30歳の誕生日、親友にプロポーズされました。

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近くて遠い存在

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 夢の中のように現実感がなかった。酔いはだいぶ覚めているはずだが頭がぼんやりとする。タクシーを降りた足はおぼつかなくてエレベーターに入った途端に俺はしゃがみ込んだ。
 
 自分の気持ちを自覚した今、俺はどういう顔でガンちゃんに会えばいいのか。いっそ、好きだと伝えてしまえばいいのだろうか。エレベーターが上昇するたびに俺はそわそわとして落ち着きを失った。酒の残りと浮遊感が俺から思考力を奪い、結局玄関の前に辿り着いても答えは出なかった。


 そっと扉を開ける。家の中は暗い。時間はすでに深夜の一時を過ぎている。ガンちゃんはもう眠っているだろう。なんだかほっとしたような、少し残念なような気持ちで肩の力を抜く。
 寝室を覗けばガンちゃんは眠っていた。しっかりと俺の場所を空けて。
 やっぱり今日も俺の寝る場所には背を向けて寝ている。


 
 揺らぐことはないのだろうか。俺のこと好きなんだろ。触りたいとか思わないのか。いつも背中ばっかり向けて、たまにはこっち向けよ。





 「んー重い……」




 俺はガンちゃんの上に乗っていた。普段だったら絶対できない。でも今、俺は酔っている。酔っていることにできる。俺はガンちゃんを見下ろす。




 「お前、酒くさい。酔ってる?」




 ガンちゃんは半分閉じた目で不機嫌そうに眉をひそめる。




 「うん。酔ってる。すごく酔ってる」




 「じゃあ、早く着替えて寝ろ」




 「嫌だ」




 「あ?」




 ガンちゃんの上に跨りながら、俺は先ほどからまとまらない思考をどうにかしようとしていた。
 ガンちゃんのことが好きだと自覚して今、俺はガンちゃんの上に乗っている。めちゃくちゃだ。そんなことをする前に俺は気持ちを伝えないといけない。
 でも、自分を抑えられない。




 「ガンちゃん」




 俺は上体をガンちゃんの方へと倒す。ガンちゃんと至近距離で見つめ合う。こんなに近くにガンちゃんを感じたことは初めてだ。




 「おい、お前本当にどうした?酔いすぎだ。早くーー」




 「なんで触れないの?」




 ガンちゃんの言葉に被せるように俺は尋ねた。




 「ガンちゃんはどうして俺に触らないの?いつも同じベッドで寝て、一回ぐらい触れそうになったことないの?今もこんなに近くにいるのにドキドキしたりしない?」




 俺はガンちゃんの服のボタンに手をかけた。





 「ガンちゃん、俺はーー」





 言葉は最後まで言えなかった。ガンちゃんが俺を押し倒したからだ。さっきまで俺が見下ろしていたのに今はガンちゃんが俺を見下ろしている。




 
 「お前、それ本気で言ってる?」





 ガンちゃんの声は低い。表情は暗くてよく見えない。俺を押さえつける手は強くて、ガンちゃんの怒りが伝わってくる。




 「ガンちゃん?」




 「それ、本気で言ってるんだったら怒るぞ。約束しただろ。ここに引っ越してきた時、お前の嫌がることは絶対しないって。俺はお前を大事にしたいから触れなかったんだ。それをお前は、なんで触れなの、だと?」




 「ガンちゃん、あの、ごめんーー」




 俺の腕を掴む手は強くて逃げることができない。





 「俺は毎晩お前に触れたくて仕方なかった。好きなやつがそばにいて、平気なわけないだろ。ずっと、俺は我慢してるんだよ」




 真っ暗な室内。カーテンの隙間からの光でガンちゃんの表情が見える。形のいい眉を苦しそうに寄せて、俺を見つめている。





 「でももう我慢しなくていいみたいだな」





 「え?」





 ガンちゃんの手がスーツのネクタイにかかる。






 「誘ってきたのはお前だからな。責任取れよ」





 どうやら俺はガンちゃんの逆鱗に触れてしまったらしい。







 



 
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