102 / 106
11話 火曜の章「少しずつ浮かび始める苦杯と火種達」
クラシス編&トレイ編
しおりを挟む
ーー
翌日の雨の日の帰りの部活動。いつもの通り、二人の青年はただ静かにチェス盤を見下ろしていた。
合宿でユーシスと協力関係になったクラシスは、その目的となるアギトの謎を探るためにと今日も様子を伺う。けれど、いきなり直接話をするのはまずいと、合宿後の部活動でまずはとチェスで反応を伺い、正体を見抜くことに...。
クラシス「....。」
アギト「....。」
ゲームの途中、2マス進んだアギト側の黒のポーンにその左隣の白のポーンでアンパッサンを繰り広げ、駒を一つ取って見せるが、
クラシス (...何も変化なし。)
クラシスはアギトの変わらない表情を見てそう判断する。
ポーカーフェイスなのだろう。
とても演技力抜群だ。
ならこれならと、ビショップを使い、キングより2マス左下にあるナイトを取って見せる。チェックだ。
これならすこしくらいは焦るであろう、が...。
アギト「....。」
クラシス (...何も変化なし。)
先程と同じ特に変化はなかった。
これで少しは分かると思っていたクラシスは思わず肘を机につけ、打つ手なしと言わんばかりに両手で顔を覆って擦りつけるのだ。
クラシス
(ここの所、奴の事を反応などみて探っているけれど、全く手がかりが掴めない。)
そして、両方の人差し指と中指の間を開き、その隙間からアギトを見つめた。
クラシス
(ヴァリダールがエース・トラブデンの様子がおかしいことと、その理由が目の前の奴がその原因ではないかと言う話を聞いたが、...全く見えない。)
そう。唯一、ポーカーフェイスで、賢く用心深いという特徴以外は...。
ずっとそんな体勢でちっとも動かなかったのか、それを見兼ねたアギトに、
アギト「どうした?次は君の番だよ。」
と言われ、
クラシス「あ、あぁ...。」
と言って体勢を戻し、すぐに試合に集中する。
そして、自身の持っていたナイトやビショップなどの駒を失い、やがては勝負に負けてしまったのである。
ーー
部活動が終わり、
クラシス
「んー、どうしたものか、反応を窺っても何も見つからない...。」
購買室へと向かうため、ただ一人考え込み、呟きながら体育館・北棟校舎間の渡り廊下を歩いていく。
クラシス
「やはり、他の方法で調べた方がいいか...?」
と呟き、歩くスピードを緩めたその瞬間、ふと右側、体育館裏の方から、
ウルム「「くそォォ!!あの野郎!」」
という声と同時に壁に殴りかかる音が聞こえ、思わずクラシスはその方向へと振り向く。
クラシス「!!」
ウルム
「成績優秀だからって鼻にかけて、...その上で何もせずに文句ばかり....、調子に乗るな、インテリ野郎!」
飛び出そうな程見開いた眼球と興奮状態であまりにも荒い呼吸。端から見ても、許せない、しかしやるせない。そんな怒りの渦に包まれているのが分かる。
下手すれば壁が壊れるのではないか、また壁に当たらないかと不安になったクラシスは慌ててウルムを止めにいく。
クラシス
「おいおいおい!そのくらいにしないか?ヒビが割れるぞ。」
こちらの声に気づいた彼はこちらを向き、まだ感情的にはなっているものの少しだけ落ち着きを取り戻していく。
ウルム「おまえは...。」
クラシス「何があった?僕に教えてくれ。」
なんとか、ウルムの物理的衝動を抑えることができたクラシスは、なぜそんなにも怒っているのか理由を聞くことにするのだ。
ーー
クラシス「なるほど、そんな事が...。」
ウルムから事情を聞いたクラシス。その話の中身はウルムに共感する程怒りを覚えるような内容であった。
そして、ウルムの愚痴はそこで終わらず、
ウルム
「あいつ、何もやらずにただ椅子に座って、三人で作ったものも一切食べねぇで、やがてはセンコー達に言うって言えば成績優秀だからなんとかって...ッ。」
クラシス「滅茶苦茶だな...。」
この時点で怒りを通り越し、呆れたという感情へと刷り変わる。
その時点で学園に報告すべきだろう。
クラシス
「それで教官には言ったのか...。」
