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第3章 エイレン城への道
ホグロでのお別れ
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田舎町ケレシーからホグロ町へ移動。そして都市ヴァネスへ
***
ケレシーで馬を交換してから少し暖かいものを飲んだりして休憩した後は、3回ほど同じように途中の町で馬を交換して《ホグロ》という所に着いた。
ホグロに着くころには、真っ暗だった空の向こうがついに明るみ始めていた。
山と空のさかい目は、少し赤い色が混ざったようなぼんやりとした黄色に染まり、夜空の濃い青色を徐々に溶かして消していこうとしている。
まもなく日の出だ。
ニゲルは馬車の前でマントに包まり白い息を吐きながら、交換する馬を準備する厩の少し先にある、古びた木のカンバンを見ていた。
【踊る躍る子羊亭】と書かれたカンバンで、のき下に下がってぶらぶらゆれている。ちょっと笑顔が不気味なような…とにかく陽気な子羊2匹が、前足を上げて踊っている。
あたりは見たことのない町並みのせいもあって、むいしきにキョロキョロしてしまうから、目立つ行動をさけてと言われているのを思い出し、とりあえずそれを見ているのだ。
そこは早くから開店しているようで、すでに明かりがまどからもれていて、ニゲルたちの居る場所までなにか香ばしいような良い匂いをただよわせている。飲み物や食べ物を調達してくると言ってそこにサフィラスが先ほど入っていったのだけど、まだ出てこない。
結局ニゲルは一睡もできずに起きていた。だから、お腹が空いているし、とにかくもっとまともな椅子や、欲を言えば寝台に転がりたい気分だけど、わがままを言って困らせるわけにもいかない。
我慢しなければと、背をそらせたり、左右にひねってみる。馬車がこんなにつらいなんて、初めての経験だけれど知らなかった。
(サフィラス、遅いなぁ…)
しかたなく馬番となにやらこそこそと話をするウエンさんへ視線を戻す。
ケレシーでウエンさんとサフィラスが話していた感じでは、このホグロという町でいよいよウエンさんが御者を交代するようだ。ここから先はサフィラスと2人になる。
明るむ空とは正反対に、さびしさで思わず暗くなりそうな気持ちをなんとか持ち直して、ニゲルはようやく離れていった馬番を横目に、ウエンさんに近づいていく。
「…ウエンさん。ここまでありがとうございました」
ウエンさんはニゲルに向き直ると、すこし寒さで赤くなったほおを上げてほほえんだけど、すぐに真顔に戻った。
「おぅ。なんて事ないさ。それより、マリウスとアーラちゃんと離れて、不安でいっぱいだろう」
「…まあ、無いというのはウソになるかな…」
ウエンさんはそう答えたニゲルの肩を分厚い手で引き寄せた。
「なあ、ニゲル。私やスマルはお前がずっとうちに居ていいって思ってるんだ。本心からだ。本当は今だって連れて帰りたい…だから、約束だ。必ず戻ってこい。そして、困った時は必ず私に連絡をくれ。そのためにサビを預けるのだから」
そう言って、フードを被ったニゲルの頭を抱えるようにして身体を抱きこんでくれた。
「…はい。」
温かくて硬いウエンさんの身体が、ニゲルが軋むほどつよく抱きしめてくる。
思わずまた涙が出そうになってしまう。
(ぼくは、1人じゃない…)
みんながついてる。
遠くで自分を待ってくれている。
「僕、必ずマリウスとアーラを迎えにいきます」
「あぁ、待ってるからな!イウラの腕輪を片時もはなすんじゃないぞ」
「…はい!」
***
ケレシーで馬を交換してから少し暖かいものを飲んだりして休憩した後は、3回ほど同じように途中の町で馬を交換して《ホグロ》という所に着いた。
ホグロに着くころには、真っ暗だった空の向こうがついに明るみ始めていた。
山と空のさかい目は、少し赤い色が混ざったようなぼんやりとした黄色に染まり、夜空の濃い青色を徐々に溶かして消していこうとしている。
まもなく日の出だ。
ニゲルは馬車の前でマントに包まり白い息を吐きながら、交換する馬を準備する厩の少し先にある、古びた木のカンバンを見ていた。
【踊る躍る子羊亭】と書かれたカンバンで、のき下に下がってぶらぶらゆれている。ちょっと笑顔が不気味なような…とにかく陽気な子羊2匹が、前足を上げて踊っている。
あたりは見たことのない町並みのせいもあって、むいしきにキョロキョロしてしまうから、目立つ行動をさけてと言われているのを思い出し、とりあえずそれを見ているのだ。
そこは早くから開店しているようで、すでに明かりがまどからもれていて、ニゲルたちの居る場所までなにか香ばしいような良い匂いをただよわせている。飲み物や食べ物を調達してくると言ってそこにサフィラスが先ほど入っていったのだけど、まだ出てこない。
結局ニゲルは一睡もできずに起きていた。だから、お腹が空いているし、とにかくもっとまともな椅子や、欲を言えば寝台に転がりたい気分だけど、わがままを言って困らせるわけにもいかない。
我慢しなければと、背をそらせたり、左右にひねってみる。馬車がこんなにつらいなんて、初めての経験だけれど知らなかった。
(サフィラス、遅いなぁ…)
しかたなく馬番となにやらこそこそと話をするウエンさんへ視線を戻す。
ケレシーでウエンさんとサフィラスが話していた感じでは、このホグロという町でいよいよウエンさんが御者を交代するようだ。ここから先はサフィラスと2人になる。
明るむ空とは正反対に、さびしさで思わず暗くなりそうな気持ちをなんとか持ち直して、ニゲルはようやく離れていった馬番を横目に、ウエンさんに近づいていく。
「…ウエンさん。ここまでありがとうございました」
ウエンさんはニゲルに向き直ると、すこし寒さで赤くなったほおを上げてほほえんだけど、すぐに真顔に戻った。
「おぅ。なんて事ないさ。それより、マリウスとアーラちゃんと離れて、不安でいっぱいだろう」
「…まあ、無いというのはウソになるかな…」
ウエンさんはそう答えたニゲルの肩を分厚い手で引き寄せた。
「なあ、ニゲル。私やスマルはお前がずっとうちに居ていいって思ってるんだ。本心からだ。本当は今だって連れて帰りたい…だから、約束だ。必ず戻ってこい。そして、困った時は必ず私に連絡をくれ。そのためにサビを預けるのだから」
そう言って、フードを被ったニゲルの頭を抱えるようにして身体を抱きこんでくれた。
「…はい。」
温かくて硬いウエンさんの身体が、ニゲルが軋むほどつよく抱きしめてくる。
思わずまた涙が出そうになってしまう。
(ぼくは、1人じゃない…)
みんながついてる。
遠くで自分を待ってくれている。
「僕、必ずマリウスとアーラを迎えにいきます」
「あぁ、待ってるからな!イウラの腕輪を片時もはなすんじゃないぞ」
「…はい!」
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