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第三話「街は大騒ぎ!」
第三話「街は大騒ぎ!」3
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「な、なんだあれ」
ユーリはカルミナが飛び去って行った先を見ながら自由になった体に血を通わせるように両腕をぐるぐると回している。
「何なんだよあいつ!」
やり場のない怒りを私たちにぶつけようとしたユーリに、リリーが小さく話す。
「あれは、魔法、使いだわ」
私もリリーと同じことを思っていた。
というよりも最初からそうなのではないかと疑っていた。
考えていたことがその通りのものになっただけだ。
「魔法使いだって? なんだそりゃ、魔法石で飛んでるってことか? もう効果もないはずなのに?」
「いいえ、魔法使いは、私たちの知っている魔法の原形になった本物の魔法を使う人たちよ。魔法石の魔法は、彼らに比べたらおもちゃみたいなものだわ」
リリーの説明にあまり納得をしていないユーリが首を傾げている。
「でも、だったらなんでそんなやつがいるんだよ」
「それはわからないけど、彼が魔法使いだってことは事実だわ」
「私もそう思う」
「ニーナまでなにを」
二人に見つめられて、ユーリは少し時間を置いたあとやれやれと手を振った。
「わかった、それは信じるよ。信じなきゃしょうがないんだろ。じゃあこれはあいつのせいか?」
「いいえ、たぶん違うと思う。彼はこの街について何かを知っているみたいだったけれど、それを止めるつもりだったみたい」
「あいつの言い分を信じればな。それで、二人はどうするつもりなんだ?」
「え? どうするって?」
「だから、あいつは街から離れろって言ってたろ。何をするつもりか知らないけどこのままここにいていいわけない。逃げるか?」
「でも、それじゃあ」
街のみんなを見捨てることになるかもしれない。
まだほとんどの人は、いつもの魔法の残り香が大げさになっただけだと思っている。
だから慌ててはいるものの、肝心なところで危機感がなく逃げようなんて思っていないはずだ。
「ユーリは?」
「俺は、あいつのあとを追う」
真っ直ぐに見返して、ユーリが真剣な声で答える。
「だって、カルミナが」
「たぶん、教会の塔だ」
はっきりと告げたユーリの力強い言葉に、リリーが肩をふるわせた気がした。
「塔の時計がおかしくなったのが、元々の始まりだったんだ。あいつの飛んで行った先も街の中央だ。俺にはそうとしか思えない」
「でも、行ったって……」
「ここは、俺たちの街だ。俺たちが放っておいていいわけないだろ。何ができるか、じゃない。行かなきゃいけないんだ。そうじゃないのか?」
「……そうかも」
ユーリの言うことはもっともだ。
カルミナが何をするつもりかはさっぱりわからないけれど、彼に任せて私たちは逃げるだけなんてしていいわけがない。
好き嫌いではない、ここは私の街だ。
私が生まれて、育ってきて、これからもずっと生きていこうと思っている街だ。
その街が壊れていくのを見過ごせるなんて、できない。
「そうだろ、じゃあ行くぞ、ニーナ、リリー」
「……いや」
「リリー」
ドアへ向かおうとした私とユーリに拒否をする。
「どうしてもっていうなら、あなたたちだけで行ってちょうだい」
「何言ってるんだ、リリー」
「いやよ、私は行かないわ」
彼女は魔法石をぎゅっと大切そうに胸に抱いていた。
「リリー、その石、ひょっとして」
驚いたような、困ったような顔で、リリーが私を見る。
「……塔にあったのね」
リリーはじっとしているだけで、否定も肯定もしなかった。
「何だって? ていうか、リリー、なんだよそれ」
初めて見た魔法石を指差してユーリがリリーに問いただす。
「こないだ、塔の最上階まで登ったときに上から落ちてきて……私、あそこまで登って街を見るのが好きだから……」
弱々しく答える。
「最上階? 時計があるところか。何度か行ってるけど、そんなものは見たこともないぞ」
「でも、本当だから」
「どうして、鉱山で拾ったなんて嘘ついたの?」
「だって……」
そこから先は消え入りそうで、聴きとれなかった。
「もうどうでもいいだろ。あいつは何かを知っていて、その石を欲しがっていた。それだけで理由だろ」
「でも、無理に持っていかなかったわ!」
「リリー、どうしても行きたくないっていうならその石を渡してくれ。俺とニーナだけで行くから、リリーは家に戻って家族を連れて街の外へ逃げてくれ」
手を伸ばすユーリに、ぶんぶんと彼女は大きく首を横に振って意思表示をした。
「……行くわ、私も」
ユーリはカルミナが飛び去って行った先を見ながら自由になった体に血を通わせるように両腕をぐるぐると回している。
「何なんだよあいつ!」
やり場のない怒りを私たちにぶつけようとしたユーリに、リリーが小さく話す。
「あれは、魔法、使いだわ」
私もリリーと同じことを思っていた。
というよりも最初からそうなのではないかと疑っていた。
考えていたことがその通りのものになっただけだ。
「魔法使いだって? なんだそりゃ、魔法石で飛んでるってことか? もう効果もないはずなのに?」
「いいえ、魔法使いは、私たちの知っている魔法の原形になった本物の魔法を使う人たちよ。魔法石の魔法は、彼らに比べたらおもちゃみたいなものだわ」
リリーの説明にあまり納得をしていないユーリが首を傾げている。
「でも、だったらなんでそんなやつがいるんだよ」
「それはわからないけど、彼が魔法使いだってことは事実だわ」
「私もそう思う」
「ニーナまでなにを」
二人に見つめられて、ユーリは少し時間を置いたあとやれやれと手を振った。
「わかった、それは信じるよ。信じなきゃしょうがないんだろ。じゃあこれはあいつのせいか?」
「いいえ、たぶん違うと思う。彼はこの街について何かを知っているみたいだったけれど、それを止めるつもりだったみたい」
「あいつの言い分を信じればな。それで、二人はどうするつもりなんだ?」
「え? どうするって?」
「だから、あいつは街から離れろって言ってたろ。何をするつもりか知らないけどこのままここにいていいわけない。逃げるか?」
「でも、それじゃあ」
街のみんなを見捨てることになるかもしれない。
まだほとんどの人は、いつもの魔法の残り香が大げさになっただけだと思っている。
だから慌ててはいるものの、肝心なところで危機感がなく逃げようなんて思っていないはずだ。
「ユーリは?」
「俺は、あいつのあとを追う」
真っ直ぐに見返して、ユーリが真剣な声で答える。
「だって、カルミナが」
「たぶん、教会の塔だ」
はっきりと告げたユーリの力強い言葉に、リリーが肩をふるわせた気がした。
「塔の時計がおかしくなったのが、元々の始まりだったんだ。あいつの飛んで行った先も街の中央だ。俺にはそうとしか思えない」
「でも、行ったって……」
「ここは、俺たちの街だ。俺たちが放っておいていいわけないだろ。何ができるか、じゃない。行かなきゃいけないんだ。そうじゃないのか?」
「……そうかも」
ユーリの言うことはもっともだ。
カルミナが何をするつもりかはさっぱりわからないけれど、彼に任せて私たちは逃げるだけなんてしていいわけがない。
好き嫌いではない、ここは私の街だ。
私が生まれて、育ってきて、これからもずっと生きていこうと思っている街だ。
その街が壊れていくのを見過ごせるなんて、できない。
「そうだろ、じゃあ行くぞ、ニーナ、リリー」
「……いや」
「リリー」
ドアへ向かおうとした私とユーリに拒否をする。
「どうしてもっていうなら、あなたたちだけで行ってちょうだい」
「何言ってるんだ、リリー」
「いやよ、私は行かないわ」
彼女は魔法石をぎゅっと大切そうに胸に抱いていた。
「リリー、その石、ひょっとして」
驚いたような、困ったような顔で、リリーが私を見る。
「……塔にあったのね」
リリーはじっとしているだけで、否定も肯定もしなかった。
「何だって? ていうか、リリー、なんだよそれ」
初めて見た魔法石を指差してユーリがリリーに問いただす。
「こないだ、塔の最上階まで登ったときに上から落ちてきて……私、あそこまで登って街を見るのが好きだから……」
弱々しく答える。
「最上階? 時計があるところか。何度か行ってるけど、そんなものは見たこともないぞ」
「でも、本当だから」
「どうして、鉱山で拾ったなんて嘘ついたの?」
「だって……」
そこから先は消え入りそうで、聴きとれなかった。
「もうどうでもいいだろ。あいつは何かを知っていて、その石を欲しがっていた。それだけで理由だろ」
「でも、無理に持っていかなかったわ!」
「リリー、どうしても行きたくないっていうならその石を渡してくれ。俺とニーナだけで行くから、リリーは家に戻って家族を連れて街の外へ逃げてくれ」
手を伸ばすユーリに、ぶんぶんと彼女は大きく首を横に振って意思表示をした。
「……行くわ、私も」
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