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第3章 エイレン城への道
夜のニス湖②
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一歩、また一歩と水辺に近づく。
———…一目でいいから、会ってみたい。
そう思うことは、きっと身の程知らずなのだろう。
だけど、もしかしたらそのドラゴンも、この広い湖の中で一人ぼっちかもしれない。
そうじゃなかったとしても、友達もいないかもしれないし、もしかしたらニゲルと同じように、親と離れ離れになってここにとどまっているのかもしれないではないか。
…こんなさむくて冷たい水の中に。
自分がサフィラスの師匠のように特別でないことは分かっているけれど、誰かにとっての特別になりたいと思うことはきっと悪い事じゃない。
それが例えヒトではなくても。
ニゲルは落ちている小石を2つ拾った。
その冷たい2つの石を右手ににぎりしめて、できるだけ思いを込める。
そう、身体をめぐるアダマの力を込めるかのように強く。
そして、思いっきり湖に向かって投げた。
——ボチャン。
そう遠くないところで小石が落ちた音がしたけれど、あたりはそれっきり静寂に包まれた。
何かが居そうな気配なんて、これっぽっちもない。
木々のざわめきも、水面のさざ波の音も、なにもない。
「…僕と、友達にならない…?」
ささやくような呟きはそのまま暗闇に吸い込まれていって、ニゲルは胸元にぶら下がっている白い歯をなでる。
そうだ、ドラゴンの一部を持つものは加護を得られると言っていた。
だったら、この湖の中に入っていっても、大丈夫なんじゃないだろうか。
少なくとも自分は泳げるから、溺れたりはしないはず。朝見た限り、水も汚いわけじゃなかったし、ここから少し深い所に行ったって、身体が冷たくなって我慢できなくなれば、すぐに泳いで戻ればいいだけの話だ。そもそも今のニゲルは身体が熱いのだ。泳いでしまえば、むしろ丁度良くなるのではないかなんて、都合の良い事ばかりが思い浮かぶ。
明日になれば、このまま一目も拝めずにアルカット城を去ることになる。次にいつここに来れるかなんて、もう分からない。
いや、もしかしたら、二度と来れないかもしれない。
二度と来れないんだったら、今くらい無茶をしたっていいのではないか。
そうおもって、後ろを振り返る。
ひときわ高い天守の方は橙色の松明に照らされ、くらやみの中に浮かび上がる様にしてその石造りの丈夫な砦を彩っている。鍛冶場や広い訓練スペースのある南側の城郭と、台所や居館といった多くの生活スペースの固まった北側の城郭の丁度間にある水際門は、明かりも少なく、警備の人もたいしていない。いるとしたら、通り道にある厩の番の人くらいだろう。だれも、水際に立つニゲルの事など、気づいてもいない。
じっさいここに来るまで、誰も自分を引き止めなかった。
乾いた冷たい風に当たってかさついた口びるをなめると、ニゲルは湖をもう一度見つめた。
(…ちょっとだけ…)
そう、ちょっとだけ。
ちょっと泳いだら、部屋に戻ろう。
この火照った身体を水でちょっと鎮めるだけだ。
自分に言い聞かせるように靴をむすんでいた紐をゆるめて、引っ張る様にして片足を脱ぐ。
途端にぬくもっていた足が外気にさらされ、ぎゅっと縮こまりそうになる足の指を、思い切って小石がごろごろと転がる湿った土に置いて、体重をかける。
「…よし…」
大丈夫だ。
もう片方も急いで脱ぐと、くらやみで失くさないように、傍にあったすこし大きめの石のあたりに揃えて置く。
そしてその上に、着ていたチュニックを急いで脱いでかけると、薄いシャツ一枚とズボンだけになって、湖の中ほどに向かって勢いよく走った。
バシャバシャバシャ!
