保健室 三年生

下野 みかも

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三年生 卒業式

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 ほとんど、三年振り。 通学路を、ママと一緒に歩くのは。
 今日は、卒業式。 天気は、すっごくいい。 日頃の行い……。 なんちて。
 駅で合流したケイとケイママも、一緒に歩く。
「夕陽、カワイイねぇ。 ケイティと違うカワイさだね」
「ママさぁ、声でかいよ。 ただでさえ着物、目立つのに」
「あっはっは。 ほんと、着物、すごいね! ケイちゃんママ。 紫だし、めっちゃラメ入ってるし!」
 とっても目立つ、騒がしい集団になってる。 ママとケイママは何だか気が合うみたいで、今日初めて会って、すぐに連絡先を交換した。
「夕陽が考えてること、当ててあげよっか」
 ケイは、遅れて歩く私と歩調を合わせる。
「なんでしょうか。 分かる?」
「分かるさ! 先生、どんな格好かな……でしょ?」
「当たり」
 袴はいてくるのは、知ってる。 何色かな。 絶対、すっごくきれい。 楽しみだな。
「夕陽、顔、にやけてるよ」
「えっ? えへへ……。 にやけてないよ……」
 肘で、うりうりされる。 ケイも今日は髪をぐりんぐりんに巻いて、気合いが入ってる(多分、校則違反)。


「おはようございます」
「おはよう」
「おはようございまーす」
 いつもより、とっても賑やかな朝。 私達三年生も、皆のパパやママ達も、嬉しそう。
 校門には、担任の先生達が立っている。 それに、おりえちゃんも。
 先生も、すぐに私に気付いてくれる。 私は、腰の辺りで小さく手を振る。 先生は胸の辺りで、きちんと手を振ってくれる。
 先生。 薄いオレンジ色の着物に、紫の袴。 すっごく、すっごくかわいい。 髪はアップにして、いつもと違って、でもいつもみたいに、一番きれい。
 私は嬉しくて、恥ずかしくて、ケイを見る。
「ど……どうしよ」
「どうもせん。 写真、撮ってあげるよ。 列に並びな」
 そう。 よく見たら、先生の前には、写真を撮りたい子達で、十人くらいの列ができている。
「ほれ、夕陽ちゃん、ぐいっと行っちゃえ。 あんた達、あたしの女に何すんの、的なさ……」
「ママ。 ほんと、ほんとに、やめて」


 ちゃんと順番待ちをして、私の番。 恥ずかしくて先生の顔、見られない。
「ご卒業、おめでとう」
 いつもの声。 先生の、ハスキーな、やさしい声。
「あ……ありがとうございます」
 上目遣いに、先生を見る。 にこにこして、笑うほっぺた。 チークがきらきらして、先生その人が発光してるみたいに、本当にきれい。
「まず、朝の一枚。 後でも、また撮りましょう」
「えっ……。 う、うん。 また撮っていいの?」
「ほら、朝一番だと、卒業生のコサージュがまだ付いていないでしょ」
 あっ。 本当だ。 受付を済ませた子達は、薄いピンクの桜のコサージュを付けている。
「私、人気みたいだから、また並ぶようだけど」
「えへ……。 知ってる。 先生、一番かわいいから。 卒業した後は独り占めだから、今日は、皆と一緒に並んで待てる」
「いい子ね。 じゃあまた、式の後に」
 ケイは、喋ってる間も、パシパシ写真を撮ってくれた。 後から送ってもらった写真は、先生はきらきらきれいで、私の顔は、全部間抜けににやにやしてた。




 卒業式は、つつがなく終わった。 式の間も、先生の方ばかり、見ちゃった。 おすまししてる先生の顔、きっと今日で見納め。 瞼に、焼き付けた。
 卒業アルバムには、担任や、試験対策をたくさんやってくれた先生達に、一応一言ずつ、書いて貰った。 おりえちゃんからだけじゃ、あからさますぎるから。
 そして、ケイと一緒に、保健室に向かう。 いつも静かな保健室は、今日だけは、先生と一緒に写真を撮りたい子や、アルバムに一言貰いたい子達でいっぱいだった。
「先生、すごい、めちゃめちゃきれい」
「ふふ。 ありがとう」
「先生……。 もっとお話したかったです……」
「そうね、いつでも、お喋りしにいらっしゃい」
「先生、ほっぺにチューして」
「まあ。 それはだめよ」
 ケイは、あくびをしてる。 私はまた、いい子で順番を待つ。
 順番が、回って来た。
「先生……。 アルバム、ひとこと、ください」
 卒業アルバムの最後のページ、何も書いてないところに、メッセージをもらいたくて。
「ふふ。 おめでとう。 頑張り屋さん」
 先生はそう言いながら、ペンで書いてくれた。 「大好き 織江」って。 誰にも見られてないか、すっごくどきどきした。 また夜、お祝いね、って小さな声で約束してから、保健室を後にする。


「見て。 これ。 おみくじかよ」
 帰りの電車の中で、見せてくれる。 ケイも、一応書いてもらってた。 先生からのメッセージは「ふつう 織江」。
「信じらんない。 変な先生。 他の子、なんて書いてもらったんだろう……」
 ケイは、ぶちぶち言っている。 悪いけど、めちゃめちゃ笑ってしまった。


 駅に着く。 ケイの家は駅の近くで、私のマンションは、自転車でちょっとある。
「またね。 夕陽。 受験の結果……  どうなっても、一応、教えて」
「うん。 聞いてね。 ケイも、引っ越しの時、教えて。 手伝いたい」
「ありがと」
 ママ達も、向こうでお喋りしてる。 ケイは、私の両手をぎゅっと握る。 
「あたし、彼氏とか、何となくずっといたし。 英梨ちゃんとも、付き合ってるし。 友達って、別にいてもいなくても、いいと思ってた。 三年になって、夕陽と仲良くなって、良かった。 ほんとに。 ありがとう」
 私も、ぎゅっと握り返す。
「私も……。 ケイが話し掛けてくれて、仲良くなれて、学校、楽しかった。 友達になってくれて、ありがとう」
「あたしたち、女の子と付き合ってる同士だもんね。 離れても、ずっと親友だよ。 ほんとに。 ほんとにさ」
 ケイ、泣いてる。 私も、泣いてる。
「そうだよね。 ずーっとずっと、親友。 ケイ、大好き。 ありがとう」


「ケイちゃん、いい子だね。 ケイちゃんのママも、楽しくて、いい人だ。 夕陽ちゃんはあの女子高に行って、ほんとに良かったね」
 駅前の駐車場から、ママの軽自動車で帰る。 駅でいっぱい泣いて、目と鼻が、痛い。
「先生も、きれいだったね。 夕陽ちゃんは、幸せ者だ」
「うん……」
「夕陽ちゃんが幸せだと、ママも幸せだ。 私たち、幸せ親子だのう」
 わざとふざけて、ママが言う。 ふざけてても、涙声だ。
 私も、ママの方を見たら、きっとまた、泣いちゃうから。 そうだのうと言って、窓の外を、見続けた。
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