前世で極道の若頭だった俺が転生したら悪役令嬢だったので、取り敢えず処刑される直前だった死に行く運命のメインヒロインを救ってみた件

奈歩梨

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第一章〜幼年期編〜

アンナとエステル

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 あれから10分も経たない間に警察官に身柄を拘束されたウーノとドゥーエ兄弟は両腕に拘束用のデバイスを取り付けられた状態で俺達と共に居た。
 というのも、警察を呼びはしたがジャック達は本来事を大きくはしたくないが故に俺達に協力を要請した、今この場に居るのはチェーロ国ではなく、ノワール国の警官達である。


(まぁ、それでもチェーロ国には話は行くだろうけどな…一時的な気休めにしかならないだろ)


「ぅ、ぅ…ディアンテ…っ」

「えり、ぃ…けが、してない……?」

「わたくしは…大丈夫、でもディアンテが…!」
「エリー…っ、誰か、回復系の星騎士は…!」

「…兄貴、分かってんだろ、この傷じゃ…それに魔物を癒そうだなんて奴は…」


 そう、この場には回復系の星騎士は居ない、ディアンテと呼ばれた妖精や魔物達の傷は痛々しく、今直ぐにでも手を打たないと手遅れになるだろう。


「…これが、貴方達が齎した結果です、満足ですか?」

「……お姫さんよ、俺達は天涯孤独の身だぜ?自分達以外どうなろうが関係無いし興味すら持つゆとりがねぇんだよ、物心を抱いてからずっとな」

「なんで……なんで、そんな事が出来るんですか?」

「色々と恵まれたお坊ちゃん、お嬢ちゃんには分からねぇ世界の話だ、言っても分からねぇさ」


(…此奴らも前世の俺と同じ、か)


「…貴方達から見たら10年も生きていない私が何を言っても響かないでしょうが、──自分の人生を投げないで下さい」


 15の頃から、前世でカタギの道を歩かなかった俺だから分かる、…物心つく頃から、不自由を食わされて真っ当に生きていける可能性を潰されても、それでも、手にした武器カードで生きるしかない、という事を。


(…エステルの力を信じてみるか。)

「…エステルさん、力を貸して頂けませんか?」

「私の…ですか?」

「はい、エステルさんの星騎士としての力を借りたいのです」


「…分かりました、アンナ様、何をしたら良いですか?」

 俺の言いたい事を理解したのであろうエステル、互いの同意を得て初めてエステルの星騎士としての力は開花するのを、俺は前世の知識で知っている。

「ありがとうございます、今から時魔法の時間逆行を用いて、この子達の身体を傷を受ける前の状態に戻します。エステルさんには星武器の展開の維持をお願いしたいのです、お願い出来ますか?」


「───はい、アンナ様と二人でなら」

 俺一人では時間を良い塩梅に逆行させるのは難しい、ただ、エステルが星武器の展開を維持してくれるのであれば、細かな微調整は出来る。
 俺とエステルとの間に一種の繋がりが出来たのを感じつつ、俺はウーノとドゥーエへと視線を向ける。



「…どんなにこの世界が理不尽でも、どんなに自分達が不運でも、それでも…貴方達は自分の人生を投げる事だけは、すべきではなかった」

「…っ、…お姫さん…」

「…私達王族は英雄ヒーローではない、…民を生かし、育み、護る国を作るのが王族の役目ですから。…だから、貴方達が犯した罪の一端はこの子達に罰して貰いましょう」

 正直な話、俺が本当に伝えたい事は二人には伝わらないだろう。王族と孤児とでは見てきたもの、触れ合ってきたものは余りにも違い過ぎる。何を言ったとしても、それは持てる者の言葉に過ぎないのだから。

 それでも伝えたいのは、俺が俺だからだろう。

「…あれ?エリー…ボク達怪我をしていたんじゃ…」

「ディアンテ!…良かった…っ、良かったぁ…!」

「…奇跡だ…」



◆❖◇◇❖◆

 あれから一時間後、ディアンテ達を復活させ事情聴取を受けたアンナ達は帰路に着こうとしていた。

「本当に良かったのですか?」

「えぇ、エリーもディアンテ達も罰は望んでいなかったので、寧ろ今日は助けて頂きありがとうございました…アンナ様も、エステルさんも」

「いえ、私は何も…寧ろ全部アンナ様が「それは違いますよ、エステル」…アンナ様」

「エステルが居てくれたから私は安心して魔法を行使出来た、時を操るのは集中力を必要としますから、星武器の展開を維持してくれるだけでも本当に助かりました」

「御前って言葉遣いは兎も角ガサツそうだしなぁ、なっと「ふん!」いってぇ!?何しやがる!」

「ガサツは余計です、…それでは、私はこれで」

「本当にありがとうございました、皆様。後日、御礼をさせてください」
「…その、ありがとよ。またな」

 その場に居る全員に恭しく一礼をするジャックとは対照的に、照れたように笑うウィリアムはアンナの方を見て何故か顔を赤くしていた。

◆❖◇◇❖◆


「…アンナ様…」

星武器を通じて感じたのは、“あの人”の深い悲しみ…世界に対する怒り…自分自身をも対象にした憎しみ。

そして大事な人に対する罪の意識と、それでも前に進もうとする力強さと優しさ。

「……本当に救われたいのは、救われるべきなのは」


 アンナ様、貴方なのですね。


 ───それなら、私が、貴方を…。
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