101 / 106
11話 火曜の章「少しずつ浮かび始める苦杯と火種達」
イルマ編&ドラク編
しおりを挟む
ーー
次の日の朝、一室の扉が開いて出てきたのは、虚ろげで眠そうな表情でとぼとぼ歩くイルマだ。
イルマ
「んーーーー。よく寝たのだ寝たのだ。....ん?」
そう言いながら、体を横に曲げ、腕を伸ばしていると、ふと、テーブルに置かれている周りが銀色で包まれ、その中に楕円形のクリソベリル、その中に薄いひし形のエメラルドがくっついた一つのロケットペンダントを発見。
手に取りじっくり見てみると、それはパカッと開く仕組みではなく、スライド式で開ける仕組みになっていた。そして、その中身には"sera"と刻印されていた。
それを確認すると、
アリス「はよーっす。イルマ。ふぁぁぁぁぁ...。」
ジェニファー「おはようございます。あっ、イルマさん、そちらのペンダントは誰のでしょうか?」
ふと、後ろからアリスとジェニファーの声が聞こえてきた。同じく体を傾け、腕を伸ばす眠そうなアリスと、快活で十分睡眠が取れた様を見せるジェニファーに、イルマは振り返らず、
イルマ「さあ、なんか綺麗なのだー。銀ぴかで目が腐りそう...。」
アリス「腐りそうっておま...。」
最後にそんな毒を吐きながらまじまじとそのペンダントを見つめる。その時、
セラ「あ、それ僕の。ごめんね。こんなとこに置いてあったんだ。」
イルマの左手側のドアからセラが出て来て、彼女が一瞬目の前で自身が手に持っているペンダントに気づくと、そう言って駆け寄ってきて、返して欲しいという手振りで手を差し出す。
イルマ
「おぉ、これお前のなのか~?金ぴか過ぎて目が腐ったぞー。どうしてくれるのだ?次からは自分の部屋に置いておけなのだ~、わかったのかぁ~?」
そう言ってペンダントをセラに渡す。
セラ「うん、ごめんね。僕の不注意で君の目を腐らせることになっちゃって。次から気をつけるよ。」
そのペンダントをその場で着けて、ルームを出ようと、大広間に続く扉のノブに手を掛けたその時、
セラ「けど、また腐らないように"目薬"みたいなのをしておかないとだね....。」
自分達の方に振り返りそう言って共同ルームを出ていった。
イルマの文句に対して的確な対処法を提案しているように聞こえる内容であったが、冗談だとわかるはずなのにわざわざそんなことを言うなんて、正直意味不明。
いつもの自身ならそう言うが、その"目薬"というワードが引っ掛かった。正しくは"自身の秘密"を知ったような言い回しに聞こえてしまったため思わず、
イルマ「え?」
と、声を漏らしてしまう。
アリス「....それはどういう...。」
それについてアリスも事情を知っていたため、イルマとは違う不意を突かれ、自然と目を細めるという仕草で、ジェニファーとセラに聞こえないような声でそう呟く。
すると、言い終わると同時に、
ジェニファー「あっ、お二人とも、朝食の時間です。急がないと...。」
右側の壁に掛かっている時計を確認したジェニファーに、そう呼び掛けられ、
アリス「あ、はーい。....。」
イルマ「...。」
アリスはいつも通りの緩い返事を介して、呼び掛けに応じなかったイルマはセラが出ていったドアを呆然とした様子で眺めるのであった。
ーー
ーー