そう思いさりげなくそう聞くと、
ウルム「アルフレドとエイトがその事を言ったよ。」
と、案の定、教官にその旨を伝えたと聞きとりあえずと安心していたその時、
「けどよ...!」と、再び怒りに任せた声色でそういうウルムに対し、再び耳と目を傾ける。そして、ウルムは左こぶしを横に振り下ろし、壁に叩きつけた後にこう言う。
ウルム
「俺が昼休みの時にあいつとセンコーが話してるのを聞いて、立ち聞きしてみたら...!」
ーー
その時ウルムは、職員室に用があるため、そこに行こうと歩いていると、ふと、多目的室から、二人の男の教官と生徒が何やら話をしている声が聞こえる。それに気づいたウルムは何となく多目的室に耳を当て、聞き耳を立てる。そこから聞こえてきた事柄は、
ナオマサ
「「マウティス、合宿の2日目の晩の時に貴様とオーランドの間でトラブルが起きたと聞いた。」」
アギト「「....。」」
どうやら合宿でウルムとアギトがトラブルを起こした時の話をしているようだ。
ナオマサ
「「話によれば、貴様が調理を手伝わなかった挙げ句に食事に手をつけず酷い文句を並べた結果、喧嘩沙汰になったと...。返答次第では、貴様の評価を下げることになる。」」
アギト「「.....。」」
落ち着いた声色に加え、凄まじい剣幕でアギトを追及していくナオマサ。ふと、扉の隙間から中を覗くと、指を差してその時の行いについて問い詰めるナオマサと、それに対して、誠実な姿勢で顔を俯かせて説教を受けるアギト。
ーー
クラシス「....別に至って普通だが...。」
ウルム「ここまでは良かったんだ。...けど...。」
ーー
しばらく黙りこんでいたアギトが、恐る恐る口を開き、
アギト
「「...実はその事で、前から教官に話をしようと思っていたのです...。」」
途切れ途切れにそう言うアギトに、
ナオマサ「「....なんだ。」」
と返すと、
アギト
「「確かに、その様な事をしたのは事実です。喧嘩をしたと言うのも...。」」
ナオマサ「「何だと...貴様ッ...。」」
それを聞き、ナオマサの堪忍袋の緒が切れ、その衝動で声を荒げ、アギトに掴みかかろうとしたその瞬間、突然顔を上げて、
アギト
「「しかし!....しかしこれは彼らに言われてやった事なんです...!」」
ナオマサ「「!?...どう言うことだ?」」
凄い形相で声を張り上げてそういうアギト。意外な事で思わず驚きを隠せないナオマサ。それに構わず話を続ける。
アギト
「「僕は虐められているのです!成績が良いのを嫉妬して...。...今回については僕も手伝いをする意思を持っていました...。」」
ナオマサ「「.....。」」
アギト
「「けれど...ウゥ...汚らわしい手で触るな、料理が腐るからって、手伝いも愚か、食べさせてもくれなかった...!」」
と言って瞬時に右手で目頭を押さえる。
泣いているのか。そう思い、ナオマサはアギトに同情する眼差しを向け黙りこむ。
アギト
「「もう、...本当に辛くて...ぐっ....許せなくて...ずっと!ずっと!....言おうと思っていた。...けど、...言えばお前についての悪い噂を流すぞ...って有ること無いことで脅されて、....ずっと言えませんでしたッ...!」」
目を押さえてた手を下ろし、ビシッと両腕を揃え、
アギト
「「ごめんなさいッ....ごめんなさいッ....もう許して....。」」
と弱々しい声色でそう言って深く頭を下げた。
ナオマサ「「....。」」
そんなアギトを見たナオマサは瞳を閉じ、顔を俯かせると、アギトの左肩を優しく置いてやる。
ナオマサ
「「すまなかった。...貴様がこんなにも辛くなっていたとはな。もう大丈夫だ。後は俺が徹底的処置を行う。だから、もう泣くな。」」
辛そうな態度で嗚咽しながら泣いているアギトを励ますナオマサ。しかし、横から見たその口元は卑しい感じで、どこか嗤っていたのだ。
ウルム
(....う、そだろ...?なんで、なんで平然とあんな演技でセンコーを騙せるんだよ!?...自分のやったこと濡れ衣着せやがって...許せねぇ!!)
ーー
ウルム
「それでセンコーから今度やったら貴様の評価を下げる。とかなんとか言ってさっき厳重注意された。あいつが勝手にしたことって言っても全然信じてくれなくてよ...。」
左手で振り払うような仕草をしながら、そういう。
今まで話された内容を聞いて、流石のクラシスも顔をひきつる位ドン引きしてしまうのだ。
クラシス
「...まぁ、そんな名演技を見せつけられれば見破れる人なんていない。けど、これ以上奴を好きにさせる訳には行かないな。」
と言って、思い詰めたような仕草で考え込むクラシス。
ウルム
「でもどうすんだよ。俺はこれ以上あいつと関わりたくねぇ。」
彼にそう対策を問われたクラシスは、やがて自身の思い付いた考案をどんどんと考えていくのであった。
クラシス
「...オーソドックスだけど、あれをしてみるか...。」
ーー
ーー
翌日の帰り時間、全ての生徒殆どが部活動がない日である。ほぼ全員が寮へと帰るため廊下を歩いていると、教室側の掲示板に貼り紙を貼ったユキムラに、
ユキムラ
「帰る前に、ここにそれぞれ行く実習先を記した表を貼った。それを見て、一緒にいくメンバーと話とかしておけ~!」
と、呼び掛けられた生徒達。その掲示板を囲んだ数十人がその貼り紙の内容を各々で確認する。
エース
「「...いよいよ始まるのか...。」」
ヒロタ
「「緊張することねぇよ!俺らがいるんだから。」」
カスミ
「「そうだよ。今までの訓練の成果を敵さんに見せつければ大丈夫だよ。」」
他のクラスメイト達が不安を口にしたり、励まし合ったりしているなか、
トレイ
(私はキュリムですか。....再びあのような場所に足を踏み入れることになるとは...。十年前にたくさんの男達に追われ、その離ればなれになった父と姉の事を思い出して仕方がない...。いまどこにいらっしゃいますか...父上...姉上...。)
ツル
「わたくしは....トレイと一緒ですか。」
トレイ「え?」
考え事をしてぼーっとしていると、突然自身の名前を呼ばれ、右方向を向く。
そして、その主はトレイの顔を見上げてこう尋ねる。
ツル
「キュリム、どんな場所なのかは知っていましたが、まさか、実際に行く時が来るとは...。トレイは?」
トレイ
「...実は...。...寮に戻る前に少しグラウンドの周りを散歩をしませんか?そこで話します。」
ツル
「そうですね。実務訓練について少々話しておきたいこともございますし...けれど、そうでなければいけないお話でも?」
トレイ
「ええ。少なくとも、周りの方達のお耳にはあまり良くない事ゆえ。」
ツル
「....さいですか。わたくしもご同行いたしますよ、トレイ。」
そうして、苦虫を噛む表情のトレイはツルにそう言ってグラウンドへと同行を願ったのだった。
ーー
グラウンドに着き、ゆっくりと周りを円周しながら、トレイは一緒に歩いているツルに話をする。そう、トレイが過去にキュリムへいった経緯を。
ツル「それで。話とは?」
ツルはトレイの顔を眺めて、耳を傾ける。
トレイ
「...私も、実はキュリムへ行ったことがあります。」
ツル
「本当ですか!?それなら少しは地形を知っているはずなのでスムーズに訓練ができますね。」
トレイ
「ですが、正確に言えば私はキュリムへと逃げ込んだのです。その為、地形などを記憶していく余裕などなかった。」
ツル「逃げ込んだ?」
トレイ
「ええ。十年前、そのときは戦時中で、私は家族と一緒にある大人数の男達から逃げ惑っていました。森の中をさ迷い、兵士たちの視界から外れるために、必死に姿を膨らませようと逃げました。」
ツル
「...それで他の方の耳にいれたくないということですか。」
トレイ
「しかし、大人数だから、囲まれそうになり、追い付かれてしまい、しまいには父と姉と離ればなれに...。」
ツル「...それで、兵士達からは逃げ延びたのですか?」
トレイ
「いいえ、最終的に母と一緒に捕まってしまいました。」
ツル「お母上と一緒だったのですか....。」
トレイ
「ええ、私の自慢の母です。いま、母はお一人でひっそりと私と父、そして姉の帰りを待ち、過ごされています。」
そして、足を止め、晴れない表情で空を眺める。
トレイ
「けれど、ある日、母と暮らしてた時、一通の手紙が届き、そのきっかけで私がクリスティア学園へと入る決意を旨に伝えると、母は快く受け入れてくれました。」
