魔法香る街へようこそ!

吉野茉莉

文字の大きさ
12 / 16
第三話「街は大騒ぎ!」

第三話「街は大騒ぎ!」3

しおりを挟む
「な、なんだあれ」

 ユーリはカルミナが飛び去って行った先を見ながら自由になった体に血を通わせるように両腕をぐるぐると回している。

「何なんだよあいつ!」

 やり場のない怒りを私たちにぶつけようとしたユーリに、リリーが小さく話す。

「あれは、魔法、使いだわ」

 私もリリーと同じことを思っていた。

 というよりも最初からそうなのではないかと疑っていた。

 考えていたことがその通りのものになっただけだ。

「魔法使いだって? なんだそりゃ、魔法石で飛んでるってことか? もう効果もないはずなのに?」

「いいえ、魔法使いは、私たちの知っている魔法の原形になった本物の魔法を使う人たちよ。魔法石の魔法は、彼らに比べたらおもちゃみたいなものだわ」

 リリーの説明にあまり納得をしていないユーリが首を傾げている。

「でも、だったらなんでそんなやつがいるんだよ」

「それはわからないけど、彼が魔法使いだってことは事実だわ」

「私もそう思う」

「ニーナまでなにを」

 二人に見つめられて、ユーリは少し時間を置いたあとやれやれと手を振った。

「わかった、それは信じるよ。信じなきゃしょうがないんだろ。じゃあこれはあいつのせいか?」

「いいえ、たぶん違うと思う。彼はこの街について何かを知っているみたいだったけれど、それを止めるつもりだったみたい」

「あいつの言い分を信じればな。それで、二人はどうするつもりなんだ?」

「え? どうするって?」

「だから、あいつは街から離れろって言ってたろ。何をするつもりか知らないけどこのままここにいていいわけない。逃げるか?」

「でも、それじゃあ」

 街のみんなを見捨てることになるかもしれない。

 まだほとんどの人は、いつもの魔法の残り香が大げさになっただけだと思っている。

 だから慌ててはいるものの、肝心なところで危機感がなく逃げようなんて思っていないはずだ。

「ユーリは?」

「俺は、あいつのあとを追う」

 真っ直ぐに見返して、ユーリが真剣な声で答える。

「だって、カルミナが」

「たぶん、教会の塔だ」

 はっきりと告げたユーリの力強い言葉に、リリーが肩をふるわせた気がした。

「塔の時計がおかしくなったのが、元々の始まりだったんだ。あいつの飛んで行った先も街の中央だ。俺にはそうとしか思えない」

「でも、行ったって……」

「ここは、俺たちの街だ。俺たちが放っておいていいわけないだろ。何ができるか、じゃない。行かなきゃいけないんだ。そうじゃないのか?」

「……そうかも」

 ユーリの言うことはもっともだ。

 カルミナが何をするつもりかはさっぱりわからないけれど、彼に任せて私たちは逃げるだけなんてしていいわけがない。

 好き嫌いではない、ここは私の街だ。

 私が生まれて、育ってきて、これからもずっと生きていこうと思っている街だ。

 その街が壊れていくのを見過ごせるなんて、できない。

「そうだろ、じゃあ行くぞ、ニーナ、リリー」

「……いや」

「リリー」

 ドアへ向かおうとした私とユーリに拒否をする。

「どうしてもっていうなら、あなたたちだけで行ってちょうだい」

「何言ってるんだ、リリー」

「いやよ、私は行かないわ」

 彼女は魔法石をぎゅっと大切そうに胸に抱いていた。

「リリー、その石、ひょっとして」

 驚いたような、困ったような顔で、リリーが私を見る。

「……塔にあったのね」

 リリーはじっとしているだけで、否定も肯定もしなかった。

「何だって? ていうか、リリー、なんだよそれ」

 初めて見た魔法石を指差してユーリがリリーに問いただす。

「こないだ、塔の最上階まで登ったときに上から落ちてきて……私、あそこまで登って街を見るのが好きだから……」

 弱々しく答える。

「最上階? 時計があるところか。何度か行ってるけど、そんなものは見たこともないぞ」

「でも、本当だから」

「どうして、鉱山で拾ったなんて嘘ついたの?」

「だって……」

 そこから先は消え入りそうで、聴きとれなかった。

「もうどうでもいいだろ。あいつは何かを知っていて、その石を欲しがっていた。それだけで理由だろ」

「でも、無理に持っていかなかったわ!」

「リリー、どうしても行きたくないっていうならその石を渡してくれ。俺とニーナだけで行くから、リリーは家に戻って家族を連れて街の外へ逃げてくれ」

 手を伸ばすユーリに、ぶんぶんと彼女は大きく首を横に振って意思表示をした。

「……行くわ、私も」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

まほうのマカロン

もちっぱち
絵本
ちいさなおんなのこは 貧しい家庭で暮らしていました。 ある日、おんなのこは森に迷い込み、 優しいおばあちゃんに出会います。 おばあちゃんは特別なポットから 美味しいものが出てくる呪文を教え、 おんなのこはわくわくしながら帰宅します。 おうちに戻り、ポットの呪文を唱えると、 驚くべき出来事が待っていました

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

合言葉はサンタクロース~小さな街の小さな奇跡

辻堂安古市
絵本
一人の少女が募金箱に入れた小さな善意が、次々と人から人へと繋がっていきます。 仕事仲間、家族、孤独な老人、そして子供たち。手渡された優しさは街中に広がり、いつしか一つの合言葉が生まれました。 雪の降る寒い街で、人々の心に温かな奇跡が降り積もっていく、優しさの連鎖の物語です。

処理中です...