなった。
 目を閉じればまた思考はガンちゃんに持っていかれる。



 
 「ーーかも」




 「え?」




 前田が聞き返す。





 「好き、かも」





 前田は何も言わなかった。遠くでは同じ酔っ払いの騒ぎ声が聞こえる。




 「俺、ガンちゃんが好きかもしれない」





 「そうですか」





 酔っ払いの戯言だと思って適当に流しているのだろう。いつものように茶化してくると身構えていたのに後輩は口数少なめにただ相槌を打っただけだった。




 「タクシー来ました」




 控えめなのにエンジン音とともに止まったタクシーに俺は乗り込んだ。頭はまだぼんやりとしているが酔いはだいぶ覚めていた。




 「悪いな、迷惑かけて。前田も気をつけて帰れよ」




 「立花さんも気をつけて」





 簡単な挨拶で前田とは別れて、タクシーは夜の街を走り出した。ガンちゃんの家に向かって。





 ガンちゃんが好き。言葉にして自分の気持ちに気づく時もある。
 
 
 親友だと言い聞かせていた。でももうそれも限界がきている。もうごまかせない。



 俺はガンちゃんが好きだ。


 窓の外を流れる夜の景色。止まることなく変わっていく景色を見つめる。
 同じ景色をずっと見続けることなんてできない。同じ場所にもいられない。変わっていくのだ。怖いけど変わっていってしまう。でもガンちゃんと一緒なら大丈夫かもしれない。今俺が思っている不安も一緒に抱えて一緒に生きていけるかもしれない。そう思った。
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