ツル
「そうなのですか。トレイが出ていったら一人寂しく過ごすことになるのに、誰に襲われるか分からないのに、凄いですね、母親は...。」
そう言ってツルも同じ夕空を眺めた。
トレイ
「ええ。父はそんな母親の芯の強さに惹かれ、母も父の紳士的で頼りがいのある所に惹かれ、結婚して、私と姉を産んでくれて。」
ツル
「...、それでは、夏季休業の期間でお母上に会って孝行をしなければですね。...それと、お父上と姉上様にお会いになれるといいですね。」
トレイ
「ツル...ありがとう。その言葉で心が救われる気がします。」
ツルの顔に目を向けて、優しく礼をする。そして、ふと腕時計を見ると、そろそろ寮に帰らなければいけない時間だ。
トレイ
「時間ですか。...それでは、そろそろ...。?」
そうツルに呼び掛けようと、そちらに振り向くと、何やらツルはどこかを気にして、その一点を見つめている。
トレイ「どうかしましたか?」
なぜそこを見つめているかを尋ねてみると、少し間を開けて、
ツル
「....トレイ。あちらの塀の上にいる人達...それにその下に何かが掛かっている。」
と言って、南側の塀の方を指を差した。
何やらそこには白い布が掛けられている。 そして、その上で工具を持って仕事をしているガテン系の男達がいた。
トレイ
「あぁ、きっと塀の修繕でしょう。気になさらなくとも?」
見ると、その男達は作業着を着ている。
その為、工事をしているのであろうと思うのは自然である。しかし、
ツル「けど、にしては妙で...。」
トレイ「....そうですね。」
なぜそこを工事する必要があるのか、違和感があってならない。トレイとツルはそう感じ取った。ただ、普通にヒビが入ったのか、それとも...。
トレイ
(何かを感じる...。...あそこを飛び越えた先に姉上がいる気がして...。)
工事が終わる頃に、何か新たな展開が訪れる。そんな予感がして...。
そんな心の声を呟くトレイはやがてそう感じ取りながらとその奥の見知らぬ風景を見据えるのであった。
ーー
翌日の雨の日の帰りの部活動。いつもの通り、二人の青年はただ静かにチェス盤を見下ろしていた。
合宿でユーシスと協力関係になったクラシスは、その目的となるアギトの謎を探るためにと今日も様子を伺う。けれど、いきなり直接話をするのはまずいと、合宿後の部活動でまずはとチェスで反応を伺い、正体を見抜くことに...。
クラシス「....。」
アギト「....。」
ゲームの途中、2マス進んだアギト側の黒のポーンにその左隣の白のポーンでアンパッサンを繰り広げ、駒を一つ取って見せるが、
クラシス (...何も変化なし。)
クラシスはアギトの変わらない表情を見てそう判断する。
ポーカーフェイスなのだろう。
とても演技力抜群だ。
ならこれならと、ビショップを使い、キングより2マス左下にあるナイトを取って見せる。チェックだ。
これならすこしくらいは焦るであろう、が...。
アギト「....。」
クラシス (...何も変化なし。)
先程と同じ特に変化はなかった。
これで少しは分かると思っていたクラシスは思わず肘を机につけ、打つ手なしと言わんばかりに両手で顔を覆って擦りつけるのだ。
クラシス
(ここの所、奴の事を反応などみて探っているけれど、全く手がかりが掴めない。)
そして、両方の人差し指と中指の間を開き、その隙間からアギトを見つめた。
クラシス
(ヴァリダールがエース・トラブデンの様子がおかしいことと、その理由が目の前の奴がその原因ではないかと言う話を聞いたが、...全く見えない。)
そう。唯一、ポーカーフェイスで、賢く用心深いという特徴以外は...。
ずっとそんな体勢でちっとも動かなかったのか、それを見兼ねたアギトに、
アギト「どうした?次は君の番だよ。」
と言われ、
クラシス「あ、あぁ...。」
と言って体勢を戻し、すぐに試合に集中する。
そして、自身の持っていたナイトやビショップなどの駒を失い、やがては勝負に負けてしまったのである。
ーー
部活動が終わり、
クラシス
「んー、どうしたものか、反応を窺っても何も見つからない...。」
購買室へと向かうため、ただ一人考え込み、呟きながら体育館・北棟校舎間の渡り廊下を歩いていく。
クラシス
「やはり、他の方法で調べた方がいいか...?」
と呟き、歩くスピードを緩めたその瞬間、ふと右側、体育館裏の方から、
ウルム「「くそォォ!!あの野郎!」」
という声と同時に壁に殴りかかる音が聞こえ、思わずクラシスはその方向へと振り向く。
クラシス「!!」
ウルム
「成績優秀だからって鼻にかけて、...その上で何もせずに文句ばかり....、調子に乗るな、インテリ野郎!」
飛び出そうな程見開いた眼球と興奮状態であまりにも荒い呼吸。端から見ても、許せない、しかしやるせない。そんな怒りの渦に包まれているのが分かる。
下手すれば壁が壊れるのではないか、また壁に当たらないかと不安になったクラシスは慌ててウルムを止めにいく。
クラシス
「おいおいおい!そのくらいにしないか?ヒビが割れるぞ。」
こちらの声に気づいた彼はこちらを向き、まだ感情的にはなっているものの少しだけ落ち着きを取り戻していく。
ウルム「おまえは...。」
クラシス「何があった?僕に教えてくれ。」
なんとか、ウルムの物理的衝動を抑えることができたクラシスは、なぜそんなにも怒っているのか理由を聞くことにするのだ。
ーー
クラシス「なるほど、そんな事が...。」
ウルムから事情を聞いたクラシス。その話の中身はウルムに共感する程怒りを覚えるような内容であった。
そして、ウルムの愚痴はそこで終わらず、
ウルム
「あいつ、何もやらずにただ椅子に座って、三人で作ったものも一切食べねぇで、やがてはセンコー達に言うって言えば成績優秀だからなんとかって...ッ。」
クラシス「滅茶苦茶だな...。」
この時点で怒りを通り越し、呆れたという感情へと刷り変わる。
その時点で学園に報告すべきだろう。
クラシス
「それで教官には言ったのか...。」
そう思いさりげなくそう聞くと、
ウルム「アルフレドとエイトがその事を言ったよ。」
と、案の定、教官にその旨を伝えたと聞きとりあえずと安心していたその時、
「けどよ...!」と、再び怒りに任せた声色でそういうウルムに対し、再び耳と目を傾ける。そして、ウルムは左こぶしを横に振り下ろし、壁に叩きつけた後にこう言う。
ウルム
「俺が昼休みの時にあいつとセンコーが話してるのを聞いて、立ち聞きしてみたら...!」
ーー
その時ウルムは、職員室に用があるため、そこに行こうと歩いていると、ふと、多目的室から、二人の男の教官と生徒が何やら話をしている声が聞こえる。それに気づいたウルムは何となく多目的室に耳を当て、聞き耳を立てる。そこから聞こえてきた事柄は、
ナオマサ
「「マウティス、合宿の2日目の晩の時に貴様とオーランドの間でトラブルが起きたと聞いた。」」
アギト「「....。」」
どうやら合宿でウルムとアギトがトラブルを起こした時の話をしているようだ。
ナオマサ
「「話によれば、貴様が調理を手伝わなかった挙げ句に食事に手をつけず酷い文句を並べた結果、喧嘩沙汰になったと...。返答次第では、貴様の評価を下げることになる。」」
アギト「「.....。」」
落ち着いた声色に加え、凄まじい剣幕でアギトを追及していくナオマサ。ふと、扉の隙間から中を覗くと、指を差してその時の行いについて問い詰めるナオマサと、それに対して、誠実な姿勢で顔を俯かせて説教を受けるアギト。
ーー
クラシス「....別に至って普通だが...。」
ウルム「ここまでは良かったんだ。...けど...。」
ーー
しばらく黙りこんでいたアギトが、恐る恐る口を開き、
アギト
「「...実はその事で、前から教官に話をしようと思っていたのです...。」」
途切れ途切れにそう言うアギトに、
ナオマサ「「....なんだ。」」
と返すと、
アギト
「「確かに、その様な事をしたのは事実です。喧嘩をしたと言うのも...。」」
ナオマサ「「何だと...貴様ッ...。」」
それを聞き、ナオマサの堪忍袋の緒が切れ、その衝動で声を荒げ、アギトに掴みかかろうとしたその瞬間、突然顔を上げて、
アギト
「「しかし!....しかしこれは彼らに言われてやった事なんです...!」」
ナオマサ「「!?...どう言うことだ?」」
凄い形相で声を張り上げてそういうアギト。意外な事で思わず驚きを隠せないナオマサ。それに構わず話を続ける。
アギト
「「僕は虐められているのです!成績が良いのを嫉妬して...。...今回については僕も手伝いをする意思を持っていました...。」」