その日の6時間目スケジュールが変わり、急遽、鍛練の基礎レッスンを続けることになり、生徒達はマラソン形式でグラウンドをこの授業で、女子が4周半、男子が7周走ることに。女子が終わり、男子も走り終わる。当然男子は全員息を切らして呼吸を繰し返すが、それぞれ心地よさそうな表情の者もいればそうでもない者もいる。
そんな自身も、顔で表現ができないものの、確実に苦しそうに呼吸を整えているのを自覚する。
そんなことをしていると、
ソウタ「「はぁはぁ、よっしゃぁ!よく頑張ったぁ...。」」
セラ「「うん、お疲れ、今日のソウタの走り凄かったね。その新しい靴のおかげかな?やっぱ自分のお気に入りを身につけてやるとやる気出るよね。」」
ソウタ「「嘘!?嬉しい...。」
自身の視界に入ったのは、息を切らしながらも達成感で嬉しそうにはしゃぐソウタとクラスメイトの細かい所を見て、とことん褒めるセラ。
ソウタ「「前のやつと色同じだし、替えたことも誰にも言ってないのに...気づいた奴お前が初めてだよ。」」
セラ「「それは同じclassなんだから気づいて当然。逆に気づかない方がおかしいよ。僕はclass3の皆が大好きだから。」」
ソウタ
「「あ...あはははは!すごい嬉しいな。俺、この靴超気に入ってるんだ!今日セラに褒められたから明日良いこと起こりそう!イェーイイェーイイェーイ!」」
ソウタがはしゃいだ途端にレオンハルトから注意を受けているのを尻目にイルマは、セラの澄んだ微笑みの表情に少し違和感を抱き、
イルマ (なんかあいつ、くどい。)
と、心の中で悪態を放つ。
ヒロタ「?どうしたんだ、イルマ?」
イルマ「ん?いや?」
先程、ソウタと同じくらいに走り終えたヒロタとゲイル。ヒロタに後ろから話しかけられ、少し呆気ない感じに返事をする。
ゲイル「大丈夫か?どうせお前の事だから変なことでも想像してたんだろ?」
すると、ゲイルにそんなことを言われ、イルマは少しイラつきを覚えてしまい、
イルマ「美人OL。」
と、口にする。
ゲイル「はぁ?」
イルマ
「どうせお前の事だからどうせオカズで変な想像してたんだろ?あ、違う、お前のオカズはナースだったのか~。」
ゲイル「どっちもちげーよ...、なんつう話を...。」
ヒロタ「俺のオカズどっちも合ってる...、くそぉ!バレちゃったか...こりゃ弄られる...。」
ゲイル「誰もお前の嗜好を聞いてないし...、ていうかもうちょっと隠せ。」
といったやりとりでごまかすイルマに一番共に人生を過ごしてきたアリスはイルマの思っている事を難なく読み取ったのか、それとも今朝のセラの言葉に引っ掛かりを感じたのか、しばらく黙りこんで、全員で列を整え集合するなか一人じっとセラの様子を見つめるのであった。
アリス「....。」
ーー
ーー
同日、イルマは部活動が終わり、体操着、その他荷物の入ったバックを持って更衣室を後にした。
道なりに渡り廊下を歩き、体育館の前に来たとき、カスミとセラと出会う。二人は話に夢中なのか、自身に気づいてない。そこで面白いことを思いつき、イルマはそろりそろりと死角を通って近寄り、自身の生まれつき持った魔術で扉の上枠の上辺りまで浮遊し、セラの上まで移動した。
カスミ「「お疲れぇ♪また食堂でね。」」
セラ「「うん。」」
結局、カスミは気づかず、先に帰っていく。
しかし、ターゲットはセラの為、気にせず一気に、
イルマ「ばぁ。」
と言って驚かす。無機質で高揚としない声であったが、イルマは影が薄い為、驚かす時に一気に存在感を際立たせれば当然相手は腰を抜かすほど驚ろくに違いない、そう思い実行したはずが...
