91 / 93
第3章 エイレン城への道
本を開く者①
しおりを挟む
しかし正直に言うとその本は、一見、普通の古本だった。
両手のひらに乗るくらいの大きさで、厚みはニゲルの小指、第二関節くらい。
そして、小さな傷がいっぱいついた茶色い表紙の中ほどには、黒い、あのうねうねガタガタした文字が横一列に並んでいて、本の右下の隅に、指のはらを着けたような丸いーーー、ちょっといびつな印があって、それは気味の悪い血のような色をしていた。
そして、触ってたしかめたわけではないけど、その色は濡れているような感じがした。
「だれかの血?みたいなのが…ついてる」
つまり、いま跡を付けた…真新しくつけられた血印のような感じで、そこだけが、ありきたりな単なる本というにはおかしいと感じる、唯一の部分だった。
「…この本はマスターから預かっているものだ」
魅入られるように本をみつめていたニゲルは、ハッとして顔を上げた。
「マスター?」
「ああ。ロイド魔法士団は、選ばれた魔法士で構成されていると言ったが、その中でも階級が3つある。3つの階級は下から、オーブ、マスター、グランドマスター。選ばれた魔法士はまずオーブと呼ばれる階級に属する。そのオーブからさらに選ばれた4人がなる、マスター。そして、最高位のグランドマスターは1人。つまり、グランドマスターがロイド魔法士団の最高責任者ということだ」
「では、本を預けたというマスターは、アラン様と親しいのですか?」
「…いいや。顔も知らぬ」
「え…でも、じゃあなんでここに本が…」
「ある日、突然ここにあったのだ」
アラン様は腰をかけている寝台を指さした。
「え?そんなまさか…誰かがここに!?」
そんな事、あるのだろうか。
ふつう、城主の休む部屋に勝手に出入りできるはずがない。
「手紙と共に、私の寝室の、この寝台の上に置かれていた」
「勝手にですか…?」
「…どうもわからないのだ。ただ手紙には、この本を開ける者が必ず現れる。私の代でその者が現れた時、この本を渡すようにと書かれていた。その手紙の主は私の事を、ドラゴンライダーの保護者だと。…今から約9年前の事だ」
「開ける者…?て、…え??アラン様はこの本を開けないんですか?」
「…そうだな…残念ながら無理だ。何が書いてあるのか、私にはわからない」
「えぇ…?開けないようにする魔法でもかかってるんですか!?」
「おそらくは」
アラン様は神妙な顔つきをしていて、冗談を言っている風ではない。
「うーん…そのマスターはどんな人なんだろう…」
本に魔法をかけるなんて、一体どういうつもりなのか。誰にも知られたくない秘密の話でも書いてあるのだろうか。
「ロイド魔法士団は秘密組織だ。国でもごく一握りの人間しか存在を知らない。私はニス湖の守護を任されている一族だから知っているだけで、オーブやマスター階級の人間とは面会も出来なければ連絡を取る方法も…詳しい事は何一つ知らぬのだ。どんな者がメンバーなのかも…」
「サフィラスは大魔賢者なのに、ロイド魔法士団のマスターではないんですか?」
「ああ。大魔賢者だからな」
「え…?」
普通、それほどの魔法使いならば、マスターにはなれるのではないだろうか。
「大魔賢者。つまり大魔導師は国が与えた役割、役職と言っていい。国に仕える者はロイド魔法士団の一員にはなれぬ」
「え…?そうなんですか…。なんだか変ですね…。けれど、アラン様にこの本を預けたってことは、多分ドラゴンに関する本なんですよね?きっと…」
「…おそらくそうだろう。なにせ、不思議な事にこの城から私はこの本を持ち出す事が出来ない。というより、この部屋から持ち出そうとすると、ものすごい力で本棚に戻ってしまうのだ。…つまり、持ち出し禁止の、あるいはそのような魔法がほどこされているようだ。つまり、未来のライダーとなる者にしか、持ち出せぬ本なのであろう」
「これ、サフィラスは知っているんですか?」
ニゲルはアラン様を見上げた。
「…あぁ、知っている」
「サフィラスは、持ち出そうとしたんですか?」
「まあ、一応はしたさ。だが、持ち出せなかった。中を開く事も出来なかった」
「…そんな…サフィラスでも持ち出しが出来ないなんて」
一体、どういう魔法がかかっているのか。
「これは主人を選ぶ本だ。いかに実力のある魔法士、魔導師でもダメという事だ。…しかし開くにあたってどのような事が条件なのかも分からない。何が起きるかも分からない。だが、お前がどうしてもライダーになりたいというなら、あきらめられないなら、これを持ち出せるか試してみろ。無理なら、おそらくライダーにはなれまい…残念だがな」
ニゲルはアラン様に差し出された本を見つめて、ごくりと唾を飲んだ。
もしも…
もしも本を持ち出せたら?
