政略結婚のハズが門前払いをされまして

紫月 由良

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02. 一か月後

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 一ヵ月後――

「もう帰国されても良いのではないでしょうか」
 キャスリンの手伝いをしながら、エルゼはプリプリと怒っていた。彼女はこの国に着いてから不機嫌な時がとても多い。本来はよく笑う朗らかな性格なのに。

 母国から持ち込んだ鉢植えに水を遣りながら侍女をいなすのは、王都郊外に屋敷を借りてからの日課になりつつある。
 ダルトリー侯爵の手配で家を借りたのは、宿に移動して半月ほど経った頃だった。嫁入り道具が多く、宿では荷物を全て広げられないからと、早々に家を借りるようにしたのだ。

「取り敢えず一年は我慢してくれなんて、ダルトリー侯爵もあんまりです」
 エルゼの矛先は礼儀知らずのガスディエン王国だけではなく、主人に無理強いする自国の外交官にまで及ぶ。

「あまり怒らないの。悪いと思っているからこそ、こうやって花を贈ってくださっているじゃないの」

 キャスリンの手元には白く可愛らしい花をつけた鉢植えと、黄色の花をつけた鉢植えがあった。田舎の領地に育ち、花を育てるのが趣味だと知っているダルトリー侯爵が、気を利かせてこの国の花をいくつも贈ってくれたのだ。それも母国から持ち込んだ鉢が花を付けるのが数ヶ月先だから、それまでの間、花が無いのは寂しいだろうと気を利かせて。

「そうですけど……、お嬢様は良い様に扱われて悔しくないんですか?」
「腹が立たないと言えば嘘になるけれど、外交なんてこういうものだもの。私との結婚がなくなって困るのは、私でもレイエ王国でもなくてガスディエン王国よ。だから放っておけば良いのよ」

 キャスリンたちの母国はこの国の三分の一ほどの国土しか持たない上、山が多くて麦の栽培に適した土地が少ない。だけど珍しい果実や花など、他国には無い特産品がある。逆にガスディエン王国は広大な穀倉地帯を有するものの、国境を接する別の隣国も同様であり、国として必ずしも取引しなくてはいけないという状況にはない。国境を接しているから、友好関係を保っていた方が面倒が少ないというだけだ。

「デラフェンテ公爵家は何て言ってきてるんでしょう?」
「お返事が無いそうよ。困った方々よね、お約束を守らないなんて」
 キャスリンは少し遠い目になる。

 ――何を考えているのかしら? 
 ……そもそも何か考えていたら、国同士の均衡の上に成り立つ婚姻をぞんざいにしていないわね。

 未だ契約は破棄はされていないとはいえ、ないがしろにされ虚仮にされたのだから、全く何もなかったかのようには出来ない。何らかの代償は支払わされるだろう。花婿の懐が痛むことになっても、レイエ王国が後ろ盾に付いているキャスリンが困ることにはならない。

 ――せいぜい、困れば良いのだわ。
 いたずらに状況を悪くした当事者が、代償を支払うのは当然なのだ。
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