最後の魔導師

蓮生

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第3章 エイレン城への道

本を開く者①

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 しかし正直に言うとその本は、一見、普通の古本だった。
 両手のひらに乗るくらいの大きさで、厚みはニゲルの小指、第二関節かんせつくらい。
 そして、小さな傷がいっぱいついた茶色い表紙の中ほどには、黒い、あのうねうねガタガタした文字が横一列に並んでいて、本の右下のすみに、指のはらを着けたような丸いーーー、ちょっといびつな印があって、それは気味の悪い血のような色をしていた。
 そして、触ってたしかめたわけではないけど、その色はれているような感じがした。

「だれかの血?みたいなのが…ついてる」
 つまり、いまあとを付けた…真新しくつけられた血印けついんのような感じで、そこだけが、ありきたりな単なる本というにはおかしいと感じる、唯一ゆいいつの部分だった。


「…この本はマスターからあずかっているものだ」

 魅入みいられるように本をみつめていたニゲルは、ハッとして顔を上げた。

「マスター?」

「ああ。ロイド魔法士団は、選ばれた魔法士で構成こうせいされていると言ったが、その中でも階級かいきゅうが3つある。3つの階級は下から、オーブ、マスター、グランドマスター。選ばれた魔法士はまずオーブと呼ばれる階級に属する。そのオーブからさらに選ばれた4人がなる、マスター。そして、最高位のグランドマスターは1人。つまり、グランドマスターがロイド魔法士団の最高責任者ということだ」

「では、本を預けたというマスターは、アラン様と親しいのですか?」

「…いいや。顔も知らぬ」
「え…でも、じゃあなんでここに本が…」
「ある日、突然ここにあったのだ」
 アラン様は腰をかけている寝台を指さした。

「え?そんなまさか…誰かがここに!?」

 そんな事、あるのだろうか。
 ふつう、城主の休む部屋に勝手に出入りできるはずがない。

「手紙と共に、私の寝室の、この寝台の上に置かれていた」
「勝手にですか…?」
「…どうもわからないのだ。ただ手紙には、この本を開ける者が必ず現れる。私の代でその者が現れた時、この本を渡すようにと書かれていた。その手紙の主は私の事を、ドラゴンライダーの保護者だと。…今から約9年前の事だ」
「開ける者…?て、…え??アラン様はこの本を開けないんですか?」
「…そうだな…残念ながら無理だ。何が書いてあるのか、私にはわからない」
「えぇ…?開けないようにする魔法でもかかってるんですか!?」
「おそらくは」
 アラン様は神妙な顔つきをしていて、冗談を言っている風ではない。
「うーん…そのマスターはどんな人なんだろう…」
 本に魔法をかけるなんて、一体どういうつもりなのか。誰にも知られたくない秘密の話でも書いてあるのだろうか。

「ロイド魔法士団は秘密組織だ。国でもごく一握りの人間しか存在を知らない。私はニス湖の守護を任されている一族だから知っているだけで、オーブやマスター階級の人間とは面会も出来なければ連絡を取る方法も…詳しい事は何一つ知らぬのだ。どんな者がメンバーなのかも…」
「サフィラスは大魔賢者なのに、ロイド魔法士団のマスターではないんですか?」
「ああ。大魔賢者だからな」
「え…?」
 普通、それほどの魔法使いならば、マスターにはなれるのではないだろうか。

「大魔賢者。つまり大魔導師は国が与えた役割やくわり役職やくしょくと言っていい。国に仕える者はロイド魔法士団の一員にはなれぬ」

「え…?そうなんですか…。なんだか変ですね…。けれど、アラン様にこの本を預けたってことは、多分ドラゴンに関する本なんですよね?きっと…」
「…おそらくそうだろう。なにせ、不思議な事にこの城から私はこの本を持ち出す事が出来ない。というより、この部屋から持ち出そうとすると、ものすごい力で本棚に戻ってしまうのだ。…つまり、持ち出し禁止の、あるいはそのような魔法がほどこされているようだ。つまり、未来のライダーとなる者にしか、持ち出せぬ本なのであろう」

「これ、サフィラスは知っているんですか?」

 ニゲルはアラン様を見上げた。
「…あぁ、知っている」
「サフィラスは、持ち出そうとしたんですか?」
「まあ、一応はしたさ。だが、持ち出せなかった。中を開く事も出来なかった」
「…そんな…サフィラスでも持ち出しが出来ないなんて」
 一体、どういう魔法がかかっているのか。

「これは主人を選ぶ本だ。いかに実力のある魔法士、魔導師でもダメという事だ。…しかし開くにあたってどのような事が条件なのかも分からない。何が起きるかも分からない。だが、お前がどうしてもライダーになりたいというなら、あきらめられないなら、これを持ち出せるか試してみろ。無理なら、おそらくライダーにはなれまい…残念だがな」

 ニゲルはアラン様に差し出された本を見つめて、ごくりとつばを飲んだ。

 もしも…

 もしも本を持ち出せたら?

 そしたら、ドラゴンライダーになれる可能性はあるだろうか。

「あの…もし、部屋から持ち出せたら…」

「その時は、ニゲル。お前に、この本をやろう。サフィラスの兄弟子である私が言うんだ。二言はない。何処へでも持っていけ」


 
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