セラ「あ、イルマ。分かってたよ?そこにいたの。」
イルマ「!...おお、すげぇな~。」
まさか、言葉でそう言うどころか、反応や驚かした後の表情は一切びくともしなかった。
思わず自身はビクッとしそうになるが、こんな性分なため声にも顔にも出なかった。
ずっと浮かした体を、そろそろと術を解き、足を地面に着けると同時に、セラは立ち上がり、イルマの顔を見上げ、
セラ
「どうしたの?珍しいね。ここで会うなんて...。」
イルマ
「体操服をロッカーに入れっぱなしだったの思い出して、取って帰ろうとしてたのだ~。...それより、朝のペンダントの時、"目薬"みたいなの差さないとって言ってたけど、あれどういう意味なのだ~。はっきり言ってくどかったのだ~。」
どうしても引っ掛かる事をイルマは直接聞いてみる。すると、セラは可笑しそうに微笑み、
セラ「くどい?ははっ、だとしたらごめんね。でもそのままの意味だよ。腐りそうなほど目疲れするって時には目薬ささないとでしょ?あとは、眩しさ軽減でサングラスを掛けたりとか?」
その微笑みは天使のように純粋で純真である。
...ように見えるそれの表情は、イルマにとって鼻にかけている、バカにしているような偽善な微笑みだ。という風に見えた。
イルマ「...。」
そう考えるとイルマは無性に腹立たしく感じる。
自身が数秒も黙っていたからか、セラは
セラ「どうしたの?僕は言われたことに対して反省の意とこれからの対策について提案をしていたつもりだったけど、また何かくどいこと言っちゃった?」
頬を掻きながら、少し遠慮がちに微笑んで聞いてくる彼女にイルマは思わず、
イルマ「くどい。なんかムカつくのだ~。」
自身の感じた事をそのまま口にしてしまうのだ。
セラ「はは、またくどいって言われちゃった。僕はそんな器用なほど口上手じゃないのに...。」
そんなことを言われて、少しだけ泣きそうな表情を醸し出すセラ。しかし、実際あまり気にしていないのか、いつも通りの振る舞いで、
セラ「そろそろ寮に戻ろう。早く晩御飯食べて宿題しないと。」
と言って校舎の方へと歩き始めた。
イルマ「イキリ優等生。」
と、愚痴を溢せば、足を止め、
セラ「ん?どうした?」
言っている言葉が聞こえなかったのか、セラが純粋にそう聞く。
イルマ「いや、セラはとっても良い子ちゃんなのだ~って思って~。」
セラ
「あはは...、良い子ではないと思うけどね...まぁ、ありがとう。」
そう言ってセラは体育館を後にし、自身はそんなセラの背を見て色々な事を考えながらついていくのであった。
ーー
ーー
水辺の中で、大柄な幼馴染と競う小柄な自分。
ドラクは学園の屋根付きプールにて部活動として他の部員仲間とトレーニング、模擬実践をして、練習に取り組む。
たった今、ドラクはスワリとレースで勝負をしている。進む道を邪魔する新鮮な綺麗な水に全力で抗って見せる。が体格差的に考えれば当然....。
スワリ「っぶはぁッ!」
ドラク「......ん、っぶはぁッ!」
案の定スワリが先にゴールしずっと付けたままの顔を水から出し、あくせくする呼吸をしっかりと整えていく。
後にゴールしたドラク自身も同じく。
両者ともやる気には満ちていたものの、
水泳部部長
「ドラク 41.16、スワリ 29.87、二人ともまだまだだぞ!」
プロ級以下の記録であったからか部長に叱咤されてしまう。そして、俺もまだまだかと、二人は息ぴったりに"はぁ"とため息を吐く。
水泳部先輩男子
「けど、入ってきた頃よりは良くなってきてない ?入ってきた頃とかドラクが水に使ったまま全然移動できてなくて...ぷふッ!あんまりにカナヅチ過ぎてランニングマシンみたいだって思ったよ!ハハハッ!」
