206 / 215
第4章 インフェ・グレーゴル・ドルード12世編
第206話 僕らにできること
しおりを挟むポンさんの言いたいことはわかる。
しかしミグネフの言葉を事前に聞いている以上、譲歩の可能性はまず考えられない。何より僕らの後ろには、メガリーストのトップに君臨している王の存在がある。その絶対的象徴が同行している以上、安易な妥協による口裏合わせや、王への侮辱とすらなりかねない回答をミグネフが選択することはない。
二つに一つと言いつつも、既に可能性は一つに限られている。
だとしたらどうすべきか、僕らが選択しなければならないのは、その先の話だ。
「ポンさんは、どう動くのが正解だと思う?」
「まず絶対的に優先なのが王の命で、そこはどうあっても変えられへん。俺らがこの国のど真ん中に到達するためには、アレの存在が必要不可欠や。死んでも無事にいてもらわな成立せぇへん。そしてもう一つ重要なんが、俺らも穏便に町を出るっちゅうことや。もし俺ら三人の存在が中央にバレたら、それこそ余計な障壁が増えてまう。せやから確実に処理し、確実に逃亡する。それしかないねん」
" 確実に処理 " 。
それは、ヴェルニの思惑を確実に遮断し、全てを穏便に終わらせるという意味だ。
しかしそれは要するに――
「……最初に西の辺境を落ち着かせてほしいって、彼を焚き付けたのは僕なんだよね。それなのに、僕らの言ったことを言葉通り示してくれた彼のことを、今度は反対に止めなきゃならない。勝手だよね、……本当に」
「それはそれ、これはこれや。残念ながら、互いにあんときとは状況がちゃうねん。アレは西の辺境伯で、おのれはメガリースト王の護衛や。その裏にどんな約束があったとしても、変えられへんもんがあるんや。諦め」
わかっている。
全ては僕のわがままと無責任な行動が招いた罰だ。誰かの不幸の上に、僕らの未来は立っている。しかしそれがわかっていたとしても、僕らはもう、歩みを止めることはできない。
「なら急ごう。僕は僕のすべきことをするよ。だからポンさんとカルラさんも協力してほしい」
頷いた二人を連れ、穴底のさらに下に広がる竜たちの居住区に入った僕らは、まず最優先事項である物資の調達に奔走することとなった。
確かに最終的な答えは決まっているかもしれない。しかしだからといって、ミグネフがそうそう簡単に決断を下すはずはない。最大限に返答を引き伸ばし、僕らや王の部隊が状態を立て直す時間を確保するよう努めるはずだ。それだけの知性と力を、あの人は備えている。だからこそ確実に、事が起こる前に全ての条件を整える。今の僕らにできることはそれしかない!
タイムリミットはそれほど長くないはずだ。事と次第によっては、即刻戦闘に移行してしまう可能性も高い。何よりグニルの残党が再び襲ってくるなど想定すれば、自由に動き回ることはおろか、即時退却となり、この場を離れる選択を取ることにもなりかねない。
「なんもかんも、まずは食いもんの調達や。そもそも予定より随分工程が遅れとる。このまんまやと、昼夜問わずの移動も必要になるかもしれんで。回復薬や夜間に使う物資も全然足りてへん。今のうちにできるだけ買い漁るんやー!」
しかしそこまで都合よく進むはずはない。何より僕らがいるのは急ごしらえの暫定的な町で、そもそもふんだんな物資や食料などあるはずがないのだ。なにより町には竜たちと行動を共にする人族や獣人族も多くいたが、誰もがよそ者である僕らのことを肯定してくれるわけではない。メガリーストの特使であることを示す腕章があるため直接的な行動を取る人はいないけど、隙あらば牙を剥こうとしている者もいるに決まってる。
そうして警戒しながら走り回ってみたものの、商店も疎らな活気のない居住区内では、十分な物資の確保などできようはずもなかった。
「あかん、こんなじゃ今日明日の肉を買うんで精一杯や。しかも旧態依然としたメガリーストの衛兵が押し寄せてきたとなれば、ますますガードは固くなるばっかやで。う~む、もう詰んでる気ぃするなぁ、クチャクチャ」
串に刺さった硬い肉を不味そうに噛み締めながらポンさんが呟いた。
今はまだ竜族たちも僕らのことを半信半疑で目視する程度に収めてくれてるけど、恐らくヴェルニの一言で状況は一変する。メガリーストの腕章をしている僕らの存在は、彼らにするといわば人質。戒厳令が敷かれた時点で、彼ら全員が僕らの敵になってしまう。
「しか~も、俺らは目立つことなく、中央に絶対悟られんようにせなあかん。こ~れはム~ズいミッションやで。できることは、ただ逃げるしかあらへんのやさかいに」
深入りせず、それでいていつでも逃げられるように。
しかしそんな僕らの願望を嘲笑うかのように、突然居住区の屋根が激しく揺れた。「また奴らだ!」と口々に叫ぶ住人が避難に走る中、僕らは急ぎ、居住区の入口へと向かった。しかし――
「残念ダガ、誰一人ココヲ通スワケニハイカナイ」
怪しく眼を光らせる人物がひとり。
離れた場所からでもわかるほど、全てを威圧する迫力を持つ男が、僕らの行く手を遮った。
ヴェルニの配下であり、かつ恐らくはこの拠点のナンバーツーである実力者。
ダナンであった。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。
夏見ナイ
ファンタジー
「役立たず」の烙印を押され、パーティを追放されたアルフォンス。彼のスキルは戦闘に不向きな【土いじり】。失意の彼は都会を離れ、辺境の地で静かに農業を営むことを決意する。
しかし、彼が畑を耕すと、そこから不思議なダンジョンが生えてきた!
ダンジョン内では、高級ポーションになる薬草や伝説の金属『オリハルコン』が野菜のように収穫できる。地味だと思われた【土いじり】は、実はこの『農園ダンジョン』を育てる唯一無二のチートスキルだったのだ。
噂を聞きつけ集まる仲間たち。エルフの美少女、ドワーフの天才鍛冶師……。気づけば彼の農園は豊かな村へ、そして難攻不落の要塞国家へと発展していく。
一方、彼を追放したパーティは没落の一途を辿り……。
これは、追放された男が最強の生産職として仲間と共に理想郷を築き上げる、農業スローライフ&建国ファンタジー!
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる