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第三話「街は大騒ぎ!」
第三話「街は大騒ぎ!」2
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屋上から見えた光景に、リリーと一緒に息をのむ。
現状を知っていたはずのユーリでさえも言葉を失っていた。
平坦な街の中でも一段高いところに建てられている学校は、三階の屋上に出れば街の反対の壁まで見ることができる。
街はまさにお祭りみたいな騒ぎだった。陶器が割れる音と人々のどなり声があちらこちらで上がっている。
「なに、これ?」
「これは、残り香?」
二人の疑問に、問いかけられたユーリは申し訳なさそうに肩をすくめるだけだった。
「今までで一番酷いって、みんな言ってる。物が跳ねるくらいならまだわかるけど、それだけじゃないんだ。街自体がどうにかしちまった。道や古い家の壁なんかが、ぐにゃぐにゃ柔らかいアメみたいにうねっている。ここまで来るのも大変だったくらいだ」
「なにそれ」
「だから、わかんないんだよ」
ユーリが投げやりに強く首を振る。
「それより、カルミナだ。あいつに何かされなかったか? あいつが来てからだろ、こんなことになったの」
私だってカルミナのことは怪しいとは思っているけれど、やっぱりそれは無茶苦茶な推論だと思った。
せめて、カルミナの言い分を聞かないことには、何も言えない。
「これは、もうだめだな」
ドアから出てきたのはピクニックにでも来たかのようにのん気な表情のカルミナだ。
「カルミナ! お前! 時計塔にいたのもお前だな!」
「それについては認めよう」
あっさりと彼が白状する。
「な!」
あまりに簡単に認めてしまったためにユーリが拍子抜けをしてしまって、両手をだらんとさせてしまう。
「今はその行為について議論する余裕はない。いずれにしても、意味はない」
「何言ってるんだよ!」
ユーリがカルミナに駆け寄ろうとする。
「時間がないんだ」
そう一言だけ言って右手をユーリに向ける。かすかに、手が黄色く光ったように見えた。
まだ触れてもいないのにユーリは不自然に傾いたまま、身動きが取れなくなってしまった。
「な、なんだこれ……」
ユーリは両腕を回してみているが前にも後ろにも進めないみたいだ。
「悪気はない」
右手を動かさず、カルミナは首だけ振り返りドアに向かって叫ぶ。
「ガレット」
とことこと茶色の猫が彼と同じくのん気に歩いてきた。私が彼を初めて見たときにもそばに座っていた猫だ。
「見てみるんだ」
カルミナが指差した方角に視線を移す。街の中心とは反対の壁側だった。いつものように壁は街を取り囲んでいて、変わった様子はない。
「なにが?」
「壁じゃない、もっと向こうだ」
壁の向こうには、深い青の暗い森が広がっている。
「あっ!」
「どうしたの、リリー」
口元に手を当てて何かに気づき驚いているリリーに聞く。
「森が、いえ、街が動いている!」
リリーの指摘に彼は小さくうなずいて、それから簡単に訂正をした。
「そう。正確には、回転している」
街の中を見ていてもわからない。
手を伸ばして外側の壁の一点を指すと、外の景色が少しずつずれているのがわかる。
時計回りに街そのものが周りだしているのだ。
「こうなってはもう遅いかもしれない。そうなる前に何とかしたかったが、調査に時間を取られ過ぎたか」
「ねえ、カルミナ、何を言っているの」
「ガレット、飛ぶよ」
私には答えずに、彼は猫に強い口調で命令をする。
にゃあ、と猫が背伸びをして助走をつけてカルミナに飛びかかった。
「あ!」
ガレットと呼ばれた猫は空中で一回転すると、赤い光に包まれて一瞬で棒状になり、一方がふさふさの箒に変身した。
カルミナはその箒に横座りをして、私たちを見る。
「遠くへ、街から離れるんだ。ここはもうだめだ」
「え、カルミナ……」
忠告とも取れるつぶやきに、カルミナは首を振る。
「僕は最善を尽くそう。行こうガレット」
ふわりと箒が浮いたかと思うと、一直線にボールが飛んでいくみたいにカルミナはいなくなってしまった。
現状を知っていたはずのユーリでさえも言葉を失っていた。
平坦な街の中でも一段高いところに建てられている学校は、三階の屋上に出れば街の反対の壁まで見ることができる。
街はまさにお祭りみたいな騒ぎだった。陶器が割れる音と人々のどなり声があちらこちらで上がっている。
「なに、これ?」
「これは、残り香?」
二人の疑問に、問いかけられたユーリは申し訳なさそうに肩をすくめるだけだった。
「今までで一番酷いって、みんな言ってる。物が跳ねるくらいならまだわかるけど、それだけじゃないんだ。街自体がどうにかしちまった。道や古い家の壁なんかが、ぐにゃぐにゃ柔らかいアメみたいにうねっている。ここまで来るのも大変だったくらいだ」
「なにそれ」
「だから、わかんないんだよ」
ユーリが投げやりに強く首を振る。
「それより、カルミナだ。あいつに何かされなかったか? あいつが来てからだろ、こんなことになったの」
私だってカルミナのことは怪しいとは思っているけれど、やっぱりそれは無茶苦茶な推論だと思った。
せめて、カルミナの言い分を聞かないことには、何も言えない。
「これは、もうだめだな」
ドアから出てきたのはピクニックにでも来たかのようにのん気な表情のカルミナだ。
「カルミナ! お前! 時計塔にいたのもお前だな!」
「それについては認めよう」
あっさりと彼が白状する。
「な!」
あまりに簡単に認めてしまったためにユーリが拍子抜けをしてしまって、両手をだらんとさせてしまう。
「今はその行為について議論する余裕はない。いずれにしても、意味はない」
「何言ってるんだよ!」
ユーリがカルミナに駆け寄ろうとする。
「時間がないんだ」
そう一言だけ言って右手をユーリに向ける。かすかに、手が黄色く光ったように見えた。
まだ触れてもいないのにユーリは不自然に傾いたまま、身動きが取れなくなってしまった。
「な、なんだこれ……」
ユーリは両腕を回してみているが前にも後ろにも進めないみたいだ。
「悪気はない」
右手を動かさず、カルミナは首だけ振り返りドアに向かって叫ぶ。
「ガレット」
とことこと茶色の猫が彼と同じくのん気に歩いてきた。私が彼を初めて見たときにもそばに座っていた猫だ。
「見てみるんだ」
カルミナが指差した方角に視線を移す。街の中心とは反対の壁側だった。いつものように壁は街を取り囲んでいて、変わった様子はない。
「なにが?」
「壁じゃない、もっと向こうだ」
壁の向こうには、深い青の暗い森が広がっている。
「あっ!」
「どうしたの、リリー」
口元に手を当てて何かに気づき驚いているリリーに聞く。
「森が、いえ、街が動いている!」
リリーの指摘に彼は小さくうなずいて、それから簡単に訂正をした。
「そう。正確には、回転している」
街の中を見ていてもわからない。
手を伸ばして外側の壁の一点を指すと、外の景色が少しずつずれているのがわかる。
時計回りに街そのものが周りだしているのだ。
「こうなってはもう遅いかもしれない。そうなる前に何とかしたかったが、調査に時間を取られ過ぎたか」
「ねえ、カルミナ、何を言っているの」
「ガレット、飛ぶよ」
私には答えずに、彼は猫に強い口調で命令をする。
にゃあ、と猫が背伸びをして助走をつけてカルミナに飛びかかった。
「あ!」
ガレットと呼ばれた猫は空中で一回転すると、赤い光に包まれて一瞬で棒状になり、一方がふさふさの箒に変身した。
カルミナはその箒に横座りをして、私たちを見る。
「遠くへ、街から離れるんだ。ここはもうだめだ」
「え、カルミナ……」
忠告とも取れるつぶやきに、カルミナは首を振る。
「僕は最善を尽くそう。行こうガレット」
ふわりと箒が浮いたかと思うと、一直線にボールが飛んでいくみたいにカルミナはいなくなってしまった。
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