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第一章〜幼年期編〜
面影
しおりを挟むルドルフとの個人的な対談から翌日、俺は前々から約束していた通りレオナの家にシュリと共に訪れていた。
正直な話、目の前で尻尾を振ってそうな幻視が見える程嬉しそうなレオナには悪いが、将来王族としてこのまま生きるにしろ、ノワール国を追われるにしろ街の立地を知るのは悪い事では無い、という考えから案内の申し出を受けた面は少なからずある。
「御機嫌よう、レオナ。今日はパーティ用のドレスを仕立てるついでに、何処を案内してくれるのでしょう?」
「こんにちは、アンナ様!今日は街でも特に人気のある場所を幾つか紹介しますね!」
「わぁ、シュリちゃんとっても楽しみです~、早速行きましょ~」
「それじゃあお兄ちゃん、行ってきます!」
「あぁ、3人ともお気を付けて」
─────
───
─
「此処は街でも大通りに面していて色んなお店が並んでいます!」
「良いですね、シノギがしやす…こほん、色々なお店が並んでいて興味が引かれます」
「ん~…?まぁ、いっか~」
つい、前世での素が出そうになるのを抑えていたが、それに気付くのはシュリだけでレオナは笑顔で小首を傾げているだけである。
そんな微妙な空気を引き裂くように、小柄な身体が走り抜ける姿と、がっしりとした筋肉質な男、遅れて小太りなおばんが肩で息をしているのを見える。
「誰か!万引きよ!捕まえて…!」
「シュリ、レオナを任せますね」
「は~い、無理はしないでくださいね~」
「アンナ様…!?」
俺には追い掛けて捕まえる義理はないが、あのガチムチは殺気立っていた、ガキ相手に無茶はしないと思いたいが、それは思いたいだけ、だ。自分の目で確かめる迄は見届けた方が安心出来るとばかりにシュリにレオナを任せ、後を追う事にした。
◆❖◇◇❖◆
場所は変わり、辺りは空き瓶や生ゴミが散乱する嫌な匂いが漂う裏路地。
そこにガリガリにやせ細り、髪はボサボサになりながらも、懸命に生きようとする3人の子供達が逃げ込む。
「はぁ…はぁ…此処までくれば…!」
「逃がさねぇぞガキ共!!」
撒いたと思っていたのは3人を確実に捕まえる為に気配を殺し近付いた男の作戦であった。
逸早く気付いたのは赤髪の子であった。
緑髪のエルフ特有の長耳を怯えからぴん、と立たせている少女は、突き飛ばされる事で、助けられた事を逸早く感じ、赤髪の子に腕を伸ばすが、青髪の魔族特有の魔力の高さを、気配として感じさせる少女は男が手に持つ麺棒を見て表情を青ざめている。
やせ細り、空腹に耐えかねて盗みを働いた子供があんなもので殴られたらどうなるか、それを見てきたかのように。
「ち、離せよ!ミモザ!アリス!逃げろ!!」
「「エミル!?」」
「離すわけねぇだろうが!毎回毎回万引きしやがって!今度という今度は勘弁しねぇぞ!」
今にも殴られそうになっているにも関わらず、自分ではなく仲間の身を案じる声。
その声を、嘗ての自分に重ね待ったを掛ける声をあげたのはこの国の王族でもある少女であった。
「待ってください」
「何もんだ、お嬢ちゃんは…?」
訝しげにアンナへと視線を向ける男にゆっくりと近付く彼女は、少女達の方へ視線を向けると穏やかな笑みを浮かべると懐から革製の財布を取り出す。
「私の事よりも、その三人が万引きしたものの代金はお幾らですか?」
「…大体こんなもんだな」
「分かりました、ではこれを」
提示された料金よりも10倍近くの金を渡された事に男は目を見開くが、直ぐに納得したように金を受け取る。
「ッ!…口止め料、って訳かい…小さいのに強かなお嬢ちゃんだ……毎度あり」
「…礼なんか言わねぇぞ、お前が勝手にした事「何を言っているんですか?タダな訳ないでしょう?」…何やらせる気だ、お前」
訝しげに睨む赤髪の子と、その様子を怯えた様子で見詰める6つの視線に対し、アンナはただ穏やかに微笑みながら彼女達の手を取った。
◆❖◇◇❖◆
暫くして、俺は3人を連れてシュリ達と合流していた。
「それで~拾ってきた、と~」
「はい、勿論無給で雇うつもりはありません、最初はメイド見習いとして相応の給金で雇って下さるようにおじい様にも話は通すとします、丁度募集していましたよね?メイド見習いは」
「アンナ様…」
何かを言いたそうにしているレオナ、何が言いたいかは、何となくだが察する事は出来るが…
(…それでも俺は…)
「それは良いんですけど~、多分氷山の一角ですよ~?その子達以外にも万引きで命を繋いでいる子達なんて、それこそ国全体で見たら山のように居ます~」
「分かっています、だけど、今、救える生命が目の前に居るのに手を差し伸べないのも王族として、何より人として有り得ない、そう思いませんか?」
自分でも無理を言っているのは分かる、それでも、俺は俺の“約束”の為に見過ごす事は出来ない。
俺の意を察してか、シュリはそれ以上は何も聞くことは無く、代わりに3人に問う。
「ふむふむ~…で、君達はそれで良いのかな~?」
「私は…二人と一緒なら…」
「私も…」
「…オレは訊きたい事がある」
「何ですか?」
「…お前はオレ等が汚くないのかよ?」
赤髪のガキ…エミルの問いに俺は首を傾げた。
「汚い…ですか、確かにお風呂には入れないといけません「そうじゃねぇ…!」…?」
「私たち…3人とも親が居ないから…」
「…生きてる価値の無いゴミだ、って…」
(……似てるな、俺達の時と)
「…なるほど、なら逆に訊きますが貴女達はゴミなのですか?」
「違う…!」
「違います…」
「違う、よ…?」
小首を傾げながら問い掛ける俺に、3人はほぼ同じタイミングで否定する。
確かに絶望や周りの環境に対する憤りを宿していたが、何よりも生への渇望を感じた。
「なら、私は誰が言ったかも定かではない言葉よりも貴女達三人を信じます。
──貴女達は汚くなんかない、ましてやゴミなんかじゃない。私が貴女達の存在理由になります」
「「「っ…!」」」
あの時の俺達と同じ目をした、このガキ共を受け入れる事こそが、彼奴との約束を果たす一環である、そう覚悟を新たにさせた。
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