30歳の誕生日、親友にプロポーズされました。

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特別な存在

18 終


 ガンちゃんのサイン会は無事に終わった。土日の二日間とも大好評に終わったそうだ。俺は一足早く家に戻ってガンちゃんの帰りを待っている。
 日曜日の夜には戻ると連絡が来た時、もっとゆっくりしていけばいいのにと言うとガンちゃんは恥ずかしげもなく「樹に早く会いたい」と言った。俺はその言葉に何も言えなくなり、ただ待っていると声をかけた。


 
 俺はひどく落ち着きを失っていた。俺はガンちゃんと結婚すると決めたあの日の夜、結局最後まではしなかった。こころの準備も何もなかったし、そんなに急がなくてもいいということでお互い落ち着いたのだ。
 今日、するのだろうか。ガンちゃんと。一応、行為のための準備などは事前に調べた。俺はきっと受け入れる方だから準備をちゃんとした方がいいだろう。
 ガンちゃんが帰ってくる前までに準備をしておこうか。でもそれじゃ、俺が楽しみにしているみたいで何だか恥ずかしい。ガンちゃんはどう考えているのだろうか。




 「ただいま」




 「おかえり」




 玄関で向かい合う。この前会ってからそんなに時間が経っていないのにこんなに嬉しい気持ちになる。自然と顔を寄せ合ってキスをした。




 「そんなに上手にできなかったけどご飯あるよ」




 「作ってくれたのか?じゃあ、食べようかな」




 
 何だか新婚みたいな会話に俺は赤面してしまう。いや、新婚なのか。こんな浮いた会話をする日が来るなんて想像もしていなかった。でも悪くないな。むしろ嬉しい。相当浮かれている自分に俺は小さく苦笑した。






 「明日は仕事だろ。今日は早めに休もう」




 「え?」





 すっかりする気だった俺はガンちゃんの発言に拍子抜けしてしまった。俺だけが考えていたみたいで何だか恥ずかしい。
 正直、ガンちゃんに触れたい。そして触れられたい。だから俺は思い切ってガンちゃんの服の袖を掴んだ。



 
 「……んび、したから」




 「ん?」




 「準備してあるから、したい」





 「……」





 沈黙が痛い。引かれただろうか。





 「準備って?」




 冷静に尋ねるガンちゃんに俺は俯いたまま言う。





 「今日するのかと思って、お尻、準備した」




 ガンちゃんが固まる。やっぱり引かれてしまったのだろうか。やがてガンちゃんは思いっきりため息をついた。俺はぴくりとする。




 「あの、ごめん。あの、その気じゃなかったらいいから」




 そう言いながら布団に入ろうとする俺の腕をガンちゃんが掴む。困ったように眉を下げるガンちゃんと目が合った。




 「お前は俺の気も知らないで。俺はお前に触れたくて、でも傷つけたくないから必死に…」




 ガンちゃんの言葉が止まる。触れたいと言う言葉に俺は泣きそうになる。俺と同じ気持ちだったことにひどく安心した。





 「ガンちゃんは俺としたくない?」





 「したいに決まってる」





 即答に俺は笑ってしまう。




 「じゃ、早く来て。早くガンちゃんのものにして」




 俺は両手を広げてガンちゃんに笑いかけた。もう準備はした。ガンちゃんのものになる覚悟だってずっと前からできている。だから早くガンちゃんに触れたい。
 待てを解放された犬のようにガンちゃんは俺を押し倒した。ガンちゃんは絶対に俺を傷つけたりしない。だから安心して俺は身体を委ねることができた。






 「ーーもう、いいから早く挿れて」




 「ダメだ。もう少し慣らさないと」





 「十分したから、もう大丈夫」





 自分の腰が足りない快感に無意識に動いてしまう。散々、身体中を吸われ愛撫を受けたため刺激に敏感になっている。もともと準備をしてあるから大丈夫だと言ってもガンちゃんはしっかりと俺の身体の奥を丁寧に慣らした。
 俺ばっかり気持ちよくしてもらっている。さっきから視界に入るガンちゃんの中心はひどく張り詰めていてつらそうだ。




