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第4章 インフェ・グレーゴル・ドルード12世編
第205話 瀬戸際
しおりを挟む身体を傾け項垂れたグニルは「どうしてそのような……」と呟き絶句する。彼のその態度ひとつで、事態が良い方向に進んでいないことを察するには十分だった。
「人族よ、それはどれほど前の話だ。加えて、グニルの身柄は今どこにある」
「ええと、グニルって竜と戦ったのは一週間くらい前かな。その人は僕らの隊で身柄を拘束させてもらってる」
「そうか……。それで……、勝手は承知で聞くが、そのグニルの身柄をこちらへ渡してもらうことは可能だろうか?」
「う~ん、それは僕の一存じゃどうにもならないよ。でも……、立場上僕らは王の護衛であり、あの竜はメガリーストの王を襲った国敵になる。きっとそのまま引き渡すことはできないと思う」
さらに痛む頭を押さえながら、ヴェルニは深く深くため息をついた。どうやら悩みのタネの中心であるグニルとの一件がさらに拗れることとなり、どう手を打てば良いのかを模索しているのだろう。
「しかし我らとて、黙ってそれを見過ごすわけにはいかぬのだ。グニルの一件は、我が落ち度だ。しかもそのグニルが盟約を交わした他国の王を襲ったとなれば尚更だ。我とて簡単に手打ちとできる話ではない。下手をすれば我は処され、また国の西側が荒れる原因となってしまう。それだけは避けたい」
「申し訳ないけど、僕は王とヴェルニたちを仲介するくらいしかできないと思う。それに僕らにもそれほど時間があるわけじゃない。代表のミグネフが直にこちらへ戻ってくると思います。そこでこれからの話しをしてください。よろしくお願いします」
数分後、王への報告を終えたミグネフらが穴の上段に辿り着いたと連絡が入った。再び特使として穴の底へと降りてきたミグネフは、静けさを取り戻した拠点の様子を見回しながら、玉座の間の外で待ち構えていた僕に声をかけた。
「どうにか落ち着いたらしいが……、やはり例のドラゴンが原因か?」
「そうみたいです。どうやら彼らがグニルと揉めたのが根本的な原因で、バレッタの町をそっくりそのままこのモンクへ移転させたみたいで、ここよりもっと下の大空洞に移動してきたドラゴンたちの拠点があるそうです」
「移転、か……。町と呼ぶにはお粗末すぎる状況を見るに、ただ移動してきたというのが現実なのだろうな。まぁ俺たちは物資の補給ができればそれでいいのだが」
「ですがその……、ひとつ問題が。そのグニルに関して、身柄を渡してくれないかと打診されました」
「それは難しいだろう。我らとしては、奴の身柄は国敵として真竜国の女王に報告する義務が生じる。何よりこちらとしては、最も重要なカードとなる可能性もある。悪いが応じることはできぬだろう」
「そう、……ですよね」
ヴェルニとの対話のため、玉座の間に入っていく彼の姿を見送り、その間、僕は一旦本隊へと戻ることにした。穴の上段では、巨大化した竜たちが入口付近を固め、特使扱いである僕ら一行の相手をしているようだった。メガリースト王の存在があるため、一定の敬意を保ち無礼なきようと指示を受けているのだろう。僕が穴から出る際も、目配せはされたものの、素通りで皆と合流することができた。
自分の馬車に戻った僕は、僕の帰還を待ちわびていた二人に、現在進行系で起こっていることを説明した。苦い顔で唇を噛んだポンさんとカルラは、最悪な状況へと陥りそうな現場を嘆くしかなかった。
「ハッキリ言うて、状況は悪い。そもそも時間がないのに、さらに関係ない内政に巻き込まれかけてるのが笑えへん。奴らとしては内々で揉めてただけのところに、謀らずも俺らがそこに関わってしもた。しかも俺らはグニルの身柄を確保してもうてる。そうなると、この先は二つに一つや」
カルラがコクリと頷きながら言う。
「状況から察するに、先程ここを襲っていたのはグニルの残党だろう。しかし奴らは既に統率が取れず、無作為かつ勝手に攻撃を仕掛けているに違いない。そのうえグニルが私たちに討ち取られたという事実が伝われば、状況はさらに悪化する。その憎き敵が、権力を奪った元来の敵と共にいるのだ。奴らの怒りが膨れ上がるのも時間の問題だろう」
「しかもや。グニルの身柄を引き渡せへんとなれば、ヴェルニの奴も黙ってへん。せっかく権力奪い取ったっちゅう直後に、女王に下手打った報告なんかされてみぃ。まず無事では済まされへん」
「……ってことは、僕らはどうなるの?」
ポンさんは短い腕にグググっと力を込めながら僕のあごに指を押し付け、「簡単な話や」と結論を口にした。
「グニルの残党と、ヴェルニの勢力が、一斉に俺らに襲いかかるっちゅうことや。時間もない、物資もない、何より奴らと戦ってる余裕もない。さぁどないしよなぁ?」
「それ、……大問題だよね?」
「せやで。ただ唯一救いなんは、既に権力の座から降ろされてるグニルたちと違うて、ヴェルニ本人とその取り巻きは、俺らに手出しでけへんってとこやろな。奴らは盟約のことを知ってもうてる、せやから表立っては行動でけへん」
「それってどういうこと?」
「簡単な話や。女王とヴェルニは主従の関係にあるやろ? てことは、ヴェルニの盟約破棄は、女王の意思ってことになってまうねん。一方的な盟約の破棄は重いペナルティがあるはずや。そうそう勝手な行動はでけへん。既に何者でもなくなったグニルが俺らに喧嘩売るのとは根本的に意味がちゃうねん」
そして女王と今や辺境伯となったヴェルニの関係性を僕に説明したポンさんは、最後に最も重要なポイントを述べた。
「どっちにしろ、ウチの責任者がどんな返答をしたかに全部かかってんねん。『妥協』ならメガリーストの面子は潰れるけどギリギリセーフ、『拒否』なら一気に全面戦争。さぁ瀬戸際やで、ウタはどないなると思う?」
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