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5.職探し再び…?
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あれから私たちは、他愛もない話をしながら、買い物を済ませて、いつもと同じように帰路についた。
ユージン隊長とケネス隊長の私への反応については、ジェイクは何も触れなかったし、私も何も訊かなかった。
たぶん、彼らと初対面のジェイクに訊いても、正確なところは分からないだろう。
ただ、きっとあの反応が、この世界での大方の"転写者"への評価なのだろうと思う。
きっと、一番初めにジェイクと知り合えた私は、とても恵まれていたのだろう。
私は沈んでしまいそうになる思考を止め、ふと鞄へと視線を向けた。
「明日はもう一度職業紹介所へ行ってみようかな…」
世間の反応があれでは、紹介してもらえる仕事も限られているかもしれないけど。
そんな思考を巡らし、私は、ジェイクと歩いていた時、彼に繋がれていた方の手を反対の手で無意識に握りしめた。
翌日、私は改めて職業紹介所へと足を運んだ。
当たり前だが、家を出た瞬間に声をかけてくるジェイクの姿はない。
今日から彼は騎士として王族や民、この国全体を守る、その為に勤める。
…ほんの少しの間親切にしてもらっただけなのに、とても寂しく感じてしまう自分がいる。
気持ちを入れてしまってはいけないと思っていたのに。
私はカウンターで手続きを済ませて、書類を受け取り、閲覧用のテーブルへ移動した。
1人腰を下ろし、パラパラと書類を捲る。
昨日もチラリと浮かんだ思考が頭をもたげる。
隊長方のあの反応。あれが世間の反応だとすれば、条件の良い仕事には就けないかもしれないな…。
給仕、清掃、売り子…下働きに分類されるようなものを中心に書類に目を通していく。
何枚か目星をつけたところで、ふいに背後から声をかけられた。
「あの…。失礼します」
身なりの整った壮年の男性が、庶民に声をかけるにしては丁寧な姿勢で話しかけてきた。
「はい?何でしょう?」
声をかけられる心当たりがまるでなく、頭の中を疑問符いっぱいにしながら返事をすると、男性は振り返った私に丁寧に自己紹介してきた。
「わたくし、モーティマー公爵家で侍従を勤めております、ジーンと申します」
公爵…って貴族でも確か一番上位の爵位じゃなかったっけ?
突然の自己紹介と、その人物の口から語られた名前に思考が固まり、「はぁ…」と何とも気の抜けた返事を返してしまう。
そんな私にお構いなく彼は話を進めていく。
「4日前、こちらで貴族の男性にお声をかけられたのは、貴方で間違いございませんでしょうか?ルイーズ・クリスティ様」
まだ名乗りもしていないのに、彼は間違いなく私の名前を口にする。
私はビクッと肩を揺らし、思わず「なぜ…」と呟いてしまった。
その反応に、ジーンは「失礼いたしました」と軽く頭を下げ、本人であることを確認できたというように、話を続ける。
「わたくしの主人、リアム・ジョン・モーティマー様が貴方様にお礼とお願いをしたいと申しております。つきましては、大変恐縮にございますが、モーティマー公爵邸までご足労いただきますようお願い申し上げます」
「…いえっ、あの…私は…」
周囲の注目が痛い。
お礼を言われるようなことをした覚えは……ある。
けれど、貴族様とお近づきになどなりたくない。
私は、私の人生で手一杯なのに、騎士様にも貴族様にもお近づきになどなりたくないのに!