 「ガンちゃん」




 俺はガンちゃんのものにそっと触れた。





 「樹!」





 「もういいから、それ挿れて。もう我慢できない」





 ガンちゃんは苦しそうに眉をひそめると「痛かったらちゃんと言って」と繰り返した。
 張り詰めたものを当てられた瞬間、自然と息を止めた。ゆっくりと俺の中に入ってくるものを俺は受け入れた。




 「力、抜け」




 苦しそうな表情のガンちゃんを見上げる。余裕のない顔をしたガンちゃんが貴重で俺はずっとガンちゃんの顔を見ていた。




 「あ!んっ」




 一番奥の感じる場所に届いた瞬間、俺は快感で腰が揺れた。
 何だろう。この感覚は。苦しいのに気持ちよくて、苦しいのにすごく幸せだ。俺とガンちゃんが一つになって繋がっている。この多幸感はなんだ。




 「樹、っん、樹」




 快感に顔を歪ませて俺の名前を繰り返すガンちゃんが愛おしい。次第に複雑になる腰の動きに俺は身体が震えてしまう。




 「あっ、ダメ、それっ、んっ」



 
 感じたことのない快感にどうしたらいいのか分からなくなる。限界が近い。まだ終わりたくなくて俺は必死に迫り来る快感に抗おうとする。



 
 「ダメっ、待って、ガンちゃん」





 「樹、好きだ。好き」




 耳元に届くガンちゃんの声に俺はきつく目を閉じる。



 「樹、愛してる」




 その瞬間、俺は絶頂に達してしまった。達する瞬間、俺の中のガンちゃんをきつく締めてしまい、ガンちゃんもきつく眉を寄せる。




 「愛してるって、今言うのずるい」





 「今言いたくなった」





 愛してる。今もまだその言葉を完全に信じきれていない。本当にあるのか、それとも幻想なのか。でも、この溢れてどうしようもないガンちゃんへの思いは「愛」というものなのかもしれない。好きじゃ、収まらない気持ちをみんな愛してると伝えるのかな。

 緩やかな眠気が襲ってくる。その波には抗えない。でも隣にはガンちゃんがいて俺の頭を優しく撫でてくれる。どこまでも温かい眠りに俺は落ちていった。







 
 朝、一番に目に入るものが好きな人の寝顔だとその日も頑張ろうと思える。まだ寝起きのぼやけた視界にガンちゃんの寝顔があって、俺は思わず笑みがこぼれる。
 

 小さな違和感があった。何だろうか。何気なく自分の手を見る。俺は目を見開いた。
 左手の薬指。そこには指輪がはまっていた。昨日までつけていなかったものだ。隣に眠るガンちゃんの左手を見ればその薬指には同じ指輪があった。





 「んーおはよう」




 
 「ガンちゃん!これっ、なに?」





 まだ眠そうな表情で俺が指差す指輪に目を向けてガンちゃんはああ、とつぶやいた。



 「何って結婚指輪だけど」




 「結婚指輪?」




 「必要だろ、俺たち結婚するんだし」





 「でもいつの間に」





 ガンちゃんは不自然に黙る。





 「ねえ、これっていつ用意したの?」





 ガンちゃんは気まずそうに目線をそらしたあと、小さな声で答えた。




 「あの、ほらっ、俺が初めてお前にプロポーズした日」




 「え?そんな前から!」





 プロポーズの返事をする前から準備していたことに俺は驚いた。でもそれほど本気だったのだろう。そうやって本気で向き合ってくれたから今があるのだ。




 「樹」




 俺の左手を手に取ってガンちゃんが俺の顔を見る。




 「一生、大事にする」



 
 「一生って重すぎ」




 「俺は本気だ。一生、樹と一緒にいたいと思ってる」




 真剣な瞳に俺の顔が映る。俺だってガンちゃんを大事にしたいんだ。俺をこんなにも幸せにしてくれるのはただ一人しかいない。




 「俺も、ガンちゃんを一生大事にする。一緒に幸せになろう」


 
 そういうと、ガンちゃんは幸せそうに笑った。



 「今日、婚姻届一緒に書こう」




 薄い紙切れ。愛の誓い。ガンちゃんとなら、したいと思う。誓いたい、ガンちゃんへの愛を。



 「うん、書こう」




 「でもまだ眠いからもう少し寝よう」




 シーツの中で俺たちは手を繋いだ。顔を寄せ合ってお互いの温もりを近くに感じながら幸せの眠りについた。

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