逃げ出した先は異世界!二度目の人生は愛と平穏を望む

絆結

文字の大きさ
21 / 60

18-2.プレゼント ※ジェイク視点

しおりを挟む
     ジェイク視点のお話です
────────────────────
澄んだ水面の揺れる池を前に2人並んで腰を降ろし、サンドイッチを頬張る。
多くは喋らないが、気持ち良さそうに風の音や鳥のさえずりを聴いている姿は見ているだけでほっとする。

そんなに永く会えなかった訳でもないのに、傍で護ってやれないもどかしさでおかしくなりそうだった。

「…こんなふうに、外で景色を楽しみながら食事をするのは本当に久しぶりだわ」

揺れる木々を見上げ、感慨深げに呟くルイーズから視線を移し、彼女が見上げる先をその視線を追うように見上げる。

「少しは気晴らしになったか?」
「ええ。とても」

短く返し、俺へ向けられた顔に満面の笑みが浮かぶ。

「ありがとうジェイク」

今までに見たことのない艶やかな笑みに、まともに言葉が返せず思わず顔を逸らし、小さく「…いや…」とだけ答えるのがやっとだった。


昼食を食べ終わり、俺に背を向け片付けを始めるルイーズの後ろ姿を見て、ふとポケットに入れていた包に手を伸ばす。
セレスへのプレゼントと一緒に買った髪飾り。

「あ…。そうだジェイク…」

何かを言いかける彼女の髪にそっとあててみる。
深紅の髪に水色が良くえる。

「ジェイク?」

不思議そうに顔を上げ、俺を見つめるルイーズに「似合うと思ったんだ」と髪飾りを差し出す。

土台に幾つかの石が花びらのようにしつらえられたターコイズの髪飾り。
ターコイズは危険から身を守る、護り石として有名な石だ。
気休めにもならないが、お護り代わりにでも持っていてくれれば嬉しい。

「…私に…?」
「ああ。ルイーズに」

彼女は、差し出した髪飾りに恐る恐るといった体で手を伸ばす。
その手を取り、もう片方の手で髪飾りを握らせる。

髪飾りを受け取るとルイーズは両手でそっと包み、髪飾りを撫でた。

「嬉しい」

零すようにそう言葉を漏らし、彼女は髪を纏めると早速髪飾りを着けてくれる。
そして子どもみたいに嬉しそうに「…どうかな?」と問いかけてくる。

「ああ。よく似合ってる」

笑顔が可愛くて、愛しくて、ふと手が彼女の頬へ伸びる。

手を触れた頬が一気に赤く染まり、視線が忙しなく揺れる。
その様子を見て、ようやく無意識に彼女に触れていたことに気付き慌てて手を引いた。

「すまない」
「…あ…。えっと…大丈夫…気にしないで」

気にするなと言いながらも、やはり彼女の頬は真っ赤で、慌てて俯き顔を逸らす。

しかし、深呼吸でもするように何度か大きく息をすると、彼女は顔を上げ、鞄から出した包みを俺に向かって差し出した。

「あの…ジェイク。私からも貴方に贈りたいものがあるの」


「俺に?」

自分が贈ることは考えても、まさか贈られるとは考えもせず、驚いて一瞬止まってしまう。
けれど、すぐにルイーズから包みを受け取り、その場で開ける許可をもらい、そっと包みを開いていく。

包みの中から出てきたものに、思わず動きを止めてしまう。
彼女が意味を知っているとは思えない。

それでも──。


包みを持つ手が震えてしまいそうになる。
そんな俺の手からその中身を手に取り、彼女は膝立ちになりそれを俺の首にかける。

「ガーネットよ。戦地へ赴く兵士が、ケガをせず生還できるためのお守りとして持っていたって話を母から聞いたことがあったの。ジェイクもこれから騎士として危険な仕事に就くこともあるのでしょう?」

穴を開け革ひもを通したガーネットが俺の胸に落ちる。
彼女の言葉に思考が止まり一瞬硬直した。
そして次の瞬間には衝動的に彼女を強く抱きしめていた。

「?!…ジェイク?」

問いかけるように名前を呼ばれるが、返事を返す余裕はない。

彼女が、その意味を知らずにこれを贈ったとしても、俺にはこらえられない程に嬉しかった。


女性がガーネットの装飾品を男性に贈るのは『無事に私の元へ帰ってきて』という、愛の告白を意味する。


ルイーズがただ友人としてこれを贈ってくれたのだとしても、このまま想いを伝えてしまいたい衝動に駆られる。

イアンの件が片付かない今、心落ち着かない彼女に伝えることでないことはわかっている。
セレスにもまだきちんと俺の気持ちを伝えられていない。

今ここで彼女に気持ちを伝えてしまうのは、セレスにもルイーズにも不誠実だ。

俺は意識的に深く呼吸を繰り返し、衝動に駆られそうになる自分を抑える。

ようやく幾分気持ちが落ち着き、ルイーズを抱きしめる力を緩めた。
身体を離し、彼女の両腕を掴み、真っ直ぐに見据える。

「ありがとうルイーズ」

必死に感情を抑え込み、それでも感謝を伝える。
その瞬間。
彼女の顔色が一気に引いていく。
そして慌てて俺から顔を逸らすと、立ち上がってハンカチを拾い上げた。

「帰りましょうか」

明るく言ったつもりだろう声が震えを帯びている。

瞬時に後悔が襲ってくる。
彼女に取り繕った表情を見せてしまった──。
悪感情ではない。けれど取り繕ったそれが彼女にどんな思いを抱かせたのか…。

俺に背を向けて歩き出す彼女に手を伸ばすが、引き留めようとしたその手を下ろし、俺は「ああ」と短く返事を返した。





馬車に乗ると、ルイーズは沈黙に耐えられなかったのか、移動に疲れたのか、すぐに寝てしまった。
馬車の揺れで彼女が倒れ込まないよう、自分にもたれかけさせ、肩を抱き支える。

時々触れる髪が柔らかく俺の頬を撫でる。
見下ろせば、先程絶望したように顔色を失くした姿とはかけ離れた、綺麗な寝顔がそこにある。

「…すまなかったルイーズ…」
お前を傷つけるつもりはなかったのに。

小さく息を吐き、抱き寄せる手に力を込める。





やがて馬車は見慣れた街並みへと辿り着く。
俺は腕の中で眠る彼女に静かに声をかけた。
「着いたぞルイーズ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

処理中です...