最後の魔導師

蓮生

文字の大きさ
56 / 93
第2章 旅立ち

別れの時⑪

しおりを挟む
「マリウス…」
(…なんでなんだよ…)
 サフィラスの足元ですがるような姿をするマリウスを見て、もう、どんな言葉をかけていいかわからなくなった。
 だめだと言ったって、このがんこな弟は絶対にそれを曲げないつもりなのだ。

 これはもしもの話だけれど、もし、君の妹や弟が、明日を無事に生き抜けるか分からないような、そんな危険な旅に出るといったら、君はそれを許すことが出来るだろうか。
 きっと止めるに違いない。
 僕だってそうだ。
 たとえ君だけが旅に出なくちゃいけなかったとしても、そうやって家族を道連みちづれにしようとは思わないように、僕にだってそれくらいの兄としてのほこりはある。僕にとって一番大事なものは、もう、アーラとマリウスしかないから。そして、お母さんとの約束を、お母さんからの信頼しんらいを、やぶる事なんてできないんだ。

「マリウス君。君がどんなに私にすがっても、それは聞き入れることは出来ない。だから、立ちなさい」

「…っ! なんで…なんで!?」
 マリウスはサフィラスの黒いズボンのすそをつかんで、必死に離すまいとにぎりしめている。
「どうしてだよ!にいちゃんだけ連れていくなんて!そんなのあんまりじゃないか!!」

「ダメなものはダメだ」

「なんで…ッ!理由を言ってよ!!」

 サフィラスは足元にすがり付いて見上げてくるマリウスから視線を一度ニゲルに戻すと、そのまま石像の様に固まったマーロンの方へけわしいおもてを向けた。

「マーロン君。まさか君もかな?」

 弾かれたように顔を上げたマーロンは身体を硬直こうちょくさせたまま、白いかおで、あ…と言いかけて、そうです、とつぶやいた。

「でも、おれも…本当の理由を、しりたい…。なんでニゲルを連れていくのが一番いいって思うのか…」

「それを聞いてどうするんだ」

 知ったところで結果はくつがえらないと、サフィラスはするどい眼差まなざしで冷たく言い放つ。

「だって、ウエンさんだってかなり腕っぷし強いじゃないか。俺たちをずっと守ってくれたし、ここは滅多めったな事じゃ、あやしまれたりおそわれたりしない。だって、王室に家畜かちく献上けんじょうしたりしてるところだし…。だから、自由な行動は出来ないにしても、ニゲルをかくまうくらい、きっとできる…。けど、サフィラスさんには、ニゲルに一緒に来てほしい理由が、あるんだろ…違う?」

「……ほお。君は彼がここに居る方が安全だと?」

サフィラスは怒っているのか、表情からは何も読み取れなかったけれど、声色こわいろを一段低くしてマーロンを見つめている。

「おれ…聞きましたよ…」

 しかしマーロンはひるむどころか、納得がいかないと言いたげに、ただならぬ内容の話をはじめた。

「ニゲルたちが来る前の日だけど…サフィラスさんがやってきたあの日、ウエンさんと話していたのを偶然、その、耳にして…」

 マーロンはニゲルの方をちらりと見る。

「その時…、こう言ってた。《幽閉ゆうへいされる前にヴェントの長子ちょうし、ニゲルに全てをゆだねる、全てをたくす》って。…幽閉って、サフィラスさんが、だろ?」

…幽閉?
幽閉だって?
この間は流刑るけいされたと言っていたけど、それは島流しみたいなことをされるんじゃなくて、どこかに、地下牢ちかろうかなんかにでもサフィラスを閉じ込めておくってこと?
なんで?
それに、ヴェントって、誰の事?

まさか、お父さん…?

