ルピナスは恋を知る

葉月庵

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277話

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それから私の悪阻と向き合う日々は始まった。悪化しだした初日のように吐き続け、ゼリーすら食べられない日もあれば、間食を食べられる日もあり、体調はまちまちだった。

また、再び訳も分からず泣いてしまうことがあったが、いつもガルムさんとアルトさんが抱きしめて私の気持ちを聞いて慰めてくれたのは申し訳なくも、とても嬉しかった。最近は、体調も万全とは言えないものの、悪阻のピークは過ぎたような気がしていた。

それを自覚したのは、最近ガルムさんとアルトさんが何も言わずともギュッと抱きしめてくれる時に、恥ずかしい気持ちが芽生え出したからだ。それでも、まだそうしてもらえないと心が寂しくて、何もお願いしなくとも抱きしめて側にいてくれるお二人には何も言わなかった。今日はこれまでより一層体調が良く、何だか手持ち無沙汰になってきてしまった。

「あの、アルトさん……。」

「ん?どうした、吐きそうなのか……!?ほら、袋ならある……!」

悪阻の時はこれまで、ガルムさんやアルトさんに話しかける時は気持ちが悪くて吐きそうな時が大半だったため、アルトさんを心配させてしまう。

「えっと、そういう訳ではなくて……。」

「そうか、良かった……。なら、どうしたんだ?小腹でも空いたのかい?」

アルトさんは私が吐きそうではないことを知り、安堵して頭を撫でながら聞いてくれる。私はお願いすることに慣れていないため、少しつまりながら話してしまう。

「その、体調が良くなってきたからか、何かやりたくて……。編み物などしたいなって、思って……。」

「ふむ……。まぁ、元気になってきたことは喜ばしいな。そうだな……、少しだけという約束でなら、許そう。」

「本当ですか……!ありがとうございます……!」

「ただし。勿論、無理をしないというのも条件だ。いいかい?」

「はい……!」

やった……!久しぶりに編み物ができる……!最後にやったのは一ヶ月近く前だけど、手が覚えているといいな……。

「フフッ……。じゃあ、取ってくるから、少し待てるかい?」

「はい、大丈夫です。……えと、そこのタンスの一番上に入っています。」

アルトさんは私の頭にポンと手を置き、立ち上がる。そして、手に編み物の道具を持ち、サッと戻ってきてまた私を抱きしめ直す。

「さ、ハル。持ってきたぞ。」

「ありがとうございます。」

私はアルトさんから道具一式を受け取り、早速編み物を始めようと、棒針を持つ。そこで、今まで気持ち悪すぎて自分のことしか考えていなかったが、体調が少し回復してきたことで、ふとある疑問が浮かんできた。

「……あの、今更なんですが、私にばかり構っていて大丈夫だったんですか……?ここ一ヶ月近く、ガルムさんと一日交代だったとはいえ、お仕事を休んでいてもらっていたので……。」

「ん?それは大丈夫だぞ?2日に一度行っていたしな。そこで纏めて書類などを処理していたんだ。それに、いざという時はホルンに一任していたしな。きっとガルムも似たような感じだろう。」

「そうなんですね。改めて、私のためにありがとうございます。」

「何、悪阻で苦しいのはハルだからな。番である俺達が寄り添うのは当然だろう。まぁ、まだしばらくはこうしているつもりだ。」

そう言えば、私が横になっていた時は暇じゃなかったのかな……?ついでに聞いてみようかな……。

「あの……、アルトさんは暇ではないのですか……?あっ、で、でも、一人になるのは、やっぱり嫌です……。」

「フフッ……、可愛いな。まぁ、安心してくれ。さっきも言ったが、しばらくはこうしているさ。俺もそれを望んでいるしな。そうだな……、ハルが気になるのなら、ここで書類をさばこうか。ハルのことだ。ずっと見つめられるのが恥ずかしいのだろう?」

そ、そう言えば、そうか……!アルトさんが何かしていないと、編み物している時でも、ずっと見つめられてしまうのか……!そ、それは、恥ずかしい、かも……。

「そ、それで、お願いします……。」

「フフッ……、久しぶりにそんな風に赤くしたな。少し元気が戻ったようで安心した。」

「えっ……!?」

アルトさんに指摘されて、初めて顔を赤くしていることに気づき、久しぶりに顔が赤くなる感覚を思い出すのだった。
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