前世で極道の若頭だった俺が転生したら悪役令嬢だったので、取り敢えず処刑される直前だった死に行く運命のメインヒロインを救ってみた件

奈歩梨

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第一章〜幼年期編〜

正義と悪

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「クソッ、ちょこまかと…!」
「何で当たらねぇ…!」

 大振りに振るわれる金棒を最小の動きで容易く躱し、一直線に飛ぶ銃弾に髪すら掠めさせぬ足取りで躱すアンナを、苦虫でも噛み潰したような顔で睨む二人に双眸を綴じる。


「…無駄ですよ、その程度の力量では私には掠りもしません」

「なめやが…っ、何しやがる!」
「アニキこそ、ちゃんと狙えよ!?」

 巨体が災いし、弟であるドゥーエが兄であるウーノの肩に金棒を掠めさせ、ウーノの銃弾により仕留め切れない事を苛立ちながら語るドゥーエにウーノは怒る。

 突然降って湧いたような彼等ではあるが、彼等の名誉の為に述べるのであれば、彼等の戦闘力は2対1という変則的なものにはなるが、マトモに相手取ればAランク騎士でも苦戦する程ではある。


「…何より、私には貴方達が知覚していないであろうものをそれこそ、手に取るように感じられていますから───」

 つまり、前世の技能を扱えているとはいえ、アンナの成長速度は“異常”とも言える訳ではあるが…優れた指導者が5人もついていれば彼等が圧倒されるのも詮無き事と言えるだろう。

◆❖◇◇❖◆

 時は少し遡り3日前のある日。
 アンナはリンとの授業の為に訓練所で互いに星武器とフィールドを展開しながら斬り結び合っていた。


「アンナ様。レイとハクからの指導を通しアンナ様には生命エネルギーである氣と精神エネルギーである魔力の違いと、それ等の研鑽という技術を学んで頂きましたが、それはアンナ様が持つ力が一般的な星騎士の力量を逸脱している事に由来します」


「…なるほど、確かに破壊力だけを取っても規格外の力を持っていますしね、強い力を制御するのは道理ですね」


 リンの言葉に小さく頷くアンナ、強過ぎる力を従前に扱える様になるには、力を無闇に振るうよりも力のコントロールの類を指導した方が良い。理に適った指導方針ではあるが、問題はアンナの成長速度が早過ぎるという点である。
  無論、その成長速度を見越した上で指導方法を新たに提示するのはリン達5人の役割だ、そしてアンナもその5人を信じるが故にリンの言葉に耳を傾ける。


「はい、更に言うならば神槍の影響かは不明ですがアンナ様は雷系、Aランクに区別される荷電粒子砲を使用した、とシュリから聞き及んでおります。…本来であれば適性がある者でも十数年の歳月を経て習得出来るかどうか、という術を、です。…アンナ様ならばこの意味が分かるかと」

「…神槍が齎す“進化”の影響ですか…、リン達の意図は分かりました。…それで、今後の方針は如何様に?」

「は、今後はより力のコントロールを学んで頂くように、我々5名との実戦形式の鍛錬に加え、我々5名が指名したある星技を習得して頂きたく」

「ある星技…ですか?」

「はい、…直接お見せした方が宜しいですね────」

「これは…異なる属性の魔法を同時に使用している…?」

「はい、…空間魔法で形成した空間内に、時魔法を用いて触れた物体の“時”を逆行させる…結果、その時間軸からは消失させる。存在そのものを絶無に期す。その技の名は───」

 術理を語るリン、然しその集中力は技の維持に傾けられている。それ程迄にこの技は扱いも難しく本来であれば星騎士となったばかりの者には習得は難しいものであった。

◆❖◇◇❖◆

「…星技・絶掌」

「な、なんなんだこのガキは!?」
「悪魔かこいつ!?」

 再び弾丸を消失させられたウーノとドゥーエの二人からは驚愕の声が上がるが、アンナはそんな二人に問い掛ける。

「…私から見たら何の非もない、この子達を傷付けた貴方達の方が悪魔に見えますが、───楽しいですか?」

「な、なんだと…?」

 アンナの視線は彼等ではなく、エリーを護ろうとし、ウーノとドゥーエに傷付けられた魔物達に向けられていた。


「何の抵抗も出来ない、ただ平穏に暮らしていたこの子達を、魔物というだけで傷付けるのは楽しいですか、と訊いています」

「何言ってんだ御前?魔物は悪「そもそも、悪とはなんですか?」…?」


 アンナの問いに対し意味が分からないと言わんばかりに首を傾げるドゥーエに溜息を吐きながらアンナは尚も言葉を口にする。


「正義や悪とはその立場によって形を変えるもの。ただ、そんな不確かなものにも確かな不文律は存在します」

「「不文律…」」

「──自分より弱くても精一杯生きている心優しい弱者を護り、カタギに自分からは手を出さない事です。今の貴方達は、正直かなりダサいですよ。その持論が正義だとしても、悪だとしても」

「「ッ!!!」」

 二人に走るのは衝撃的な言葉、年端もいかない少女に諭される事よりも、自分達の当たり前が崩される考えと視点であった。
 同時に、魔力の探知が出来るアンナを先行させ自分達は何が起きても対応出来る様に人を呼びに行動していたジャック達が息を荒くしながらエリーに駆け寄る。

「エリー!!」

「ウィリアムお兄様!ヴィルヘルムお兄様!」

「……時間切れです、じきに警察も来るでしょう」

「クソ…っ…」

 たった一人の少女に敗北したウーノとドゥーエ達は、拳を握り締めながら自分達の末路を知り天を仰いだ。


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