逃げ出した先は異世界!二度目の人生は愛と平穏を望む

絆結

文字の大きさ
24 / 60

21.報告 ※本編リアム視点

しおりを挟む
   本編をリアム視点で書いたお話です
────────────────────
「こちらで調べさせていた分の報告書があがってきた。やはりそちらで調べてもらったものと同じ結果だった」

ユージンとケネスを前に、テーブルに報告書を広げる。
広げられた書類に2人は黙って目を通していく。

「この経歴を見る限りでも、随分と野心家のように見て取れますね」
一通り目を通したユージンが書類をテーブルに戻し呟く。
その隣ではケネスが眉間に皺を寄せている。

ルイーズ嬢との会談の後、ユージンとケネスは騎士団にも話を通し、翌日には適当な口実を用意してモーティマー家を訪問してくれた。
それとなくイアンの様子を見、すぐに退散した後、今度は私が騎士団へ足を運んで話し合いをした結果、ルイーズ嬢の言う通り、イアンについて再度調査し直すことになった。

雇い入れる際に簡単な身元調査はしているが、下級貴族であるハンコック家の子息で、過去に他の貴族屋敷でも問題なく侍従を務めていたという報告だった。

だが、今回騎士団からのルートと、モーティマー家からのルート、双方で詳細に辿ってみれば、ハンコック家にも養子に入っており、それ以前にも二度ほど養子縁組をしていた事実が出てきた。
遡ってみれば、8歳当時に転写者としてこちらに来て直ぐに平民家族の養子になっていたことが判った。
転写者であることを隠し、貴族社会に立ち入るために養子縁組を繰り返し、侍従として更に立場の高い貴族屋敷に雇い入れられる。
最終的に狙っていたのは…王宮か?

「それで、イアンをどうされます?現段階では特にこれといって罪になるようなことはありませんよ」
ユージンが書類に視線を投げながら問いかけてくる。

確かにそうだ。
出自を隠すために養子縁組を繰り返していたからといって、それが罪になる訳ではない。
まして、優秀な侍従として出世を望むことも至極当然のことで何ら咎められることはない。

ルイーズ嬢の判断以外に、我々がイアンを危険と判断する要素は何一つない。

私は顎に手を当て、考えを巡らす。
その様子を見ながら、ずっと黙っていたケネスが口を開いた。

「…ルイーズ嬢の判断を裏付けるものが、今の段階では少なすぎます」

少なすぎる、と表現するということは幾つかは信頼に足ると思うものがあるのだろうが、ケネスにしてみれば、ルイーズ嬢もまだ信頼しきれるものではないということだろう。

「確かに。それはそうなのだが…。私はどうしても、あの"人を見る目"を傍に置きたいんだ。…クリスのために」
私の言葉に、ユージとケネスの目が僅か驚きを孕む。
「その為には、私が彼女を信用していることを示さなければならない」
私の意図を汲んだ2人は黙り込み、真剣に考える様子を見せる。

「…罠を張るしかないでしょうね」
ケネスが書類を睨みつけながら言う。
「そうなると、ルイーズ嬢も巻き込まざるを得なくなりますね。多少危険がありますが」
ユージンが困ったように、首裏を掻きながらケネスに続く。

「そうなれば、ジェイクも巻き込むしかないだろうな」
ケネスが相槌を打つ。
相変わらずの相棒ぶりで、お互いの考えが分かっている様子で話がすすんでいく。
お互いに顔を見合わせた後に、ユージンが私へ向き直る。

「リアム様。この話に参加させたい騎士を一名と、ルイーズ嬢に声をかけて、再度話し合いの場を設けたいと思います。その折には騎士団長も。そのように進めさせていただいてもよろしいですか?」
「ああ。頼む」
私が短く答えると、ユージンは「かしこまりました」と答え、再度ケネスへと視線を送った。
それを受け、ケネスが頷く。