申し訳なさそうにしながらも、有無を言わせぬ雰囲気を醸し出すジーンに、あうあうと言葉に詰まってしまう。
そうこうしている内に、ジーンはカウンターの向こうにいる案内人に視線を送り、何やら意味ありげに頷くと私の手を取り立たせる。
「ルイーズ様。片付けは案内人に任せておりますので、どうぞ馬車へお乗りください」
隣の椅子に置いてあった私の荷物を丁寧に手に取り、あっけにとられている私の手を引き、断る間もなく馬車へと押し込められた。
…困る。
果てしなく困る。
「…あの、私、貴族様にお会いするような礼儀作法を知りませんし…その…」
何とか解放してもらおうと、一緒に馬車に乗り込んだジーンに語りかけるが、私の言葉などどこ吹く風。
主人の命令が絶対なのは分かるけど…。
「リアム様はそのようなことはお気になさりません。どうぞご心配なく」
簡単に切り捨てられ、無情にも馬車は公爵邸へ向け動き出してしまった──。
公爵邸についた私は、客室へと案内され、ソファに腰かけて待つように言われたけれど、だだっ広い部屋に豪華なテーブルセット。
…落ち着かない。
座って待てと言われても…。
経験はないけれど、社長室に呼び出されて、何を言われるのかドキドキしながら待っているような気分になってくる。
落ち着きなく待っていると、侍女らしき人が入ってきてお茶を淹れてくれる。
ちょうど私の分をテーブルに置いてくれた時、扉が開いて1人の男性が部屋へと入ってきた。
青みがかった銀色の長髪を緩く括り、肩の上に垂らしている。
淡褐色の瞳は髪色とよく合って、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
線が細く知的な容貌は、正に貴族といった感じだ。
私が慌てて立ち上がると、彼は私の正面に立ち、私の風貌を確認するように視線を流すと右手を胸にあて、軽く頭を下げた。
「ご足労いただいて申し訳ないルイーズ嬢」
それだけ言うと、彼は私に腰掛けるように促し、自分もその正面へと腰掛けた。
「初めまして…ではありませんが、自己紹介をさせていただきます」
テーブルを挟んで向かいに、軽く脚を開いて座り、背筋を伸ばしたその姿は、私から見るとお伽話の王子様のようにも見える。
気品に溢れ自信に満ちたその姿は、職業紹介所で見かけた時よりも遥かに大人で格好よく、目のやり場に困り、視線を彷徨わせてしまう。
「私は、リアム・ジョン・モーティマーと申します。この公爵家の長男で、次期当主として色々と家のことを任されております」
この場合、私…自己紹介必要ないわよね?彼は私のこと知っているみたいだし…。
そんなことを考えながら、私は気持ちを落ち着かせるために、太ももに乗せた手を重ね握りしめた。
ユージン隊長とケネス隊長の私への反応については、ジェイクは何も触れなかったし、私も何も訊かなかった。
たぶん、彼らと初対面のジェイクに訊いても、正確なところは分からないだろう。
ただ、きっとあの反応が、この世界での大方の"転写者"への評価なのだろうと思う。
きっと、一番初めにジェイクと知り合えた私は、とても恵まれていたのだろう。
私は沈んでしまいそうになる思考を止め、ふと鞄へと視線を向けた。
「明日はもう一度職業紹介所へ行ってみようかな…」
世間の反応があれでは、紹介してもらえる仕事も限られているかもしれないけど。
そんな思考を巡らし、私は、ジェイクと歩いていた時、彼に繋がれていた方の手を反対の手で無意識に握りしめた。
翌日、私は改めて職業紹介所へと足を運んだ。
当たり前だが、家を出た瞬間に声をかけてくるジェイクの姿はない。
今日から彼は騎士として王族や民、この国全体を守る、その為に勤める。
…ほんの少しの間親切にしてもらっただけなのに、とても寂しく感じてしまう自分がいる。
気持ちを入れてしまってはいけないと思っていたのに。
私はカウンターで手続きを済ませて、書類を受け取り、閲覧用のテーブルへ移動した。
1人腰を下ろし、パラパラと書類を捲る。
昨日もチラリと浮かんだ思考が頭をもたげる。
隊長方のあの反応。あれが世間の反応だとすれば、条件の良い仕事には就けないかもしれないな…。
給仕、清掃、売り子…下働きに分類されるようなものを中心に書類に目を通していく。
何枚か目星をつけたところで、ふいに背後から声をかけられた。
「あの…。失礼します」
身なりの整った壮年の男性が、庶民に声をかけるにしては丁寧な姿勢で話しかけてきた。
「はい?何でしょう?」
声をかけられる心当たりがまるでなく、頭の中を疑問符いっぱいにしながら返事をすると、男性は振り返った私に丁寧に自己紹介してきた。
「わたくし、モーティマー公爵家で侍従を勤めております、ジーンと申します」
公爵…って貴族でも確か一番上位の爵位じゃなかったっけ?
