そこにある愛を抱きしめて

第五十五話 幻影（３）

「ちょ！ちょっと！」

　慌てて後輩の腕を掴んだ。唸りながら暴れて、薄い灰色のカーディガンから、枯れ木のような腕が飛び出してきた。

「あ、あんたこれ……」

　その手首には厚く包帯が巻かれていた。

「店長まで疑うんですか！」

「ご、ごめん。違うんだよね？」

「これは違います！友達の猫に引っ掻かれただけで、リストカットなんてしてません！」

「ごめん。ただ心配で……」

「彼にも疑われました。中々デート出来なくて、彼も連絡返してくれるの遅かったり、私はただ、寂しかっただけなのに……」

「……うん」

「確かに寂しくて、病んでるって思われるようなことも言っちゃいました。彼が冷たくて、浮気してるんでしょとか、自分でもウザいと思うようなことも言っちゃいました……」

「……うん」

「久しぶりにデート出来たときに、喧嘩しちゃったんです。あることがバレちゃったんです。ずっと隠していたのに……」

「……何を隠していたの？」

　掴んでいる腕の震えが大きくなって、自分も震えているのか分からなくなっていた。