そしたら、ドラゴンライダーになれる可能性はあるだろうか。
「あの…もし、部屋から持ち出せたら…」
「その時は、ニゲル。お前に、この本をやろう。サフィラスの兄弟子である私が言うんだ。二言はない。何処へでも持っていけ」
両手のひらに乗るくらいの大きさで、厚みはニゲルの小指、第二関節くらい。
そして、小さな傷がいっぱいついた茶色い表紙の中ほどには、黒い、あのうねうねガタガタした文字が横一列に並んでいて、本の右下の隅に、指のはらを着けたような丸いーーー、ちょっといびつな印があって、それは気味の悪い血のような色をしていた。
そして、触ってたしかめたわけではないけど、その色は濡れているような感じがした。
「だれかの血?みたいなのが…ついてる」
つまり、いま跡を付けた…真新しくつけられた血印のような感じで、そこだけが、ありきたりな単なる本というにはおかしいと感じる、唯一の部分だった。
「…この本はマスターから預かっているものだ」
魅入られるように本をみつめていたニゲルは、ハッとして顔を上げた。
「マスター?」
「ああ。ロイド魔法士団は、選ばれた魔法士で構成されていると言ったが、その中でも階級が3つある。3つの階級は下から、オーブ、マスター、グランドマスター。選ばれた魔法士はまずオーブと呼ばれる階級に属する。そのオーブからさらに選ばれた4人がなる、マスター。そして、最高位のグランドマスターは1人。つまり、グランドマスターがロイド魔法士団の最高責任者ということだ」
「では、本を預けたというマスターは、アラン様と親しいのですか?」
「…いいや。顔も知らぬ」
「え…でも、じゃあなんでここに本が…」
「ある日、突然ここにあったのだ」
アラン様は腰をかけている寝台を指さした。
「え?そんなまさか…誰かがここに!?」
そんな事、あるのだろうか。
ふつう、城主の休む部屋に勝手に出入りできるはずがない。
「手紙と共に、私の寝室の、この寝台の上に置かれていた」
「勝手にですか…?」
「…どうもわからないのだ。ただ手紙には、この本を開ける者が必ず現れる。私の代でその者が現れた時、この本を渡すようにと書かれていた。その手紙の主は私の事を、ドラゴンライダーの保護者だと。…今から約9年前の事だ」
「開ける者…?て、…え??アラン様はこの本を開けないんですか?」
「…そうだな…残念ながら無理だ。何が書いてあるのか、私にはわからない」
「えぇ…?開けないようにする魔法でもかかってるんですか!?」
「おそらくは」
アラン様は神妙な顔つきをしていて、冗談を言っている風ではない。
「うーん…そのマスターはどんな人なんだろう…」
本に魔法をかけるなんて、一体どういうつもりなのか。誰にも知られたくない秘密の話でも書いてあるのだろうか。
「ロイド魔法士団は秘密組織だ。国でもごく一握りの人間しか存在を知らない。私はニス湖の守護を任されている一族だから知っているだけで、オーブやマスター階級の人間とは面会も出来なければ連絡を取る方法も…詳しい事は何一つ知らぬのだ。どんな者がメンバーなのかも…」
「サフィラスは大魔賢者なのに、ロイド魔法士団のマスターではないんですか?」
「ああ。大魔賢者だからな」
「え…?」
普通、それほどの魔法使いならば、マスターにはなれるのではないだろうか。
「大魔賢者。つまり大魔導師は国が与えた役割、役職と言っていい。国に仕える者はロイド魔法士団の一員にはなれぬ」
「え…?そうなんですか…。なんだか変ですね…。けれど、アラン様にこの本を預けたってことは、多分ドラゴンに関する本なんですよね?きっと…」
「…おそらくそうだろう。なにせ、不思議な事にこの城から私はこの本を持ち出す事が出来ない。というより、この部屋から持ち出そうとすると、ものすごい力で本棚に戻ってしまうのだ。…つまり、持ち出し禁止の、あるいはそのような魔法がほどこされているようだ。つまり、未来のライダーとなる者にしか、持ち出せぬ本なのであろう」
「これ、サフィラスは知っているんですか?」
ニゲルはアラン様を見上げた。
「…あぁ、知っている」
「サフィラスは、持ち出そうとしたんですか?」
「まあ、一応はしたさ。だが、持ち出せなかった。中を開く事も出来なかった」
