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第二十五話 先生との出会い
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(ここかな……)
パステルブルーの細い窓枠に囲まれた、大きな一面ガラス。同じようにガラス張りのドアには、細い銀色のドアノブが付いており、引くのか押すのか分からない。ガラスには、白くお洒落な字体で営業時間と料金が書いてある。
ドアの向こうは受付だろうか、綺麗な女性が電話をしている。二つ皮張りの椅子が大きな鏡の前で、座られるのを待っていた。眩しいほどに真っ白な壁に、優しいクリーム色の床が、やけに綺麗に光って見えた。
「はあ」
普段は、安くて早い美容院しか行ってなかったから、何倍もする値段と入りづらさに、重い溜め息が漏れてしまう。
特にお洒落な服も無いので、制服で来てしまったのも良くなかった。ガラス越しに映る眼鏡で、真ん中分けのべったりした黒髪の自分が、ひどくダサく見えて引き返そうと思い美容院から目を離した。
ふと目に入った店前に置かれた小さなクリスマスツリー、試験が近付いているのを嫌でも実感させる陽気な音楽が、街から聞こえてくる。
(帰って勉強しよ、何やってるんだろ私……)
「予約してくれた方かな?」
後ろから響く透き通る女性の声に、耳元でサイレンでも鳴らされたような緊張感が走り、体が硬直してしまった。
「それ、うちの紹介状だよね?」
手に持っている小さな白いカードが、緊張で震えているのを見ていられずに、何も答えられずに俯いていることしか出来なかった。
「ふふ、緊張しなくて大丈夫。これ見てくれる?」
恐る恐る顔を上げると、小さな写真を彼女は持っていた。そこに写る女の子は私にそっくりだった。いかにも委員長というイメージの少女。制服は長いままのスカート、黒縁眼鏡の奥にある節目がちで不安そうな瞳。
「これね、学生の時の私なんだ。私も初めて美容院に来たときは、緊張しちゃって気持ち悪くてね。でも大丈夫。きっと来てよかったって思えるように私も頑張りたいから、少し協力してくれないかな?」
何故か、写真を持つ彼女の手も震えていて、心配に思い顔を見てみると。あまりの美人に目眩がしそうだった。
モデルのような整った顔立ちに大きな垂れ目がちな二重、少し大きな唇は光るようなピンク色で、口紅のCMでも見てるような錯覚に陥るほどだった。唇の上にあるほくろがセクシーな印象を与えるが、それを強調させているのは、真っ黒な艶のある胸まで伸びるロングヘアーだろう。
左の眉毛だけを隠すように流れた前髪の下で、こんな私に上目遣いでお願いしている美人が不思議だった。
「あの、私、その……」
何か言わなきゃいけない、でも、あまりに綺麗な女性を前にしてパニックになった私に、彼女は優しく微笑んでくれた。
「大丈夫。私に任せて」
何も考えられずに淡々とシャンプーをしてもらって、硬い表情のままドライヤーの熱い風を受けていた。
「私はね、ある男性にナンパされたんだ。そして、きっと捨てられちゃったんだと思う」
真後ろから独り言のように呟く、彼女の声が聞こえてくる。私の小さな返事はドライヤーに消されていった。
パステルブルーの細い窓枠に囲まれた、大きな一面ガラス。同じようにガラス張りのドアには、細い銀色のドアノブが付いており、引くのか押すのか分からない。ガラスには、白くお洒落な字体で営業時間と料金が書いてある。
ドアの向こうは受付だろうか、綺麗な女性が電話をしている。二つ皮張りの椅子が大きな鏡の前で、座られるのを待っていた。眩しいほどに真っ白な壁に、優しいクリーム色の床が、やけに綺麗に光って見えた。
「はあ」
普段は、安くて早い美容院しか行ってなかったから、何倍もする値段と入りづらさに、重い溜め息が漏れてしまう。
特にお洒落な服も無いので、制服で来てしまったのも良くなかった。ガラス越しに映る眼鏡で、真ん中分けのべったりした黒髪の自分が、ひどくダサく見えて引き返そうと思い美容院から目を離した。
ふと目に入った店前に置かれた小さなクリスマスツリー、試験が近付いているのを嫌でも実感させる陽気な音楽が、街から聞こえてくる。
(帰って勉強しよ、何やってるんだろ私……)
「予約してくれた方かな?」
後ろから響く透き通る女性の声に、耳元でサイレンでも鳴らされたような緊張感が走り、体が硬直してしまった。
「それ、うちの紹介状だよね?」
手に持っている小さな白いカードが、緊張で震えているのを見ていられずに、何も答えられずに俯いていることしか出来なかった。
「ふふ、緊張しなくて大丈夫。これ見てくれる?」
恐る恐る顔を上げると、小さな写真を彼女は持っていた。そこに写る女の子は私にそっくりだった。いかにも委員長というイメージの少女。制服は長いままのスカート、黒縁眼鏡の奥にある節目がちで不安そうな瞳。
「これね、学生の時の私なんだ。私も初めて美容院に来たときは、緊張しちゃって気持ち悪くてね。でも大丈夫。きっと来てよかったって思えるように私も頑張りたいから、少し協力してくれないかな?」
何故か、写真を持つ彼女の手も震えていて、心配に思い顔を見てみると。あまりの美人に目眩がしそうだった。
モデルのような整った顔立ちに大きな垂れ目がちな二重、少し大きな唇は光るようなピンク色で、口紅のCMでも見てるような錯覚に陥るほどだった。唇の上にあるほくろがセクシーな印象を与えるが、それを強調させているのは、真っ黒な艶のある胸まで伸びるロングヘアーだろう。
左の眉毛だけを隠すように流れた前髪の下で、こんな私に上目遣いでお願いしている美人が不思議だった。
「あの、私、その……」
何か言わなきゃいけない、でも、あまりに綺麗な女性を前にしてパニックになった私に、彼女は優しく微笑んでくれた。
「大丈夫。私に任せて」
何も考えられずに淡々とシャンプーをしてもらって、硬い表情のままドライヤーの熱い風を受けていた。
「私はね、ある男性にナンパされたんだ。そして、きっと捨てられちゃったんだと思う」
真後ろから独り言のように呟く、彼女の声が聞こえてくる。私の小さな返事はドライヤーに消されていった。
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