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1章 出会い
謎の箱
しおりを挟む夕方ニゲルは、夕ご飯の時間までふて寝をし続けるマリウスのところに向かった。
マリウスが被った、寝床の毛布をパッと剥きとる。
「…マリウス話を聞いて」
「…」
仏頂面でそっぽを向いているマリウスの丸まった背中の傍に、ニゲルは座り込む。
「僕は、アーラとマリウスを守るって、お母さんと約束したんだ。だから、この家を出ようと思う。けど…マリウスはどう思う?」
ちらりと横目で見ると、マリウスは背を向けていた身体をこちらにゴロンと向けた。
そうして、少したってからようやく口を開いた。
「…あのさ、さっきは言い過ぎたけどさ、もうちょっと僕の事も頼りにしたら?その……何とかって人を頼りにするのもわかるけどさ…」
ニゲルはマリウスの言葉に、目を見張った。
マリウスのこちらを見つめる寂しそうな眼が、赤くなっている。目の周りもちょっと腫れて、不細工な顔だ。
「兄ちゃんが僕たちの為にいろいろしてくれてるのは知ってる。けど、僕だってもう10歳だ。お母さんもいないし、僕が兄ちゃんの力になれるようにこれからは頑張るよ。ここが危険だっていうなら…出ていかなきゃいけないのはすごく悲しいけど、一緒に別の家を探す」
「うん。僕もごめん」
ふたりはしばしお母さんとの思い出に浸った。
アーラによく似たクルクルの巻き髪で、色が白くて優しい手をしていた。いつも笑顔だったし、本を読んでくれたり、文字も教えてくれた。美味しい麦がゆをよく作ってくれて、ここに来てからはキノコ狩りや畑の野菜のことを色々教えてくれた。
思い出せば寂しさがつのったけれど、ニゲルはサフィラスから言われた【一人立ち】という言葉を思い出していた。だから、マリウスと自分で頑張ってアーラを見守ろうと決めた。
「にいちゃん。けどさ、ここを出るって、すぐには無理だし…引っ越しは誰かに手伝ってもらわないとできないよ…僕たちじゃ」
「たしかに…」
「誰か頼れる人って、どこかにいないかな…」
マリウスはため息をついた。思い当たる人が正直なところ浮かばないのだ。
「うーん…あ、ふもとの猟師のおじさんたちは?」
「ああ…まあ、そうだね…。けど、お金を払わないと無理なんじゃない?」
その時、頭の片隅にあった言葉をニゲルはふと思い出した。
「…そういえば、お母さんがどうしても困ったときにだけ開けてって言ってた箱があったよね…あれ、どこいった!?」
「箱?」
「ほら…覚えてない?木の箱だよ!3人を集めてお母さんが言ったじゃん!本当に困ったときだけ開けるのよって!」
マリウスは、あ!と言うと、むくりと起き上がり、ドタバタと台所に駆けていく。そうして、両手に木箱を抱えて持ってきた。
「これじゃない!?」
ニゲルは思わずびっくりした。
「…え!?こんなに汚かったっけ!?」
その箱は、上から何かをこぼしたのか、茶色い汁が箱の半分を覆うようにべったりと付いている。しかも触るとなんだかベタベタするのだ。
「ああ、ごめん!これさ、ちょっと前に兄ちゃんがいつも作ってるソース、アーラと取り合いになって、上に落としちゃったんだよね…」
「どおりでソースが早く少なくなったなって思ってた!もう!ちゃんと綺麗にしてよ!」
「えへへ…ごめんごめん!」
「これ、どこにあったの?」
「箱?僕もソースをこぼすまで分からなかったんだけどさ、ふみ台だよ」
「踏み台?台所の??」
「うん。台所にある、いつもは布がかぶせてある踏み台」
「うそ?そんなところにあったの?」
「そうだよ。ソースがこぼれた時に、踏み台を蹴飛ばしちゃっててさ、それで、布がちょっとめくれちゃって、ベチャッとね…けど、おかげで振ったらカサカサ音がしてなんか入ってる箱だなって気が付いたんだ!よかったよかった!」
マリウスはあっけらかんとして笑っている。
「よくないよ!ベタベタじゃん!…もう…しょうがないな…!とにかく中を見てみよう」
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