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8話
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それからどれだけ月日が流れたであろう。いつからか数えるのをやめてしまったためもう分からなくなってしまった。
ある日、採血の時間でもないのに、テルさんがやってきた。
「引っ越すことにしたから、手を出してこちらに来なさい。」
抵抗しなくなっていた私は言われた通りにテルさんの元に寄った。
ぼーっと見ている間にテルさんは私の古い枷を外し、新しい枷に取り替えた。鎖が外れた分少しだけ軽くなった。
「さぁ、もう出発するから早く。」
そう言われ、階段を上がり玄関を出るとそこには大きな馬車が止まっていた。この周りには護衛なのか武装している人間や獣人がいた。
「早く乗りなさい。君はこちらだ。」
そう言われた所を見ると、荷台の出口から一番遠い所だった。
さっさと乗ると、どうやらこの場所はテルさん達のいる所から壁一枚挟んだ所にあるようだ。
よく見るとこの壁は向こう側からなら開けることができるようなつくりのようだ。
床に座って待っていると、テルさん達が話す音が聞こえたあと、荷台が揺れ始めた。どうやら出発したようだ。
荷台のなかには箱が所狭しと詰められていた。少し覗いてみると、様々な色のポーションがその色ごとに箱に丁寧に入れられていた。
その中で、周りの青や緑といった優しげな色のなかで異色な赤色の物に目が止まった。
毎日のように見ている自分の赤黒い色の物ではなく、綺麗な赤色になっていた。これはテルさんが私の血で作った回復ポーションだろう。他の物より厳重に管理されていた。
その箱の赤色が揺らめくのをただただ眺めていた。
♢♢♢♢♢♢♢♢
どれくらい時間が経ったのであろうか。ふと赤色が揺れるのが収まった頃、顔を少し上げた。少し外が騒がしいが、何かトラブルでも起きたのであろう。
だが、商品を製造する元として限りある数字を消費する私には何も関係はない。
だんだん騒がしさの中に叫び声が混じってきた。今はもうあまり聞かなくなった自身の物に慣れているため、動揺はしなかった。
ガンッ!!
勢いをつけて扉が開かれる。必死の形相のテルさんがその糸目をかっ開いて私の首根っこを掴み引っ張り出す。
「商品を失うことは惜しいが、私の命が優先だ!どのみち君は死なないのだから、別に構わないだろう!!後で回収しにくる!」
首根っこを掴んだまま、私を外に放り出し、何かを投げつけた。
パリンッという軽い音と共に煙が立つ。その煙を吸い込んでみても死ぬことはなく、私は若干残念に思いながらもその中に放り出されたまま横たわっていた。
その視界の端にはテルさんがだんだん小さくなっていった。
それを見ていると、私の後ろで何か人のものではない異形の叫び声が聞こえた。
そちらを振り向くと人のサイズの数倍はある巨大オークが立っていた。
「ひっ……!!」
声のする方へ視線を向けると、片腕が肘から下がない武装した人が怯え、後退りしていた。辺りには動かなくなった人達が血を撒き散らしていた。確かに血の臭いはしていたが、嗅ぎ慣れていたため、気にはしていなかった。
「俺はまだ、死にたくない……!!やっと、依頼を受けれるようになったのに!!っ!!囮のくす玉!!チャンスだ!!」
そう言ってその人はテルさんと同じように私に背を向け走り出した。
「ゴァ゛ァ゛ァ゛!!」
再び叫び声を上げた方へ視線を戻すと巨大オークがその手の巨大な斧を振り上げていた。
テルさんは誤解をしている。私は不死ではない。さすがに即死攻撃は再生する前に死んでしまう。今振り下ろそうとしている斧の大きさからして頭か心臓を潰されて死ぬだろう。
テルさんに取っては大きな誤算だろうが、やっと解放される私に取っては死は嬉しいことだった。
ただ、慣れて声を上げることがないとは言え、擦り傷でさえ、痛いものは痛いのだ。
「せめて一思いに……」
迫りくる巨大な影に私はそう思っていた。
ある日、採血の時間でもないのに、テルさんがやってきた。
「引っ越すことにしたから、手を出してこちらに来なさい。」
抵抗しなくなっていた私は言われた通りにテルさんの元に寄った。
ぼーっと見ている間にテルさんは私の古い枷を外し、新しい枷に取り替えた。鎖が外れた分少しだけ軽くなった。
「さぁ、もう出発するから早く。」
そう言われ、階段を上がり玄関を出るとそこには大きな馬車が止まっていた。この周りには護衛なのか武装している人間や獣人がいた。
「早く乗りなさい。君はこちらだ。」
そう言われた所を見ると、荷台の出口から一番遠い所だった。
さっさと乗ると、どうやらこの場所はテルさん達のいる所から壁一枚挟んだ所にあるようだ。
よく見るとこの壁は向こう側からなら開けることができるようなつくりのようだ。
床に座って待っていると、テルさん達が話す音が聞こえたあと、荷台が揺れ始めた。どうやら出発したようだ。
荷台のなかには箱が所狭しと詰められていた。少し覗いてみると、様々な色のポーションがその色ごとに箱に丁寧に入れられていた。
その中で、周りの青や緑といった優しげな色のなかで異色な赤色の物に目が止まった。
毎日のように見ている自分の赤黒い色の物ではなく、綺麗な赤色になっていた。これはテルさんが私の血で作った回復ポーションだろう。他の物より厳重に管理されていた。
その箱の赤色が揺らめくのをただただ眺めていた。
♢♢♢♢♢♢♢♢
どれくらい時間が経ったのであろうか。ふと赤色が揺れるのが収まった頃、顔を少し上げた。少し外が騒がしいが、何かトラブルでも起きたのであろう。
だが、商品を製造する元として限りある数字を消費する私には何も関係はない。
だんだん騒がしさの中に叫び声が混じってきた。今はもうあまり聞かなくなった自身の物に慣れているため、動揺はしなかった。
ガンッ!!
勢いをつけて扉が開かれる。必死の形相のテルさんがその糸目をかっ開いて私の首根っこを掴み引っ張り出す。
「商品を失うことは惜しいが、私の命が優先だ!どのみち君は死なないのだから、別に構わないだろう!!後で回収しにくる!」
首根っこを掴んだまま、私を外に放り出し、何かを投げつけた。
パリンッという軽い音と共に煙が立つ。その煙を吸い込んでみても死ぬことはなく、私は若干残念に思いながらもその中に放り出されたまま横たわっていた。
その視界の端にはテルさんがだんだん小さくなっていった。
それを見ていると、私の後ろで何か人のものではない異形の叫び声が聞こえた。
そちらを振り向くと人のサイズの数倍はある巨大オークが立っていた。
「ひっ……!!」
声のする方へ視線を向けると、片腕が肘から下がない武装した人が怯え、後退りしていた。辺りには動かなくなった人達が血を撒き散らしていた。確かに血の臭いはしていたが、嗅ぎ慣れていたため、気にはしていなかった。
「俺はまだ、死にたくない……!!やっと、依頼を受けれるようになったのに!!っ!!囮のくす玉!!チャンスだ!!」
そう言ってその人はテルさんと同じように私に背を向け走り出した。
「ゴァ゛ァ゛ァ゛!!」
再び叫び声を上げた方へ視線を戻すと巨大オークがその手の巨大な斧を振り上げていた。
テルさんは誤解をしている。私は不死ではない。さすがに即死攻撃は再生する前に死んでしまう。今振り下ろそうとしている斧の大きさからして頭か心臓を潰されて死ぬだろう。
テルさんに取っては大きな誤算だろうが、やっと解放される私に取っては死は嬉しいことだった。
ただ、慣れて声を上げることがないとは言え、擦り傷でさえ、痛いものは痛いのだ。
「せめて一思いに……」
迫りくる巨大な影に私はそう思っていた。
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