ナオマサ「「.....。」」
アギト
「「けれど...ウゥ...汚らわしい手で触るな、料理が腐るからって、手伝いも愚か、食べさせてもくれなかった...!」」
と言って瞬時に右手で目頭を押さえる。
泣いているのか。そう思い、ナオマサはアギトに同情する眼差しを向け黙りこむ。
アギト
「「もう、...本当に辛くて...ぐっ....許せなくて...ずっと!ずっと!....言おうと思っていた。...けど、...言えばお前についての悪い噂を流すぞ...って有ること無いことで脅されて、....ずっと言えませんでしたッ...!」」
目を押さえてた手を下ろし、ビシッと両腕を揃え、
アギト
「「ごめんなさいッ....ごめんなさいッ....もう許して....。」」
と弱々しい声色でそう言って深く頭を下げた。
ナオマサ「「....。」」
そんなアギトを見たナオマサは瞳を閉じ、顔を俯かせると、アギトの左肩を優しく置いてやる。
ナオマサ
「「すまなかった。...貴様がこんなにも辛くなっていたとはな。もう大丈夫だ。後は俺が徹底的処置を行う。だから、もう泣くな。」」
辛そうな態度で嗚咽しながら泣いているアギトを励ますナオマサ。しかし、横から見たその口元は卑しい感じで、どこか嗤っていたのだ。
ウルム
(....う、そだろ...?なんで、なんで平然とあんな演技でセンコーを騙せるんだよ!?...自分のやったこと濡れ衣着せやがって...許せねぇ!!)
ーー
ウルム
「それでセンコーから今度やったら貴様の評価を下げる。とかなんとか言ってさっき厳重注意された。あいつが勝手にしたことって言っても全然信じてくれなくてよ...。」
左手で振り払うような仕草をしながら、そういう。
今まで話された内容を聞いて、流石のクラシスも顔をひきつる位ドン引きしてしまうのだ。
クラシス
「...まぁ、そんな名演技を見せつけられれば見破れる人なんていない。けど、これ以上奴を好きにさせる訳には行かないな。」
と言って、思い詰めたような仕草で考え込むクラシス。
ウルム
「でもどうすんだよ。俺はこれ以上あいつと関わりたくねぇ。」
彼にそう対策を問われたクラシスは、やがて自身の思い付いた考案をどんどんと考えていくのであった。
クラシス
「...オーソドックスだけど、あれをしてみるか...。」
ーー
ーー
翌日の帰り時間、全ての生徒殆どが部活動がない日である。ほぼ全員が寮へと帰るため廊下を歩いていると、教室側の掲示板に貼り紙を貼ったユキムラに、
ユキムラ
「帰る前に、ここにそれぞれ行く実習先を記した表を貼った。それを見て、一緒にいくメンバーと話とかしておけ~!」
と、呼び掛けられた生徒達。その掲示板を囲んだ数十人がその貼り紙の内容を各々で確認する。
エース
「「...いよいよ始まるのか...。」」
ヒロタ
「「緊張することねぇよ!俺らがいるんだから。」」
カスミ
「「そうだよ。今までの訓練の成果を敵さんに見せつければ大丈夫だよ。」」
他のクラスメイト達が不安を口にしたり、励まし合ったりしているなか、
トレイ
(私はキュリムですか。....再びあのような場所に足を踏み入れることになるとは...。十年前にたくさんの男達に追われ、その離ればなれになった父と姉の事を思い出して仕方がない...。いまどこにいらっしゃいますか...父上...姉上...。)
ツル
「わたくしは....トレイと一緒ですか。」
トレイ「え?」
考え事をしてぼーっとしていると、突然自身の名前を呼ばれ、右方向を向く。
そして、その主はトレイの顔を見上げてこう尋ねる。
ツル
「キュリム、どんな場所なのかは知っていましたが、まさか、実際に行く時が来るとは...。トレイは?」
トレイ
「...実は...。...寮に戻る前に少しグラウンドの周りを散歩をしませんか?そこで話します。」
ツル
「そうですね。実務訓練について少々話しておきたいこともございますし...けれど、そうでなければいけないお話でも?」
トレイ
「ええ。少なくとも、周りの方達のお耳にはあまり良くない事ゆえ。」
ツル
「....さいですか。わたくしもご同行いたしますよ、トレイ。」
そうして、苦虫を噛む表情のトレイはツルにそう言ってグラウンドへと同行を願ったのだった。
ーー