ドラク「わ、笑い事じゃねーっすよ先輩!あの時は、本気は死ぬかと思ったんすからね!」
エンリル「でも、エンリルは最初っからスイスイ泳げたのだ~!村の池でよく泳いで遊んでたから~なのだ~!」
ドラク「そんなん関係ねー!俺だってよく川で遊んでたし....。」
スワリ「泳いだこと、ないのに?」
ドラク「ばっ!?言うなぁ!」
スワリ「...泳げたことも?」
ドラク「やーーめーーろぉーーッ!!!」
部活のメンバー、先輩に弄られ、恥ずかしさのあまり声を荒げるドラクに全員面白可笑しく笑った。
スワリ「だって、俺達のとこ、川はあっても、浅いから。」
水泳部先輩女子 「ああ、だから泳いだこともないのにって言ってたんだね、スワリ君。」
ドラク「....。」
女子の先輩にそんな事を言われ、いじけた態度で黙りこんだ。
ーー
ーー
着替えを終わらせ、更衣室を出る部員達。
女子の二人も更衣室から出て来ると、部長以外、雑談を交わしながら廊下を歩いていく。
ドラクとスワリが子供のような振る舞いで遊んでいると、
水泳部部長「ドラク、スワリ、一つ聞きたいことがある。」
ドラク「はい!なんすか?」
ふと、部長に声を掛けられ足を止める二人。
他の三人も足を止め、全員、部長の方に視線を向ける。
その後部長は人差し指の爪で頬を掻きながらこう言う。
水泳部部長「あ、でもこれは興味本位で質問してるだけだから。先に謝っておく。」
そして、逸らしていた目を二人に向けて、やや真剣な眼差しで質問をしてくる。
水泳部部長「お前達って、カスティリオンの近隣に住んでただろ?敵に襲撃されたことは当然何度もあったんだよな。」
それを聞いた自身とスワリはシリアスな質問をしているにも関わらず、何故か普段通りのあっけらかんとした振る舞いで答える。
ドラク「あー。そう言うことか!ハハッ!!」
スワリ「気にしなくても、大丈夫。」
水泳部部長「ありがとう。お前達は寛大なんだな。お前達が気の短い相手だったら、こんなこと聞いて嫌な過去を思い出させてしまって怒らせてしまっただろうなって思うよ。」
ドラク達の反応を見た部長は一時安堵した表情でそう言った。
質問に対して平然と軽い感じで答えられたのには理由が、
ドラク「ハハハッ!部長は気にしすぎ。...でもそれが俺がいた頃は一度も変な奴が入ってきた所を見たことがないな~。それに俺、入学案内の手紙が届くまで戦争してたなんて知らなかったし。」
水泳部部長「知らなかった...。」
そう。一度も襲撃されたことがなかったからだ。
当然何事なかったかのように振る舞うことができた。
そんなドラクもスワリも部長も全員、それはおかしいと思っているも、自身とスワリの、ドラクとスワリの故郷が今まで平和に守られているのは良いことと、全員はそう気にしないことにしたのである。
ドラク「今、みんなどうしてるんだろう?」
そう自身は独り言のように皆に言う。
するとスワリも、
スワリ「元気だと、良いな。」
と、続けて言う。
ドラク「けど、部長はなんでそんなこと?...部長?」
そう自分達の故郷について、そんな事を聞く理由を尋ねてみる。すると、少し目線を右下に反らして、
水泳部部長「あ、いや、さっきも言ったけど興味本位。でも故郷が今まで生涯平和だったんなら何よりだ。むしろ、そんな状況が長く続いて欲しいな。」
再び視線がドラクとスワリに向くと、笑顔で励ますようにそう言った。
ドラク「部長...。」
ドラクはそんな部長にややなにか感慨を感じ、自然と瞳を揺らしながら、少し呆然とする。
すると突然、
エンリル
「大丈夫なのだ~!!ドラクとスワリのふるさとはいつまでもヘイワなのだ~!」
ドラク「うわぁ!抱きつくな~!!痛た...ぐぅ...。」
