メイスオブクリスティア

桜bysen

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11話 火曜の章「少しずつ浮かび始める苦杯と火種達」

イルマ編&ドラク編

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ーー

次の日の朝、一室の扉が開いて出てきたのは、虚ろげで眠そうな表情でとぼとぼ歩くイルマだ。

イルマ
「んーーーー。よく寝たのだ寝たのだ。....ん?」

そう言いながら、体を横に曲げ、腕を伸ばしていると、ふと、テーブルに置かれている周りが銀色で包まれ、その中に楕円形のクリソベリル、その中に薄いひし形のエメラルドがくっついた一つのロケットペンダントを発見。
手に取りじっくり見てみると、それはパカッと開く仕組みではなく、スライド式で開ける仕組みになっていた。そして、その中身には"sera"と刻印されていた。
それを確認すると、

アリス「はよーっす。イルマ。ふぁぁぁぁぁ...。」

ジェニファー「おはようございます。あっ、イルマさん、そちらのペンダントは誰のでしょうか?」

ふと、後ろからアリスとジェニファーの声が聞こえてきた。同じく体を傾け、腕を伸ばす眠そうなアリスと、快活で十分睡眠が取れた様を見せるジェニファーに、イルマは振り返らず、

イルマ「さあ、なんか綺麗なのだー。銀ぴかで目が腐りそう...。」

アリス「腐りそうっておま...。」

最後にそんな毒を吐きながらまじまじとそのペンダントを見つめる。その時、

セラ「あ、それ僕の。ごめんね。こんなとこに置いてあったんだ。」

イルマの左手側のドアからセラが出て来て、彼女が一瞬目の前で自身が手に持っているペンダントに気づくと、そう言って駆け寄ってきて、返して欲しいという手振りで手を差し出す。

イルマ
「おぉ、これお前のなのか~?金ぴか過ぎて目が腐ったぞー。どうしてくれるのだ?次からは自分の部屋に置いておけなのだ~、わかったのかぁ~?」

そう言ってペンダントをセラに渡す。

セラ「うん、ごめんね。僕の不注意で君の目を腐らせることになっちゃって。次から気をつけるよ。」

そのペンダントをその場で着けて、ルームを出ようと、大広間に続く扉のノブに手を掛けたその時、

セラ「けど、""だね....。」

自分達の方に振り返りそう言って共同ルームを出ていった。

イルマの文句に対して的確な対処法を提案しているように聞こえる内容であったが、冗談だとわかるはずなのにわざわざそんなことを言うなんて、正直意味不明。
いつもの自身ならそう言うが、その"目薬"というワードが引っ掛かった。正しくは"自身の秘密"を知ったような言い回しに聞こえてしまったため思わず、


イルマ「え?」

と、声を漏らしてしまう。

アリス「....それはどういう...。」

それについてアリスも事情を知っていたため、イルマとは違う不意を突かれ、自然と目を細めるという仕草で、ジェニファーとセラに聞こえないような声でそう呟く。
すると、言い終わると同時に、

ジェニファー「あっ、お二人とも、朝食の時間です。急がないと...。」

右側の壁に掛かっている時計を確認したジェニファーに、そう呼び掛けられ、

アリス「あ、はーい。....。」

イルマ「...。」

アリスはいつも通りの緩い返事を介して、呼び掛けに応じなかったイルマはセラが出ていったドアを呆然とした様子で眺めるのであった。

ーー

ーー

その日の6時間目スケジュールが変わり、急遽、鍛練の基礎レッスンを続けることになり、生徒達はマラソン形式でグラウンドをこの授業で、女子が4周半、男子が7周走ることに。女子が終わり、男子も走り終わる。当然男子は全員息を切らして呼吸を繰し返すが、それぞれ心地よさそうな表情の者もいればそうでもない者もいる。
そんな自身も、顔で表現ができないものの、確実に苦しそうに呼吸を整えているのを自覚する。
そんなことをしていると、

ソウタ「「はぁはぁ、よっしゃぁ!よく頑張ったぁ...。」」

セラ「「うん、お疲れ、今日のソウタの走り凄かったね。その新しい靴のおかげかな?やっぱ自分のお気に入りを身につけてやるとやる気出るよね。」」

ソウタ「「嘘!?嬉しい...。」

自身の視界に入ったのは、息を切らしながらも達成感で嬉しそうにはしゃぐソウタとクラスメイトの細かい所を見て、とことん褒めるセラ。

ソウタ「「前のやつと色同じだし、替えたことも誰にも言ってないのに...気づいた奴お前が初めてだよ。」」

セラ「「それは同じclassなんだから気づいて当然。逆に気づかない方がおかしいよ。僕はclass3の皆が大好きだから。」」

ソウタ
「「あ...あはははは!すごい嬉しいな。俺、この靴超気に入ってるんだ!今日セラに褒められたから明日良いこと起こりそう!イェーイイェーイイェーイ!」」

ソウタがはしゃいだ途端にレオンハルトから注意を受けているのを尻目にイルマは、セラの澄んだ微笑みの表情に少し違和感を抱き、

イルマ (なんかあいつ、くどい。)

と、心の中で悪態を放つ。

ヒロタ「?どうしたんだ、イルマ?」

イルマ「ん?いや?」

先程、ソウタと同じくらいに走り終えたヒロタとゲイル。ヒロタに後ろから話しかけられ、少し呆気ない感じに返事をする。

ゲイル「大丈夫か?どうせお前の事だから変なことでも想像してたんだろ?」

すると、ゲイルにそんなことを言われ、イルマは少しイラつきを覚えてしまい、

イルマ「美人OL。」

と、口にする。

ゲイル「はぁ?」

イルマ
「どうせお前の事だからどうせオカズで変な想像してたんだろ?あ、違う、お前のオカズはナースだったのか~。」

ゲイル「どっちもちげーよ...、なんつう話を...。」

ヒロタ「俺のオカズどっちも合ってる...、くそぉ!バレちゃったか...こりゃ弄られる...。」

ゲイル「誰もお前の嗜好を聞いてないし...、ていうかもうちょっと隠せ。」

といったやりとりでごまかすイルマに一番共に人生を過ごしてきたアリスはイルマの思っている事を難なく読み取ったのか、それとも今朝のセラの言葉に引っ掛かりを感じたのか、しばらく黙りこんで、全員で列を整え集合するなか一人じっとセラの様子を見つめるのであった。

アリス「....。」


ーー

ーー

同日、イルマは部活動が終わり、体操着、その他荷物の入ったバックを持って更衣室を後にした。

道なりに渡り廊下を歩き、体育館の前に来たとき、カスミとセラと出会う。二人は話に夢中なのか、自身に気づいてない。そこで面白いことを思いつき、イルマはそろりそろりと死角を通って近寄り、自身の生まれつき持った魔術で扉の上枠の上辺りまで浮遊し、セラの上まで移動した。

カスミ「「お疲れぇ♪また食堂でね。」」

セラ「「うん。」」

結局、カスミは気づかず、先に帰っていく。
しかし、ターゲットはセラの為、気にせず一気に、

イルマ「ばぁ。」

と言って驚かす。無機質で高揚としない声であったが、イルマは影が薄い為、驚かす時に一気に存在感を際立たせれば当然相手は腰を抜かすほど驚ろくに違いない、そう思い実行したはずが...

セラ「あ、イルマ。分かってたよ?そこにいたの。」

イルマ「!...おお、すげぇな~。」

まさか、言葉でそう言うどころか、反応や驚かした後の表情は一切びくともしなかった。
思わず自身はビクッとしそうになるが、こんな性分なため声にも顔にも出なかった。

ずっと浮かした体を、そろそろと術を解き、足を地面に着けると同時に、セラは立ち上がり、イルマの顔を見上げ、

セラ
「どうしたの?珍しいね。ここで会うなんて...。」

イルマ
「体操服をロッカーに入れっぱなしだったの思い出して、取って帰ろうとしてたのだ~。...それより、朝のペンダントの時、"目薬"みたいなの差さないとって言ってたけど、あれどういう意味なのだ~。はっきり言ってくどかったのだ~。」