グラウンドに着き、ゆっくりと周りを円周しながら、トレイは一緒に歩いているツルに話をする。そう、トレイが過去にキュリムへいった経緯を。
ツル「それで。話とは?」
ツルはトレイの顔を眺めて、耳を傾ける。
トレイ
「...私も、実はキュリムへ行ったことがあります。」
ツル
「本当ですか!?それなら少しは地形を知っているはずなのでスムーズに訓練ができますね。」
トレイ
「ですが、正確に言えば私はキュリムへと逃げ込んだのです。その為、地形などを記憶していく余裕などなかった。」
ツル「逃げ込んだ?」
トレイ
「ええ。十年前、そのときは戦時中で、私は家族と一緒にある大人数の男達から逃げ惑っていました。森の中をさ迷い、兵士たちの視界から外れるために、必死に姿を膨らませようと逃げました。」
ツル
「...それで他の方の耳にいれたくないということですか。」
トレイ
「しかし、大人数だから、囲まれそうになり、追い付かれてしまい、しまいには父と姉と離ればなれに...。」
ツル「...それで、兵士達からは逃げ延びたのですか?」
トレイ
「いいえ、最終的に母と一緒に捕まってしまいました。」
ツル「お母上と一緒だったのですか....。」
トレイ
「ええ、私の自慢の母です。いま、母はお一人でひっそりと私と父、そして姉の帰りを待ち、過ごされています。」
そして、足を止め、晴れない表情で空を眺める。
トレイ
「けれど、ある日、母と暮らしてた時、一通の手紙が届き、そのきっかけで私がクリスティア学園へと入る決意を旨に伝えると、母は快く受け入れてくれました。」
ツル
「そうなのですか。トレイが出ていったら一人寂しく過ごすことになるのに、誰に襲われるか分からないのに、凄いですね、母親は...。」
そう言ってツルも同じ夕空を眺めた。
トレイ
「ええ。父はそんな母親の芯の強さに惹かれ、母も父の紳士的で頼りがいのある所に惹かれ、結婚して、私と姉を産んでくれて。」
ツル
「...、それでは、夏季休業の期間でお母上に会って孝行をしなければですね。...それと、お父上と姉上様にお会いになれるといいですね。」
トレイ
「ツル...ありがとう。その言葉で心が救われる気がします。」
ツルの顔に目を向けて、優しく礼をする。そして、ふと腕時計を見ると、そろそろ寮に帰らなければいけない時間だ。
トレイ
「時間ですか。...それでは、そろそろ...。?」
そうツルに呼び掛けようと、そちらに振り向くと、何やらツルはどこかを気にして、その一点を見つめている。
トレイ「どうかしましたか?」
なぜそこを見つめているかを尋ねてみると、少し間を開けて、
ツル
「....トレイ。あちらの塀の上にいる人達...それにその下に何かが掛かっている。」
と言って、南側の塀の方を指を差した。
何やらそこには白い布が掛けられている。 そして、その上で工具を持って仕事をしているガテン系の男達がいた。
トレイ
「あぁ、きっと塀の修繕でしょう。気になさらなくとも?」
見ると、その男達は作業着を着ている。
その為、工事をしているのであろうと思うのは自然である。しかし、
ツル「けど、にしては妙で...。」
トレイ「....そうですね。」
なぜそこを工事する必要があるのか、違和感があってならない。トレイとツルはそう感じ取った。ただ、普通にヒビが入ったのか、それとも...。
トレイ
(何かを感じる...。...あそこを飛び越えた先に姉上がいる気がして...。)
工事が終わる頃に、何か新たな展開が訪れる。そんな予感がして...。
そんな心の声を呟くトレイはやがてそう感じ取りながらとその奥の見知らぬ風景を見据えるのであった。
ーー
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
元恋人が届けた、断りたい縁談
待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。
手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。
「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」
そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる