最後の魔導師

蓮生

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第2章 旅立ち

サイドストーリー マリウスの心

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 ウエンがぎこちなくほほえむと、マリウスはうつむいた。

「わかった。待てばいいんでしょ。…どうせ話が終わるまでこの部屋から出してくれないんだろ」

 とぼとぼと寝台に戻ると、すっかり意気消沈いきしょうちんして布団に潜り込んだ。それを見て、アーラも続く。
 あきらめなければこの問答もんどうも終わらないときづいたのだろう。
 2人が首元まですっぽり布団を被ったのを確認すると、ウエンは寝台に腰かけて、マリウスの頭をポンポンとなでた。

「マリウス、君は勇気がある子だな」

「そうかな…別に…普通だよ」
 プイッとそっぽを向いて目を閉じる。

「いや。うちの子供達なんて、私が声を荒げたら、たちまち逃げて消えてしまうからね」

「…僕はにいちゃんがうらやましいよ」

「…どうして?」

「……」

 小さな背中が身じろぎすると、しばらく無言の時間が流れた。


「だって、不思議な力があるなら、どこにだって行けるじゃん。だから、サフィラスって人がにいちゃんをひいきしてると思うし。きっと僕らの事なんて、ここから離れたら楽しく暮らして忘れちゃうよ」

「そんな事はないさ」

「…さあね。わかんないじゃん…にいちゃんは、僕を全然あてにしないから…にいちゃんが必要としてるのは、あのサフィラスって人だけ…僕やアーラはお荷物なんだ…」
 兄のさみしそうなつぶやきに、妹のアーラもぐっとくちびるをひき結んでいる。

「それは違うと思うぞ」

「…いや、きっとそうだよ。だって、僕じゃ、頼りにならないから。あの人と一緒にいる時、楽しそうだもん。アーラと僕の前では、あんな顔しない…」

「家族は、そんなもんじゃないさ」

「家族…ね。あーあ。お父さんってどんな人だったのかな。せめて一回くらい、会ってみたかったな…」

 マリウスは不安でいっぱいの胸を押さえた。今にも溢れてしまいそうな不安定な感情を押し込めるためだ。それでも、後から後から波のように押し寄せる混乱と動揺に、息苦しい胸がドンドンと心臓を叩いている。
「…会えなくても、マリウスの中の半分はお父さんだぞ」
「…知らない人だよ。それに、死んでるらしいから、これから先も、会えることもない」

「知らなくても、マリウスもアーラちゃんも、お母さんと、お父さんの子供じゃないか。だから体の半分に、お父さんが眠っているのさ。死んだって、存在が消えるわけじゃない。お父さんと似ているところも沢山あるはずだぞ」

「はは。まあ、そうなのかもね」
 さみしさを含んだ乾いた笑いが、夜の部屋に吸い込まれていく。
「けど、どんな人かも知らない。写真一枚ないんだ。お母さんに聞いたって教えてくれなかったし…」

 ウエンはマリウスの頭をなでた。
 
「そうか。まあ、生きていればいつか親とも別れる時がくる。けれど、お父さんが確かに居た事は、みんなの中にはずっと残っている。本当に困った時、眠っているお父さんが絶対助けてくれるよ。みんなの心の声を聞いてね」


「…うん。そうだね…」

 マリウスは天井を見つめてお母さんに心の中で話しかけてみる。
 ーーーどうか、一目でいいから会いたい。
 もう何度こうして語りかけただろう。
 その度に、変わらない現実に心が挫けそうになる夜を幾晩も過ごしてきた。
 一体、どこにいるのか。
 そして、どうしてお父さんもお母さんも居なくなってしまったのかと。

 こうしていつまでも待ち続けてしまう自分達は、これから先どうしたら良いのか。

 誰もその答えを教えてくれない。

 
「さあ、ニゲルが帰ってくるまでまだ時間がかかるだろう。2人とも少し寝なさい」

 ウエンはそうして、震える目蓋まぶた虚空こくうを見つめる2人が眠りにつくまで、ずっと腰をかけたままその横顔を見つめていたのだった。
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