ニゲルは穴が開きそうなほど真剣な表情でサフィラスの一挙一動いっきょいちどうに注目した。サフィラスはしばらく無言でマーロンを正視せいししていたけれど、やがて、はあっと吐息といきをもらしてぼんやりと窓の方へ視線を移した。

かりに…もしそうだとして、君に何ができるというんだ」

「…俺は、サフィラスさんを助けることは出来なくても、ニゲルを助けることは出来ます」

「はっきり言うが足手まといだ。私に君たちの身を守りながら旅をしろと?悪いがそんな余力よりょくも時間もない。連れていく理由にはならない」

「別にサフィラスさんに守ってほしいとは言ってない!俺は自分のためにも付いて行くって決めたんだ!」

 その言葉に、サフィラスはいよいよ怒ったのか、ギイっときしむ寝台から立ち上がってマーロンの前に立ちはだかると、冷たく見下ろしながら最後通告つうこくを言い放った。

往生際おうじょうぎわが悪いようだが、どんな理由があろうとも絶対に連れては行かない」

「なんでだ!?おかしいだろ!サフィラスさん、結局ニゲルを一人にして、それで万事上手くいくとでも!?こいつはこれから先、家も失ってここにも戻れずに、きょうだいとも離れ離れになって、たった一人でどうやって生きて行けってんだ!?なんでそこまでする必要があるんだ!ひどいじゃないか!!…少なくとも俺は絶対こいつを見捨てたりしない!ウエンさんに助けてもらったから、今度は俺が誰かを助ける番だろ!?違う!?」

「…何を世迷言よまよいごとを…。話にならない。ウエンを呼んでくる」

「ちょっと待って!マーロンはいいとして、僕はきょうだいだよ!?僕だけはお願いします!」

 マリウスが立ち上がってマーロンとサフィラスの間に割って入る。
「…離しなさい」
「…ッ!い、いやだ…!」
 マリウスはぎゅうっとサフィラスの両腕をつかんで離さない。
「いいって、いいって言ってくれるまで、僕は離さない!」
 腕を引きはがそうとするサフィラスに対抗するように、マリウスは今度はおなかに腕を回してしがみついて、うーうー唸っている。

 サフィラスは動こうとしないマリウスを冷たく見下ろすと、すらりとした身体に見合わない馬鹿力を発揮はっきして、ガッと、まとわりつく身体の両脇りょうわきに手を差し込んだ。
 あわててバタバタばたつかせるマリウスの足がちゅうるほどに引きはがして、その身体を今度は丸太の様に肩にかつぐ。
「落ちたくなければ騒ぐんじゃない」
 そう言うやいなや、左手ではあっけにとられたマーロンの腕をすばやくつかみ、引きずるようにして部屋の扉にむかう。

 けがが治り切っていないだろう背中をバシバシとこぶしでたたき、離せ!とわめくマリウスをものともせずに、サフィラスは平然と扉の前まで来ると、引っ張られる身体を精一杯止めようとあがくマーロンが、ひとりでにカチャリと開く扉を目の当たりにしてひどく驚くのも無視をして、一度ニゲルを振り返ったがそのまま出て行ってしまった。



 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

#アタシってば魔王の娘なんだけどぶっちゃけ勇者と仲良くなりたいから城を抜け出して仲間になってみようと思う

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 ハアーイハロハロー。アタシの名前はヴーゲンクリャナ・オオカマって言ぅの。てゆうか長すぎでみんなからはヴーケって呼ばれてる『普通』の女の子だょ。  最近の悩みはパパが自分の跡継ぎにするって言って修行とか勉強とかを押し付けて厳しいことカナ。てゆうかマジウザすぎてぶっちゃけやってらンない。  てゆうかそんな毎日に飽きてるンだけどタイミングよく勇者のハルトウって子に会ったのょ。思わずアタシってば囚われの身なのってウソついたら信じちゃったわけ。とりまそんなン秒でついてくよね。  てゆうか勇者一行の旅ってばビックリばっか。外の世界ってスッゴク華やかでなんでもあるしアタシってば大興奮のウキウキ気分で舞い上がっちゃった。ぶっちゃけハルトウもかわいくて優しぃし初めての旅が人生の終着点へ向かってるカモ? てゆうかアタシってばなに言っちゃってンだろね。  デモ絶対に知られちゃいけないヒミツがあるの。てゆうかアタシのパパって魔王ってヤツだし人間とは戦争バッカしてるし? てゆうか当然アタシも魔人だからバレたら秒でヤラレちゃうかもしンないみたいな?  てゆうか騙してンのは悪いと思ってるょ? でも簡単にバラすわけにもいかなくて新たな悩みが増えちゃった。これってぶっちゃけ葛藤? てゆうかどしたらいンだろね☆ミ

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

オバケの謎解きスタンプラリー

綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます! ――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。 小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。 結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。 だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。 知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。 苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。 いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。 「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」 結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか? そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか? 思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

処理中です...