「…そんな…サフィラスでも持ち出しが出来ないなんて」
一体、どういう魔法がかかっているのか。
「これは主人を選ぶ本だ。いかに実力のある魔法士、魔導師でもダメという事だ。…しかし開くにあたってどのような事が条件なのかも分からない。何が起きるかも分からない。だが、お前がどうしてもライダーになりたいというなら、あきらめられないなら、これを持ち出せるか試してみろ。無理なら、おそらくライダーにはなれまい…残念だがな」
ニゲルはアラン様に差し出された本を見つめて、ごくりと唾を飲んだ。
もしも…
もしも本を持ち出せたら?
そしたら、ドラゴンライダーになれる可能性はあるだろうか。
「あの…もし、部屋から持ち出せたら…」
「その時は、ニゲル。お前に、この本をやろう。サフィラスの兄弟子である私が言うんだ。二言はない。何処へでも持っていけ」
0
あなたにおすすめの小説
#アタシってば魔王の娘なんだけどぶっちゃけ勇者と仲良くなりたいから城を抜け出して仲間になってみようと思う
釈 余白(しやく)
児童書・童話
ハアーイハロハロー。アタシの名前はヴーゲンクリャナ・オオカマって言ぅの。てゆうか長すぎでみんなからはヴーケって呼ばれてる『普通』の女の子だょ。
最近の悩みはパパが自分の跡継ぎにするって言って修行とか勉強とかを押し付けて厳しいことカナ。てゆうかマジウザすぎてぶっちゃけやってらンない。
てゆうかそんな毎日に飽きてるンだけどタイミングよく勇者のハルトウって子に会ったのょ。思わずアタシってば囚われの身なのってウソついたら信じちゃったわけ。とりまそんなン秒でついてくよね。
てゆうか勇者一行の旅ってばビックリばっか。外の世界ってスッゴク華やかでなんでもあるしアタシってば大興奮のウキウキ気分で舞い上がっちゃった。ぶっちゃけハルトウもかわいくて優しぃし初めての旅が人生の終着点へ向かってるカモ? てゆうかアタシってばなに言っちゃってンだろね。
デモ絶対に知られちゃいけないヒミツがあるの。てゆうかアタシのパパって魔王ってヤツだし人間とは戦争バッカしてるし? てゆうか当然アタシも魔人だからバレたら秒でヤラレちゃうかもしンないみたいな?
てゆうか騙してンのは悪いと思ってるょ? でも簡単にバラすわけにもいかなくて新たな悩みが増えちゃった。これってぶっちゃけ葛藤? てゆうかどしたらいンだろね☆ミ
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
オバケの謎解きスタンプラリー
綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます!
――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。
小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。
結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。
だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。
知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。
苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。
いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。
「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」
結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか?
そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか?
思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる