20 / 60
18-1.プレゼント
しおりを挟む
2人並んで腰を降ろし、静かな池の畔でサンドイッチを頬張る。
大した会話はないけれど、鳥のさえずりや風の音を聞き、豊かな自然の中で並んでいると、妙に落ち着いて、食事も普段食べるよりもずっと美味しく感じられた。
「…こんなふうに、外で景色を楽しみながら食事をするのは本当に久しぶりだわ」
「少しは気晴らしになったか?」
感慨深く漏らした私に、ジェイクは私の視線を追うように揺れる木々を見上げ問いかけてくる。
彼の言葉に「ええ。とても」と短く返した私は、隣に座る彼へ顔を向け心からの笑みを浮かべた。
「ありがとうジェイク」
私の言葉に、短い沈黙の後小さく「…いや…」とだけ言葉が返ってくる。
そんな彼の反応を不思議に思ったけれど、私から顔を逸らした彼の耳が僅か赤くなっているのに気付き、真正面からお礼を言われたことに照れているのだろうと思うと少し可笑しくなった。
昼食を食べ終わり、ゴミを片付けていて、ふと鞄の中の包みに目がとまる。
「あ…。そうだジェイク…」
言いかけ、鞄の中の包みを取り出そうとした私の頭に、ふと何かが触れる気配がする。
「…?」
不思議に思い顔を上げると、ジェイクが私の髪に何かを触れさせていた。
「ジェイク?」
私が彼を見上げ問いかけると、彼は優しく笑みながら「似合うと思ったんだ」と私の目の前へ綺麗な水色の髪飾りを差し出す。
それは土台に幾つかの石が花びらのように設えられた、ターコイズの髪飾りだった。
差し出された髪飾りに恐る恐る手を伸ばす。
「…私に…?」
問いかける私に彼は「ああ。ルイーズに」と答え、伸ばされた私の手を取り、もう片方の手で髪飾りを握らせる。
髪飾りを受け取り、私は両手でそっと包み、髪飾りを撫でる。
「嬉しい」
素直にその言葉だけが私の口から漏れた。
いつも下したままの髪をハーフアップに纏めて、早速髪飾りを着けてみる。
ここに来てから随分慣れたとはいえ、やはり余裕がなかったのか、髪を結うとか飾るとかそんなこと考えることもなかった。
髪に着けた飾りをもう一度手で触れ、くすぐったいような、何とも言えない嬉しい気持ちになって、隣でじっと見守ってくれているジェイクに「…どうかな?」と問いかける。
「ああ。よく似合ってる」
私の問いかけに彼は優しく笑んで、片手を伸ばし、そっと私の頬に触れてくる。
その行動に、一気に熱が上り顔が熱くなる。
どうしていいのか分からず目を泳がせていると、ジェイクは自分の行動に今気付いたというように、「すまない」と言って慌てて手を引いた。
「…あ…。えっと…大丈夫…気にしないで」
とは言うものの、気にしているのは自分の方だなと思いながら、慌てて俯き彼から顔を逸らす。
逸らした先に鞄から出しかけた包みを見つけ、私は深呼吸をしつつ改めて包みを手に取った。
「あの…ジェイク。私からも貴方に贈りたいものがあるの」
一つ大きく深呼吸をして顔を上げ、ジェイクに包みを差し出す。
「俺に?」
驚いたように私を見て、一瞬止まってしまったけれど、すぐに私から包みを受け取ってくれる。
「開けていいか?」と問われ、私が頷くとジェイクはそっと包みを開いていく。
中身を見て数度瞬いたまま止まっている彼の手から、その中身を手に取り、膝立ちになりながら説明する。
「ガーネットよ。戦地へ赴く兵士が、ケガをせず生還できるためのお守りとして持っていたって話を母から聞いたことがあったの。ジェイクもこれから騎士として危険な仕事に就くこともあるのでしょう?」
言いながら、彼の首にガーネットの首飾りをかける。
穴を開け革ひもを通したガーネットがジェイクの胸に落ちる。
それを視界に収め一瞬硬直したようになっていたジェイクに、次の瞬間には強く抱きしめられていた。
「?!…ジェイク?」
言葉もなく強く抱きしめる彼に、問いかけるように名を呼ぶけれど返事はなく、ただ何かを堪えるように深く息をする気配だけがする。
そうして暫くすると、不意に抱きしめる力が緩み、すっと身体が放れていく。
彼の手が私の両腕を掴み、私を真っ直ぐに見据えてくる。
「ありがとうルイーズ」
そう言う彼の顔を見て、ドキンと心臓が嫌な音を立てる。
ジェイクと出逢ってから一度も見たことのない、何かを隠しているような顔──。
どうして──。
喜んでくれていない訳ではない。
それは判る。
なのに何か、自分の気持ちを誤魔化しているような、そんな表情が見て取れる。
今日一日の、楽しかった気持ち、嬉しかった気持ちが一気に萎んでいく。
表情に出てしまいそうで、私は慌てて顔を逸らすと、立ち上がってハンカチを拾い上げた。
「帰りましょうか」
何とか明るい声を心掛けて出した言葉が震えてしまったような気がする。
「ああ」と短く返事を返してくれた彼が気付いていないことを祈りつつ、私たちは帰路へとついた。
馬車の中では気まずくなるのが怖くて寝たふりをしている内に本当に寝てしまっていた。
「着いたぞルイーズ」
薄っすらと覚醒しかけたところへかけられた言葉で目を覚ますと、ジェイクに寄りかかり、馬車の揺れで倒れこまないよう、抱きしめるように支えられていた。
「あ、ごめんなさい」
慌てて身体を起こし、ジェイクに手を取られるまま馬車から降りる。
恐る恐る見上げた彼の顔からはあの表情は消えていた。
馬車を降りてから、ぼーっとした頭のままジェイクに手を引かれ、ただ黙って家まで歩いた。
大した会話はないけれど、鳥のさえずりや風の音を聞き、豊かな自然の中で並んでいると、妙に落ち着いて、食事も普段食べるよりもずっと美味しく感じられた。
「…こんなふうに、外で景色を楽しみながら食事をするのは本当に久しぶりだわ」
「少しは気晴らしになったか?」
感慨深く漏らした私に、ジェイクは私の視線を追うように揺れる木々を見上げ問いかけてくる。
彼の言葉に「ええ。とても」と短く返した私は、隣に座る彼へ顔を向け心からの笑みを浮かべた。
「ありがとうジェイク」
私の言葉に、短い沈黙の後小さく「…いや…」とだけ言葉が返ってくる。
そんな彼の反応を不思議に思ったけれど、私から顔を逸らした彼の耳が僅か赤くなっているのに気付き、真正面からお礼を言われたことに照れているのだろうと思うと少し可笑しくなった。
昼食を食べ終わり、ゴミを片付けていて、ふと鞄の中の包みに目がとまる。
「あ…。そうだジェイク…」
言いかけ、鞄の中の包みを取り出そうとした私の頭に、ふと何かが触れる気配がする。
「…?」
不思議に思い顔を上げると、ジェイクが私の髪に何かを触れさせていた。
「ジェイク?」
私が彼を見上げ問いかけると、彼は優しく笑みながら「似合うと思ったんだ」と私の目の前へ綺麗な水色の髪飾りを差し出す。
それは土台に幾つかの石が花びらのように設えられた、ターコイズの髪飾りだった。
差し出された髪飾りに恐る恐る手を伸ばす。
「…私に…?」
問いかける私に彼は「ああ。ルイーズに」と答え、伸ばされた私の手を取り、もう片方の手で髪飾りを握らせる。
髪飾りを受け取り、私は両手でそっと包み、髪飾りを撫でる。
「嬉しい」
素直にその言葉だけが私の口から漏れた。
いつも下したままの髪をハーフアップに纏めて、早速髪飾りを着けてみる。
ここに来てから随分慣れたとはいえ、やはり余裕がなかったのか、髪を結うとか飾るとかそんなこと考えることもなかった。
髪に着けた飾りをもう一度手で触れ、くすぐったいような、何とも言えない嬉しい気持ちになって、隣でじっと見守ってくれているジェイクに「…どうかな?」と問いかける。
「ああ。よく似合ってる」
私の問いかけに彼は優しく笑んで、片手を伸ばし、そっと私の頬に触れてくる。
その行動に、一気に熱が上り顔が熱くなる。
どうしていいのか分からず目を泳がせていると、ジェイクは自分の行動に今気付いたというように、「すまない」と言って慌てて手を引いた。
「…あ…。えっと…大丈夫…気にしないで」
とは言うものの、気にしているのは自分の方だなと思いながら、慌てて俯き彼から顔を逸らす。
逸らした先に鞄から出しかけた包みを見つけ、私は深呼吸をしつつ改めて包みを手に取った。
「あの…ジェイク。私からも貴方に贈りたいものがあるの」
一つ大きく深呼吸をして顔を上げ、ジェイクに包みを差し出す。
「俺に?」
驚いたように私を見て、一瞬止まってしまったけれど、すぐに私から包みを受け取ってくれる。
「開けていいか?」と問われ、私が頷くとジェイクはそっと包みを開いていく。
中身を見て数度瞬いたまま止まっている彼の手から、その中身を手に取り、膝立ちになりながら説明する。
「ガーネットよ。戦地へ赴く兵士が、ケガをせず生還できるためのお守りとして持っていたって話を母から聞いたことがあったの。ジェイクもこれから騎士として危険な仕事に就くこともあるのでしょう?」
言いながら、彼の首にガーネットの首飾りをかける。
穴を開け革ひもを通したガーネットがジェイクの胸に落ちる。
それを視界に収め一瞬硬直したようになっていたジェイクに、次の瞬間には強く抱きしめられていた。
「?!…ジェイク?」
言葉もなく強く抱きしめる彼に、問いかけるように名を呼ぶけれど返事はなく、ただ何かを堪えるように深く息をする気配だけがする。
そうして暫くすると、不意に抱きしめる力が緩み、すっと身体が放れていく。
彼の手が私の両腕を掴み、私を真っ直ぐに見据えてくる。
「ありがとうルイーズ」
そう言う彼の顔を見て、ドキンと心臓が嫌な音を立てる。
ジェイクと出逢ってから一度も見たことのない、何かを隠しているような顔──。
どうして──。
喜んでくれていない訳ではない。
それは判る。
なのに何か、自分の気持ちを誤魔化しているような、そんな表情が見て取れる。
今日一日の、楽しかった気持ち、嬉しかった気持ちが一気に萎んでいく。
表情に出てしまいそうで、私は慌てて顔を逸らすと、立ち上がってハンカチを拾い上げた。
「帰りましょうか」
何とか明るい声を心掛けて出した言葉が震えてしまったような気がする。
「ああ」と短く返事を返してくれた彼が気付いていないことを祈りつつ、私たちは帰路へとついた。
馬車の中では気まずくなるのが怖くて寝たふりをしている内に本当に寝てしまっていた。
「着いたぞルイーズ」
薄っすらと覚醒しかけたところへかけられた言葉で目を覚ますと、ジェイクに寄りかかり、馬車の揺れで倒れこまないよう、抱きしめるように支えられていた。
「あ、ごめんなさい」
慌てて身体を起こし、ジェイクに手を取られるまま馬車から降りる。
恐る恐る見上げた彼の顔からはあの表情は消えていた。
馬車を降りてから、ぼーっとした頭のままジェイクに手を引かれ、ただ黙って家まで歩いた。
5
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる