誰かのミライ

ミライ

文字の大きさ
6 / 6

受け継がれる記録

しおりを挟む
一瞬なんの事が分からなかった

いや、もちろん通夜の意味も
誰が亡くなったかも
分からない訳がない

俺はもう1度、席に戻り
その内容を確認していた

読んで成長を字を通して
感じてたあの男の子の死を

信じたくはなかった

何があった?
どうしてだ?

赤の他人の日記

それは俺にとっては
知らない人で
顔も声も知らない

ただ優しい良い子で
なんのひねりもない

本当にただの一般人のはずだが

ほんの少しでも
興味を持って触れてしまった
この子の人生を記したページに

もう他人事では、なくなっていた


「この日記を貰ったので
少しだけ書きたいと思います」

「本当のお兄ちゃんじゃなかったけど
私にとっては良いお兄ちゃんでした」

「あの日もお兄ちゃんは
いつも通りで
いつものようにバカみたいに笑顔で
家を出ました」


少しずつ震えてくる文字に
必死に書こうとしてる姿が見える

もちろん、わざわざ死んだの人の事を
その人の日記に書くことなんてないし

辛い時に無理して書く事はないだろう

余計に"バカみたいに"と書いてる所から
強がってるのも分かる


「子供をかばって
車にひかれたよう です」

「こどもは ぶじで でも
お兄ちゃんは 打ちどころが
わるくて    」


感情を抑えるのが限界に達している
震えすぎて
読みづらいが

その分、悲しいと言う気持ちが
伝わってくる

それだけお兄ちゃんの事が大好きだったのか


「すぐに 病 んに 
運ばれまし  が     
 だ  した      」


涙で滲んだ文字は読めないが
書いている事はわかる

なぜ、こうしてまでも書いてるのか

これも俺の勝手な推測だが

幼稚園?保育園?の時から
捨てずに持っていて
たまにだったけど

書き続けた思い出の品だからだろう

ほとんどの人は
そんな昔の日記帳を持ち続ける事

継続して捨てずに持ち続けるのは
最低でも中学から高校に入ってからの物だと思う

俺も学生時代の書いた事ある日記を見せてと
言われたとしても

既に捨てているだろうな……

濡れたページはくっついていて
上手くページをめくれなかった

気になって
次のページに行きたいが
無理にめくると破れてしまう

仕方がないから
自然とめくれるページまで

先に進む事にした


「お兄ちゃんへ
今日はお兄ちゃんの好きなハンバーグを
作ったよ
昔みたいな失敗もしてないから
安心して食べてね」

「お兄ちゃんへ
あたる君のバイトが決まったらしいよ
面接に10件も落ちて、やっとだって
うどん屋さんらしいけど
元気はあるから大丈夫だと思うよ」

「お兄ちゃんへ
お母さんがお父さんに隠れて
また変なダイエット器具買ってた」

「お父さんも呆れてると思ったら
お父さんの方がハマっちゃって」

「なかなか貸してくれないって
笑っちゃった」


日記と言うより
手紙のような内容に変わっていた

平凡な日常を
遠くに行ってしまった人に
手紙で伝えるように

そして
俺はその手紙を
受け取っている

お兄ちゃんの気持ちになっていた

向こう手紙の中では上手くいってるんだな

俺がいなくなって
いつまでも悲しんでいると困るしな……

と、ひと安心して……

いやいや、俺は元々この家族の物語に
出てこないから!と

自分にツッコミを入れる

なんとなく自分の新しい才能(?)を
勝手に感じながら

ページをめくる


「お兄ちゃんへ
明日は卒業式です
私も社会人になります」

「内定も決まってるので
引っ越しもしちゃうんだよ」

「でも手紙だって書くし
電話だってします」

「あ、お兄ちゃんには手紙だよって意味で
あ、いやお兄ちゃんに
電話は電波が届かないし」

「あれ?お父さんお母さんには電話で」


これから始まる新しい自分だけの人生に
かなり緊張しているようだ

自分で書いてて分からなくなってるな

そんな初々しい新社会人の日記

これから先のページには

きっと彼女の物語が
書かれているのだろう

俺はページをめくろうとして気づいた
既にページは最後のページだった

幼い頃から始まった日記は
少年の最初から最後まで記録の断片

数人の友達に
新しい家族の記録がある為

もうこの本に
ページは残されていなかった

もしかして……まだ続きがあるのでは?

本を片手に
元々この日記が刺さっていた本棚を見つめる

もちろんタイトルも作者名も無い
ただの日記帳

誰かの忘れ物の……

いや、きっとこれは寄付された本だろう

もちろん寄付される予定では無い本

古い本など書物は
時に一般家庭から寄付される

それも多くの本があったならば
ダンボールでまとめて送られる事も

もちろん
この手の物は間違って入ってましたと
返品されるだろうが

たまたま紛れ込んで
たまたま本棚に並べられたのだろう

そんな本に続きなど
あるわけがない

最低でもこの本棚に
この図書館に……

俺は諦めて
本を本棚になおそうとした

すると1人の子供が俺の足にぶつかった


ドンッとぶつかった拍子に本をまた落とす


尻もちをついて
「あいたた~」と言う少年は
「ごめんなさい!」と言うと
走り去る

その少年が走って来た方から
「待ちなさい!」と
追いかけてくる女性の姿

ここの管理をしている司書さんだ

「申し訳ありません」
頭を下げてくる彼女に
「いやいや、大丈夫ですよ」
と言うと

「私の息子なんです」
と恥ずかしそうに言う

司書さん息子さんが
図書館で走りまくるとは

まぁまぁ面白い話だ

女性は少年に向かって
「タケル!!大人しくしなさい!!」
と叫ぶ


すると少年は振り返って
「わが名はアクロス!誰にも
とめられはしない!」

と笑いながらまた走り去ってしまった


……ん?どこかで聞いたような……?
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.12 花雨

作品登録しときますね(^^)

2021.08.12 ミライ

あ、ありがとうございますっす!頑張りますっす!♪

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。