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逃亡

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「未来を・・・再構築?」


わけがわからん。スケールがデカすぎだろ。そんな俺の様子に気がついたのか、少女は説明し始めた。


「例えば今、君が転んで死んだとします」

「おい」


人を勝手に殺すな。怪我で良いだろそこは。


「じゃあ、怪我をしたとします。そのあと、僕が時空改変を使って君が転ぶのを防いだとします。するとその瞬間、新しく『君が転ばなかった』という未来が再構築されるわけです」

「ふむ」

「それまで痛くて泣いていた君は突然、『あれ!? 怪我が治った!』と言うわけです」

「・・・ん? ちょっと待て、なんで怪我したことを覚えているんだ?」


『転んだ』という事実がなくなったのなら、『怪我をした』という事実もなくなり、俺は『怪我が治った』と理解することも出来ないんじゃないのか?


「そこで出てくるのが『過去への書き込み』です」

「ああ・・・そういやそんなこと言っていたな」

「つまり、君の記憶の中に『未来を改変しなかったら怪我をしていたはず』という記憶を埋め込むんです。そして、元々の世界で魔法を発動した時間になった瞬間、その記憶が再起されるわけです」

「・・・なるほどねえ」

「さらに、時間次元そのものに僕の存在を書き込むことにより、例え未来で僕が時空改変を使わなかったとしても、過去には必ず僕が現れると。そういうわけです」

「ふむ・・・」


わけわかめだ。

こいつは何を言っている? 過去に自分の存在を書き込む? いったいどんな原理だ。


まあ、こんなことを深く考えるのはナンセンスだ。「だって魔法だもーん!」くらいに考えておこう。その方がいろいろと楽だし。


それに、タイムスリップの原理なんてのはどうでも良いことだ。だって俺は、今から元の世界に帰るんだもの。この世界がどうなろうと知ったことじゃない。


「よし、じゃあ話も聞いたことだし帰るか!」

「話、聞いていました?」


少女は俺のことをまるでクズでも見るかのような目で見てきた。やめろ、そんな目で見るな。


「聞いてたよ。宇宙人を倒せ。未来は変えられる。でも俺には宇宙人を倒す力がない。よって、役に立たない俺は元の世界に帰還! はい! Q.E.D.(証明完了)!」

「・・・・・・」


やめろ。だからそんな目で見るな。



すると少女は、諦めたようにため息をついた。そして、俺のことを見てきた。


「・・・本当はしたくなかったんですが」

「・・・ん?」

「洗脳魔法を使うしかないようですね」

「ふぁ!?」

ちょ、まて! 洗脳だと!?

「キサマ! まさか意地でも俺に戦わせる気か!?」

「そりゃそうですよ。「超常の召喚」にどれだけ労力を使ったと思ってるんですか? それに、これは一度使うと44年間のクールタイムがいるんですよ。なので、仮にあなたがどうしようもないクズ野郎だったとしても、使わざるを得ないんですよ」

「・・・っ!」


く、くそっ! この野郎、なんて目で俺のことを見やがる! まるで『ゴミにも有意義な使い方くらいはあるだろう』と言わんばかりの視線だ!


ま、まずいぞ・・・こいつ、本気で俺を洗脳して、捨て駒にでも使うつもりだ・・・逃げなければ!




俺は少女の背後を指さした。そして、


「あっ! あれはなんだ!?」

「え?」


少女は思わず、俺が指さした方を見た。今だ!


――――だっ!


とんでもなくアホな方法で視線をそらし、その隙に俺はダッシュで逃げ出した。


「あっ!」


すぐに騙されたと気がついた少女は、逃げる俺に叫んだ。


「ちょっ・・・どこ行くんですか!? 行く当てなんてないでしょう!?」

「うるさい! お前に操られて捨て駒にされるよりはずっとマシだ!」


俺は、呼び止める少女の言葉を無視して走った。久しぶりの運動だが――興奮でアドレナリンが分泌しているせいだろう――思いのほか体が軽い。なんだかどこまでも走って行けそうだ。



「パラライズ!」

「うわっ!」


俺のほんのすぐ側を、黄色い閃光が通過していった。どうやら、あちらも本気のようだ。


「暴力反対! そんな魔法を人に向けて撃つな! 危ないだろーが! お母さんに教わらなかったのかよ!? 『パラライズは人に向けて撃っちゃいけません』って!」

「パラライズは人に撃つための魔法です!」


どうやら話し合いは無理そうだ。こうなりゃ、とことん逃げてやる!


「おっとお!?」


しばらく走ると、傾斜角70度ほどの崖に出た。なるほど、義経のように逆落としをしろと言うことか。望むところだ。


俺は後ろから追ってくる少女の方を振り向き、そして笑った。


「じゃあな! せいぜい頑張れよボクっ子魔法使い!」


そしてそのまま崖から飛び降りて、ゴロゴロと転げ落ちていった。


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