スワリ「ぐぅ、ぐるじい...!」
エンリルに腰回りを強引にぎゅっと抱かれ、ドラクとスワリはエンリルのあまりに加減を知らない力に圧倒され、もがき苦しむほど痛がるのだ。
そんなやりとりを見た先輩達は微笑みの眼差しを向け大笑いした。
この情景を見聞きしたドラクは、やがて痛みで苦しむ表情をそのままに、既に持っている大切なもの達にいつまでも永遠に消えぬようにも願いにも似た心の声を密かに呟くのであった。
ドラク(...はは、何も失ってない。家族が皆いて、先輩、友達もいて、幼馴染のスワリもいる。死ぬまでずっと、生きててくれると...いいな。)
ーー
次の日の朝、一室の扉が開いて出てきたのは、虚ろげで眠そうな表情でとぼとぼ歩くイルマだ。
イルマ
「んーーーー。よく寝たのだ寝たのだ。....ん?」
そう言いながら、体を横に曲げ、腕を伸ばしていると、ふと、テーブルに置かれている周りが銀色で包まれ、その中に楕円形のクリソベリル、その中に薄いひし形のエメラルドがくっついた一つのロケットペンダントを発見。
手に取りじっくり見てみると、それはパカッと開く仕組みではなく、スライド式で開ける仕組みになっていた。そして、その中身には"sera"と刻印されていた。
それを確認すると、
アリス「はよーっす。イルマ。ふぁぁぁぁぁ...。」
ジェニファー「おはようございます。あっ、イルマさん、そちらのペンダントは誰のでしょうか?」
ふと、後ろからアリスとジェニファーの声が聞こえてきた。同じく体を傾け、腕を伸ばす眠そうなアリスと、快活で十分睡眠が取れた様を見せるジェニファーに、イルマは振り返らず、
イルマ「さあ、なんか綺麗なのだー。銀ぴかで目が腐りそう...。」
アリス「腐りそうっておま...。」
最後にそんな毒を吐きながらまじまじとそのペンダントを見つめる。その時、
セラ「あ、それ僕の。ごめんね。こんなとこに置いてあったんだ。」
イルマの左手側のドアからセラが出て来て、彼女が一瞬目の前で自身が手に持っているペンダントに気づくと、そう言って駆け寄ってきて、返して欲しいという手振りで手を差し出す。
イルマ
「おぉ、これお前のなのか~?金ぴか過ぎて目が腐ったぞー。どうしてくれるのだ?次からは自分の部屋に置いておけなのだ~、わかったのかぁ~?」
そう言ってペンダントをセラに渡す。
セラ「うん、ごめんね。僕の不注意で君の目を腐らせることになっちゃって。次から気をつけるよ。」
そのペンダントをその場で着けて、ルームを出ようと、大広間に続く扉のノブに手を掛けたその時、
セラ「けど、また腐らないように"目薬"みたいなのをしておかないとだね....。」
自分達の方に振り返りそう言って共同ルームを出ていった。
イルマの文句に対して的確な対処法を提案しているように聞こえる内容であったが、冗談だとわかるはずなのにわざわざそんなことを言うなんて、正直意味不明。
いつもの自身ならそう言うが、その"目薬"というワードが引っ掛かった。正しくは"自身の秘密"を知ったような言い回しに聞こえてしまったため思わず、
イルマ「え?」
と、声を漏らしてしまう。
アリス「....それはどういう...。」
それについてアリスも事情を知っていたため、イルマとは違う不意を突かれ、自然と目を細めるという仕草で、ジェニファーとセラに聞こえないような声でそう呟く。
すると、言い終わると同時に、
ジェニファー「あっ、お二人とも、朝食の時間です。急がないと...。」
右側の壁に掛かっている時計を確認したジェニファーに、そう呼び掛けられ、
アリス「あ、はーい。....。」
イルマ「...。」
アリスはいつも通りの緩い返事を介して、呼び掛けに応じなかったイルマはセラが出ていったドアを呆然とした様子で眺めるのであった。
