最後の魔導師

蓮生

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第3章 エイレン城への道

ニス湖畔、アルカット城⑨

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「…まあ、そのくらいにはなるのかな。そんなに驚かなくても。もう何年も年齢ねんれいなんて数えてないよ」
 苦笑いを浮かべる顔の、切れ長のまゆが下がる。

「うそ…なんでそんなに若いんだ…もしかして若返る魔法とか使ってるの…?」
 
「ぷっ…ァハハハハ…ッ、ああ、可笑しいったらないな!こいつが魔導師になったころから全然変わりないのだ。きっと魔法を極めたらおとろえ方がゆっくりになるのだろう」

「…そうなの?」

「まあ、…そうだな。だからそのくらいからは歳を気にしたことがなくてな。おどろかせてすまないね。気味が悪いかい?」
「ううん!ぜんぜん!むしろすごいなって思ったよ!」 

 ニゲルもおかしくなって笑った。
 すっかり話が横道にそれてしまったが、サフィラスでさえ、30年前に一度だけ見たというなら、やっぱりめったに姿を現さない神様みたいな存在なのだろう。

「サフィラスはウロコとか歯とか、実物を今まで見たことある?」
「まあ、直接触ったことはあるよ」
「へっ?触ったって、身体に!?1回しか見たことないのに!?」
「ああ。一応その時にね」

「…」
 もうおどろいて開いた口からは声も出ない。

「…くくっ…!ったく、ニゲルを見ていると笑いがでる…!おいおいサフィラス、弟子にははずかしくて言えないのか?」

え?え?と二人の顔をキョロキョロと行ったり来たりしてながめていると、とつぜんアラン様がちょっと不機嫌になったサフィラスの横顔を見て、き出した。
「ブッ…くっ!ハハハハッ!ゴホッ…ああ、すまない…つい…!」
 サフィラスはあいかわらず、明後日あさっての方向を見て仏頂面ぶっちょうづらをしている。

「え?何?教えてよ、僕にも!」

「まあ、師匠として格好つけたいんだろう?ドラゴンから嫌われて落ちたなんて、きらきらした目で見つめられては、どうにも口にできない気持ちはわかるぞ!」

「ええ!?」
「ハハハハッ!」

「…アラン様、余計なことを…」
 サフィラスはひたいを押さえるとハアっと大きなため息をついた。
 アラン様はひとしきり笑った後、ごほんと咳払せきばらいをする。
「いいか、ニゲル。サフィラスの師匠はな、いだいな大魔導師だったが、竜騎手ドラゴンライダーでもあったのだ。…すごいだろう?」
 にやりとした、恐れを知らない顔をする城主様をニゲルはあおぎ見た。

「ドラゴンライダー?」

「ああ。まったく…人智じんちを超えたすさまじい超人だったよ」
 ドラゴンライダーというものは聞いたことがない、初めての言葉だった。

「もしかしてドラゴンライダー…って、ドラゴンに命令できる人??」

「…そう。この世でたった一人、竜に騎乗きじょうしてしたがえることが出来る人だった。サフィラスを弟子にしたころ、ライダーを育てようとしたらしいが、ことごとくみんな湖に突き落とされてな。竜は気に入った者にしかめったに姿を現さないし、背に乗せない。好みが激しいんだ。サフィラスは愛弟子まなでしだったから、ドラゴンにとっては余計気に入らないライバルだったのかもな」

「…そうなんだ…すごい。ドラゴンライダーか…。かっこいいんだろうな…」

 やっぱりサフィラスの師匠は特別な人だった。
 アラン様の顔は本当に心からの笑顔で、師匠の存在をいまでも大切に思っている事がありありと伝わってきた。
 だけど自分はそんな価値のある人間ではない。

 ふと、サフィラスのそばにそんな自分が居て良いのだろうかと、考えてしまう。
 ヴァネスでも結局迷惑をかけてしまった。そして、アラン様にも。

 だけど、その人みたいにすごい人にもしもなれたら。
 そしたら誰かからこうやって、慕われて、いつまでも覚えていてもらえるだろうか。

 そうしたらこんな自分でも、きっと寂しいと思わずに生きていけるんじゃないだろうか。


「ニゲルも運が良ければ会えるさ。案外気に入られるかもしれないしな。ここに我々はいる。また、訪ねてこい」




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