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三年生 やきもち
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「こんちは」
「あら。 こんにちは」
放課後、いつもの場所、保健室。
いつもは、私だけの場所。
今日はそこに、知らない子。 上履きの色、緑。 一年生だ。 ベッドに腰掛けている。 私に、ペコっとする。
「今日、どうかしましたか」
よそ行きの声の、先生。 なによ。
「どうもしませんけど。 先生、暇かなと思って。 忙しそうだから、帰る」
調理実習で作ったクッキー、一緒に食べようと思ったのに。 忙しいなら、知らない。
「あれ? 帰ったんかと思った」
教室には、ケイがいた。 一人で、漫画を読んでる。
「今日は、デートじゃないんか」
「忙しいんだってさ」
私も、椅子に座る。 水筒のお茶を飲む。
「きらい」
「どしたん。 喧嘩?」
「ほんとは、忙しくないくせに。 忙しいふりする」
「うーん、社会人だからなぁ…。 ほんとに、忙しいのかもよ」
「なんか、若い子とお喋りしてる感じだった」
「ふぁっ… それは… んん…? 私達より若い子ってこと…?」
いけない。 これでは、私の架空の彼氏(三十歳前後)が、十八歳より若い女に粉かけようとしてる、ヤバい奴だと思われてしまう。
「えと、そうではない(そうだけど)」
「彼氏より若い、ってことか。 まぁでも… 会社の人とか、付き合いとか、あるんじゃない。 知らんけど」
私は唇をとんがらす。
「夕陽みたいに、めちゃめちゃ愛されてても、やきもち焼いちゃうんだ」
「めちゃめちゃ愛されてるかどうか、分かんないし。 かわいい子、いっぱいいるかもしんないし…」
これ、やきもちだったのか。
先生が他の先生と喋ってる、これは、気にならない。
他の子と喋ってるのは、ちょっと嫌。
今日は、知らない子と、二人きりだった。 これは、かなり、嫌。
「口、とんがってるよ。 お菓子食べる?」
ケイは、いつもバッグにお菓子を入れてる。
「食べる」
チョコプレッツェルの箱を、開けてくれる。
「楽しそうね、先生も、混ぜて」
「うわっ!」
「先生だ。 めずらし」
何で? 先生、私たちの教室に。
先生は、近くの椅子を引き摺って、脚を組んで座る。
「あたし、先生って保健室から出ない人かと思ってた」
「お散歩の気分だったの。 そうしたら、ここで楽しそうにしているから」
先生は、細長いお菓子を一本、つまむ。
「ゆっくりして、いいんですか。 先生なのに」
私は、意地悪を言ってしまう。
「いいじゃん、一緒にお菓子食べよ、先生」
「すてきね。 仲良しさん。 受験勉強、進んでる?」
先生は、ケイと私の手の上に、自分の手を乗せる。 私だけ、手がびくっとする。 先生は、ちら、とそこを見る。
「ふつう。 まあ、推薦狙いだし。 夕陽は、なんか、すごい頑張ってるよね。 中間テスト、英語、二十三番だったし。 二年の最後の期末、何番だったんだっけ? 先生に教えてあげなよ」
「二百四十人中、二百二十五番だよ…。 うち、国立受からないと、大学行かせてもらえないから。 しょうがないから、やってる」
偉いなあ。 と、ケイは言う。 こないだ聞いてみたら、お家は歯医者さんだった。 お金持ちのはずだ。 余裕が違う。
「ごぼう抜きね。 頑張り屋さん」
だって、先生が教えてくれるから。 分からないところ、分かるまで。 キス、くれながら。
「ご褒美」
とんがってる口に、お菓子を差される。 私は、すぐに食べちゃう。
「なんか、カップルみたい。 先生、あたしにも」
ケイでも、先生は貸せない。 私がお菓子を差してあげる。
「えへへ。 夕陽でもいいや」
楽しくお菓子を食べたら、解散する。 私とケイは、校門でバイバイ。 忘れ物をしたふりをして、私は駐車場でメールして、先生を待つ。
三十分くらい経って、先生が来る。
「お待たせ」
「ぜんぜん…。 ケータイで、暗記のやつやってたから」
ほっぺに、ちゅっとしてくれる。 まだ、駐車場…。
「乗って。 お家の近くまで、送るわ」
「あんまり、やきもち焼くから。 先生、びっくりしましたよ」
「だって。 知らない子と二人きり、いやだもん。 変なこと、するかもしれないし。 されちゃうかもしれないし」
「しませんよ。 あなたにしか」
そうやって、喜ばせようとして。
「もう笑った」
「わ、笑ってないもん。 先生の、浮気者」
運転席の先生の左手は、助手席の私の右手に重なる。
「やきもち焼いちゃうの、自分でも、やだな…。 みんなの先生なのに。 ばかだね。 ごめんなさい」
「妬くのは、いいのよ。 でも、他の子に意地悪しては、だめよ。 それに、ちっともばかじゃないわ」
ちっともばかじゃないって。 子ども扱いで褒めてくれるの、時々、すごく嬉しい。
「あのね、調理実習で作ったクッキー、一緒に食べたかったの。 先生、もらってくれる?」
「まあ。 いいの? 今日は遅いから、明後日、土曜日に家で一緒に食べましょう。 予定、ない?」
予定なんて、ないよ。 私の予定は、先生だけ。
「予定、今できた。 土曜日は勉強して、その後いっぱいえっちする」
