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第六十五話 傷物(4)
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ゴボゴボと水槽に酸素を送る音と、見守るように流れるエアコンの音だけが、しばらく響いた。
勢いよく払われた手が、痺れるように痛んだまま、息苦しいほどに小さくなる心が軋んで、彼女の泣きながら怒るような顔を、ただ見つめることしか出来なかった。
「うるさい!」
彼女が立ち上がり、水槽に向かって右腕を振り上げた。ゆっくりと床に落ちる血が視界に流れて、頭が真っ白になった。
「やめて!」
思っているよりも大きく出てしまった私の声に、彼女は糸で引かれたように肩を上げた。こちらに背を向けたまま、振り上げられた手は痙攣するように震えていた。
「……店長なんて、大っ嫌い!死んじゃえば良いんだ!」
一瞬、彼女の辛そうな横顔がボヤけて見えて、俯いたまま走り出す白い頬から涙が落ちた。破るように開かれたドアの先から、冷た過ぎる風と、打ち付ける雨の音が飛び付くように入ってきて、動けずにいる私を凍らせて離さなかった。
勢いよく払われた手が、痺れるように痛んだまま、息苦しいほどに小さくなる心が軋んで、彼女の泣きながら怒るような顔を、ただ見つめることしか出来なかった。
「うるさい!」
彼女が立ち上がり、水槽に向かって右腕を振り上げた。ゆっくりと床に落ちる血が視界に流れて、頭が真っ白になった。
「やめて!」
思っているよりも大きく出てしまった私の声に、彼女は糸で引かれたように肩を上げた。こちらに背を向けたまま、振り上げられた手は痙攣するように震えていた。
「……店長なんて、大っ嫌い!死んじゃえば良いんだ!」
一瞬、彼女の辛そうな横顔がボヤけて見えて、俯いたまま走り出す白い頬から涙が落ちた。破るように開かれたドアの先から、冷た過ぎる風と、打ち付ける雨の音が飛び付くように入ってきて、動けずにいる私を凍らせて離さなかった。
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