突然の自己紹介と、その人物の口から語られた名前に思考が固まり、「はぁ…」と何とも気の抜けた返事を返してしまう。
そんな私にお構いなく彼は話を進めていく。
「4日前、こちらで貴族の男性にお声をかけられたのは、貴方で間違いございませんでしょうか?ルイーズ・クリスティ様」
まだ名乗りもしていないのに、彼は間違いなく私の名前を口にする。
私はビクッと肩を揺らし、思わず「なぜ…」と呟いてしまった。
その反応に、ジーンは「失礼いたしました」と軽く頭を下げ、本人であることを確認できたというように、話を続ける。
「わたくしの主人、リアム・ジョン・モーティマー様が貴方様にお礼とお願いをしたいと申しております。つきましては、大変恐縮にございますが、モーティマー公爵邸までご足労いただきますようお願い申し上げます」
「…いえっ、あの…私は…」
周囲の注目が痛い。
お礼を言われるようなことをした覚えは……ある。
けれど、貴族様とお近づきになどなりたくない。
私は、私の人生で手一杯なのに、騎士様にも貴族様にもお近づきになどなりたくないのに!
申し訳なさそうにしながらも、有無を言わせぬ雰囲気を醸し出すジーンに、あうあうと言葉に詰まってしまう。
そうこうしている内に、ジーンはカウンターの向こうにいる案内人に視線を送り、何やら意味ありげに頷くと私の手を取り立たせる。
「ルイーズ様。片付けは案内人に任せておりますので、どうぞ馬車へお乗りください」
隣の椅子に置いてあった私の荷物を丁寧に手に取り、あっけにとられている私の手を引き、断る間もなく馬車へと押し込められた。
…困る。
果てしなく困る。
「…あの、私、貴族様にお会いするような礼儀作法を知りませんし…その…」
何とか解放してもらおうと、一緒に馬車に乗り込んだジーンに語りかけるが、私の言葉などどこ吹く風。
主人の命令が絶対なのは分かるけど…。
「リアム様はそのようなことはお気になさりません。どうぞご心配なく」
簡単に切り捨てられ、無情にも馬車は公爵邸へ向け動き出してしまった──。
公爵邸についた私は、客室へと案内され、ソファに腰かけて待つように言われたけれど、だだっ広い部屋に豪華なテーブルセット。
…落ち着かない。
座って待てと言われても…。
経験はないけれど、社長室に呼び出されて、何を言われるのかドキドキしながら待っているような気分になってくる。
落ち着きなく待っていると、侍女らしき人が入ってきてお茶を淹れてくれる。
ちょうど私の分をテーブルに置いてくれた時、扉が開いて1人の男性が部屋へと入ってきた。
青みがかった銀色の長髪を緩く括り、肩の上に垂らしている。
淡褐色の瞳は髪色とよく合って、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
線が細く知的な容貌は、正に貴族といった感じだ。
私が慌てて立ち上がると、彼は私の正面に立ち、私の風貌を確認するように視線を流すと右手を胸にあて、軽く頭を下げた。
「ご足労いただいて申し訳ないルイーズ嬢」
それだけ言うと、彼は私に腰掛けるように促し、自分もその正面へと腰掛けた。
「初めまして…ではありませんが、自己紹介をさせていただきます」
テーブルを挟んで向かいに、軽く脚を開いて座り、背筋を伸ばしたその姿は、私から見るとお伽話の王子様のようにも見える。
気品に溢れ自信に満ちたその姿は、職業紹介所で見かけた時よりも遥かに大人で格好よく、目のやり場に困り、視線を彷徨わせてしまう。
「私は、リアム・ジョン・モーティマーと申します。この公爵家の長男で、次期当主として色々と家のことを任されております」
この場合、私…自己紹介必要ないわよね?彼は私のこと知っているみたいだし…。
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