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第一章〜幼年期編〜
ユリウスとの対話
しおりを挟む街での用事を済ませ、遊ぶ約束を意図せずして反故にした事をレオナに詫びながら別れた後、エミル、ミモザ、アリスの3人をシュリに先ずは風呂に入れるよう託し、俺は今、執務室で作業をしていたユリウス爺さんと向かい合って座っている。
「お忙しい中失礼します、おじい様」
「構わぬよ、良く顔を見せてくれた。此処最近の御前の日々の過ごし方や活躍は儂の耳にも入ってきておる。取り敢えず、楽にしなさい」
「ありがとうございます、おじい様。…今日は我儘を言いに来ました」
「我儘…?まさかとは思うがパーティに出たくない、ということかな?」
こういう堅苦しい挨拶は前世の俺は苦手だったが、それは8年間アンナ・ノワールとして生きてきた経験で補う。怪訝そうに眉を寄せるユリウス爺さんは、サンタクロースのような白い髭を弄りながら問うが、俺は直ぐに首を横に振った。
「いいえ、其方には出席したく。その為に今日は友人のドレスを仕立てに行きましたし。余程の事が無い限りはちゃんと出席しますわ、おじい様」
「ふむ、ならばどの様な我儘かな?可能な限り耳は傾けよう」
「ありがとうございます、実は───」
俺としてもパーティに参加する事にはある事を確認する、という意味で参加する意義はある。だが、今は筋を通す為にあの3人を城に置く許可を現国王である爺さんに得る為に街での経緯を説明する事にした。
◆❖◇◇❖◆
「ふむ、つまりその3人を御前のメイド見習いにしたい、と?」
「はい、ダメ…でしょうか?」
「否、構わぬよ。御前にも他者を庇護する自覚を学ぶ機会は必要だろう。だが…」
「…シュリにも言われました、それは氷山の一角である、と。根本的な解決にはならない、という事を」
意外、という事もないが、爺さんからの返事は色良いものであったが、同時に根本的な解決にならない事はシュリにも言われた通りの答えが返ってきた。
「うむ、ノワール国はその特性上、優秀な星騎士を輩出するが星騎士としての能力に乏しい者や親、親戚を亡くした子等には必要最低限の保護施設しか用意出来ていないのが現状。その保護施設も年々手狭になっているのは確かだ」
「でしたら…!「然し、だ」…?」
「儂ももう歳だ、長年国王として民を導いてはきたが今はフリードリヒに政務の一部を委ねている。福祉関係もその一つだな、儂が咎めても良いが…御前にその覚悟はあるか?」
なるほど、一向に代替わりしないとは思ったが、実際は政務の一部を委ねる事で王としての教育をしている最中、といったところか。過保護というよりはこれは寿命が長い竜種の血を受け継いでいるノワールの王族としての弊害でもある訳だな。
だが、将来なんとかするから今を生きる者は諦めて苦しめ、というのは違うだろう。覚悟を問う爺さんの眼をしっかりと見つめながら逆に問いかけ返す。
「……つまり、実の父に意見する覚悟、ですか?」
「うむ、子が親に意見するというのは中々に大変だ、時に確執を生むこともあろう」
「……それでも私は、彼女達の様な放ってはおけません」
そう、放って置く訳には行かないんだ。俺が俺で居る限りは。
現世での親に不満はない、前世がろくでもなかった、というのはあるが今は愛されている自覚はある。
だからこそ、そんなまともな親が間違っている道に歩みそうなら子である俺が止めるのが筋ってものだ。
「ふむ、……で、あればユイ様にも相談してみるが良いだろう。彼の御方ならば儂よりも穏便に事を収めることも出来ようて」
「ユイ様、ですか。ありがとうございます、おじい様。ユイ様は今は何方に?」
「ユイ様は今、この国には居らぬでな。パーティには出席するとの事だからその時にでもお話してみると良いだろう」
ユイ様、か…ゲームには出てこなかったがとある団体の頭を張ってるんだったか、確か。…改めて思うが王族、貴族っていうのは大変だな。
「そうですか…、分かりました。そうさせて頂きます。お時間ありがとうございました、おじい様」
◆❖◇◇❖◆
執務室での対談を終え、俺は自室にてシチューとパンにありついている3人を眺めていた。
食堂で食わせる事も考えたが、3人が俺と離れる事を拒んだ為である。
「うんめぇ~っ!」
「美味しいですぅ…」
「……っ!」
パクパク、もぐもぐとがっついて食べてる様子は見ていて“彼奴”を思い出す。
それが理由かどうかは知らないが、俺の声も穏やかになっているのを感じた。
「誰も盗ったりしないのでゆっくり食べてください…シュリ、エミル達におかわりをあげてください」
「はーい」
「ぐす…っ…ほんと、うめぇなぁ…」
「ぅ、ぅ…っ」
「エミル、ミモザも…な、泣かないで…っ…」
きっと、暖かな食事なんてここ最近食ってなかったんだろう、涙を流しながらパンを頬張る3人の頭を撫でながら無意識に俺は呟いていた。
「……此処には貴女達を傷付けるものは居ません、私が見ている限り…貴女達は私が護ります」
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