ーー
ーー
その日の6時間目スケジュールが変わり、急遽、鍛練の基礎レッスンを続けることになり、生徒達はマラソン形式でグラウンドをこの授業で、女子が4周半、男子が7周走ることに。女子が終わり、男子も走り終わる。当然男子は全員息を切らして呼吸を繰し返すが、それぞれ心地よさそうな表情の者もいればそうでもない者もいる。
そんな自身も、顔で表現ができないものの、確実に苦しそうに呼吸を整えているのを自覚する。
そんなことをしていると、
ソウタ「「はぁはぁ、よっしゃぁ!よく頑張ったぁ...。」」
セラ「「うん、お疲れ、今日のソウタの走り凄かったね。その新しい靴のおかげかな?やっぱ自分のお気に入りを身につけてやるとやる気出るよね。」」
ソウタ「「嘘!?嬉しい...。」
自身の視界に入ったのは、息を切らしながらも達成感で嬉しそうにはしゃぐソウタとクラスメイトの細かい所を見て、とことん褒めるセラ。
ソウタ「「前のやつと色同じだし、替えたことも誰にも言ってないのに...気づいた奴お前が初めてだよ。」」
セラ「「それは同じclassなんだから気づいて当然。逆に気づかない方がおかしいよ。僕はclass3の皆が大好きだから。」」
ソウタ
「「あ...あはははは!すごい嬉しいな。俺、この靴超気に入ってるんだ!今日セラに褒められたから明日良いこと起こりそう!イェーイイェーイイェーイ!」」
ソウタがはしゃいだ途端にレオンハルトから注意を受けているのを尻目にイルマは、セラの澄んだ微笑みの表情に少し違和感を抱き、
イルマ (なんかあいつ、くどい。)
と、心の中で悪態を放つ。
ヒロタ「?どうしたんだ、イルマ?」
イルマ「ん?いや?」
先程、ソウタと同じくらいに走り終えたヒロタとゲイル。ヒロタに後ろから話しかけられ、少し呆気ない感じに返事をする。
ゲイル「大丈夫か?どうせお前の事だから変なことでも想像してたんだろ?」
すると、ゲイルにそんなことを言われ、イルマは少しイラつきを覚えてしまい、
イルマ「美人OL。」
と、口にする。
ゲイル「はぁ?」
イルマ
「どうせお前の事だからどうせオカズで変な想像してたんだろ?あ、違う、お前のオカズはナースだったのか~。」
ゲイル「どっちもちげーよ...、なんつう話を...。」
ヒロタ「俺のオカズどっちも合ってる...、くそぉ!バレちゃったか...こりゃ弄られる...。」
ゲイル「誰もお前の嗜好を聞いてないし...、ていうかもうちょっと隠せ。」
といったやりとりでごまかすイルマに一番共に人生を過ごしてきたアリスはイルマの思っている事を難なく読み取ったのか、それとも今朝のセラの言葉に引っ掛かりを感じたのか、しばらく黙りこんで、全員で列を整え集合するなか一人じっとセラの様子を見つめるのであった。
アリス「....。」
ーー
ーー
同日、イルマは部活動が終わり、体操着、その他荷物の入ったバックを持って更衣室を後にした。
道なりに渡り廊下を歩き、体育館の前に来たとき、カスミとセラと出会う。二人は話に夢中なのか、自身に気づいてない。そこで面白いことを思いつき、イルマはそろりそろりと死角を通って近寄り、自身の生まれつき持った魔術で扉の上枠の上辺りまで浮遊し、セラの上まで移動した。
カスミ「「お疲れぇ♪また食堂でね。」」
セラ「「うん。」」
結局、カスミは気づかず、先に帰っていく。
しかし、ターゲットはセラの為、気にせず一気に、
イルマ「ばぁ。」
と言って驚かす。無機質で高揚としない声であったが、イルマは影が薄い為、驚かす時に一気に存在感を際立たせれば当然相手は腰を抜かすほど驚ろくに違いない、そう思い実行したはずが...