どうしても引っ掛かる事をイルマは直接聞いてみる。すると、セラは可笑しそうに微笑み、

セラ「くどい?ははっ、だとしたらごめんね。でもそのままの意味だよ。腐りそうなほど目疲れするって時には目薬ささないとでしょ?あとは、眩しさ軽減でサングラスを掛けたりとか?」

その微笑みは天使のように純粋で純真である。
...ように見えるそれの表情は、イルマにとって鼻にかけている、バカにしているような偽善な微笑みだ。という風に見えた。

イルマ「...。」

そう考えるとイルマは無性に腹立たしく感じる。
自身が数秒も黙っていたからか、セラは

セラ「どうしたの?僕は言われたことに対して反省の意とこれからの対策について提案をしていたつもりだったけど、また何かくどいこと言っちゃった?」

頬を掻きながら、少し遠慮がちに微笑んで聞いてくる彼女にイルマは思わず、

イルマ「くどい。なんかムカつくのだ~。」

自身の感じた事をそのまま口にしてしまうのだ。

セラ「はは、またくどいって言われちゃった。僕はそんな器用なほど口上手じゃないのに...。」

そんなことを言われて、少しだけ泣きそうな表情を醸し出すセラ。しかし、実際あまり気にしていないのか、いつも通りの振る舞いで、

セラ「そろそろ寮に戻ろう。早く晩御飯食べて宿題しないと。」

と言って校舎の方へと歩き始めた。

イルマ「イキリ優等生。」

と、愚痴を溢せば、足を止め、

セラ「ん?どうした?」

言っている言葉が聞こえなかったのか、セラが純粋にそう聞く。

イルマ「いや、セラはとっても良い子ちゃんなのだ~って思って~。」

セラ
「あはは...、良い子ではないと思うけどね...まぁ、ありがとう。」

そう言ってセラは体育館を後にし、自身はそんなセラの背を見て色々な事を考えながらついていくのであった。

ーー 

ーー 

水辺の中で、大柄な幼馴染と競う小柄な自分。

ドラクは学園の屋根付きプールにて部活動として他の部員仲間とトレーニング、模擬実践をして、練習に取り組む。
たった今、ドラクはスワリとレースで勝負をしている。進む道を邪魔する新鮮な綺麗な水に全力で抗って見せる。が体格差的に考えれば当然....。


スワリ「っぶはぁッ!」


ドラク「......ん、っぶはぁッ!」


案の定スワリが先にゴールしずっと付けたままの顔を水から出し、あくせくする呼吸をしっかりと整えていく。
後にゴールしたドラク自身も同じく。
両者ともやる気には満ちていたものの、


水泳部部長
「ドラク 41.16、スワリ 29.87、二人ともまだまだだぞ!」

プロ級以下の記録であったからか部長に叱咤されてしまう。そして、俺もまだまだかと、二人は息ぴったりに"はぁ"とため息を吐く。

水泳部先輩男子
「けど、入ってきた頃よりは良くなってきてない?入ってきた頃とかドラクが水に使ったまま全然移動できてなくて...ぷふッ!あんまりにカナヅチ過ぎてランニングマシンみたいだって思ったよ!ハハハッ!」 

ドラク「わ、笑い事じゃねーっすよ先輩!あの時は、本気は死ぬかと思ったんすからね!」

エンリル「でも、エンリルは最初っからスイスイ泳げたのだ~!村の池でよく泳いで遊んでたから~なのだ~!」

ドラク「そんなん関係ねー!俺だってよく川で遊んでたし....。」

スワリ「泳いだこと、ないのに?」

ドラク「ばっ!?言うなぁ!」

スワリ「...泳げたことも?」

ドラク「やーーめーーろぉーーッ!!!」

部活のメンバー、先輩に弄られ、恥ずかしさのあまり声を荒げるドラクに全員面白可笑しく笑った。

スワリ「だって、俺達のとこ、川はあっても、浅いから。」

水泳部先輩女子 「ああ、だから泳いだこともないのにって言ってたんだね、スワリ君。」

ドラク「....。」

女子の先輩にそんな事を言われ、いじけた態度で黙りこんだ。

ーー

ーー

着替えを終わらせ、更衣室を出る部員達。
女子の二人も更衣室から出て来ると、部長以外、雑談を交わしながら廊下を歩いていく。
ドラクとスワリが子供のような振る舞いで遊んでいると、

水泳部部長「ドラク、スワリ、一つ聞きたいことがある。」

ドラク「はい!なんすか?」

ふと、部長に声を掛けられ足を止める二人。
他の三人も足を止め、全員、部長の方に視線を向ける。
その後部長は人差し指の爪で頬を掻きながらこう言う。

水泳部部長「あ、でもこれは興味本位で質問してるだけだから。先に謝っておく。」

そして、逸らしていた目を二人に向けて、やや真剣な眼差しで質問をしてくる。

水泳部部長「お前達って、カスティリオンの近隣に住んでただろ?敵に襲撃されたことは当然何度もあったんだよな。」

それを聞いた自身とスワリはシリアスな質問をしているにも関わらず、何故か普段通りのあっけらかんとした振る舞いで答える。

ドラク「あー。そう言うことか!ハハッ!!」

スワリ「気にしなくても、大丈夫。」

水泳部部長「ありがとう。お前達は寛大なんだな。お前達が気の短い相手だったら、こんなこと聞いて嫌な過去を思い出させてしまって怒らせてしまっただろうなって思うよ。」

ドラク達の反応を見た部長は一時安堵した表情でそう言った。

質問に対して平然と軽い感じで答えられたのには理由が、

ドラク「ハハハッ!部長は気にしすぎ。...でもそれが俺がいた頃は一度も変な奴が入ってきた所を見たことがないな~。それに俺、入学案内の手紙が届くまで戦争してたなんて知らなかったし。」

水泳部部長「知らなかった...。」

そう。一度も襲撃されたことがなかったからだ。
当然何事なかったかのように振る舞うことができた。

そんなドラクもスワリも部長も全員、それはおかしいと思っているも、自身とスワリの、ドラクとスワリの故郷が今まで平和に守られているのは良いことと、全員はそう気にしないことにしたのである。


ドラク「今、みんなどうしてるんだろう?」

そう自身は独り言のように皆に言う。
するとスワリも、

スワリ「元気だと、良いな。」

と、続けて言う。

ドラク「けど、部長はなんでそんなこと?...部長?」

そう自分達の故郷について、そんな事を聞く理由を尋ねてみる。すると、少し目線を右下に反らして、

水泳部部長「あ、いや、さっきも言ったけど興味本位。でも故郷が今まで生涯平和だったんなら何よりだ。むしろ、そんな状況が長く続いて欲しいな。」

再び視線がドラクとスワリに向くと、笑顔で励ますようにそう言った。

ドラク「部長...。」
 
ドラクはそんな部長にややなにか感慨を感じ、自然と瞳を揺らしながら、少し呆然とする。
すると突然、

エンリル
「大丈夫なのだ~!!ドラクとスワリのふるさとはいつまでもヘイワなのだ~!」

ドラク「うわぁ!抱きつくな~!!痛た...ぐぅ...。」

スワリ「ぐぅ、ぐるじい...!」

エンリルに腰回りを強引にぎゅっと抱かれ、ドラクとスワリはエンリルのあまりに加減を知らない力に圧倒され、もがき苦しむほど痛がるのだ。

そんなやりとりを見た先輩達は微笑みの眼差しを向け大笑いした。
この情景を見聞きしたドラクは、やがて痛みで苦しむ表情をそのままに、既に持っている大切なもの達にいつまでも永遠に消えぬようにも願いにも似た心の声を密かに呟くのであった。


ドラク(...はは、何も失ってない。家族が皆いて、先輩、友達もいて、幼馴染のスワリもいる。死ぬまでずっと、生きててくれると...いいな。)

ーー
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