「まぁ。 素敵ね。 独り占め、してちょうだいね。 私を」
そう言って、先生は重ねた手を、やさしく撫でてくれた。
「あら。 こんにちは」
放課後、いつもの場所、保健室。
いつもは、私だけの場所。
今日はそこに、知らない子。 上履きの色、緑。 一年生だ。 ベッドに腰掛けている。 私に、ペコっとする。
「今日、どうかしましたか」
よそ行きの声の、先生。 なによ。
「どうもしませんけど。 先生、暇かなと思って。 忙しそうだから、帰る」
調理実習で作ったクッキー、一緒に食べようと思ったのに。 忙しいなら、知らない。
「あれ? 帰ったんかと思った」
教室には、ケイがいた。 一人で、漫画を読んでる。
「今日は、デートじゃないんか」
「忙しいんだってさ」
私も、椅子に座る。 水筒のお茶を飲む。
「きらい」
「どしたん。 喧嘩?」
「ほんとは、忙しくないくせに。 忙しいふりする」
「うーん、社会人だからなぁ…。 ほんとに、忙しいのかもよ」
「なんか、若い子とお喋りしてる感じだった」
「ふぁっ… それは… んん…? 私達より若い子ってこと…?」
いけない。 これでは、私の架空の彼氏(三十歳前後)が、十八歳より若い女に粉かけようとしてる、ヤバい奴だと思われてしまう。
「えと、そうではない(そうだけど)」
「彼氏より若い、ってことか。 まぁでも… 会社の人とか、付き合いとか、あるんじゃない。 知らんけど」
私は唇をとんがらす。
「夕陽みたいに、めちゃめちゃ愛されてても、やきもち焼いちゃうんだ」
「めちゃめちゃ愛されてるかどうか、分かんないし。 かわいい子、いっぱいいるかもしんないし…」
これ、やきもちだったのか。
先生が他の先生と喋ってる、これは、気にならない。
他の子と喋ってるのは、ちょっと嫌。
今日は、知らない子と、二人きりだった。 これは、かなり、嫌。
「口、とんがってるよ。 お菓子食べる?」
ケイは、いつもバッグにお菓子を入れてる。
「食べる」
チョコプレッツェルの箱を、開けてくれる。
「楽しそうね、先生も、混ぜて」
「うわっ!」
「先生だ。 めずらし」
何で? 先生、私たちの教室に。
先生は、近くの椅子を引き摺って、脚を組んで座る。
「あたし、先生って保健室から出ない人かと思ってた」
「お散歩の気分だったの。 そうしたら、ここで楽しそうにしているから」
先生は、細長いお菓子を一本、つまむ。
「ゆっくりして、いいんですか。 先生なのに」
私は、意地悪を言ってしまう。
「いいじゃん、一緒にお菓子食べよ、先生」
「すてきね。 仲良しさん。 受験勉強、進んでる?」
先生は、ケイと私の手の上に、自分の手を乗せる。 私だけ、手がびくっとする。 先生は、ちら、とそこを見る。
「ふつう。 まあ、推薦狙いだし。 夕陽は、なんか、すごい頑張ってるよね。 中間テスト、英語、二十三番だったし。 二年の最後の期末、何番だったんだっけ? 先生に教えてあげなよ」
「二百四十人中、二百二十五番だよ…。 うち、国立受からないと、大学行かせてもらえないから。 しょうがないから、やってる」
偉いなあ。 と、ケイは言う。 こないだ聞いてみたら、お家は歯医者さんだった。 お金持ちのはずだ。 余裕が違う。
「ごぼう抜きね。 頑張り屋さん」
だって、先生が教えてくれるから。 分からないところ、分かるまで。 キス、くれながら。
「ご褒美」
とんがってる口に、お菓子を差される。 私は、すぐに食べちゃう。
「なんか、カップルみたい。 先生、あたしにも」
ケイでも、先生は貸せない。 私がお菓子を差してあげる。
「えへへ。 夕陽でもいいや」
楽しくお菓子を食べたら、解散する。 私とケイは、校門でバイバイ。 忘れ物をしたふりをして、私は駐車場でメールして、先生を待つ。
三十分くらい経って、先生が来る。
「お待たせ」
「ぜんぜん…。 ケータイで、暗記のやつやってたから」
ほっぺに、ちゅっとしてくれる。 まだ、駐車場…。
「乗って。 お家の近くまで、送るわ」
「あんまり、やきもち焼くから。 先生、びっくりしましたよ」
「だって。 知らない子と二人きり、いやだもん。 変なこと、するかもしれないし。 されちゃうかもしれないし」
「しませんよ。 あなたにしか」
そうやって、喜ばせようとして。
「もう笑った」
「わ、笑ってないもん。 先生の、浮気者」
運転席の先生の左手は、助手席の私の右手に重なる。
「やきもち焼いちゃうの、自分でも、やだな…。 みんなの先生なのに。 ばかだね。 ごめんなさい」
「妬くのは、いいのよ。 でも、他の子に意地悪しては、だめよ。 それに、ちっともばかじゃないわ」
ちっともばかじゃないって。 子ども扱いで褒めてくれるの、時々、すごく嬉しい。
「あのね、調理実習で作ったクッキー、一緒に食べたかったの。 先生、もらってくれる?」
「まあ。 いいの? 今日は遅いから、明後日、土曜日に家で一緒に食べましょう。 予定、ない?」
予定なんて、ないよ。 私の予定は、先生だけ。
「予定、今できた。 土曜日は勉強して、その後いっぱいえっちする」
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