セラ「あ、イルマ。分かってたよ?そこにいたの。」
イルマ「!...おお、すげぇな~。」
まさか、言葉でそう言うどころか、反応や驚かした後の表情は一切びくともしなかった。
思わず自身はビクッとしそうになるが、こんな性分なため声にも顔にも出なかった。
ずっと浮かした体を、そろそろと術を解き、足を地面に着けると同時に、セラは立ち上がり、イルマの顔を見上げ、
セラ
「どうしたの?珍しいね。ここで会うなんて...。」
イルマ
「体操服をロッカーに入れっぱなしだったの思い出して、取って帰ろうとしてたのだ~。...それより、朝のペンダントの時、"目薬"みたいなの差さないとって言ってたけど、あれどういう意味なのだ~。はっきり言ってくどかったのだ~。」
どうしても引っ掛かる事をイルマは直接聞いてみる。すると、セラは可笑しそうに微笑み、
セラ「くどい?ははっ、だとしたらごめんね。でもそのままの意味だよ。腐りそうなほど目疲れするって時には目薬ささないとでしょ?あとは、眩しさ軽減でサングラスを掛けたりとか?」
その微笑みは天使のように純粋で純真である。
...ように見えるそれの表情は、イルマにとって鼻にかけている、バカにしているような偽善な微笑みだ。という風に見えた。
イルマ「...。」
そう考えるとイルマは無性に腹立たしく感じる。
自身が数秒も黙っていたからか、セラは
セラ「どうしたの?僕は言われたことに対して反省の意とこれからの対策について提案をしていたつもりだったけど、また何かくどいこと言っちゃった?」
頬を掻きながら、少し遠慮がちに微笑んで聞いてくる彼女にイルマは思わず、
イルマ「くどい。なんかムカつくのだ~。」
自身の感じた事をそのまま口にしてしまうのだ。
セラ「はは、またくどいって言われちゃった。僕はそんな器用なほど口上手じゃないのに...。」
そんなことを言われて、少しだけ泣きそうな表情を醸し出すセラ。しかし、実際あまり気にしていないのか、いつも通りの振る舞いで、
セラ「そろそろ寮に戻ろう。早く晩御飯食べて宿題しないと。」
と言って校舎の方へと歩き始めた。
イルマ「イキリ優等生。」
と、愚痴を溢せば、足を止め、
セラ「ん?どうした?」
言っている言葉が聞こえなかったのか、セラが純粋にそう聞く。
イルマ「いや、セラはとっても良い子ちゃんなのだ~って思って~。」
セラ
「あはは...、良い子ではないと思うけどね...まぁ、ありがとう。」
そう言ってセラは体育館を後にし、自身はそんなセラの背を見て色々な事を考えながらついていくのであった。
ーー
ーー
水辺の中で、大柄な幼馴染と競う小柄な自分。
ドラクは学園の屋根付きプールにて部活動として他の部員仲間とトレーニング、模擬実践をして、練習に取り組む。
たった今、ドラクはスワリとレースで勝負をしている。進む道を邪魔する新鮮な綺麗な水に全力で抗って見せる。が体格差的に考えれば当然....。
スワリ「っぶはぁッ!」
ドラク「......ん、っぶはぁッ!」
案の定スワリが先にゴールしずっと付けたままの顔を水から出し、あくせくする呼吸をしっかりと整えていく。
後にゴールしたドラク自身も同じく。
両者ともやる気には満ちていたものの、
水泳部部長
「ドラク 41.16、スワリ 29.87、二人ともまだまだだぞ!」
プロ級以下の記録であったからか部長に叱咤されてしまう。そして、俺もまだまだかと、二人は息ぴったりに"はぁ"とため息を吐く。
水泳部先輩男子
「けど、入ってきた頃よりは良くなってきてない ?入ってきた頃とかドラクが水に使ったまま全然移動できてなくて...ぷふッ!あんまりにカナヅチ過ぎてランニングマシンみたいだって思ったよ!ハハハッ!」
ドラク「わ、笑い事じゃねーっすよ先輩!あの時は、本気は死ぬかと思ったんすからね!」
エンリル「でも、エンリルは最初っからスイスイ泳げたのだ~!村の池でよく泳いで遊んでたから~なのだ~!」
ドラク「そんなん関係ねー!俺だってよく川で遊んでたし....。」
スワリ「泳いだこと、ないのに?」
ドラク「ばっ!?言うなぁ!」
スワリ「...泳げたことも?」
ドラク「やーーめーーろぉーーッ!!!」
部活のメンバー、先輩に弄られ、恥ずかしさのあまり声を荒げるドラクに全員面白可笑しく笑った。
スワリ「だって、俺達のとこ、川はあっても、浅いから。」
水泳部先輩女子 「ああ、だから泳いだこともないのにって言ってたんだね、スワリ君。」
ドラク「....。」
女子の先輩にそんな事を言われ、いじけた態度で黙りこんだ。
ーー
ーー