「最後に一つだけ確認を。リアム様、今回の件は王太子殿下はご存じなのでしょうか?」
ケネスが鋭い視線を寄越し訊ねる。
計画を立てる上で必要な情報ということなのだろう。
「報せてある」
「承知いたしました」
私が端的に答えれば、ケネスもまた短く返事を返し書類を纏め立ち上がった。
それに倣いユージンも立ち上がる。

ソファの横にずれて一礼すると「では早急に手配させていただきます」とユージンが言い、「お送りいたします」とケネスが続ける。

門前には馬車とジーンを待たせてある。
騎士宿舎の応接間であるここから門前まで、送ってもらうほどのものでもないが、立場上ほったらかしにする訳にもいかないのだろう。

いつからだろうな。
爵位の差で彼らと距離があいてしまったのは。
ふと寂しさを感じるが、並んで歩く2人を見て小さく頭を振る。

なにも、関係が途切れた訳ではない。
彼ら2人が騎士として在り続けてくれるなら、私も私の役割を果たさねばならない。
ケネスにユージンが居るように、私はクリスの傍に──。





あの後、ユージンからはすぐに連絡があり、2日後の今日、また騎士宿舎の応接間へと私は足を運んだ。
部屋に入ると、騎士団長のカルヴィン・ジョーンズ、ユージンとケネス、それにルイーズ嬢ともう1人騎士が既に控えていた。

私の視線が順に彼らを巡り、視線が止まるとすかさずユージンが紹介してくれる。
「1番隊の騎士で、ルイーズ嬢の友人です。先日お話したとおり、彼にも協力してもらいます」
「ジェイク・クロフォードです」

ジェイクと名乗る彼は、よく見ると職業紹介所でルイーズ嬢と一緒にいた人物だった。
「リアム・ジョン・モーティマーです」
短く挨拶を済ますと、彼らに席に着くよう促し、私もソファへと腰掛ける。

「ルイーズ嬢。先日断られたにもかかわらず、またこのように呼び出してしまって申し訳ありません」
席に着き、まずはルイーズ嬢へと謝罪を述べる。
彼女は落ち着かない様子で手を重ね握り締め「…いえ」とだけ短く答え俯いてしまった。
次に私は騎士団長に視線を向ける。

「カルヴィン騎士団長、この度はご協力感謝します」
まだ40歳手前でありながら、騎士団長として隊士たちを纏める彼は流石に貫禄がある。
無駄のない引き締まった体に、獰猛な目つきは熊を連想させる。
「いえ。我々を信頼していただき光栄です。リアム様のお役に立てるよう尽力いたします」
「よろしくお願いします」

挨拶が済むのを待って、ユージンが口を開く。
「では、まず現在までの状況を説明させていただきます」
それに合わせて、ケネスが先日の報告書をテーブルに広げる。

「ルイーズ嬢からご忠告をいただき、騎士団とモーティマー家、それぞれでイアンについて再調査をしました。その結果、彼は8歳児としてこちらへ来た転写者でした。モーティマー家へ雇用される際に出された報告書には下級貴族であるハンコック家の子息とされていましたが、実際はこちらへ来て間もなく平民家庭へ養子に入り、そこから更に二度養子縁組をしてハンコック家へ入っています。侍従として幾つかの屋敷に仕え、優秀であるとの推薦を受けてモーティマー家へ雇用されました」

そこで一旦言葉を切ってルイーズ嬢へ視線を向ける。

「素性を隠そうとしていた点は窺い知れますが、これについては転写者のこの国での雇用状況などを鑑みれば、特におかしなことでもなく、犯罪に抵触するものでもありません」

ユージンの言葉にカルヴィン騎士団長が大きく頷く。

「また、その経緯から大きな野心を持っているようには取れますが、それについても、特に咎めを受けるようなことでもありません」

淡々と語るユージンの言葉を誰もが黙って聴き入っている。

「つまり。現状として、ルイーズ嬢の忠告を入れたとしてもイアンを罰するようなことはできません。そこで──」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

処理中です...