冷たい水が足をぬらし、脛にかかったしぶきが膝、腿、そして腰を覆いつくした時、ニゲルは大きく息を吸って身体をぐっと水の中に沈めた。
凍えるような水の中、自分の動きに合わせて起こる波しぶきの音がするだけで何も見えなかったけど、怖くはなかった。
両手を前に前にと掻く。
———遠くに行かなければまた水辺に戻れる。
この時はそんな風に、今の行動がどんなことになるかなんて重く考えていなかった。
———…一目でいいから、会ってみたい。
そう思うことは、きっと身の程知らずなのだろう。
だけど、もしかしたらそのドラゴンも、この広い湖の中で一人ぼっちかもしれない。
そうじゃなかったとしても、友達もいないかもしれないし、もしかしたらニゲルと同じように、親と離れ離れになってここにとどまっているのかもしれないではないか。
…こんなさむくて冷たい水の中に。
自分がサフィラスの師匠のように特別でないことは分かっているけれど、誰かにとっての特別になりたいと思うことはきっと悪い事じゃない。
それが例えヒトではなくても。
ニゲルは落ちている小石を2つ拾った。
その冷たい2つの石を右手ににぎりしめて、できるだけ思いを込める。
そう、身体をめぐるアダマの力を込めるかのように強く。
そして、思いっきり湖に向かって投げた。
——ボチャン。
そう遠くないところで小石が落ちた音がしたけれど、あたりはそれっきり静寂に包まれた。
何かが居そうな気配なんて、これっぽっちもない。
木々のざわめきも、水面のさざ波の音も、なにもない。
「…僕と、友達にならない…?」
ささやくような呟きはそのまま暗闇に吸い込まれていって、ニゲルは胸元にぶら下がっている白い歯をなでる。
そうだ、ドラゴンの一部を持つものは加護を得られると言っていた。
だったら、この湖の中に入っていっても、大丈夫なんじゃないだろうか。
少なくとも自分は泳げるから、溺れたりはしないはず。朝見た限り、水も汚いわけじゃなかったし、ここから少し深い所に行ったって、身体が冷たくなって我慢できなくなれば、すぐに泳いで戻ればいいだけの話だ。そもそも今のニゲルは身体が熱いのだ。泳いでしまえば、むしろ丁度良くなるのではないかなんて、都合の良い事ばかりが思い浮かぶ。
明日になれば、このまま一目も拝めずにアルカット城を去ることになる。次にいつここに来れるかなんて、もう分からない。
いや、もしかしたら、二度と来れないかもしれない。
二度と来れないんだったら、今くらい無茶をしたっていいのではないか。
そうおもって、後ろを振り返る。
ひときわ高い天守の方は橙色の松明に照らされ、くらやみの中に浮かび上がる様にしてその石造りの丈夫な砦を彩っている。鍛冶場や広い訓練スペースのある南側の城郭と、台所や居館といった多くの生活スペースの固まった北側の城郭の丁度間にある水際門は、明かりも少なく、警備の人もたいしていない。いるとしたら、通り道にある厩の番の人くらいだろう。だれも、水際に立つニゲルの事など、気づいてもいない。
じっさいここに来るまで、誰も自分を引き止めなかった。
乾いた冷たい風に当たってかさついた口びるをなめると、ニゲルは湖をもう一度見つめた。
(…ちょっとだけ…)
そう、ちょっとだけ。
ちょっと泳いだら、部屋に戻ろう。
この火照った身体を水でちょっと鎮めるだけだ。
自分に言い聞かせるように靴をむすんでいた紐をゆるめて、引っ張る様にして片足を脱ぐ。
途端にぬくもっていた足が外気にさらされ、ぎゅっと縮こまりそうになる足の指を、思い切って小石がごろごろと転がる湿った土に置いて、体重をかける。
「…よし…」
大丈夫だ。
もう片方も急いで脱ぐと、くらやみで失くさないように、傍にあったすこし大きめの石のあたりに揃えて置く。
そしてその上に、着ていたチュニックを急いで脱いでかけると、薄いシャツ一枚とズボンだけになって、湖の中ほどに向かって勢いよく走った。
バシャバシャバシャ!
冷たい水が足をぬらし、脛にかかったしぶきが膝、腿、そして腰を覆いつくした時、ニゲルは大きく息を吸って身体をぐっと水の中に沈めた。
凍えるような水の中、自分の動きに合わせて起こる波しぶきの音がするだけで何も見えなかったけど、怖くはなかった。
両手を前に前にと掻く。
———遠くに行かなければまた水辺に戻れる。
この時はそんな風に、今の行動がどんなことになるかなんて重く考えていなかった。
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