着替えを終わらせ、更衣室を出る部員達。
女子の二人も更衣室から出て来ると、部長以外、雑談を交わしながら廊下を歩いていく。
ドラクとスワリが子供のような振る舞いで遊んでいると、
水泳部部長「ドラク、スワリ、一つ聞きたいことがある。」
ドラク「はい!なんすか?」
ふと、部長に声を掛けられ足を止める二人。
他の三人も足を止め、全員、部長の方に視線を向ける。
その後部長は人差し指の爪で頬を掻きながらこう言う。
水泳部部長「あ、でもこれは興味本位で質問してるだけだから。先に謝っておく。」
そして、逸らしていた目を二人に向けて、やや真剣な眼差しで質問をしてくる。
水泳部部長「お前達って、カスティリオンの近隣に住んでただろ?敵に襲撃されたことは当然何度もあったんだよな。」
それを聞いた自身とスワリはシリアスな質問をしているにも関わらず、何故か普段通りのあっけらかんとした振る舞いで答える。
ドラク「あー。そう言うことか!ハハッ!!」
スワリ「気にしなくても、大丈夫。」
水泳部部長「ありがとう。お前達は寛大なんだな。お前達が気の短い相手だったら、こんなこと聞いて嫌な過去を思い出させてしまって怒らせてしまっただろうなって思うよ。」
ドラク達の反応を見た部長は一時安堵した表情でそう言った。
質問に対して平然と軽い感じで答えられたのには理由が、
ドラク「ハハハッ!部長は気にしすぎ。...でもそれが俺がいた頃は一度も変な奴が入ってきた所を見たことがないな~。それに俺、入学案内の手紙が届くまで戦争してたなんて知らなかったし。」
水泳部部長「知らなかった...。」
そう。一度も襲撃されたことがなかったからだ。
当然何事なかったかのように振る舞うことができた。
そんなドラクもスワリも部長も全員、それはおかしいと思っているも、自身とスワリの、ドラクとスワリの故郷が今まで平和に守られているのは良いことと、全員はそう気にしないことにしたのである。
ドラク「今、みんなどうしてるんだろう?」
そう自身は独り言のように皆に言う。
するとスワリも、
スワリ「元気だと、良いな。」
と、続けて言う。
ドラク「けど、部長はなんでそんなこと?...部長?」
そう自分達の故郷について、そんな事を聞く理由を尋ねてみる。すると、少し目線を右下に反らして、
水泳部部長「あ、いや、さっきも言ったけど興味本位。でも故郷が今まで生涯平和だったんなら何よりだ。むしろ、そんな状況が長く続いて欲しいな。」
再び視線がドラクとスワリに向くと、笑顔で励ますようにそう言った。
ドラク「部長...。」
ドラクはそんな部長にややなにか感慨を感じ、自然と瞳を揺らしながら、少し呆然とする。
すると突然、
エンリル
「大丈夫なのだ~!!ドラクとスワリのふるさとはいつまでもヘイワなのだ~!」
ドラク「うわぁ!抱きつくな~!!痛た...ぐぅ...。」
スワリ「ぐぅ、ぐるじい...!」
エンリルに腰回りを強引にぎゅっと抱かれ、ドラクとスワリはエンリルのあまりに加減を知らない力に圧倒され、もがき苦しむほど痛がるのだ。
そんなやりとりを見た先輩達は微笑みの眼差しを向け大笑いした。
この情景を見聞きしたドラクは、やがて痛みで苦しむ表情をそのままに、既に持っている大切なもの達にいつまでも永遠に消えぬようにも願いにも似た心の声を密かに呟くのであった。
ドラク(...はは、何も失ってない。家族が皆いて、先輩、友達もいて、幼馴染のスワリもいる。死ぬまでずっと、生きててくれると...いいな。)
ーー
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
疑惑のタッセル
翠月 瑠々奈
恋愛
今、未婚の貴族の令嬢・令息の中で、王国の騎士たちにタッセルを渡すことが流行っていた。
目当ての相手に渡すタッセル。「房飾り」とも呼ばれ、糸や紐を束ねて作られた装飾品。様々な色やデザインで形作られている。
それは、騎士団炎の隊の隊長であるフリージアの剣にもついていた。
でもそれは──?
元恋人が届けた、断りたい縁談
待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。
手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。
「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」
そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる